火星第2基地での補給と整備は最優先で行われた。
予定では往復と現地滞在で1ヶ月半だが、非常事態であるため、生活物資は4ヶ月半分が用意された。
しかし、積み込むための人手は基地人員だけでは到底足りず、TF13各艦の乗組員たちも駆り出された。
また、ワープ回数が増えるため、レーダーやアンテナ、センサー等の突起物を補強が加えられることになり、真田の指揮で進められる。
嶋津冴子は部隊責任者という立場上、基地や地球との折衝や調整に当たっていたが、そこから窺えたのは、軍部や政府内部では、ガミラス軍との共闘に対する抵抗が強い事だった。
イスカンダルが危機にある事はまだ公表されておらず、政府や軍内部には厳重な箝口令が敷かれているが、議員や軍人の中には、ついでにデスラーも討ち取れと叫ぶ者がいるという。
近い内に政府と軍から連邦市民向けに公式発表が行われるとの事だが、同様の声はもっと強くなるだろう。
そちらの事は藤堂長官に任せるしかない。
折衝の最中、藤堂長官から通信が入った。
『土方君から話は聞いた。君達を派遣する旨は大統領からもご承諾いただいている』
「ありがとうございます。こちらは、今のところ予定どおりに進んでおります。
ところで、乗組員の家族へは‥‥?」
『ご家族には軍務局から順次連絡をとっているが、当の乗組員達の様子はどうだ?』
軍本部は、新卒乗組員の訓練途中であることを懸念しているようだ。
これは無理もない。特に『ヤマト』は白色彗星帝国戦で8割以上の乗組員を失い、補充要員の大半が全くの新人なのだ。
「それについては、心身が著しく不調な者については下艦命令を、不安な者については抜錨1時間前までに自発的に下艦を申し出るよう申し伝えてありますが、今のところ該当する者はおりません」
『よろしい。しかし、少しでも早く準備を済ませてくれ』
「わかりました」
通信を切った嶋津は、艦長席でしばし考え込む。
(問題は盗掘者一味がどれくらいの規模か、だな‥‥)
無人とはいえ、惑星のマグマを直接採取するだけの手段と護衛の艦艇も保有していたくらいだ。地球人の常識ならば、国家レベルのバックがいると考えるのが常識だ。
そしてイスカンダルとガミラスは双子のような星。マントル~内核の組成物質に大差はなかろう。
ガミラスからの盗掘に失敗した以上、イスカンダルのマグマを採掘しようと考えるのが当然ではないか?
(泥棒連中がイスカンダル追跡を諦めてくれればいいが、希望的観測をしてうまく行った試しはないからな)
盗掘者のバックに国家がついているとなれば、迂闊に戦端を開くことはまたも地球を危機に追い込みかねない。
それだけは絶対に避けたいが、古代とスターシャの身に危険が迫れば、そうも言ってはいられないだろう――。
――地球・新横須賀市立第2中学――
『1年2組の高町さん、職員室に来て下さい』
「――?」
2時限目終了のチャイムが鳴り終わるや否や、高町雪菜に職員室から呼び出しがかかる。
「ごめん、行ってくるね」
「いいよ~」
雪菜クラスメイトに手を振って教室を後にした。
(何だろうね?)
(恐らくはカピタン関連だろうな。昨夜から軍が急に慌ただしくなっている)
(そうなんだ‥‥)
携帯端末のストラップに貼り付いた“ピュア・ハート”と念話を交わしつつ、 雪菜は階段を降りる。
(ガトランティスの残党が動き出したんだろうか?)
ガトランティス帝国の専制君主・ズォーダーが斃れてからひと月余り。
彼らの残党はほとんどが太陽系から退去したというが、それを肯んぜず、太陽系内に潜伏して復讐戦を企てている残党もいるだろう。
(大規模な掃討作戦があるのだろうか?)
等と考えているうちに、雪菜は職員室に到着した。
「失礼します。高町雪菜、出頭しました」
「いや、出頭命令は出してないからね? 高町さん」
踵を揃えて来意を告げる雪菜に、担任の坂田銀士が辟易した声で応える。
「そうでしたか。残念です‥‥」
「口調が全然残念がってねーよ。てか、何が残念なんだよ?」
「先生の干し魚みたいな目が残念です」
「いーんだよ、いざと言う時は煌めくんだから」
担任教師と生徒のこんにゃく問答に、周囲の教師達も呆れた表情をしている。
「それは置いといて、だ‥‥軍から連絡があった。お前さんの保護者絡みでな」
「セクハラしてきた上官の顔に落書きした程度じゃ驚きませんよ」
「いや、そんなんじゃねーって。‥‥てか、んな事したんか?あいつは」
「あの人の気性は、先生もよくご存じでしょう?」
「‥‥まあな」
坂田が引きつった笑みを浮かべる。
雪菜の担任である坂田銀士は、雪菜の亡き長姉である高町若菜や嶋津冴子と小・中学校の同級生であり、少女期の嶋津をよく知る極少数の存命者の1人だ。
「‥‥軍からの連絡では、緊急かつ重要な任務を受け、長期間の派遣任務についたそうだ。詳しくは軍の基地で尋ねるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
ペコリと一礼して、雪菜は職員室を後にした。
「‥‥それにしても、あのロケット女(嶋津)が30前で大佐。それも1隊を率いる身とはねえ‥‥」
死んだ鯖のような目の教師・坂田銀士はしみじみと述懐した。
――高町雪菜が、保護者率いるTF13がイスカンダルに向かったと知らされたのは、その日の夜、連邦大統領の緊急会見の直前のことだった――。