宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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斜め上

「これは一体‥‥」

「何が起きたんでしょう‥‥」

 

フェイト・シャリオ・ティアナや武装隊員が移乗したXV級次元航行艦『エッグノッグ』艦内には、異様な雰囲気が漂っていた。

 

彼女達を出迎えた乗組員の最上級者は、艦の庶務を預かっていた事務長のユリア・ベレット一尉で、艦長や副長、執務官ら他の士官の姿は見えない。

 

ブリッジに案内すると言うベレットに先導され、通されたそこには、当惑の表情を浮かべた副操舵士と副通信士しかおらず、艦長や副長はおろか、他のクルーの姿もない。

室内には散布された殺菌薬剤の臭い、排泄物特有のアンモニア臭が鼻をついた。

 

彼らに尋ねると、オフシフトで私室にいたところ、突然事務長から呼び出され、ブリッジに行ったところ、艦長以下のブリッジクルーと執務官、武装隊員がことごとく卒倒しているか腰を抜かしており、失禁・脱糞した者も複数いたという。

そのため実質的には航行不能状態で、緊急通信を出すのが精一杯だったらしい。

 

「艦長達に面会する事はできますか?」

「面会自体は可能ですが、かなりの精神的外傷を負っていますので、文字通りの面会だけで終わってしまいます」

 

フェイトの問いに、ベレットは首を横に振る。

 

――『クラウディア』ブリッジ――

 

「そうか‥‥」

『艦のトップや執務官、さらに武装隊員の大半が任務遂行できない状態では、『エッグノッグ』をこの空間に留め置く事は非常に危険です』

 

フェイトが緊張した面持ちでこの宙域からの退避を進言する。

ここはあのテレザートからさほど離れていない。もしも先日のような艦隊と鉢合わせすれば2隻とも危ない。クロノは即決した。

 

「わかった。こちらから回航要員を移乗させよう。乗組員への事情聴取と航行記録の確認を頼む」

『わかりました』

 

航行については問題ない。

それにしても、任務放棄せざるを得ない程の精神的外傷とは、一体何があったのだろう?

 

 

――『クラウディア』艦長執務室――

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

クロノ・フェイト・シャリオ・ティアナは、『エッグノッグ』ブリッジの記録映像を言葉もなく見ていた。

 

『エッグノッグ』は右舷から追い抜いて行く宇宙船らしき物体を発見した。

分析したところ、高レベルのエネルギー反応が認められたため停船を命じると、素直に停船した。

 

艦長と執務官は、副長の異議を抑えて件の宇宙船の拿捕を決定したが、これにはクロノ達も渋面になった。

 

宇宙船にバインドをかけて引き寄せ、強制椄舷して武装隊員を送り込もうとしたところ、 突然ブリッジの一角に金色の光球が出現し、光球の中から、青いドレス姿で金髪碧眼の若い女性が現れた。

 

『私はテレサ。ご用向きを伺います』

 

呆気にとられる乗組員を尻目に、テレサと名乗った女性ははっきりとのたまった。

デバイスを向けようとした執務官を制して副長が、この空間を行動している理由を質すと、女性ことテレサは、

 

『決着をつけるべき相手の元に赴くところです』

 

とだけ答え、それ以上は一言も話さない。

その間、テレサの全身からは詳細不明のエネルギーが発されており、その強度はSSランクを軽く凌駕していた。

管理局員ならば、未知の強大な力を持つ人間を『野に放つ』事はできない。

 

『エッグノッグ』艦長は、テレサに対して本局への任意同行を通告したが、テレサはこれを拒絶する。

艦長と執務官は即座にテレサの拘束を決定して通告したが、事件はその直後に起きた。

 

テレサから発されるエネルギーが急激に拡大して計測不能になったかと思うと、艦長、執務官と武装隊員は吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、他のクルーも席から吹き飛ばされて床に転がると身動きがとれなくなった。

 

そしてテレサはバインドをまるで紙ひもを切るかのように千切ると、

 

『手荒な事をしてしまった事は謝ります。ですが、自分の終焉を他人に決められるわけにはまいりません‥‥』

 

と言い残して再び光球に包まれて姿を消した。

 

「自分の終焉って、あの人は自ら命を絶つつもりなんでしょうか?」

「あるいは自分の死期を悟って最期の地に向かうところなのかも知れないな‥‥」

 

シャリオの疑問にクロノが応じる。

 

「一つだけわかったのは、彼女の眼だ。あれは覚悟をすっかり決めた者の眼だな。

ああいう眼をした者を引き留めるのは、正直言って不可能に近いな」

 

クロノは、11年前に起きた、フェイトやなのは、ユーノと出逢った大事件の主犯たる女性を思い出していた。

あの女性とテレサは様々なところで異なるが、何人たりとも干渉させない強烈な意思があるところは共通だ。

 

「‥‥‥‥」

 

フェイトもやや俯きながら首肯した。

ティアナが声のトーンを落としながら話す。

 

「――あの人と私達管理局が解り合う余地はなかったんでしょうか‥‥?」

「生まれてからずっと管理外世界で過ごしていた人が、魔力やそれに準じる力があるから、いきなり管理局の元に来いと言われて、はいそうですか、というのは明らかに無理があるね。

なのはやはやてのケースはあくまで例外中の例外だよ‥‥」

 

フェイトの言葉に一同は思案にくれた。

 

(それにしても、彼女はどこに向かったんだろう‥‥)

 

フェイトの疑問を解くには、今しばらくの時間を要した――。




次話は明日20時頃です
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