「敵都市要塞下半球に着弾!」
敵艦の脱出を阻止すべく、護衛艦『バンブー』『セコイア』『マタタビ』から放たれた波動砲が都市要塞下半球に穿たれた穴から内部に着弾。飛行場や軍工厰等を瞬時に崩壊せしめると共に、回転装甲帯をも剥離させ始めた。
しかし、禍々しい影は上部建造物群を崩壊しながら迫り上がっていく。
「‥‥!?」
「何だ!?あれは‥‥」
「超大型艦‥‥?奴をスキャンしろ!」
「既にやっています!」
土方も予想外だったか、席から立ち上がっている。
嶋津冴子は件の巨大な影のスキャンを命じるが、観測士は既に行っており、すぐおおよその解析結果が出た。
「全長12ないし13km、排水量アンノウン、艦体上部に砲塔多数!艦底部に巨大な砲身らしき物体も確認されます!!」
「!!!??」
ブリッジクルーは皆言葉を失う。多数の戦闘艦が出てくると思いきや、大艦巨砲主義の権化のごとき戦艦形機動要塞とは――。
「全艦艦首下げ!敵巨大戦艦の下部に入れ!」
土方の指示が飛び、『テシオ』以下の各艦は、敵機動要塞の下部に回るべく艦首を下げながら前進し始めたが、そうは問屋が卸さなかった。
要塞戦艦『ガトランティス』の背面に載った形の砲塔――それだけでもアンドロメダ級すら凌ぐ巨大砲塔――がくるりと左舷に指向し、一斉に撃ち始めた。
光の矢衾ではなく光の柱が容赦なく地球艦隊を襲い、直撃された駆逐艦は残骸すら残さず消滅し、かすっただけでも爆沈してしまう。戦艦も同じようなものだ。
――『ヤマト』機関室――
『ヤマト』はMIAの島に代わったアナライザーの操艦で直撃こそ免れたが、右舷への至近弾が装甲を抉り取り、艦内で爆発が発生した。
その爆発は頑丈な機関室隔壁をも破壊し、そこで作業していた機関科員を飲み込んで吹き飛ばした。
そして、2度目の爆発は陣頭指揮を執っていた機関長・徳川彦左衛門を捉えた――。
「ぐふ‥‥っ!」
意識を保っていた徳川は、致命傷を負ったと悟った。胃から次々と血が込み上げてきている。
(いよいよ年貢の納め時、か‥‥)
「機関長っ!!」
副機関長の山崎 奨が右脚を引き摺りながら歩み寄ってくる。
「バカもん‥‥っ、エンジンから目を離すな‥‥!」
「大丈夫。エンジン本体は無傷ですよ!」
山崎も歴戦の宇宙戦士だ。敬愛する上官が致命傷を負ったのだと悟ったが、平静な声で徳川の意識を繋ぎ止める。
「あなたが手塩にかけたこいつ(波動エンジン)だ。そう簡単にくたばりゃしませんよ」
「ふっ、当たり前だ‥‥」
山崎と顔を合わせてニヤリと笑い合ったが、新たな苦痛に顔を歪める。
「今メディック(医療科)が来ますから」
「‥‥ワシはもう十分に生きた。若いモンが先だ」
機関室までやられたのだ。ヤマトは満身創痍になっているだろう。メディックだって手一杯に違いない。ならば若い者こそが助かるべきだ。
「‥‥それにな、薮の奴がまだ迷っとるみたいなのでな。喝を入れてやらんと」
「‥‥‥‥」
――薮 助治。
彼の名はイスカンダル行の経験者の間では、今なお痛みを伴う記憶だ。
間近で薮を見ていた2人にとって、彼の中の闇を見逃していた事は、悔やんでも悔やみきれぬ傷として残っている。
それゆえ、山崎は返す言葉がなかった。
「‥‥一つ頼まれてくれんかな?山崎」
「‥‥俺に出来る事でしたら、全力で」
これが最期の会話になると悟った山崎は、徳川の口許に耳を寄せた。
「太助の奴が、来年‥‥、ひょっとしたら今年中に繰り上げで卒業になるかも知れんが‥‥もしお前の元に配属されたら、妥協なしで鍛えてやってくれんか?」
次男坊の太助は山崎とも面識がある。
今、宇宙戦士訓練学校機関科の訓練生だ。
「‥‥わかりました。引き受けましたよ、機関長」
「そうか‥‥済まん、な‥‥」
それきり、徳川が目覚める事はなかった。
「‥‥‥‥」
徳川を横たえて両手を組ませ、頭近くに愛用のスパナを置いた山崎は立ち上がって敬礼した。
「機関長‥‥」
「うぅ‥‥」
軽傷の機関科員が敬礼しながら嗚咽を漏らすが、
「泣くな、前を向け!泣くのは地球に帰ってからだ!
ここが生きている限りヤマトは死なん!消火と被害確認を急げ!」
科員達を大喝し、山崎は矢継ぎ早に指示を下していく。
今はここを守り切り、皆で生きて還る。徳川達を悼むのはそれからだ――。
運ばれていく徳川の亡骸に一礼し、山崎は両の頬を叩いて自らに気合いを入れた。
――『テシオ』――
「取り舵20、艦首下げ12!」
「とーりかーじ20、艦首下げ12!」
冴子の指示が飛び、副長兼航海長のカルチェンコが復唱しながら舵をとる。
彼女のアクロバティックな操艦により、駆逐艦に匹敵する機動の『テシオ』は、敵要塞戦艦の業火の如き砲撃を掻い潜り続けたが、戦闘には予想外のファクターがある
「左舷9時20分、上5度から駆逐艦『クリス・L・エバーツ』、炎上しながら接近してきます!」
「取り舵15、艦首上げ6!‥‥総員対ショック防御!手近な物に掴まれ!」
回避命令を出しつつ、これはカルチェンコでも回避しきれないだろうと、冴子は妙な程クールに分析していた。
果たせるかな、『クリス・L・エバーツ』は『テシオ』の艦体上部に接触。『テシオ』の前甲板で爆発が発生した。左舷に大ダメージを受けたが、近藤の操舵で、艦首から突っ込まれるのだけは免れた。
『クリス・エバーツ』はすぐ離れていったが、間もなく大爆発して果てた。
そして――。
「く‥‥被害報告、急げ!‥‥ブリッジクルー、返事しろ!」
全員がフルハーネスのシートベルトを装着していたため、土方や嶋津も含めて、席から投げ出された者はいなかった。
土方を含め、ブリッジクルー全員の無事な返事が戻ってきたが、
「‥‥嶋津、お前が一番重傷だぞ」
「?」
「司令のおっしゃるとおりです。艦長‥‥」
土方に指摘され、他のブリッジクルーも一様に頷かれた冴子は右頬に手をやると、ヌルッとした感触と共に右頬の皮膚が裂けているのがわかった。
痛みが少ないのはアドレナリンが過剰分泌されているからか?
「重傷者の手当が先だ。私は最後でいい!」
傷ついたのは頬で、眼ではない。必要な処置をすれば急場は凌げる。
自らメディカルキットを開いて止血と消毒処置をし、保護フィルムを貼り付けて応急処置を済ませた。
この間、約1分半。
「主砲1番と2番、持っていかれました。‥‥発射管も殺られました」
「メインエンジン、出力95%に低下しましたが、10分で110%に戻せます!」
「5分で戻してくれ!波動砲は!?」
「応急班がチェックに入ったところです!」
「急がせろ」
すぐ使えるのは艦首下の3番主砲塔だけだ。
しかし、僚艦に比べて『テシオ』は幸運だった。
ほんの数分で、巡洋艦以上の主力艦で戦闘可能な艦は僅か数隻にまで撃ち減らされたが、超巨大戦艦『ガトランティス』の刃にかかったのは、地球艦だけではなかった。