――『テシオ』艦橋――
(‥‥何でこうなった?)
哨戒巡洋艦『テシオ』艦長・嶋津冴子は、内心でぼやきにぼやいた。
ただでさえ手狭な艦橋に技術者や工員が行き来し、コンソールや座席が増設され、更に手狭になってしまった。
艦長席の右隣に新たに肘掛椅子と小さなコンソール等が設置され、そこには歩く傍若無人と言われる嶋津が煙たがり、言い換えれば頭が上がらない数少ない一人である『鬼竜』──連合艦隊司令長官・土方 竜──がつき、これも数少ない幕僚、さらには嶋津にも矢継ぎ早に指示・命令を下しているのだ。
――つまり、臨時とはいえ、『テシオ』は地球防衛艦隊旗艦に就いたわけだ。
『テシオ』が臨時旗艦になった理由は至って簡単。
イオに避退してきた艦のうち、戦線復帰可能な戦闘艦の中で最も情報処理能力が高いのが『テシオ』ということと、艦長の嶋津が土方の元教え子で、直属上官と部下だった期間もそれなりにあったからだろう。
(要は、遠慮なくこき使えるからだな)
で、艦長たる嶋津はといえば、幕僚の大半を失った土方の副官代行までやっており、土方が次々と出してくる命令や指示に、何とかの犬の如く即座に対応してしまう自分自身にまたぼやきが洩れる。
(‥‥『アンドロメダ』がここに入った時点で悪寒‥‥もとい、予感はしてたけどな)
などと考えかけた時、
「嶋津、エウロパ組の最終報告を急がせろ!」
有無を言わさぬ指示が飛んでくる。
これは私の仕事ではありません、等と言い訳できる相手じゃないし、第一そんな御託が言える状態じゃないのだ。
ガミラス戦当時、戦闘で航海長と副操舵士が揃って死傷してしまい、戦術長の自分が操舵士を臨時兼任するなんて日常茶飯事だったし、旗艦のブリッジクルーが司令部幕僚を代行した事例など枚挙に暇がない。
てな具合に、自分が幕僚の仕事まで兼務する羽目になった嶋津は、艦務の相当を副長のナーシャ・カルチェンコに委譲(丸投げ)した。
各基地や宙域にいた残存艦の大勢が明らかになり、戦力把握が進んでいた最中、あのデスラー総統から『ヤマト』を名指しで“果たし状”が来た。
向こうは旗艦たる新型デスラー砲艦『デウスーラⅢ』と三段空母、戦闘空母各1隻にデストロイヤー艦12隻。
それで完全決着をつけよう。
それ以上の戦力は大ガミラス帝国総統の誇りにかけて絶対に投入しないというのだ。
この果たし状には地球側の大半が否定的だったが、傷癒えた古代 進は、
このまま避け続けたところで、デスラーは執念深く挑戦してくる。
それでは地球・ガミラス共にマイナスになるばかり。きっちり白黒を付けておくべきだ。
と乗組員一同で出撃を願い出てきた。
土方は暫く無言でいたが、
「良かろう」
物議を醸す事になるのを知りつつ、自らの責任において出撃を許した。
一方、リベンジマッチフリートも揃いつつある。
戦艦5、戦闘巡洋艦18、哨戒/嚮導巡洋艦21、駆逐艦58、護衛艦81。
更に、練度不足のため機動部隊攻撃から外されていた第3航空戦隊所属の戦闘空母『赤城』『天城』と戦闘攻撃機100機。
そして、高速輸送艦を改装した雷撃艇母艦『アーガス』『コロッサス』と中型雷撃艇各20隻もイオに到着したが、ガトランティス艦隊残党が冥王星軌道から内惑星方向に進んでいることが判ったため、土方は残存全艦の出撃を下令した――。
――大ガトランティス帝国・首都要塞(白色彗星)――
「それは間違いないのか!?」
帝国丞相のサーベラーは、首都施設相・ローライからの報告に耳を疑った。
「私自身も立ち会って確認しましたが、回転装甲帯の損傷は予想以上に深いものです。
‥‥テレサの自爆のダメージだけならばまだ良かったのですが、テロン艦隊からの総攻撃の際に発生した衝撃波が歪みを拡大しました。根本的な修理をしませんと、回転装甲帯は確実に動かなくなります」
「うぅむ‥‥」
傍らの帝都防衛相ゲーニッツ、帝国支配相ラーゼラーも事の重大さに深刻な表情で押し黙る。
ガス帯があるとはいえ、その濃度も当初の5割強にまで落ちており、再びテロン艦隊、それも今度はもっと小規模なあの砲撃(波動砲)でも、ガス帯どころか都市要塞自体が崩壊する可能性すらあるというのだ。
「ならば即刻修理せい!!」
当たり前の事すらできないのかと、サーベラーは苛立たしげに修理を命じるが、ローライは反問する。
「その為の予算と人手、期間等、とても私どもの裁量で収まる規模ではありません。大帝のご裁断が必要なレベルなのです」
「‥‥如何なることか?」
「率直に申し上げれば、万一、戦闘でガス帯が消滅し、かつ敵がある程度の戦闘力を維持していた場合、都市帝国はかなりの損害を被るであろうという事です」
「‥‥ある程度の戦闘力とは?」
「我が軍の1個艦隊に相当するでしょう」
「!?」
サーベラー達は絶句した。
テロン艦隊の実力が予想以上に高かった事は、バルゼーやゲルンが斃された事で証明されている。
彗星本体が大半を葬ったとはいえ、戦力が消滅したわけではないのだ。
「ふん、敗残兵どもに何ができる!? こちらには親衛艦隊もあるのじゃ。そうであろ?ゲーニッツ殿」
「無論だ」
「大帝には私からお伝えしておく。ローライ、貴様は必要な資材と人員を早急にまとめよ」
「‥‥‥畏まりました」
ローライが退出し、サーベラーが去った後、ラーゼラーはゲーニッツに問うた。
「この一件、丞相殿に一任するのは不安に過ぎませんか?」
「‥‥‥‥」
デスラーがいた時は、彼への反発で手を組んでいたサーベラーとゲーニッツだが、デスラー出奔後は再び溝が深くなっていた。
しかも、その際に2人ともズォーダーから虚偽の報告を問責されており、処分こそ保留になっているが、このままでは征服事業が一段落するごとに大帝が行う指導部人事に引っ掛かり、降格あるいは粛清の対象になりかねない。
殊に、今回のテロン攻略においては、過去最悪とも言える損失を出している。
ことに直属の部下であるバルゼーの敗死を、ズォーダーは
『敵に地の利があるにも関わらず、目の前の優勢に眼が眩み、敵の罠に自ら嵌まった。短慮である』
と切り捨てていた。
これ以上、この地球攻略作戦で艦隊を失えば、自分は間違いなく失脚する。
「地球艦隊の残党どもは我が手で葬らねばなるまい‥‥」
残党地球艦隊が出撃したとの報せが入ったのは、それからほどなくしての事だ――