―― 『テシオ』艦長室 ――
艦長居室に退がってひと風呂浴びた嶋津冴子は、シンプルなアンダーウェアを身に着けただけの姿で小型冷蔵庫からコーヒー豆乳の瓶を取り出し、栓を開けるやそれを口許に運び、ぐいと一息で煽った。
無論、両脚を肩幅位に開き、左腕を腰に添えた『銭湯スタイル』で。
ぷはぁと一息ついたその時、ベッドサイドの艦内電話が呼び出し音を立てたので、Sound-onlyで出る。
『お休みのところ申し訳ありません、艦長』
ブリッジ当直に詰めている新人の三沢の声だ。かなり緊張した声だ。
「――何が起きた?」
休憩中の艦長を呼び出す以上、緊急性が高い用件なのは明らかだが、敵接近の類いでもない。
何事かという嶋津の問いに対する三沢からの回答もまた、予想の斜め上を行くものだった。
『‥‥ガミラスのデスラー総統から、地球防衛軍司令長官と、《ヤマト》古代戦術長宛の電文をキャッチしました』
(──!!??)
そんなバカな等と切って捨てるような輩に宇宙戦士の資格はない。
「すぐ行く。各艦ブリッジクルーは全員集合」
通話しながら、嶋津は制服への着替えを始めていた。
―― 5分後 ――
13TF各艦のブリッジには艦長以下のクルーが勢揃いした。
デスラーからだという通信は『ヤマト』『テシオ』『クズリュウ』で同時にキャッチされていたが、その内容は、歴戦の宇宙戦士たる彼らをしても顔色を変えさせるものだった。
内容はこうだ。
『――ガミラス星のマグマを盗掘している所属不明の船団を攻撃したところ、戦闘の最中にマグマが連鎖誘爆を起こし、ガミラス星が爆発・消滅した。
このため、イスカンダル星との引力バランスが消滅し、イスカンダルは軌道を外れて漂流・暴走し始めた。
イスカンダルもいつ地殻崩壊してもおかしくない状態で、我々は現在追跡中であり、救援に全力を尽くすが、不測の事態にもなりかねず、手を貸してほしい。我が帝国軍は『ヤマト』とその友軍を攻撃することはない。また、長距離ゲシュタムジャンプ(ワープ)技術を地球側に提供する』
ということで、件のワープ技術の一部らしいデータが添付されていた。
「‥‥お前たちは(この通信を)どう思う?」
嶋津は、スクリーンの先の古代と雪に問うた。
宛先の1人は古代だ。何より、この場にいる顔触れの中で、デスラーと直に対峙したのは古代と雪だけなのだ。
現在、地球とガミラスは非公式ながら休戦状態だ。
ガミラスは本星が壊滅し、デスラーら生き延びたガミラス人逹は新天地探しに入っている。
一方、地球もまたガトランティス帝国との戦争で多大な打撃を被り、改めて再建を始めたばかり。
新国家建設に燃えるデスラーが、またもや地球に戦争を仕掛けてくる事は考え難いが、罠という可能性だってゼロではない。
しかし、イスカンダルがデスラーの言うとおりの状態なら、看過することはできない。
まずはこの通信の信憑性を確かめる必要がある
先述したが、地球人でデスラー総統と直接相対したのは古代と雪だけ。
電文の信憑性を判断できるとすればこの2人しかいない。
しかし、古代は躊躇しなかった。
『‥‥私は、この電文を信じます」
雪も頷く。
『なぜ、そうと言い切れる?』
『‥‥方法の是非はともかく、デスラーはガミラス民族の利益を最優先に考える人物です。
民族のためとはいえ、地球に対して行った事は明らかに誤りですが、先日の戦闘で、デスラーは、敵だった私の前で、ガトランティスに身を寄せていたことを含め、自らの過ちを認めました。
地球の歴史を振り返っても、一国のリーダーが自ら過ちを認めるということは、簡単なようでなかなかできるものではありません。
ましてや敵対していた相手の前で。
‥‥デスラーは確かに独裁者であり絶対君主ですが、同時に誇り高い武人であり、自らを省みる度量も兼ね備えていました。
ですから、私はこの通信を信じます』
『チョウカイ』塩江の問いに、古代は躊躇なく応える。
「‥‥そうか」
嶋津以下、各艦のブリッジクルーは全員頷き、通信の信憑性の議論は決着した。
議題は、イスカンダル救援の可不可に移る。
「真田、ここからデスラーが知らせてきたイスカンダルの予想位置まではどの位かかる?」
『ワープを重ねて半月余りというところだな』
嶋津の質問に、コンソールを操作しながら真田が応えた。
「性能的には問題なしか」
往復だけで1ヶ月半を要するが、『ヤマト』は約1年間、巡洋艦も約3~4ヶ月の無補給行動が可能であるから、ひと月半はイスカンダルを追跡できる。
そして、救援に行くべきか否かを問われれば、当然救援に赴くべきだ。
何といっても、スターシャは地球人類全体の大恩人であり、友好国の元首だ。
嶋津もまた、自ら赴いて助けてやりたいと思っているが、クリアすべき問題が3つ存在していた。
ひとつ目は新人の訓練航海中ということだ。
ルーキー達が、果たして実戦もあり得る航海に耐えられるかどうか?
もう一つは、巡洋艦の長期間行動能力だ。
『ヤマト』はまだしも、その後建造された艦船は太陽系防衛を念頭にしたもので、『ヤマト』のような自己完結式の補給能力はないし、当のイスカンダルは漂流中で、どこに落着するかわからない状況では、補給艦の同行が不可欠だ。
第3は地球防衛軍の現状だ。
再建が振り出し近くまで戻ってしまった地球防衛軍とすれば、『ヤマト』はもちろん、巡洋艦4隻のTF13も宝石より貴重な戦力なのだ。
補給艦はある。
商船ベースの補給艦はもちろん、作戦行動中の艦艇に接舷し補給する高速補給艦も数隻就役しているが、戦闘での損傷をその場で修復する工作艦はまだ就役が少ないのだ。
(現実的なのは『ヤマト』のみを赴かせる事か)
それが最も現実的なのだが、実際に下された命令は予想の斜め上を行くものだった。