地球圏で大規模な停電発生の報が入ったのは、第3艦隊襲撃事件から4日後の事だった。
『テシオ』『ヒルガオ』『ナデシコ』からなる第666警備隊は所定の警備宙域に到着。哨戒任務を始めていたが、再び第1級警戒体制をとった。
やがて、地球から大停電についての情報が順次入電し始めた。
「今度は金星圏、ね‥‥」
『テシオ』操舵席でカルチェンコが憮然とした表情で呟く。
金星軌道上の送電ステーションが何者かによって破壊されたというのだ。
軍施設の被害は僅かだったが、民間の被害は甚大。
あらゆるシステムがダウンしたのを契機に、航空機や自動車の事故が多発。
ロサンゼルスとサンクト・ペテルブルクでは旅客機同士の空中衝突が相前後して発生し、4機合わせて546名の犠牲者が出た。
この事故を筆頭に、地球圏で739名が死亡・行方不明、1207名が重軽傷を負ったため、ガミラス戦終結後では最悪の惨事になった。
地球連邦政府は、現時点での下手人は不明としつつも、第3艦隊襲撃と同一犯の可能性大と発表。
一部の市民は地下都市に避難しようとして治安当局と衝突。100名以上が拘束する騒ぎになった。
地上での騒ぎは太陽系各所に駐屯する宇宙戦士たちの耳目にも入り、彼らを長嘆息させた。
「慢性人手不足だから自動化を進めるのは仕方ないけれど、こんなにも脆いとは‥‥」
地球防衛軍もさりながら、民間の人手不足はなおも深刻で、緊急時のバックアップ要員にも事欠く有り様。
やむなく地上軍も応援に出動し、事態の収拾に当たった。
当然ながら、軍人や行政関係者は1つの可能性に辿り着く。
“下手人は第3艦隊を襲った連中と同じ穴の狢ではないのか?”
──冥王星軌道外縁で、嶋津も同じ事を思案していた。
ガミラスやその傘下勢力ならば『復讐』『復仇』なのだろうが、それにしては攻撃が中途半端だ。
(あるいは、やはり威力偵察か)
本格的攻勢を前に、地球側の対応能力を見極めようとした可能性は十分あり得る。
となれば、相手がガミラスにせよ未知の勢力にせよ、近いうちに太陽系に攻めてくる事を意味する。
(たった1年の平安に過ぎなかったか‥‥)
考えるだけで気が重くなるが、軍人たる者、それを表に出してはいけない。
我々は、できる事をやるしかないのだ。
──エッジワース・カイパーベルト、アンドロメダ面──
『下手人』は太陽系外縁に張り付いていた。
『ナスカ提督、地球撹乱作戦の遂行状況はどうか?』
「はっ、詳細は先ほど送りました通りですが、奴らは予想以上の醜態です、バルゼー提督」
『作戦』の進捗状況を質されたナスカは、バルゼーに地球連邦撹乱作戦の状況を報告した。
『ん。地球人どもは未だガミラスとの戦の傷から回復しておらぬようだな』
バルゼーはナスカからのデータにひとしきり目を通し
た後、再び口を開いた。
『予定通り、次なる段階に移る。我が前線拠点の建設にかかれ』
「はッ!」
水平にした右腕を胸の前で一瞬止めてから横に流すガトランティス式敬礼の後、ナスカは幕僚に向き直った。
「我が艦隊はこれより拠点建設にかかる。同時に潜宙艦で地球の補給線撹乱にあたる。急ぎ準備せよ!」
「了解しました、提督」
コズモダード・ナスカは満足げに頷き、再び前方に目を向ける。
(あの亡命者に釣られて、地球軍を過大評価し過ぎていたな。あの有り様では、大帝の御即位記念式典前に地球は我が帝国に下るだろう)
ナスカが地球連邦を甘く見たとしても無理はなかった。
この撹乱作戦も、大帝が異例にも対等者と認めたあの亡命者の意見を受け、ガトランティス帝国軍としては異例なほど慎重に偵察を重ねた後に行ったのだ。
果たせるかな、作戦は予想以上の成功だった。こちらの損害は地球軍第3艦隊の反撃で撃墜破された4機のみ。
要注意と目された『ヤマト』にしても、こちらの『デスバテーター』1機を撃墜するのがやっとだったから、ナスカが多少増長してもやむを得ないところだった──。