09/09/2201
「艦長、先日の通信についての解析と防衛会議での結果回答が来ました」
「ん」
6日前、第3艦隊が襲撃される直前に傍受した、謎の音声通信の詳細解析と、防衛会議での審議結果についての回答がきた。
これは『テシオ』のみならず、『ヤマト』や外惑星基地からも同様の受信報告があったため、看過できないと判断した軍科学局勤務の真田志郎がとりまとめ、共同提案による緊急議題として上程したのだ。
──数分後、『テシオ』艦橋には白けた空気が漂っていた。
ブリッジクルーは、表情の違いこそあれ不満や失望を隠そうともせず、艦長の嶋津も誤って渋柿を口にしたような表情になっていた。
要約すれば何もしない。
探査するには根拠不足である上、仮に敵であっても、今の地球艦隊で撃退できるというのだ。
一方、音声データは真田の手でかなり明瞭に再生されていた。
途切れ途切れだが、新たなる侵略勢力の跳梁跋扈を示唆している。
嶋津の胸中にも、上層部に対する呆れと不信の思いが噴き出ていた。
(何とまあ、能天気なこった)
『ヤマト』の帰還から1年しか経っていないというのに、中央には早くも驕りが出ている。それも政府のみならず軍中枢にも。
こんな連中を守るために、あいつらは戦い散っていったのか····?
怒る以前に悲しみが込み上げてくる。
とはいえ、我々は民主星間国家の軍人。現役軍人で直接政治に関われるのは総幕僚長のみ。間接的を含めても事務次官と軍務局長の計3名しか許されない。
それは嶋津も承知しているし、今後も選挙権行使以外で関わるつもりもないが、先日横須賀に一時帰航した時から違和感は感じていた。
帰還した当日、船務科に届いた士官対象の軍務外通信の中に、
『連邦上院議員○○氏を囲む懇親会を次のとおり開催するので、多数参加されたし』
というのがあり、会場は士官クラブである『横須賀水交館』になっていた。
主賓の議員は、連邦最高評議会上院議員中最年少で、代々の先祖からは何人もの国務大臣や内閣総理大臣が輩出されており、本人もゆくゆくは連邦大統領になれるのではないかとの声望高き俊才だ。
船務長から報告と相談を聞いた嶋津は一読するなり、
「我が隊の士官はこの会合への出席を禁じる。『ヒルガオ』『ナデシコ』にも伝達」
「よろしいんですか?」
「構わん。当然だ」
同席していたカルチェンコが質したが、嶋津はにべもない。
「軍の施設や官舎敷地内で認められた政治活動は、正式な選挙活動に限定されている。そしてこの人物は明確に議員の立場での出席だ。私はこの懇親会とやらを私的交際活動とは認めない。軍は特定の政治思想と結ぶべからずという建前にも反するからな」
「わかりました、艦長。‥‥船務長、そのように伝えて」
「はい」
船務長が退出すると、カルチェンコは苦笑した。
「私も異議はありませんけど、また疎んじられますよ。艦長」
「今さらだな」
上官相手でも遠慮が少ない嶋津は、当然ながら煙たがられ、危険度が高い太陽系外縁部の警備任務に送られたと目下の噂だ。
それでいて容姿は軍の女性士官の中で十指に入るほど美しいと言われた事から、一部の男どもからは『ゲスカル』というアダ名を付けられた。
ズバリ、『ゲスな○スカル』。
容姿端麗・勇猛果敢・性格難有という意味だ。
そのような悪意入りの異名がついても意に介さなかったあたりが、嶋津が残念な女と言われる所以なのだが。
「むしろ、艦長が出席する方が嫌がらせじゃないですか?議員ご本人より取り巻き連には」
「フフン」
カルチェンコの皮肉に、嶋津は人の悪い笑みで応えた。
──てな事もあり、嶋津は中央の楽天ぶりに呆れ果てたが、同時に後輩を案じた。
『進の奴、無茶しなきゃいいが‥‥』
『ヤマト』謀反の報がもたらされたのは翌朝(日本標準時)だった。