『ヤマト』脱走──。
古代進・真田志郎・島 大介ら、地球にいた現・旧乗組員のうち92名が近代化改装工事中の『ヤマト』を占拠して強行発進したとの報せは軍中央を揺さぶった。
中央司令部を慌てさせたのは、イスカンダル行を経験していない新クルーの大半も参加した事実だ。
さらに月面基地のコスモタイガー部隊からも、加藤三郎・山本 明らイスカンダル帰りのエースはもとより、彼らの列機や整備要員の一部までもが指揮系統を離脱し、ヤマトに参加した。
参謀本部は追撃命令を出したが、『ヤマト』の巧みな操艦や、月面基地サイドの消極的な対応も手伝って、無傷で地球圏を離脱していった。
「《ヤマト》は戦闘衛星群を突破、無人戦闘艦を無力化し、アステロイドベルトに向かっています」
「ん‥‥」
通信班長のイが現況報告する声が『テシオ』艦橋に響く。
「《アンドロメダ》が《ヤマト》にぴったりついていますが、射程距離までには間隔が詰まっていません」
阻止命令を受けた《アンドロメダ》が追跡しているが、カタログデータの速力差ほどには両者の距離は詰まってはいない。
(オヤジ(土方)が自分でやるというんなら、余計な茶々は入れるまいよ)
嶋津も古代 進も、10年の差こそあれ、土方の元で宇宙戦士のイロハを文字通り叩き込まれた。
その教練や訓練の熾烈さは群を抜き、訓練生や部下から『鬼竜』の異名を奉られるほど畏怖と畏敬の的だった。
その土方が、配下の艦ではなく自らの艦『アンドロメダ』で『ヤマト』を追跡するのだから、何か思う事があるのだろう。
そして、
「(空間警備隊)司令部からは何か言ってきてる?」
副長のカルチェンコがイに尋ねた。
GF666ら警備隊は、平時は空間警備隊司令部の指揮下にあり、連合艦隊の指揮下に入る場合は幕僚長の命令を要するが、藤堂幕僚長は未だそのような命令を出していない。
「いえ。新たな命令は出ていません」
「わかったわ」
先日の一件で全警備隊は厳戒体制にあり、謎の敵の再侵入に備えているが、内情は辛うじて警戒網を維持している有り様だ。
それに戦力も哨戒巡洋艦1隻に護衛艦か駆逐艦が2隻程度。たった1隻とはいえ、ベストメンバーに近い『ヤマト』とやり合うなど自殺行為だ。
今のところ新たな命令がないのだから、GF666は本来の任務を離れる必要はない。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
しはらく固唾を飲む状況が続いたが、2時間後、
「《アンドロメダ》は《ヤマト》を発見し得ず、帰投します」
とイが報告した。
(嘘だな)
(嘘ね)
嶋津とカルチェンコは同時に直感した。
あの“鬼”がそんなしくじりをやらかすわけがない。
ぶつかり合ったにせよ、師弟間で“ナシ”をつけ、土方は親友のセガレ達を送り出したのだろう。
「司令部からは何も言ってこないか?」
「はい。何も」
空間警備隊司令はイギリス出身のエドワード・スペンサー中将。本国では子爵で、王室とも遠縁の由緒正しき貴族だ。
「参謀本部からやいのやいの突付かれているんでしょうかね?スペンサー司令は」
「ユーモアまじりでのらりくらりと躱しーの、時にバッサリ斬り捨てーのしてるんだろうなぁ‥‥」
あの子爵閣下は、『ヤマト』にも土方にもすげなくされていきり立つ参謀本部相手に、独特のユーモアを交えて躱したり反論しているんだろう。
まあ、藤堂幕僚長も裏で根回ししているんだろうが。
4時間後、『ヤマト』は666GFから50万キロの間隔をとったまま、外縁方面に向かっていった。
──準惑星『マケマケ』駐留の空間騎兵隊から発信された救援要請が飛び込んだのは、それから間もなくだった。