少しネット小説を読み漁り、勉強しておりました。
その影響か、少し文体が変わっているかもしれません。
なるべく読みやすいように意識はしたつもりですが、読み辛かったら申し訳ありません。
毎年、夏の大本営直轄のプライベートビーチでは多くのカップルが誕生する。
真夏の太陽と青い海という実に開放的な組み合わせに、多少そういった関係に発展する男女が増えても別段おかしくないのではと思うかもしれないが、実情はそんなに甘い話でもロマンチックな話でもない。
理由としてはいくつかあるが、その背景には大本営で働く人々の男女間の年齢差、突き詰めて言うなれば出会いのなさが起因しているのは間違いない。
どこの企業や組織でもそうであるように、権力の集中する本部と言われる場所で働く人物というのは総じて年齢層が高いことが多い。それも歴史があればある組織ほどその傾向は顕著に見受けられる。
中には例外的な集団も存在するだろうが、全体から見ればまだまだ若手主体の組織集団というのは継続的な意味でも信頼的な意味でも少数派である事実は否めないだろう。
それら全てはこの日本という国の年功序列という、ある意味では尊崇思考な、ある意味では古臭いと見て取れる組織体系に集約されるのだ。
そしてそれは海を守護する一大組織であるここ、大本営でも例外ではない。
結論からいうと、女性陣は比較的若い年齢層が大多数を占めているのに対して、男性陣が年を食い過ぎているのだ。元帥を始め、大本営を支える骨組みとなっている男性陣のほとんどが少なくとも四十を過ぎており、その年代特有の油ギッシュな空気を漂わせながら日々業務に励んでいる。
そんなむさ苦しい職場の空気に毎日心で涙しながら、若い女性職員や軍人たちはとにかく出会いの機会を切望しているのだ。
勿論、若い男性軍人が全くいないわけではない。が、彼等は所属が大本営というだけで、与えられる仕事は基本的に外回りで滅多に大本営に在中することはない。その他の大多数の若き男性軍人は、基本的に各地に点在する海軍支部の下っ端として研鑽の日々を送る毎日だ。
二十代で将校を冠することですら相当シビアな世界で、若くして海軍大本営の重鎮の一人に名を連ねることの困難さを考えたら仕方のないことではあるのだが。
ならば一般の人間にと狙いを絞っても、軍関係という身の上と様々な規則やルールに加え、そもそも出会う接点すらないのだからどうしようもない。
だというのに、事務作業や広告アピール、世間体の問題でそれなりの若き女性職員や軍人が大本営に必要不可欠な人材だというのだから皮肉な話である。
故に、年一回の夏のプライベートビーチ開放時期は男に飢えた大本営所属の若き女性たちが砂浜近辺の至る所を魍魎跋扈することになる。
休暇を利用して、日頃の疲れを癒そうと訪れた将来有望そうな若き男性軍人に狙いを定めて。
「わざわざ落し物を拾って届けてくれるなんてお優しいんですね」
「若くて誠実……顔も悪くない……そして逞しい身体……じゅるり」
「お兄さんも休暇ですか!? よければそこの海の家でお礼も兼ねて休憩しませんか!? 奢っちゃいますよ!」
「うぬ……ぬ」
自分たちのホームテントのある場所からそれなりに離れた、砂浜とホテルの間を繋ぐ整備された歩道の途中で提督は窮地に立たされていた。
目の前には水着姿の女性が三人。若くはあるが成人には達しているであろう姿と、会話内容からおそらく大本営勤務の女性職員といったところだろう。
三者三様の愛嬌のある笑顔の裏からロックオンするような視線を集中的に向けられた提督の両腕は、現在彼女たちの柔肌によって拘束されている。
神通との一件を無事(?)乗り越え、数十人が倒れたという知らせを聞いて医務室へと様子を見に行った帰り道、歩道で一枚のタオルを拾ったことが事の発端だった。ちなみに提督が医務室を訪れた時には既に全員海へと戻っていた。倒れるのも早ければ、立ち直るのも早いのがこの鎮守府クオリティである。
たまたま落とし主が数メートル先を歩いていたこともあり、落し物という問題自体は事もなく解決することができたのだが、提督と目が合った瞬間三人の表情が変わり、なぜか取り囲まれ、現状に至る。
「わざわざといっても拾った先に君たちがいたのだから、手間というほどでもない。お礼と言われるほどのことはしていないのだが」
「ふふっ。謙遜されるお姿も素敵です。やはり殿方は気配りできてこそですね」
「……この肉体美こそ至高」
「なにいってんの? この女性慣れしてなさそうなのに懸命に対応しようとしているところがいじらしくていいんじゃない? 母性本能をくすぐられるよ」
それとなく開放してほしい旨を伝えてみるが、微妙にずれた反応を返してくる三人娘に困惑を隠せない提督。
昔に比べればマシになったとはいえ、女性の扱いは相変わらず不得意な提督にとって、現状を即座に打破する方法など思いつくわけがない。
これがもし絡まれているのが自身の鎮守府の艦娘で、相手が数人の男という状況ならまず間違いなく間に割って入る程度の度胸を持っているというのに、自分のこととなるとてんで駄目になるのだから呆れ物だ。
提督はこのままだといつか悪い女に引っかかってしまうのではないかと密かに艦娘の少女たちが心配しているのだから相当である。
「もしかしてお兄さんには彼女がいらっしゃるのですか?」
「いや、いない……そもそもいたことすらないのだが」
「! ……初物!」
「ああ~! ときほぐしたい! 自分にそんな存在は勿体ないとか思ってそうなその頑なに実直な心を二人っきりでときほぐしたい!」
自分で言っていて虚しくなる言葉に、なぜか女性たちが盛り上がる。
左端のふわふわした雰囲気を纏ったウェーブのかかったミドルロングの髪の女性はまだましだが、中心の一番背が低く、高校生と言われても納得できそうな少しジト目で小柄の女性と、右端のお団子頭の活発そうな女性は言葉も行動も危険すぎる。
彼女たちの言動の半分以上は理解できない提督だが、向けられているギラギラとした視線と、妙に艶めかしく身体を触られていることに危機感を感じずにはいられない。
対して、提督にとっては残念なことに、三人からすれば提督はこれ以上ない好物件だった。
容姿は跳びぬけて素晴らしいという訳ではないが、それなりで収まっており、肉体は言わずもがな。彼と会話をすれば誰もが感じる実直さと誠実さに加え、落し物を届ける気配りも好ポイントで、現在彼女なし。
この時期に大本営のプライベートビーチへと休暇に来れるということは、それなりに高い地位にいることを示し、同時に真っ当に上層部から評価を受けている事を表している。
そして何より若い。二十代前半の自分たちよりは流石に上だろうが、そういくつも離れているということはないだろう。毎日顔を合わせる、油てかてか身体だるだるの将校達と比べたら本当に同じ人間かと言いたくなるほどで、眺めているだけでも仕事が捗りそうだ。
出会いに飢えた彼女たちにとって提督はまさに理想の彼氏候補だったのだ。
「すまないが、私は今はそのようなことを考えることのできる立場ではない」
「うふふ、真面目な顔も色男ですね」
「……綺麗に割れた腹筋が最高……じゅるり」
「はあはあ……駄目だ。困った顔と真面目な顔のギャップが……はあはあ……たまらない」
誘いを断る断らないの問題以前に、言葉の意思伝達が上手くいっていないような感覚に苛まれる提督を余所に、実に不穏な擬音を発しながらじりじりとにじり寄ってくる三人娘。
正直な話、休暇中の身であるのだからこの三人とお茶をするぐらい何も問題はないのだが、鎮守府をあげての旅行中に一番上の立場の人間が、自身の鎮守府の少女達をほったらかしにして他の人間と交流を深めるのはあまり褒められたものではない、と頑なに拒否してしまうぐらいには提督は艦娘の少女達の事を考えている。
そもそも、少なくとも多少の信頼と一緒にここまで行動を共にしてくれていると感じている彼女たちを差し置いて、他の女性にかまけるなどという非常識な考えは提督の頭にはカケラも存在しない。
艦娘の少女達が聞けば、間違いなく喜ぶであろう提督の決断ではあるがゆえに話は平行線を辿っている。
いや、むしろ三人娘の様子が変態的な眼つきに変化し始めているところを見ると、提督の貞操はもはや風前の灯だと言ってしまってもいいかもしれない。
そしていよいよお団子娘の震えた指先が提督の海水パンツという秘密の花園へと触れようとしたその瞬間、提督にとっては聞き慣れた、間延びした声音が周囲に木霊した。
「あー提督いたいたー。もー探したんだよー。こんなところで何やってんのさー」
「北上……に大井も一緒か」
「私も一緒で悪いですか?」
「いやそんなことはないぞ」
駆け寄ってきたのは北上と大井。二人とも胸元にさるげなくリボンのついた上と、控えめにあしらわれたフリルつきの下というお揃いの水着を着用している。違うのは北上が透き通るような水色で、大井が予想に反して可愛らしいピンク色の水着だったという程度か。
予想に反してというのは単に普段の大井の言動からピンク色というのが少しだけ意外だっただけで、水着そのものはこれ以上ないくらいに似合っている。
二人ともまだまだ成長期だからか凹凸に関してはそれなり程度だが、全体的な曲線美は既に十分魅力的な雰囲気を醸し出している。
二人の登場に珍しく安堵の声音の入り交じった返答を返す提督。
正直これ以上は無理やり振り解くぐらいしか解決策を見出せていなかった提督にとって、二人の登場は非常にありがたい展開だったのだ。
突然の二人の登場に怪訝な視線を向ける三人娘に一通り視線を移した後、小柄の女性とお団子頭の女性の腕が提督の腕に触れているのを見た北上の表情がむっと不機嫌そうに変化する。
普段はあっけらかんとしてのほほんとしている北上ではあるが、見ず知らずの女性が提督に無遠慮に触れているという現状には流石に思うところがあるようで、そのままぺしぺしと二人の腕を叩いて無理やり提督を開放する。
「……痛い」
「あいたたた」
「なんかよくわかんないけど、提督に手を出す悪い虫は成敗してくれる」
おもむろに叩かれた腕を抑えながら呻く二人の女性をよそに、北上がするりと提督の右横に入り込み、その手にぎゅっと指を絡ませる。まるでもう触らせないと牽制するかのような北上の態度に三人娘もたじたじだ。
隣で急にしっかりと指を絡ませられた提督は初めこそ多少動揺したものの、北上とは長い付き合いで信頼関係もあるせいか、すぐに自然体に戻っている。
ちなみに今の提督と北上の手の繋ぎ方は所謂恋人繋ぎというやつで、後から知った北上がどこからか情報を仕入れた青葉により皆の前でネタにされて、顔を真っ赤に染めるという珍事件が起こるのだが今は関係ない。
「あらあら、ご挨拶ですね」
「ちょっと! 突然現れてなんなんだよう!」
「……暴力反対」
「あなた達の方こそ私達の提督にどんな御用ですか?」
突然の出来事になおも食い下がろうとする三人の職員を、北上と反対側へと移動してきた大井がばっさりと切り捨てる。
『私達の』という部分を特に強調するように放たれた大井の言葉に返す言葉もなく押し黙る三人。
北上と一緒の時以外、日頃から割と不機嫌顔で有名な大井だが、今の彼女はとにかく虫の居所が悪いらしい。夏だと言うのに凍えそうな視線を向けられた三人はぶるりと身震いを起こしていた。
北上に触発されたのか、空いた提督の左手へと触れそうで触れない大井の右手が妙にいじらしい。どうやら大井の中でなにがしかの葛藤があるようだ。
「ここは一度大人しく退いた方がよさそうですね」
「あ、諦めないからね!」
「……あいるびーばっく」
妙に小物臭のする捨て台詞を残して、かしまし三人娘は提督たちのホームテントがある方向とは逆方向へと走り去っていく。
去り際にきっちりタオルを拾ったことに対する礼を残していく辺り、普通に常識的な部分は弁えているらしい。もっとも、ただの変態に常識が加わったところで常識的な変態が生まれるだけで、なお厄介になるだけだが。
ともあれ、とりあえず窮地を脱した形になった提督は走り去っていく三人を眺めながら、心の中でほっと胸を撫で下ろすのであった。
「まったく、提督もあの程度自分でなんとかしなさいよね」
「そだねー。このままじゃいつか変な女にぱっくりいかれちゃいそうで北上さんも心配だー」
「むう……すまない」
メインビーチからは少しだけ離れた、古き良き駄菓子屋のような場所の前に設置されたベンチに三人で腰掛けながら発せられた大井と北上の苦言に、しょぼくれる提督。
普段はとかく落ち着いていて、何事にも冷静に処理する提督からすれば、これはこれで珍しく貴重な姿だと言えた。
提督から手渡された昔ながらの棒アイスを舐めながら、久方ぶりに提督の駄目な部分が見れてご機嫌な北上が鼻歌交じりに提督に擦り寄っていく一方、大井はむすぺろむすぺろと不機嫌を隠すことなく一人アイスを舐めている。
大井がご機嫌ナナメの理由自体は先程の一件が関係していることは間違いない。が、提督の手間を取らせたという類の見解と、大井本人が感じているイライラの理由には少しばかり齟齬があった。
別に提督を助けたという事実に関して、大井は煩わしさのようなものをカケラも抱いてはいない。元々提督を探しに来たわけであって、大幅に時間を食われたわけでもなく、自分や北上に何か被害があったわけでもない。
提督は性格からか妙に気にしてはいるが、この程度でへそを曲げ続けるほど大井の心は狭くない。
では何がと聞かれそうだが、それはもう大井の心の問題としか言いようがないだろう。あけすけに言ってしまえば、少しばかりの独占欲と嫉妬心、それが全てだ。
かしまし三人娘が提督に密着しているという事実に、大井の心は自分でも理解し難い程度にざわついてしまった。そのような類の感情に今まで縁がなかった大井は当然、この感情が何なのか理解できず、また発散の仕方もわかっていない。
加えて、ほんの少し、本当にちょっとだけ期待していた、提督が新調した水着に触れるといったイベントもないことが大井のイラつきを増幅させた。
なんだ只のわがままかと言われそうだが、その通りである。
断っておくが、別に大井は提督に対して明確な恋愛感情を抱いているわけではない。が、その種子は間違いなく芽生えており、今回の一件は、男女関係なく思春期真っ盛りの人間が抱くある意味至極当然の感情なので、彼女が悪いわけでもなんでもない。
まあ普段から好き好きオーラを放ちまくっている金剛達の気持ちにすら、微妙に誤解している節がある残念提督が大井の感情を察するなどあり得ないという点から大井はもっと怒ってもいいと思う。
「……大井」
「なによ」
「いや……すまない」
以上のやり取りを計三回。大井の不機嫌が自身にあることだけは理解している提督がどうにか関係修復を図ろうと諦めずに声をかけているが、女性関係に限りキングオブヘタレな提督は大井のジト目一発で大破撤退だ。
口調が本当に親しい人間にしか見せない、敬語を取っ払った完全に素な状態であることも、現状に限っては残念なことにマイナス要素にしかならない。
体勢を立て直すためか、アイスのごみを捨てるために提督は一度店の中にあるゴミ箱へと向かう。
「今更だけど、提督って基本優秀なのに女性関係だけ残念なのがホント心配だよねー」
「いい加減私達にぐらい遠慮するの止めろっていうのに」
「まあ、昔に比べたら見違えるほどマシになってるんだけどねー」
「それはそれでなにかイライラします」
「この水着にも触れてくれないし、チョイスミスったかなー」
「北上さんのハイパーボディは今日も最高です。あの甲斐性なしな提督には期待するだけ無駄なだけですよ」
「ありがとね。大井っちも可愛いよー。でもやっぱり一言感想ぐらいほしいよー」
「……はあ」
容赦なく照り付ける太陽に手の平で影を作りながら、一連のモヤモヤを溜息にのせて解消しようと試みる大井。
日焼け止めを塗っているとはいえ、暑さを解消できるわけでもない。戻ったら思いっきり海に飛び込んでやろうと決意を新たにしているところで二人の頭に何かが被せられ、同時に焼けつくような日差しが緩和される。
「気休めにしかならないだろうが」
「……麦わら帽子?」
「わざわざ買ってくれたんだ。ありがとね提督」
いつの間にか戻ってきていた提督の心遣いに北上は満面の笑みで、大井は小さくぼそっとお礼を返している。
女性関係はとことん不得意なくせにこういうとこでの気配りは絶対に忘れないのだから、提督という存在の業の深さが見て取れる。
一拍置いてから差し出された清涼飲料水を受け取りながら、大井は提督に再度視線を送ってみるもその表情に明確な変化はない。提督を挟んで隣に座る北上を見ると苦笑交じりの表情を返してきている。
もはや期待するだけ無駄だと、小さく溜息を吐きながら、二人は渇いていた喉を潤すために手に持った飲料にぐいっと口をつける。
そんな二人をぼんやりと眺めながら、提督が何気なく言葉を発する。
「それはそうと二人とも可愛らしい水着だな。よく似合っている」
同時に二人の口からぶはっと盛大に水しぶきが飛び、綺麗な虹が浮かび上がった。
数秒後、大井の渾身の右ストレートが提督の脇腹へと突き刺さっていた。
久方ぶりに自分の中で大ヒットと思えるネット小説を見つけ没頭して読んでいたら更新を忘れていました。オイ!
一話と比べると、地の文が圧倒的に増えてますし、読み辛くなければいいのですが。
あと感想返信が滞っており申し訳ありません。が、全部しっかりと目を通しておりますので。
なにぶん、一話更新ごとに感想返信に二時間ぐらいかかってしまうのが嬉しい悲鳴でございまして(嬉泣
時間があるときにゆったり返信していきたいと思いますので気長にお待ち頂ければと思います。
それではまた次回で。