―― 時空管理局本局 ――
次元航行艦『クラウディア』は、定刻どおりにバースを離れた。
「指定航路上に艦船・障害物はありません」
「機関・全システム・艦内外に異状ありません!」
「ん」
クルーからの報告に、艦長席のクロノ・ハラオウンは頷き、指示を下す。
「進路左47。速力15に上げろ」
「進路を左47に。速力15に増速します!」
『クラウディア』は速度を上げつつ、次元空間に入っていった。
――『クラウディア』艦内サロン――
艦長の方針で士官・一般クルー共用になったサロンの一角に、技官のマリエル・アテンザと医務官のシャマルが差し向かっていた。
マリエルはガトランティス艦の調査、シャマルはフェイト達の診察、特に『ヤマト』で手術を受けたというスターレット・タランティノの治療引き継ぎのために乗艦したのだ。
「クロノ提督の話では、アルフがフェイトちゃんとの精神リンクが強くなってきているというから、今回は期待できるようだけど‥‥」
フェイトと彼女の使い魔であるアルフは精神がリンクしており、アルフの体調はフェイトの精神状態に影響される。
アルフは海鳴市のハラオウン家で家事や育児のサートにあたっているが、ここ数日でフェイトとの精神リンクが強くなっていることをリンディ経由で耳にしたクロノは、今次の巡航に『タイタンⅣ』遭難宙域を追加。技官と医務官である2人に同行を求めた。
「ガトランティスみたいな連中に出くわさない事を祈るしかないですね」
「‥‥そうね。残念だけど、今の管理局には彼らとまともに渡り合える術はないのよね」
管理局がガトランティスのような勢力に対抗するには、現行の戦力、特にハード面でかなり見劣りしていると自己分析している。
光学エネルギー集束砲についてはガトランティス艦の残骸から構造を解析したが、現在の技術力ではデッドコピーすら容易ではないし、威力に見合うエネルギー供給源はかなり大規模になってしまい、現状ではアインヘリアルのような固定砲台としてしか運用のメドがない。
何しろ、ガトランティス艦の主動力部は完全に破壊されてしまったので、構造が全くわからないのだから。
「手っ取り早いのは地球防衛軍と地球連邦から技術供与を得る事ですが、そもそも対話がまだですからね‥‥」
本格的なコンタクトは始まってすらいないが、地球連邦・地球防衛軍とのファーストコンタクトの成功を願わずにはいられない2人だ。
――『ヤマト』病室――
スターレット・タランティノは娯楽用音楽を聴いていたが、ドアが開く音に気付き、音楽を止めた。
入ってきたのはフェイトだ。
「もう痛まない?」
「はい、寝起きもだいぶ楽になりました」
「よかった。そろそろ身体も動かせるね」
「はい。正直手脚がムズムズするようになりまして」
――そこに、
「お邪魔するよー」
新たな女性の声がしたかと思うと、長身の女性士官が入ってきた。
「嶋津艦長‥‥」
嶋津冴子は、居ずまいを直そうとしたスターレットを手で制する。
「具合はどうだい?」
「おかげ様で、身を起こせるようになりました」
「それは何よりだ」
嶋津は頷くと、この部屋に来た理由を話す。
「3日後、我々は『タイタンⅣ』遭難現場付近に到着し、時空管理局とのコンタクトを試みることになった。本件は我が軍中央の承認も得てある」
「‥‥‥‥」
「もし管理局の艦船と合流できれば、君たちをそちらに移乗させるつもりだ」
「ありがとうございます」
スターレットは嶋津に頭を下げたが、嶋津は肩を竦めて自嘲した。
「ガトランティスも暗黒星団帝国も、相手をするのは我々であって君たちじゃない。これ以上巻き込むわけにはいかないさ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
『タイタンⅣ』がガトランティス帝国軍残党に撃破された事は、知らなかったとはいえ、嶋津達にとっても一大痛恨事だ。
フェイトもその気持ちはよくわかるから何も言わないが、時空管理局員としては放置しておく事はできない
「ありがとうございます。‥‥でも、今となっては、ああいう勢力が管理世界に攻め込んでくる事態を想像しないわけにはいきません。管理局員として何ができるかを模索し行動することになるでしょう」
「‥‥奴らには共存共栄という概念が皆無か薄い。ある意味、修羅にならないと戦えないぞ」
嶋津は率直に忠告した。
ガミラスと休戦するまでに、地球側だけでも100億近い人命が失われた。
ガトランティスは交渉できないまま大帝以下の国家首脳陣が壊滅したから、なし崩しの停戦状態だし、国家の形態からして共存自体が困難だ。
いずれにせよ茨の前途が待っている。