地球から約5万光年。独立13戦隊は往路行程の3分の1を消化するところにまで来ていた。
「‥‥天気晴朗、凪いだ宇宙(うみ)、か‥‥」
艦長室で事務決裁をしながら、嶋津冴子は1人呟く。
『テシオ』の艦務の大半は副長の大村に委せてあるが、TF13としての事務決裁は嶋津がしなければならない。
ひとまずの決裁は自分が行い、地球に戻ったら土方に説明しなければならないのだが――。
「‥‥あ゙~~~‥‥」
事務決裁を済ませた嶋津はデスクの天板に頭を落とす。
「脳細胞、確実に2000個は死んだ‥‥」
ぼやき節全開の嶋津だったが、それは艦橋からの通信アラームによって呆気なく中断された。
『パクです。奇妙な通信を傍受しました』
「どんなだ?」
『時空管理局様式の自動救難信号に酷似しています』
「すぐ行く。僚艦にも照会しろ」
先日迷い込んできた『エスティア』のお仲間かも知れないが、本当に遭難しているなら放ってはおけない。
嶋津は即座に席を立った。
―― 『テシオ』艦橋 ――
「‥‥通信の発信位置は?」
「前方10時15分、相対角度マイナス6、およそ350宇宙キロです」
席についた嶋津に、通信長のパクがすかさず報告を入れる。
ひとまず、大回りにはならない。
「取り舵27、艦首下げ6。全艦戦闘配備。『ヤマト』は艦載機をスタンバイさせろ」
『テシオ』『ヤマト』らTF13は左に転舵し、通信の発信源らしき宙域に向かった。
「距離、約55宇宙キロ!」
「――よし、偵察隊発進!」
『ヤマト』から、偵察ポッドを吊ったコスモタイガーが4機発進していく。
「全火器正常!」
「レーダー・センサーとも動作正常!」
「全艦です」
そして、待っていた報告が入る。
『こちらアルプス1。発信源付近にガトランティス軍中型戦艦1と駆逐艦4!さらに大破状態の大型宇宙船1!奴らはその宇宙船に対し砲撃を加えています!』
報告に、嶋津以下のブリッジクルーは不快な表情を隠そうとしない。
「ガトランティス艦に攻撃目的を問い質せ。対空砲火に注意しろ。アルプス3、映像を送れるか?」
『アルプス3。了解しました』
攻撃されているという大型船がガトランティス帝国の敵対勢力という可能性もあるが、そうでないかも知れない。
しかし、武器なき者への一方的な攻撃ならば看過できない。
「アルプス3からの映像入ります!」
パクがコンソールを操作し、件の大型船が映し出された。
「!‥‥‥」
白っぽい大型船にガトランティス艦が砲撃を撃ち込んでいた。
白い船は既に大破状態で、反撃する様子はない。
「‥‥‥‥」
その映像を見た嶋津は眉を吊り上げ、クルーも憮然とした。
『‥‥こちらアルプス1。敵はこちらの通信に応じず、対空射撃してきました!』
やはり、か――。
嶋津は冷えた怒りを堪えつつ、噛み締めるように指示を下す。
「『ヤマト』戦闘機隊、対艦爆装で発進せよ。全艦砲雷撃戦用意!」
「はいっ!」
――『ヤマト』――
「全砲門・発射管スタンバイ。コスモタイガー隊は対艦戦闘装備。俺も出る!」
命令した古代は第1艦橋から走り出た。
イスカンダル行きに全く影響がないと言えば嘘ではあるが、宇宙船乗りである以上、遭難者を見殺しにはできない。
パイロット達が愛機に駆け寄る傍ら、機付整備士達によって機銃弾や対艦ミサイルが搭載されていく。
少し離れた一角では、古代のコスモゼロにも同様の装備が取り付けられていたが、こちらは一足先に作業が終わり、リフトアップされていく。
「こちら古代、出撃準備完了だ」
愛機に乗り込み、機体を立ち上げた古代は、新人達を率いる山本 明に通信を入れる。
『こっちも全て終わったぞ、古代』
「よし、全機発進。奴らを止めるぞっ!」
『おうよ!!』
『了解!!』(×2)
山本の声に、ルーキーチームリーダーの坂本とサブリーダーの椎名の声が重なる。
カタパルトからコスモゼロが射出され、一瞬後には後部艦底発着口から、山本機を先頭にコスモタイガーが次々と発進。4機ずつのロッテ編隊を組み、翼を翻して前方に飛び去った。
「コスモタイガー隊、あと1分で接敵します」
「警告は1回。それでダメなら攻撃してよし!」
『了解!』
「全艦、全砲門・発射管発射態勢!」
「コスモタイガー隊、間もなく接敵します!」
「‥‥‥‥」
嶋津は、初めて飲んだ薬が激苦だった時のような表情になった。
(敵を撃退しても、肝心のあの船があそこまでやられていちゃ、救助に割ける時間はそう長くないな‥‥)
それに、我々の任務は危機に立たされたイスカンダルを救う事だ。
船乗りとしての仁義と軍人としての責務、友人としての義理。どれも軽視できない事だが、優先順位はつけなければならない。
「コスモタイガーからの勧告に対する敵艦の回答は‥‥対空砲火です!」
「‥‥よし」
嶋津は艦長席から立ち上がり、前を見据えて命じる。
「戦闘開始!ガトランティス艦を追い払え!!」