やはり俺が本物を求めるのはまちがっている。   作:なかた

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今も比企谷八幡はあきらめている。

 友達とは学園生活において必要な物なのだろうか。

 もちろん、友達を持つ事を否定しているわけではない、

 だが、お互いの傷を舐めあうだけの、お互いの足を引っ張り合うだけの

 友達などお互いにとって損しかないだろう。

 そして、俺が今まで見てきた友達同士と言う物はそう言う友達でしかなかった。

 例を挙げよう。彼らは集団で帰宅している時に、皆で万引きと言う犯罪行為に

 手を染め、それを若気の至りと言って盛り上がっていた。

 試験でお互いレベルが低い点を取り、にも関わらず、

 俺の方がちょっとよかったなどと言ってレベルの低い争いまでしていた。

 万引きと言う行為は決して許される物ではなく、恥ずかしむものであるはずだ。

 ましてやそれをネタに盛り上がるなど正気の沙汰ではない。

 テストで悪い点を取れば、反省すべきであり、

 同じ所に居る奴を見て安堵するのではなく、

 もっと上を見てこれまで姿勢を反省し、真面目に勉学に励む物だろう。

 なぜ彼らがそうしなかったのか。それはお互いに足を引っ張り合うような

 友達と言う物がいたからであろう。

 そして、彼らは友達が居ない者達を敗者だと馬鹿にする。

 昼休みに一人でパンを食べていれば、時折蔑んだ目を向け、

 またある時はひそひそ話のつもりなんだろうかと思うくらいのでかい声で

 こちらの悪口を言っているのだ。

 確かに友達が居ないと言うのは寂しい事なのかもしれない。

 だが、だからと言ってそれを敗者だと言えるのだろうか。

 過去の偉人達の中にも、友達が少なかった人達もたくさん存在した。

 それに、友達が居ないと言う精神的な苦痛に耐え忍んだ者はより精神的にも

 成長するだろう。

 よって、中途半端な友達を作るよりも、友達が居ない方が良いのである。

 結論を言おう。

 俺に友達なんていらない。

 

 

 

 

 

 

 

 我ながら上手い事書いたなと思うこのレポートを、自信満々で提出をしてみたその翌日に国語教師である平塚先生に呼び出されて、レポートを大声で読み上げられた。

 おかしいなあ。何か俺は間違った事を書いただろうか。確かテーマは『高校生活を振り返って』だったはずだ。

 俺は自分の高校生活を振り返って感じた事を正直に、そして真実を書いたつもりだ、そこに間違いなんてあるはずがないと思うのだが。平塚先生は読み終わってため息をついていた。

 

「比企谷、このレポートは何だ?」

「はあ、自分の高校生活を振り返って感じた事をそのまま書いただけですけど、それが何か?」

「これがその高校生活を振り返った内容なのか?これではただの悪口だろう」

「そうです。高校生活どころか俺の人生を振り返った壮大なレポートですよ」

 

 そこまで言い切ると、平塚先生はさっきよりも大きなため息をつき、タバコを吸った。

 どうでもいいけど、生徒の前でタバコ吸うのってどうなの?教頭先生が凄い顔でこっち見てるけどいいんですかね?後で説教コースですよ?

 

「普通こういう時は自分の生活を省みる物だろう」

 

 俺としては最後の一文だけは自分の生活を省みた渾身の一行だったんだけどな。

 

 友達なんてもんに憧れを持つのは中学でもうやめた。期待しては裏切られ続け、しまいには友達だと、志を共有できる親友だと思ってたやつにも裏切られた。あんなに惨めで、辛くて、腹が立って、そんでもって悲しくて、そんな気持ちはもう散々だ。レポートとしてはともかく、俺が書いた事は間違ってないはずだ。

 

「聞いているのか?」

 

 そんな事を思っていると、レポート用紙で頭を叩かれた。

 

「すいません。ちょっとボーっとしてました」

「はあ。まあいい、とにかくレポートは再提出だ。そしてこんなふざけた物を出してきた罰で君には奉仕活動を命じる。もちろん拒否権は無い。ついてきたまえ」

「何ですか。奉仕活動って。俺力仕事はいやですよ」

「心配するな。体を使う活動ではない。もっとも、そうだったとしても君に拒否権はないがな。」

 

 平塚先生は嬉々としてそう言った。

 そういえば、小町以外の人と久しぶりに話をしたぞ。大丈夫だろうか。もしかしたら思いっきり挙動不審になってたんじゃなかろうか。

 そんな事を心配していると、平塚先生はプレートには何も書かれていない教室に立ち止まった。

 

「着いたぞ」

 

 奉仕活動ってここですんのかよ。一体何をさせられるんだよ。

 そう思いながら、先生がドアを開けた先にあった景色が目に入ると、深くにも俺は見惚れてしまっていた。中には端正な顔立ちに整えられた紙、一言で言うと綺麗な、そんな女子生徒が座っていた。

 名前は知ってる。確か、雪ノ下。だったか。

 

「先生、入る時はノックを、と言ったはずですが」

「まあまあいいじゃないか。それより、入部希望者を連れてきた」

 

 彼女は不満そうな目を向けながらも、渋々と俺の方に視線を向けた。

 

「その入部希望者と言うのはそこのぬぼーっとした人ですか?」

 

 ぬぼーっってちょっと俺の防弾ガラスのハートでもそんな風に言われたらちょっと傷がつくぞ。

 

「そうだ、彼は比企谷と言う」

「比企谷八幡です。ってなんですか入部希望って」

「君には罰としてここでの部活動を命じる。異論は認めん。いいな」

「俺はともかく、彼女はどうなんですか。俺みたいな男がいきなり来て」

「そうですね、私はいやですよ。その男と居ると身の危険を感じます」

 

 いやだからその言い方はどうなのよ。口悪い女だな。

 

「大丈夫だ。彼は性根は腐っているが、リスクリターンの計算と自己保身には長けていてな。卑猥な事はしないだろうよ。ここに居れば少しはその腐った性根も改善できるだろう」

「はあ、まあ先生のお願いは無碍にはできませんし…………承りました」

「あの、俺の意志は」

「聞かないと言っただろ。ではな」

 

 先生は勢い良くドアを閉めて出て行った。これで俺は美少女と二人きりか。女子と二人きりになるのは中学以来か。こんな性格悪そうな女子となっても全然うれしくないんだが。

 

「ボーっとしてないで座ったら?」

「ああ、悪い。そう言えば、ここは何部なんだ?」

「そうね、貴方、女子と話をしたのは何年ぶり?」

 

 この女、意図してはいないんだろうが、俺のトラウマを刺激して来やがった、女子とまともには話をしたのは。中学卒業間際の冬のあの寒い時だったか。自然とあの時の光景が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うの、誤解だよ、待って、待ってよ!はーくん!!」

「うるせえよ、もうお前の声なんて聞きたくねえし、顔も見たくねえんだよ。気安く話しかけんな」

 

 

 中学卒業間際の話だ。あれ以来小町以外の女子とはまともに話してねえな。

 俺が何も答えないでいると、雪ノ下は地雷を踏んでしまったと感じたのか、少し後悔があるような声で言って来た。確かにトラウマだが、今となっては過去の事。もうあんまり傷つかねえな。

 

「その、ごめんなさい。何か嫌な思い出があったかしら」

「いや、別に。ちょうど一年と少し前ぐらいだな。それでそれがこの部活と何の関係があるんだよ」

「そう……こほん、持つものが持たざるものに慈悲の心を持ってこれを与える。これをボランティアと呼ぶの。ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ」

 

 本当にそれ歓迎してんのかと思うような棒読みの言葉を聞きながら、俺はふと、なんの根拠お無いのだが、この奉仕部と言う部活に入って、何か変わるような、そんな気がしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラは次で出てくると思います。
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