宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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白色彗星(ガトランティス)帝国戦役編
凶兆


03/09/2201

 

  ──地球防衛艦隊・第666警備隊所属 哨戒巡洋艦 CLS-047『テシオ(天塩)』──   

 

「艦長、本隊は定刻どおり海王星軌道域に到達します」

「了解」

 

手狭な艦橋に若い女性の声が響く。

但し、報告した者とそれに応じた『艦長』の2人共だが、決して幻聴でも電子音声でもない。

報告者の声には多分に緊張の色が含まれ、いかにも経験の浅さを窺わせるものだったが、『艦長』のそれには幾らかの余裕が含まれていた。

そう。『テシオ』の艦長は紛れもなく女性。それも十分"妙齢"の範疇に入る人物なのだった。

 

当の艦長本人、嶋津冴子は、180㎝近い均整のとれた肢体を白地に黒のラインや縁取りの入った女性用艦内服に包み、佐官級艦長用ジャケットをその上に羽織った姿で佇立している。

その袖口には階級に応じた刺繍が施されているが、嶋津のそれは『中佐』である事を示していた。

 

「本艦内外、全システム異状なし」

「『ヒルガオ(昼顔)』『ナデシコ(撫子)』も異状ありません」

「了解」

 

今度は若い男性の声で『テシオ』と、同航している2隻の護衛艦(フリゲイト)の状態を報告してきた。

3隻とも異状なし。つまり、嶋津が預かる『第666警備隊(GF666)』自体異状なしという事だ。

この宙域は、かつてガミラスの太陽系攻略隊の残党が潜伏しており、何度か小競り合いが行われた事があるが、ここ数ヶ月は静かだった。

とはいえ、警備を緩めていい理由にはならない。

──と、その時である。

 

「外宇宙方向からの通信波を受信しました!超新星やパルサー、クェーサーの類いではありません」

「!?」

 

通信実務を預かるイ・ソンヨプが緊迫した声を上げた。

ブリッジクルーが通信席のイを見た。

嶋津はすぐさまイの背後に歩み寄る。

 

「発信位置は特定できるか?」

「お待ち下さい」

 

嶋津の問いを受けたイはしばらくキーボードを叩く。

 

──ガミラス帝国の侵略を、莫大な犠牲の末に退けた国連軍→地球連邦軍は、ガミラスの報復攻撃や新たな侵略勢力の侵攻に備え、太陽系外縁部に無人哨戒機を多数配備したのに加え、宇宙艦隊の中核として多数が建造されている『巡洋艦』のバリエーションタイプとして、武装と装甲を若干オミットした代わりに、強化されたレーダー・センサー・通信装置と、より長期間行動に備えて改良した居住設備を有する『哨戒/嚮導巡洋艦』も多数建造し、太陽系外惑星以遠の警備任務や駆逐艦部隊の旗艦任務等に就けていた。

 

『テシオ』もその1隻で、この5月に竣工・就役したばかりだが、先日最初の修繕の際には通常の整備に加えて装備のバージョンアップを施された。

その後再び太陽系最外縁、エッジワース・カイパーベルト内の探索と外宇宙方面の警備、無人哨戒機の整備任務に戻る予定だったのだが──。

 

「座標の特定には至りませんが、銀河系外、アンドロメダ座銀河方向である事までは確認できます」

「アンドロメダ銀河、か‥‥」

 

イ通信主任の回答に、嶋津は、誰もが美しいと認める貌をしかめ、眉間にシワを作った。

大小マゼラン銀河方面ならいざ知らず、天の川銀河に倍する星密度で、遠い未来にこっちの銀河と衝突する可能性があるアンドロメダ銀河の方角からというのがどうにも引っかかる。

見過ごした、あるいは取るに足らぬと無視した微かな変化が、破綻の最初の兆候だった事例は歴史上枚挙に暇がない。

ガミラスとの戦争の大半を第一線で戦い抜いた1人である嶋津は、それをイヤと言うほど体験していた。

ましてや、こんなあからさまな『通信』は怪しさプンプンである。

 

「信号自体はどの辺まで解析できる?」

「お待ち下さい」

 

解析は30秒足らずで済んだ。全員がウサギの耳になる中、音声データに変換されたそれが流される。

 

『‥‥!‥‥~~☆‥‥!‥‥?‥‥◆!‥‥』

「地球・イスカンダル・ガミラス本星及び征服下全惑星のあらゆる言語にも適合しません」

「‥‥‥‥」

 

往復34万光年近くを要してイスカンダルから『アースリバースシステム』を持ち帰った宇宙戦艦『ヤマト』は、同時に戦闘で撃破したガミラス艦艇から、ガミラスのあらゆるデータをも持ち帰った。

また、冥王星やその周辺で回収された残骸からもデータが吸い上げられたが、その中には征服下にある有人惑星の事もあり、太陽系に直接侵攻してきたのもそのうちの1つである『ザルツ』の国防軍にいた将兵が主力になっていた事は、地球人にも衝撃を与えていた。

 

それら、地球が直接・間接的に関わったいかなる惑星・人種の言語とも違うというのなら、我々のレベルで取るに足らぬと決めつけてはならない。

何より、意味はわからなくとも、女性の声で、しかも切迫しているような声色が気になった。

 

「念のためだ。収録後タイタン司令部に転送。解析を要請するんだ」

「わかりました」

 

『テシオ』の設備で解析できないのなら、地上でやってもらうしかないし、どのみち報告するしかないのだ。

 

データをタイタンに送り、改めて担当宙域に向かったGF666だったが、間もなく、ほど近くを航行中の第3艦隊からもたらされた緊急電に一同は凍りついた。

 

第3艦隊といえば、あの『ヤマト』も所属している艦隊で、3ヶ月間の太陽系外周警戒任務から地球に戻る途中のはずだが、通信によると、所属不明の小型機からの攻撃で、哨戒巡洋艦『ユウバリ(夕張)』と駆逐艦『Z27』が大破炎上。『ヤマト』も小破したというのだ。

さっきの音声通信と第3艦隊を襲ったという謎の敵性勢力の2つ。これは単なる偶然なのか?

嶋津の宇宙戦士の勘は警報を鳴り響かせていた。

嶋津は隊内全通信回線を開かせるや、マイクを手に取る。

 

『総員に告げる。つい今しがた、第3艦隊が所属不明の敵性勢力による攻撃を受け、被害が出たとの連絡を受けた。我が隊はこれより第3艦隊の救援に向かう。全艦取り舵40、最大戦速!····これは演習ではない。皆、心してかかれ!』

 

今次航海で補充された乗組員はヒヨッコ揃い。心許ないには違いないが、任務をためらうという選択肢はない。

 

『テシオ』『ヒルガオ』『ナデシコ』の3隻は左回頭の後、30宇宙ノットに増速して第3艦隊救援に向かった。

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