口下手提督と艦娘の日常   作:@秋風

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第二十二話 ユーと水着

「う~ん、やっぱりビキニタイプの水着も捨てがたいのね」

「イクの選ぶ水着は派手すぎでち。少し動いたら胸がポロンしそうになる水着なんて提督に見せられないでち」

「いっひひ! あの提督にはそれくらいが丁度いいのね! ユーもそう思うのね?」

「…………?」

 

 ジメジメとした梅雨が過ぎ、代わりに全身からじわりと汗が出始めるようになってきた七月の頭。

 艦娘宿舎の最北、二階の一番奥の部屋で潜水艦の三人は水着雑誌を囲みながら、夏到来の準備を始めていた。

 要するに、今年の水着をどれにしようか考えているだけなのだが、外出用の水着を持っていないユーにとってはそれすらも新鮮な話のように感じられた。

 

「イクもでっちも水着持ってるのに……買うの?」

「あれは任務用の水着なのね。あれはあれで良いけど、夏といえば可愛い水着! 今年こそイクの魅力と新しい水着で提督もメロメロなのね! いっひひひ!」

「でっちじゃないでち! ゴーヤ! 何回言ったら分かるでち!」

「ごめんなさい……でっち」

「~~~~っ!」

 

 ユーの言葉にゴーヤが一人身を捻って悶絶する。

 着任当初こそよそよそしかったユーだが、今となってはこの通りすっかり潜水艦の一員として休みの日に仲間と談笑できるようになっている。

 特に同部屋のゴーヤに懐いているようで、彼女のことをでっちと呼んで慕っているようだ。本人は気に入っていないようだが。

 

「まあまあその名前も可愛いのね、でっち」

「やめて! そうやって広めていくのはやめるでち!」

「それはそうとユーは任務用以外の水着持ってるのね?」

「持ってない……です」

 

 イクの問いにユーの言葉尻が萎む。

 ドイツにいたころは今みたいな定期的な休みもなく、外出用の水着など買っても着る機会がなかった。

 そもそも必要性を感じていなかったし、興味もあまりなかったのだが。

 

「ユーはこういうの興味ないでち?」

「少し……」

 

 日本に来てから……Admiralやゴーヤ達に出会ってからたくさんの楽しいことを教えてもらった。

 そうしている内に少しずつ自分の中の何かが変わって行っているような気がしているが、ユーにとってはそれも心地良いもので、決して悪いものではないと納得している。

 事実、目の前に広げられた水着雑誌を見て、欲しいと思う自分がいるのだから。

 

「少しでもあれば十分なのね! 楽しいことはいつでも少しの好奇心から生まれるの! ユーもこの雑誌みたいなセクシー水着買って提督を悩殺するのね!」

「あ……えと……その」

「やめるでち! ユーがあまりの刺激に目をぐるぐるさせてるから!」

「え~? そんなこと言って二人は自分の水着姿で提督を喜ばせたくはないのね?」

「これ着たら……Admiral喜ぶ?」

「それはもう大歓喜なのね! 提督にキラキラ付いちゃうの!」

「わかった……頑張る」

「頑張らなくていいでち! そんな恰好のユーを見たら提督胃痛で倒れるでち!」

 

 上下共にきわどい水着を指して勧めてくるイクに、ユーが可愛らしく握りこぶしを作っている様子を見ていたゴーヤが慌てて止めに入る。

 純粋無垢なユーに年中煩悩の塊であるイクはやっぱり危険すぎるでち、とゴーヤは今日もユーの保護者全開だ。

 

「夏は目の前! こうなったら善は急げ、今から提督と水着買いにいくのね!」

「今からって無茶でち。ゴーヤたちはお休みでも提督は今日もお仕事中でち」

「いひひ、そこはイクにお任せなの! 提督のスケジュールは全部イクの頭の中に入っているなの! と言う訳でユー」

「…………?」

 

 怪しげな笑みと共に肩に手をポンと置いてくるイクに、ユーは小さく首を傾げている。

 また何か嫌な予感がしながらも、ゴーヤはイクを止めようとはしない。なぜなら彼女も密かに提督と水着を買いに行きたいと思っていたから。

 乙女心は複雑なんでち、と自分の心を誤魔化しながら密かにイクの作戦が成功すればいいなあと期待しているゴーヤをよそに二人はひそひそと会談を続けている。

 

 窓の外ではカモメが気持ちよさそうに空を飛んでいた。

 

 

「シオイ、そろそろ出ようと思うのだが準備できそうか」

「あ、あとちょっと待って!」

「うむ。まあ町長との約束の時間にはもう少しある。焦らせてしまいすまないな」

「そんなことないよ! こっちこそごめんなさい!」

 

 イク達三人が部屋で会談を行っているのと同時刻、司令室にて提督とシオイは外出の準備を始めていた。

 今日は下町の町長のところへ恒例の近況報告と挨拶のために午後から鎮守府の外に出る予定なのだが、シオイは中々自分の髪のセット具合が気に入らないのか何度も鏡の前でやり直していた。

 

(う~折角の提督とのお出かけなのに髪が纏まんないよ~)

 

 久々の秘書艦の日に提督と外出できるなんて本当にラッキーだなどと考える一方、町長に挨拶に行くのに提督に恥は掻かせられないと身だしなみに気を使っているのだがなかなか納得のいく出来に纏まらない。

 その様子に『髪の毛の手入れに時間をかける苦労は女性特有のものだな』などと提督が考えているとふいに扉がノックされ一人の少女がとてとてと入ってくる。

 

「む、ユーか。おはよう」

「あ、ユーちゃん。おはよう」

「シオイ、Ad……提督、Guten Morgen」

 

 突然の彼女の訪問に提督は何か問題があったのかと勘繰るが、ユーの表情から察するにそういう訳でもないらしい。

 右手に何やら雑誌を持っているようだが、ユーはそのままシオイの方へと近寄っていく。

 

「どうしたの? 今日はイムヤとはっちゃんとまるゆ以外お休みじゃなかった?」

「うん……だから水着の話……一杯したよ」

「わっ、その雑誌今人気の水着特集のやつだね! 私も後で見たいな……ってその雑誌をここにユーちゃんが持ってきたのって」

「イクの……作戦だって」

 

 なにやら話し込んでいる二人を横目に、提督は左手に嵌めた腕時計へと視線を移す。時間的にはまだもう少し猶予はあるがそろそろ出ても問題ないだろう。

 二人には申し訳ないが、続きの話は帰ってきてからにしてもらおうと声をかけようとしたところで、シオイがぐるりと勢いよくこちらに顔を向けてくる。

 なぜかとても瞳が輝いているような気がするが気のせいか。

 

「提督、今日の町長との会談の後時間あるって言ってたよね?」

「そうだな。特に問題があったわけでもないし、会合自体そんなに長くは掛からないからな」

 

 町長との会合といっても、定期的に行っているものであるためそこまで重要性の高い話をするわけでもない。

 深海棲艦による被害状況も上がってきていないので今回はそんなに時間は掛からないだろう。

 提督が鎮守府不在の場合、艦隊は出撃させず遠征のみだ。その遠征も帰ってくるのは夜に近くなってからで仕事と言えば執務処理ぐらいになる。

 

「だって。ほら、ユーちゃん」

「あ……えと、Ad……違った。て、提督!」

「ぬ、うむ」

 

 シオイに促され、ユーが手に持っていた雑誌を提督に差し出す。

 普段はおっとりとしてあまり感情を表面に出さない彼女だが、今は瞳に力が籠っており、少しだけ頬も桜色に染めながら手渡してくるそれを提督も真面目に受け取る。

 その肌色が強い表紙にかなり困惑の色を見せながら、それでも提督はユーの期待するような表情に押されページを捲る。

 

(提督の顔、艦隊決戦のときみたいに厳つくなってるなあ)

 

 普通男の人だったら少しは鼻の舌ぐらい伸びそうなものだけど、と水着雑誌を黙々と捲りながらどんどん険しくなっていく提督の表情にシオイは呆れる。

 ユーはユーでそんな提督に期待の視線を向けているのだからシュールだ。

 五分ぐらいは経っただろうか、まるで医学書でも読み終えたかのように険しい表情のまま、提督は無言でユーへ雑誌を返す。

 そして――

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………良い……水着写真だった」

 

 ――かろうじてそれだけを口から絞り出した。

 そこだけ切り取ればかなり危険な言葉だが、ユーの意図を理解できていない提督なのだから仕方ない。

 

「いや提督、そういうことじゃないよ! もっと察してあげて!」

「ぬ……むむ……ユーもシオイもこういう可愛らしいのがきっと似合う……と思うが」

「え、本当かな? えへへありがと……って違うよ! 嬉しいけどそういうことじゃないって!」

「……ゆーに似合う……かな」

 

 察しろとの言葉に提督は何を思ったのか、慣れていない様子で二人を褒める。

 シオイとしても予想していなかった棚ぼた的な言葉に思わず喜んでしまうが、今はそうじゃないよと被りを振る。隣ではユーが提督の指したページを見ながら何か呟いていた。

 

「ダメだ。もう直接お願いするしかないよ。ほらユーちゃん」

「う、うん……えと……提督」

「うむ?」

「ゆー……その……新しい水着が欲しい……です」

 

 おそらくこういうことに慣れていないのだろう、ユーの言葉はとても小さく語尾も消えそうなぐらい儚げだった。

 きっと今まで自分から誰かに何かを欲しいと言ったことがなかったのだろうな、と提督はユーの心境を考え少し眉尻を落とす。

 それでも今こうやって素直に自分の気持ちを口にしてくれたことが嬉しくて、つい頭を撫でてしまう。

 

「確か、会談の場所と鎮守府との間に一軒、水着を取り扱っている店があったな」

「! ……提督!」

「ああ、そこで自分に合った水着を選ぶといい」

「Danke……ありがとう提督!」

 

 彼女にしては珍しい、本当に嬉しそうな笑顔を返してくるユーに提督は少し苦笑しながら、もうすっかりこの鎮守府の一員だなとゴーヤ達に感謝する。

 隣ではシオイが盛大にガッツポーズをとっていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ふわ~! 凄いのね! 新作の水着がこんなにあるなんて夢みたいなのね~!」

「鎮守府の近くにこんな穴場の店があったなんて……不覚でち」

「……カラフルだね」

 

「なんとなく予想はついていたが、イクやゴーヤまで来るとは……シオイ」

「ごめん」

 

 町長との会合の後、店の前でユーと待ち合わせにしたはずなのだが、なぜかそこにはイクとゴーヤが手を振りながら立っていた。

 キラキラと瞳を輝かせながら今にも店に飛び込んで行ってしまいそうな二人をよそに、隣に立つシオイに一言声をかける。

 間違いない、シオイは初めから気付いていたのだ、二人が来ることを。

 

「まあいいさ。折角だ、四人で気のすむまで選んでくるといい。私はそこの茶屋で待っているから欲しい水着が決まったら呼んでくれ」

 

 四人にそう伝え、反対側にあった茶屋へと向かおうとして――できなかった。

 

「なに言ってるの! 提督はイクの水着を一緒に選ぶの!」

「ここまで来たのにそれはないよー。一緒に行くでち」

「……いこ?」

「み、水着を選ぶ際に男性の意見って重要だって言うから……ね?」

「……ぬう」

 

 背中にイク、前の裾をゴーヤ、右手にユー、左手をシオイにそれぞれ包囲されそのまま店へと強制連行される。

 幸い、店の中には客はおらず店員と思われるお婆さんだけだったのが救いだが、提督でなくても女性水着コーナーに男が一人というのは胃にくるものがあるはずだ。

 

「あ、これ可愛いの! 早速試着してくるのね~!」

「ユー、気になるものがあったら着てみるでち。ほらこのワンピースタイプとかユーに……ってここで服を脱ぐ必要はないでち! 試着室があっちにあるでち!」

「うん……?」

「私はやっぱりセパレートかなー」

 

 店に入るや早速といった形で各々が気になる水着に手を伸ばしている。男性の水着よりも種類が豊富な分選び甲斐があるのだろう、彼女たちの視線も真剣そのものだ。

 折角来たのだから自分も見ておくか、と提督が男性水着コーナーに向かおうとしたら後ろからイクの呼ぶ声が聞こえてくる。

 振り返ると、試着室から顔だけ出したイクが笑顔で手招きをしていた。

 

「提督、早速着てみたから見てほしいのね!」

「うぬ……うむ!?」

「じゃーん! 新作のスリングショットなの! どう? イクの魅力に声もでないなの~!?」

「い、いや! その水着は少し肌色が強すぎるのでもう少し布面積の大きい水着の方が」

 

 試着の感想を求めてくるイクがばっとカーテンを開ける。そこに映った彼女の水着の布面積の少なさに提督は思わず狼狽する。

 あ、あれではほぼ紐なのではないか? あの水着を作成した開発者は何を考えているのだ?

 その今にもポロンしてしまいそうなイクの水着姿に視線を逸らしていると、イクの頬が風船のように膨れていく。

 

「むー! どうして目を逸らすなの! ちゃんと見てほしいの!」

「す、すまない。だがその水着は少し刺激が」

「分かったなの! それならこっちのもっと刺激的なやつで……って痛いの!」

「止めるでち! 提督が無実の罪で憲兵にしょっぴかれるようなことはやめるでち!」

 

 今の水着ですらギリギリだと言うのに、更に危ないそれを手にしたイクの頭を横で試着していたゴーヤが飛び出してきて叩いている。

 

「ありがとうゴーヤ。そのピンクのフリルがついたビキニ姿、よく似合ってて可愛いぞ」

「あ、え?……えとその……褒めても何もでないでち!」

 

 イクの襲来から助けてくれたことに感謝しつつ、提督なりにゴーヤの水着姿を素直に褒めてみたのだが、顔を真っ赤にして怒られてしまった。

 やはりまだまだ女性の心の機微というのが自分には分かっていないらしいと落ち込む横で、ユーがイクの水着を珍しそうに眺めていた。

 

「むー、ゴーヤは分かってないのね。女の子の魅力は布面積の少なさに比例するのに」

「馬鹿丸出しでち。その考えはただの痴女でち」

「……布面積の少ない」

「止めるでち! ユーにスリングショットなんて早すぎるでち! お願いだからその水着から手を放すでち!」

「……似合わない……かな」

「似合ったらもっと困るでち!」

 

 わいわいと騒ぎながらも楽しそうな三人から逃げるように、提督はシオイが吟味しているセパレートタイプのコーナーへと移動する。

 

「う~ん、ビキニもいいけどやっぱり胸がアレだからセパレートかな……って提督!?」

「む、驚かせてすまない」

「いや別にセパレートにしようとしてるのには胸がアレでこうだからとかじゃなくてね!」

「ぬ? よく分からないが、こういう水着は明るく元気なシオイによく似合ってると私は思うが」

「そ、そうかな? えへへ……ちょっと試着してみるね」

 

 提督の言葉に少しはにかみながら、初めから気になっていたであろう一着の水着を手にシオイが試着室へと駆けていく。

 その数分後。少し恥ずかしそうにしながらシオイが試着室のカーテンを開け、水着姿を披露してくる。

 

「ど、どうかな? あんまり自信ないけど」

 

 上は空色のタンクトップ型で胸に小さく花の刺繍が入っており、下は紺色のホットパンツのような形状の水着姿にシオイ自身少し頬が赤い。

 少し派手かな? というシオイの言葉とは裏腹にその水着は良く似合っていると言えた。

 

「む……私の言葉などで良いのか分からないが、シオイのはつらつとした元気良さと可愛らしさが全面に押し出されててよく似合っていると感じるが」

「ほ、ほんと? よし、提督が似合ってるって言ってくれたからこれにしよ!」

「そ、そんな簡単に決めていいのかね?」

「いいのいいの! ああ今年の夏が楽しみだなあ!」

 

 シオイらしくあっさりと購入する水着を決めた彼女は『お会計お願いしまーす』と店員のお婆さんのところへ向かって行く。

 まあシオイがよければそれでいいが、と思っていると急にクイっと裾が引っ張られるのを感じ後ろを振り向く。

 

「ぬ? ユーか。どうだ? その右手の水着が気に入ったのか?」

「……うん」

 

 提督の言葉にこくりと頷きを返してくるユーの右手には一着の水着が握られていた。

 そのまま提督に小さく『ここにいてね』と伝え、そのまま試着室へと向かって行く。良かった、彼女も自分に合った水着が見つけられたようだ。

 若干の衣擦れの音が終わりを告げ、控えめに試着室のカーテンが開けられる。

 その場には真っ白なワンピースタイプの水着を身に纏ったユーが立っていた。

 

「どう……ですか?」

 

 おそらく軍指定の水着以外を初めて着るのだろう、若干の戸惑いと期待を瞳に映したまま自分の姿をしきりに見渡しては不安な顔をするユー。

 その姿があどけない年相応の普通の女の子に見え、提督は苦笑する。

 

「似合って……ないですか?」

「そんなことはない。その真っ白な色も腰回りに小さくあしらわれたリボンも、ユーの優しさと相まって本当によく似合っていて、とても可愛らしいと私は思う」

「そう……ですか。良かった……ありがとう」

 

 月並みの言葉しか言えない提督だが、それでもユーは嬉しそうで何度も自分の水着姿を鏡で見返している。

 これを機に、ユーも自分の気持ちをもう少し言葉にしてくれると助かるのだが、と心の中で感じつつ提督はイクやゴーヤ達の水着のお会計のためにカウンターへと向かっていった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ん~! スリングショットじゃなくて藍のビキニにしたのは少し残念だったけど、これはこれで可愛いから満足なのね~」

「当たり前でち。あんなので砂浜を歩いていたら逮捕されるでち」

「そう……なの?」

「あはは、まあ可能性はあるよね」

 

 鎮守府へ戻る帰り道の途中、四人は水着の入った袋を手にわいわいと談笑に興じている。

 それぞれ気に入った水着が見つかって良かったなどと思いながら、提督はその横をゆっくりと歩く。

 ふと右手に何かが触れるのを感じ視線を移すと、ユーがいつの間にか横に並んで歩いていた。その左手を提督の右手に触れさせたまま。

 

「今日はありがとう……です。この水着……宝物にします」

「お礼なんていいさ。私はいつも君たちに助けられているからな」

 

 本当にそう思っていなければ出せない提督の言葉の優しさに、ユーはどこか胸がきゅっとなるのを感じ困惑する。なんだろうこの気持ち。

 その気持ちの答えが分からないまま素直に想ったことを口に出してみる。

 

「こんなにドキドキしたの……初めてでした。楽しかった……です」

「そうか。きっとこれから先もたくさん楽しいことが待っているさ」

「そのときもみんなと……Admiralと一緒が……いいです」

「ああ……そうだな。私もそう願っている」

「うん……えとこういう気持ち日本語で……なんだっけ」

「む?」

 

 繋いだ右手をギュッと握り返したまま、ユーが『えっと』と頭を捻る。

 そうして、はっと何かを思い出したのかふわりと微笑んだまま言葉をかけてくる。

 

「大好き……ゆーはAdmiralのこと……大好きです」

「……そうか。私もユーの事が大好きだ」

 

 最近覚えたであろう言葉を嬉しそうに反芻しながら伝えてくるユーを微笑ましく思いながら、鎮守府への帰り道を手を繋ぎながらゆっくりと歩く。

 ふと視線を感じ、後ろを振り向くと今にも飛び掛かってきそうな三人と目線がかち合う。

 

「ちょっとちょっと! それどういう意味なの!? 提督! イクには!? イクにも大好きって言ってほしいの!」

「ユーのくせに提督と手を繋ぐなんて羨ま……生意気でち! よって左手はゴーヤのものでち!」

「ふーん? 提督ってば私にはそんなこと一言も言ってくれないのになー。ふーん」

「い、いや、別に深い意味では……」

 

 それぞれの言葉にあたふたと慌てる提督の姿を見ながら、ユーも一緒に楽しそうに笑う。

 

 夏の到来を感じさせる蒸し暑いとある日の午後。

 空には青い空と大きな入道雲が風に揺られてゆったりと動いている。時折吹く温かい風がそれぞれの髪を靡かせていく。

 

 夏はもう目の前だ。

 




 なお後日イムヤたちにばれてもう一度提督は同じ店に同行した模様。

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