宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

30 / 166
バルゼー無念

  ――バルゼー艦隊旗艦『メダルーザ』――

 

「――なっ!」

 

勝利を確信して放った火焔直撃砲の弾道を確認することはできなかった。

なぜなら、発射した一瞬の後、『メダルーザ』は突然激しい動揺に襲われ、操舵困難に陥っていたから――。

 

「馬鹿者!何をやっているのだ!?」

 

バルゼーは不甲斐ない操舵士を怒鳴りつける。

 

「原因は何だっ!!?」

「大規模な水蒸気爆発と思われます」

 

苛立つバルゼーの問いに幕僚の1人が答えた。

 

「この環には大量の氷が含まれていたのでしょう。それが火焔直撃砲の高温の発射炎で爆発的に膨張し、激しい気流になったと推測します」

「くっ!火焔直撃砲‥‥」

 

敵に嵌められたのか!?

バルゼーはほぞを噛みながらも火炎直撃砲用意を命じたが──。

 

「ダメです!艦が安定せず、照準できません!」

「おのれっ!」

 

バルゼーは思わず毒づいた。

火焔直撃砲は桁外れの射程だが、艦が安定していなければ照準をつけられない。

 

(あの撤退は、ここに我々を誘い込むための罠だったのか!?)

 

まんまと一杯喰わされた。

その時、ドーンと艦橋が揺れる。

 

「乱気流で味方艦同士の衝突・接触が続発しています!」

「機関全開!気流から脱出するのだ!!」

 

言われるまでもなく、『メダルーザ』は機関をふかしてこの乱気流からの脱出を図っているのだが、針路の維持すら覚束ないまま、地球艦隊からの砲撃に晒されることになり、さっきよりも激しい衝撃と轟音に見舞われた。

 

「敵艦隊の砲撃です!左舷損傷!」

 

 

――『アンドロメダ』艦橋――

 

「全艦、撃ち方始めっ!」

 

土方の号令を受け、カッシーニの隙間で再集結した地球艦隊に、予備戦力として隙間の内側に潜ませていた警備隊や護衛隊の艦も合流し、気流に揉まれる敵艦隊を容赦なく撃ちまくる。

 

敵艦は砲撃で、あるいは味方艦同士の衝突であえなく爆沈していく。

 

「敵を気流から出すな!封じ込めたまま葬るんだ!」

 

副官が活を入れるように叫ぶ。

 

 

――『メダルーザ』艦橋――

 

状況は最悪だった。

悪辣な罠にまんまと嵌められ、攻守は完全に逆転してしまったのだ。

こちらは一矢報いる事すらできないまま、次々と敵艦隊の砲火で、あるいは味方艦同士の衝突で次々と消えていく。

 

「早く気流から脱出しろっ!!」

 

『メダルーザ』は火煙を噴きながらスラスター全開で乱気流からの離脱を図る。

生き残っている艦もそれに倣うが、なかなか艦を安定できないまま、次々と砲火の串刺しになったり衝突したりで空しく爆散してしまう。

『メダルーザ』は脱出に成功し、味方の合流を待ったが、 合流したのは戦艦6、巡洋艦6、駆逐艦15隻に過ぎず、さらに、地球艦隊とは正反対に近い方向から火線が伸びてきて、隣の戦艦の艦橋が崩壊したかと思うと、次の砲撃で串刺しにされて轟沈した。

 

「!?」

「『ヤマッテ』です!『ヤマッテ』からの長距離砲撃です!」

「何!?」

 

スクリーンに映し出されたのは、こちらに追いついてきた『ヤマッテ』を含む小規模な艦隊。

 

「おのれ、テロンめ‥‥」

 

迂闊だった。テロンの本隊に気を取られ、『ヤマッテ』の存在を疎かにしていた‥‥。

 

――どのみち、もはや我等の勝利はない。

 

ここを突破して帝国に戻ったところで、あのいけ好かない冷血丞相によって刑場送りだろう。

かと言って十字砲火の餌食になるのも屈辱だ。

 

「全艦反転!かくなる上はあの旗艦と刺し違えてくりょうぞ!!」

 

 

 ――『テシオ』艦橋――

 

すっかり撃ち減らされた敵の残存艦が反転していく。

 

『アンドロメダ』と刺し違える気か?

意気は認めるが、侵略者にかける情はひと欠片とてない。

 

「回頭中の敵艦を狙い撃つ!撃ち方用意!」

「了解!目標、回頭中の敵巡洋艦!」

「主砲、斉射三連!――撃て!!」

 

TF21各艦から主砲が放たれる。『テシオ』も前方に指向できる砲と魚雷を全門発射した。

駆逐艦も魚雷を放ち、それらは敵艦の横腹に襲いかかった――。

 

 

――『アンドロメダ』艦橋――

 

「敵旗艦、反転してきます!」

 

辛うじて追撃を免れた旗艦を含む約20隻がこちらに向かってくるようだが、TF21の砲雷撃で1/3強が消え、残りは片手に余る程度だ。

敵の大将は俺たちと刺し違えるつもりか。ならば全力で叩き潰すのみ。

土方は立ち上がり、力を込めて命令した。

 

「全艦砲雷撃用意!介錯してやれ!」

「はっ!」

 

炎上しながら突撃をかけてくる旗艦『メダルーザ』を含む残存艦に、地球艦隊から無数の火線が襲いかかった。

 

――『メダルーザ』艦橋――

 

旗艦を守るように並航していた僚艦は次々と炎に包まれ、爆発四散していくが、『メダルーザ』は強固な装甲にものを言わせて突進する。

 

 

「まだだ! 『メダルーザ』はやられん!‥‥砲撃開始ィ!」

 

艦首上部にある長砲身式5連装主砲が火を吹く。

光の矢は敵旗艦の護衛についていた駆逐艦をかすめたが、それだけでその艦は爆散した。

すぐに敵旗艦や戦艦群から無数の火線がこちらに向けられ、数瞬後に『メダルーザ』の巨体が激しく揺さぶられた。

 

「撃て!撃て!撃ちまくれ!!」

 

バルゼーの執念が乗り移ったかの如く『メダルーザ』は各所から火煙を上げながら前進し、主砲を放つ。

その一撃は敵旗艦に命中して爆炎を立ち上らせたが、旗艦と僚艦はお返しとばかりに発砲。

一瞬の後、『メダルーザ』の艦橋を爆炎がなめ尽くした。

 

敵戦艦からの直撃弾が装甲を食い破って艦内部で爆発が発生。続けざまに撃ち込まれる敵弾で艦体をズタズタに切り裂かれる『メダルーザ』は、遂に断末魔の痙攣を始めた。

 

「おのれ‥‥!テロンごときにこの俺が、俺が負けるのか。この、俺が‥‥!」

 

被弾で幕僚もクルーも斃れたブリッジで、バルゼーは無念の呻きを上げた。

 

(火焔直撃砲を、テロンに見切られたのか‥‥?)

 

バルゼーにそれ以上考える暇は与えられなかった。

再び艦橋で猛烈な爆発が起き、バルゼーは壁に叩きつけられた。

 

「ぐ‥‥ぐは‥‥!」

 

ようやく起き上がるも、体内から何かが込み上げ、鮮血となって口から噴き出した。

 

視界も意識も薄れ、何も考えられなくなっていく。

そして、ようやく誰にも聞こえない声を発すると、バルゼーの意識は底無しの闇に沈んでいった。

 

「――死して、大帝にお詫びを‥‥」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。