宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

72 / 166
マダオの帰宅


帰宅

ピリリリ…

 

窓から朝の陽光が差し込んでいる。

 

アラームが鳴り始めてから約30秒、ようやくこの部屋の主がのそのそと起き出した――と思いきや、ドサッとばかりに床に落ちる。

 

「‥‥ん~‥‥」

 

ようやく起き出した、三十路間近の嶋津冴子である。

 

「艦長、おはようございます」

「あ~…おあよ~‥‥」

 

ドアが開き、声をかけたのは『テシオ』のクルー‥‥ではなく、冴子の被保護者の少女、高町雪菜だ。

 

「朝ごはん、お粥でいいですか?」

「‥‥それで頼む‥‥」

 

手を振って応え、冴子はよろよろと浴室に向かう。

瞼はまだ半開き、髪もボサボサ。そのだらしなさは艦に乗っている時とは真逆の風景だ。

 

シャワーを浴び、汗が引くのを待って食卓につく。

 

「「いただきます」」

 

合掌し、農業従事者と動植物たちに感謝してからおもむろに食べ始めた。

 

――嶋津家にとっては、およそ2ヶ月ぶりの家長がいる朝食風景だ。

 

朝粥に昆布佃煮を加え、ふうふう冷ましながらかき込んでいくうちに、少しずつ身体が目覚めていくのがわかる。

 

朝粥を口にしながら、今日の予定を確認し合う。

とは言え、雪菜は中学生だから、部活も含めて帰宅は夕方。

 

嶋津冴子は公休だが、戦死した『テシオ』クルーの遺族が遺体や遺品を引き取りに来た時に備え、基地内の遺体安置所に詰める予定だ。

また、艦の修復作業の確認や新見との話もあるから、22時前に帰れる保証はない。

 

「‥‥艦長って大変なんですね」

「死んでしまった部下にはそのくらいしかできないからな‥‥」

「‥‥‥‥」

 

雪菜にとっても、白色彗星帝国との戦闘で軍人だった家族親戚を失った友人が少なからずおり、他人事ではないようだ。

 

それ以前に、雪菜自身も戦争孤児だ。

 

――2192年、三浦半島に着弾した遊星爆弾による破壊は対岸の海鳴市にも及び、約60万人の市民のうち20万人がほぼ即死。後遺症で斃れた者も含めると、2201年現在も生存しているのは1万人にも満たない。

 

死者、行方不明者の中には冴子の養父母と、喫茶店『翠屋』の6~8代目にあたる高町家3世代一同もいた。

 

高町家は、当時実家に帰省していた7代目店主の妻・桃香と末娘の雪菜、それに宇宙戦士訓練生だった長男の僚也は難を逃れたが、その後の艱難辛苦で桃香は病に2199年末に病没。

僚也も2198年末、海王星軌道付近の戦闘で乗艦と運命を共にしていた。

 

行き場を失った雪菜に着目し、高町家と家族ぐるみで親交を持っていた嶋津家の当主になった冴子に雪菜の保護者になることを勧めたのが、冴子や古代守達が宇宙戦士訓練学生当時、同校副事務長をしていた中島龍平だった。

 

『――お前さんを身軽にしておいたら、それこそ何やらかすかわかったものじゃないからな。それにあの子も、知っている奴の方がいいだろう』

 

と宣いながら話を進め、2200年初め、当時小学5年生の高町雪菜は嶋津冴子の被保護者になった。

 

それから1年と10ヶ月が経過した――。

 

 

「また仕切り直し。問題山積といったところだ。いずれ発表されるだろうが、防衛艦隊は事実上潰滅。7割以上の宇宙戦士が還らなかったのは事実さ。私も艦も生還したのが不思議だよ」

「‥‥‥‥」

 

雪菜は考え込む表情になったが、顔を上げて口を開く。

 

「艦長、私もズォーダーとテレサの会話を聞いていたんですが」

「うん‥‥」

「テレサが愛した人って、『ヤマト』の島さんなんですか?」

「!‥‥なぜ、そう思う?」

 

雪菜の言葉に思わず瞠目する。自分の脳裏に直接聞こえてきたテレサ最期の言葉。

 

必ずしも全員が聞いたわけではないが、クルーの幾人かと土方には聞こえたようだ。

また、『ヤマト』も古代・雪・真田ははっきり聞いたという。

無論、これには箝口令が敷かれているが、民間人たる雪菜の脳裏にも届いていたとは――。

 

「島という名前で、テレサと接触した可能性があるのは、あの人くらいしかいないと思ったんです」

「‥‥そうか、確かにそうだな」

『――私もハッキリ聞いたぞ、カピタン(艦長)』

 

横から壮年男性の声がする。

 

「“ピュア・ハート”もか?」

 

声は微かに湯気を立てるお猪口の中から聞こえる。

そこからはほのかな日本酒の香りが漂ってくる。

 

「‥‥ズォーダーの声を聞いた時、どこかで聞いた声だ思ってたが、(ピュア・ハートと)そっくりだったんだ。思い出したよ」

『ふん、私としてはあやつを虚数空間に突き落としてやりたかったがな』

 

お猪口の中の蒼い玉――ピュア・ハート――は不機嫌さを隠さない。

 

『――燗酒に浸かりながら言っても全然迫力がないぞ‥‥』

 

冴子は長嘆息した。

 

“ピュア・ハート”は雪菜の護り石で、実態は『自律人格型魔法制御媒体(インテリジェントデバイス)』。

つまり雪菜は“魔法”を行使できる能力がある。

 

これは雪菜に限らず、高町家代々の者の中にそういう能力を持つ者がいるためだが、雪菜の亡き母親だった高町桃香もそうである。

ピュア・ハートは桃香から継承したものだが、いつ、どのようにして桃香の元に来たのかは、当の桃香が故人になった上、雪菜も知ろうとしていない。

 

冴子も高町家と魔法の事は桃香の存命時には知っていたのと、桃香も雪菜も魔法を乱用していないので、殊更目くじらを立てる気はない。

ないのだが、ピュア・ハートがメンテナンスと称して酒に浸る上、日本酒を一番好むのは理解し難い――。

 

まあ、ピュアハートの事はさておき、テレサと島だ。

 

「‥‥他言無用だぞ。あの2人は、守とスターシャのようにはなれなかったんだ。互いを思い合いながらもな」

「はい」

『心得た』

 

地球人と異星人が恋愛関係になったのはこれで2例目。互いに愛し合っていたのもだ。

しかし、今回はテレサがズォーダーと刺し違えるという悲劇的な結末に終わった。

 

嶋津には、あの時もっと早く波動砲を撃ち込めていれば――という後悔があった。

 

「結局のところ、地球は2度も異星人の女性に救われた。この事実はしっかりと胆に銘じないとな」

「‥‥‥‥」

『む‥‥‥』

 

粛然となった2人+αである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。