意外と万能な風使い   作:迅雷の戦斧

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 前回のまえがき「明日は投稿できない」

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 今回の投稿 6月17日23:54

 嘘は言っていない。

 それではどうぞ!


男の戦い

 「何だ、弱虫のリサもいたのか。なんだ?弱者同士、傷の舐め合いでもしてたのか?」

 

 突然、食堂にやってきた狼男は、理子とリサの知り合いらしい。しかし、いい意味での知り合いじゃなさそうだ。奴が着た途端、リサと理子の二人が、顔面蒼白にして震えだしたからだ。

 

 「おいリサ、アイツ誰だ?」

 

 「・・・・・・・・」

 

 「リサ?」

 

 俺がリサに奴の正体を聞いてみたが、リサからの返事はなかった。昨日からリサは俺の役に立とうと、頑張っていた。そんなリサが、俺の言葉になんの反応も示さなかった。

 

 「おい4世」

 

 「・・・・・・・・・っ!」

 

 ブラドが4世と呼ぶと、理子の肩がビクッと震えた。

 

 「今から俺にちょっと付き合えよ」

 

 「そ、それは・・・」

 

 奴の言葉に、理子の体はさらにガクガクと震えだす。額からは汗が止まらなくなっている。そんな理子を見て、リサが何かを言おうとしてはやめてを繰り返す。それを目ざとく見つけた奴が、標的をリサに変える。

 

 「何だリサ?お前がそこの4世の代わりになるのか」

 

 「い、いえ・・・リサは・・・」

 

 リサは何も言えなくなってしまった。

 

 「無理だよなぁ。テメェは弱虫だもんな?」

 

 そんなリサにさらに追い打ちをかける狼男。それでもリサは、何もできずうつむくしかない。その両手は、スカートのすそを握りしめて震えていた。そして、その目からは涙がこぼれていた。

 

 リサは、傷つくのが嫌いだ。だから、理子の代わりになると言えない。優しいリサは、友達の理子が困っているのに、何もできない自分が悔しいのだ。昨日からの付き合いだが、それぐらいわかる。

 

 俺は理子を見る。理子の顔は、怒りと悔しさと絶望と、そして何より悲哀の色が強かった。きっと、あの狼男は理子に今まで碌なことをしてこなかったのだろう。

 

 「で、早くしろ4世。俺を待たせるな」

 

 そう言って、狼男は俺たちの座る席に近づく。そこで俺は気づいた。

 

 (こいつ、俺のことが眼中にねぇ・・・!)

 

 俺は、リサと理子と同じテーブルについている。二人に話しかけるなら、俺のことも見えるはずなのに、まったく俺を見ていない。

 

 おそらく、奴にとって人間とは、そこらへんのごみ屑と一緒なのだ。理子やリサに突っかかるところを見ると、すべての人間をそう思っていないかもしれないが、少なくとも今日初めて会った俺は、路上に落ちてる煙草の吸殻程度の価値しか奴にないのだろう。

 

 まあ、今回は好都合だ。なぜなら、

 

 「おい、俺を無視してんじゃ『ガシッ!』・・・アァ?」

 

 こうやって簡単に奴を止められるんだからな!

 

 近くまで来て、理子に向かって伸ばされた狼男の手を、俺が掴んで止める。俺がそうすることが予想できなかったのか、理子もリサも驚いている。

 

 「何だテメェ?俺の邪魔をするんじゃねぇ」

 

 ようやく奴は俺を見た。その目を見て直感した。こいつはヤバい。強い弱いでなく、コイツのあり方そのものがヤバい。

 

 「おい、何か言えよクズが」

 

 いつまでも何も言わない俺に、我慢できなくなったのか狼男が言ってくる。

 

 「・・・触るんじゃねぇよ」

 

 「あ?」

 

 俺の言った意味が分からなかったのか、俺を睨む狼男。だが、まったく怖くない。シャーロックに比べれば、足元にも及ばない。

 

 「こんなクソみたいな手で、俺の大切な友達に触るなっつてんだよ、三下!」

 

 「「「!?」」」

 

 俺の言葉に、理子、リサ、狼男は目を見開く。俺がこんな啖呵切るとは思わなかったらしい。

 

 一番最初に正気になったのは、狼男だった。

 

 「て、テメェ!クズの分際でこの俺を『ゴウッ!ドカッ!』ガハッ!」

 

 ドカーーーーーーーーン!!

 

 俺が狼男を蹴ると、そのまま奴は壁まで吹っ飛んでいった。理子とリサは、信じられないものを見たように俺を見る。まあ、そうだろうな、狼男の身長は3メートル前後。それを蹴り飛ばして壁にぶつけるなんて、普通できない。

 

 一応、タネも仕掛けもあるのだが今はいい。それより狼男だ。

 

 別に理子にもリサにも助けを求められたわけじゃない。俺が勝手にやっただけだ。完全な第三者である俺が、気安く割って入っていい問題でもないだろう。

 

 でもな、理子とリサは”泣いてたんだよ”。理不尽に怒って、奴の力に絶望して、何もできないのが悔しくて。

 

 理子は受け入れるしかないのが、リサは友達を助けることができなくて。

 

 だから、俺がやった。どうしようもない二人の代わりに。二人の仲間として、友達として。

 

 俺は壁に吹っ飛んだ奴に近づき言い放つ。

 

 「さっさと立てよド三流!俺とお前の、格の違いってやつを見せてやる!」

 

 今、俺のイ・ウーでの初めての戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

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 〈理子 side〉

 

 その日の目覚めは最悪だった。

 

 自分の部屋のベッドに体を起こし、私-----峰 理子はさっきまで見ていた夢を思い出す。

 

 それは、私にとって、忘れたくても忘れられない最悪の記憶。

 

 ルーマニアの城の地下牢に閉じ込められた私。そんな私に暴行を加え、高嗤いをあげるブラド。ブラドと一緒に、私に電気を流したりして嗤うヒルダ。

 

 誰も助けてくれない。ツラい記憶。お母様もお父様も死んでしまった私には、頼れる人もいなくて、ただ耐えるしかなかった日々。

 

 それを思い出して、私は震えた。自分の体を抱きしめ震えを止めようとする。

 

 「大丈夫・・・私は、理子は大丈夫、大丈夫・・・」

 

 私の体の震えが止まったのは、それから約一時間後のことだった。

 

 

 

 

 

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 気を取り直した私は、自分がここにいる理由を思い出した。

 

 ある日、ブラドが私を解放してもいいと言ってきた。もちろんタダではないが。

 

 

 

 -----シャーロックホームズ4世を倒せ

 

 

 

 それが、ブラドの出した条件。

 

 シャーロックホームズ。かつて私の曾お爺様のライバルだった人。そして、ブラドのいるイ・ウーのリーダー

 

 峰 理子・リュパン・4世。それが私のフルネーム。

 

 私は、アルセーヌ・リュパンの曾孫なのだ。

 

 そんな私にブラドが命じた、ホームズ4世の打倒。きっと、シャーロックホームズ本人への嫌がらせみたいなもの。

 

 ブラドにとって私はほとんど価値がない。

 

 ブラドは、優秀な人間のDNAを取り込んで強くなる吸血鬼だ。

 

 ただでさえ厄介な吸血鬼なのに、奴はDNAを取り込んだだけ強くなるのだ。

 

 私も最初はDNA目当てだった。でも、私にリュパンとしての才能が遺伝していないことを知ると、私に暴力をふるって、ストレス発散用のサンドバック状態だった。それでも私を殺さないのは、私にDNA以外に使い道があるからに過ぎない。

 

 きっとブラドは約束を守らない。それでもやらなければならない。なぜなら、失敗すればブラドにお母様の形見であるペンダントが、奪われてしまうからだ。

 

 あれはお母様の唯一の形見なのだ。絶対に奪われるわけにはいかない。

 

 だから、私はイ・ウーに入学した。ホームズ4世を倒すために。

 

 それが私が「4世」でなく、「理子」としている為の唯一の道なのだから。

 

 

 

 

 

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 「よし、りこりん完・全・復・活!」

 

 あれからさらに十数分、ようやく理子はいつもの調子に戻った。

 

 今日は朝から嫌な気分になったが、楽しみがないわけではない。むしろ今日はいつも以上の楽しみがある。

 

 今日は月に一度の、大人気スイーツの入荷の日なのだ。今日のスイーツがプリンなのは知っていた。だから、すぐに買いに行けるように、目覚ましもセットし・・・て・・・。

 

 「って、今何時!?」

 

 目覚ましを見ると、販売開始からすでに一時間。当たり前だ、だって今日、目覚ましで目が覚めたのだから。

 

 私は、甘いものが好きだし、可愛い洋服も大好きだ。ずっと地下牢にいた私は、最低限の食事しか与えられず、着るものも布きれ一枚だった。その反動なのか、私は月一のスイーツをかなり楽しみにしている。

 

 「急がないと売り切れちゃうよ~!」

 

 私は部屋を飛び出し、廊下を全力疾走した。それがいけなかったのだろう。突然廊下の扉が開いて、中から誰かが出てきたのだ。

 

 「ちょ、ちょっとどいて~~!」

 

 私の叫びもむなしく、その人とぶつかってしまった。その人は、見たこともない男の子で、柊 亮太と名乗った。理子がリョーくんと呼ぶと、少し戸惑っていたが受け入れてくれた。

 

 そのリョーくんと一緒にいた女の子。彼女の名前を聞いて驚いた。

 

 リサ。それはブラドがちょっかいを出している子の名前だったから。

 

 この子も私と同じ・・・と一瞬考えてしまうが、すぐに考えを改める。朝からブラドのせいで気分がブルーだったのに、これ以上ブルーになることもないからだ。

 

 その後、理子はリョーくんとリサと”知り合い”になった。その時、リョーくんのおかげで、理子は本来の目的を思い出して、全力で走った。しかし、ついたときには売り切れていた。

 

 理子はショックのあまり、食堂の隅で落ち込んでいた。そこへ偶然リョーくんとリサが来た。理子に話しかけてきたリョーくんに、少しつらく当たってしまった。するとリョーくんはどこかへ行ってしまった。まあ、ただの”知り合い”だし仕方ないかと思っていたら、リョーくんが戻ってきた。そしてリョーくんは、理子に自分の分のプリン差し出してきた。理子は断ったが、結局断り続けるのも失礼なので、ありがたくもっらて置いた。

 

 理子にはわからなかった。なんで、ただの”知り合い”でしかない理子にこんなにやさしくしてくれるのか。

 

 その後、リョーくんが私にお菓子を作ってくれる約束をして、そのお菓子とプリンのお礼として、理子の部屋に二人を連れていって、リサと二人でファッションショーをリョーくんにしてあげた。部屋には、理子が趣味で集めた、コスプレ衣装が大量にあったので、衣装には困らなっか。

 

 リョーくんのことでリサを弄ると、面白い反応をしてくれた。理子たちのコスプレを見て、顔を赤くしながらリョーくんはほめてくれた。

 

 すごい楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてだった。だから夜ご飯のとき、今日がずっと続けばいいと言ったのは、半ば無意識だった。

 

 だから、その言葉に返事が返ってくるとは思ってなかったし、その内容も予想外だった。

 

 ”友達”と言ったのだ。リョーくんは確かにそう言っていた。

 

 最初は聞き間違いだと思った。でも、違った。リョーくんは、そしてリサも、理子のことを友達と言った。理子はわからなかった。いつ理子たちは友達となったのか。

 

 リョーくんは何でもないように言った。「名前を呼んだから友達」だと。

 

 つまりだ。

 

 理子が二人を”知り合い”だと思ったとき、すでにリョーくんの中では、理子は友達だったのだ。

 

 理子は友達がいなかった。ずっと地下牢にいたし、出てからも、イ・ウーでは目的達成のための勉強しかしてこなかった。ジャンヌとか仲間と呼べる人はいたけど、友達と言える人はいなかった。

 

 理子は二人の友達になってもいいのか?そう思ったが、リョーくんは理子に手を差し出してきた。友達同士の握手だと。

 

 嬉しかった。ずっと一人ぼっちだった。味方は誰もいなかった。そんな理子にできた初めての”友達”。

 

 理子はリョーくんの手を取ろうと手を伸ばした。だがそれを邪魔した奴がいた。

 

 ブラド。理子の、そしてリサの恐怖の対象。

 

 私は運命を呪った。なんで今なんだと。あと少しで、二人と本当の”友達”になれたのにと。きっと、二人は私から離れて行ってしまう。そう思った。

 

 

 

 だから、リョーくんが私を”友達”と言ったことが信じられなかった。ブラドを蹴り飛ばしたことが信じられなかった。

 

 

 

 ブラドが壁に吹き飛ぶ。そんなブラドを追って、リョーくんは立ち上がる。

 

 自然と私たちに背を向ける格好となる。その背中を見ると安心してしまった。ブラドの恐ろしさを十分知っているのに、まったく心配な気持ちにならなかった。

 

 ただ、彼なら。この不幸の連鎖を断ち切ってくっれるかもしれない。私は純粋にそう思った。

 

 

 

 

 

 ドクンッ!

 

 

 

 

 

 心臓が一度、高鳴った気がした。




 理子の一人称は、表のときは「理子」で、裏のときは「私」になります。

 それでは、また次回!

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