【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

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第12話「原初の誓」

1944年5月31日

 

グシャリ

 

「ダーーーーーー!!」

「メビウス少佐落ち着いてください!」

 

ある意味悲鳴に似た声を上げるメビウス1を少し離れた場所からペリーヌが心配して言う。2人は今戦場の真っ只中にいた。ただその中で苦戦しているのはメビウス1だった。

 

「畜生…俺は…」

 

メビウス1は自身の目の前にある“敵”を見つめる。その敵はメビウス1に対し攻撃もなにもしてこない。ただそこにいることとその後の惨状を見せつけるだけで効果は十分だった。それほどまでにメビウス1を苦しませている敵とは

 

「卵を上手に割ることすらできないのか!」

 

メビウス1の叫びが厨房という名の戦場に響き渡った。

 

 

 

 

時間を遡ること今朝のミーティング。普段と変わらぬと思っていたが最後の一言が違った。

 

「尚、今日の夕食の当番はペリーヌさんとメビウスでお願いします」

「分かりました」

「りょうか……は? 俺が!?」

 

あまりのことに驚いて立ち上がってしまった。

 

「ええ、そうよ。皆交代制でやってるからメビウスもやってくださいね」

「いや俺は料理なんてで「あたしメビウスの料理食べた~い」な!?」

 

声のしたほうを見る。ルッキーニが満面の笑顔でしゃべっていた。

 

「メビウスの世界の料理食べてみたいんだよね」

「あ、それは面白そうです」

「じゃあ、メビウス期待しているゾ」

 

女子特有の会話で話が盛り上がり終了となった。それを見ていたメビウス1は溜め息ひとつする。

 

「俺は過去10年料理したことないんだぞ…」

 

メビウス1の呟きを聞いたものはいなかった。

 

 

 

午後の訓練風景をメビウス1は眺める。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

上空ではシャーリーが急旋回をスピード落とさずにやっていた。これと言って何もアドバイスしてはいないのだがこの前の俺の闘いを参考にしているようだ。正確には分からないがシャーリーのスピードは時速700㎞以上を出しているように見える。

 

(確かシャーリーのストライカーユニットの性能だと最大速は703㎞が限界だったはずだが……彼女専用にカスタムでもしているのか?)

 

彼女が乗っているストライカー、P51ノースリベリアンマスタングの資料を見ていたメビウス1は思った。実際、彼女は整備班のホーマーと結託して速いストライカーユニットを造っている。そんなことよりも夕飯の料理をどうするか悩む。

 

「とりあえず食糧庫に何があるか確認するか」

 

これといった料理が思い浮かばなかったので食糧庫にあるものを見てから考えることにした。

 

厨房の隣にある食糧庫に到着して中身を確認する。

 

「おお、こいつはすごいな」

 

中にある物は野菜や肉類、さらには魚介類も置いてある。小麦粉や米などもおいてあり軽くどこかのショッピングマーケットのようだ。これだけ材料があればどんな料理でもできるだろう。

 

「さて、どうしようか…」

 

目の前にある食糧の山を見つめてメビウス1は1人考え込む。だが思いつかない。だったらノースポイントの料理を思い出してみるか。

 

「刺身、寿司、天ぷら、おでん、鍋、肉じゃが………」

 

ノースポイント料理をいろいろ思い出す途中で気が付いた。

 

(…あれ? これ全部もうこの世界で食べたな)

 

メビウス1が思うのは当然だった。先ほどあげた料理はすべて宮藤が扶桑料理として振る舞っていたのだ(さすがにおでんはなかったが)。なら別の国の料理にしようかとも思ったが、知識のない自分が作ってはその国の人たちに申し訳ない。

 

「どうしたんですか。そんなところに座り込んで」

「ん? ああペリーヌか」

 

そうこうしているうちにペリーヌがやってきた。もう夕食を作る時間になったのだろう。

 

「いや何作ろうか悩んでさ…というか俺料理できないんだが」

「え…それほどなのですか?」

「10年くらいはやっていない。料理に関しては全部任せていたからな~。精々卵焼きくらいしか―――」

 

自分がおそらくできると思われる料理、卵焼きからふとある料理を思いだした。

 

「…そうだな。これにするか」

「どうしました?」

「作る料理が決まった。材料言うから探してくれないか」

 

ペリーヌと一緒に材料を探し始める。どんな料理かペリーヌには言っていないがひとまず夕食の調理がスタートした。

 

 

 

 

「ダーーーーーー!!」

 

そして、今。メビウス1は卵を割ることに大苦戦していた。景気よく卵を割ろうとしたが最初の1個目で割るのに勢い余って。2個目では力を入れすぎて。3個目は割れたはいいが殻が紛れ込んで…………

 

とそんな感じに数多の卵たちを犠牲にしてもメビウス1の卵割の技量は上がらなかった。

 

「メビウス少佐落ち着いてください。私が変わりますから人参と玉ねぎを切ってください」

「…了解した」

 

一人落ち込みながらメビウス1は人参を切り始める。

 

「ところで…」

 

慣れない手つきで人参を切っていたメビウス1にペリーヌが話しかけてきた。

 

「メビウス少佐はどうして軍にはいったのですか」

「軍に入隊した理由?」

 

動かしていた手を止めてメビウス1は考える。自分が軍に、戦闘機に乗り、この道を進む切っ掛けは―――

 

「自分の家族…大切なものを守るためだ」

 

当時、ノースポイントの空軍学校に入学したときの志していたものを思い出した。あの時のユージア大陸はクーデター軍との戦い、その後のエルジアとの武装平和と不安定な状態が続いていた。だから軍に入隊した。自分の大切なものを守るために。あのとき、そう心に誓った。

 

「そういうペリーヌはどうしてウィッチになったんだ?」

「…私の故郷はガリアということは知っていますか?」

「ああ」

 

その後はペリーヌの独白だった。当時の彼女は軍とは関係ない貴族の娘だったらしい。だがネウロイの侵攻で家族を失い故郷を奪われた。ブリタニアに逃げ延びる船上から燃え盛る街を見て自分の非力さを噛みしめた。

 

「私一人出たところで戦況が変わるとは思いません。ですが思ってしまうのです。あの時ウィッチとしての力があったなら、全てでなくとも何かを失うことは無かったのではと」

 

だからウィッチとして戦うことを決心した。奪われた故郷を取り戻すために。

 

「そうか……ペリーヌは強いな」

 

彼女の話を最後まで聞いたメビウス1はペリーヌの心の強さに驚いた。いくらウィッチとしてネウロイに対抗できるほどの力を持っていても、所詮はただの15歳の少女だ。普通ならショックで泣き崩れているのに彼女は立ち止まることなく前に進んでいる。自分とは大きく違う強さにメビウス1は心を打たれた。

 

「そんな、私は強くありませんよ」

「いや強いさ。精神で比べれば君のほうが強い。俺なんかよりもはるかに」

 

そしてメビウス1は調理を再開しようと手を動かし始め――

 

「メビウス少佐の御家族はお元気なのですか?」

 

ペリーヌの何気ない一言にすべての思考が停止した。厨房に静寂が訪れる。

 

「……………………」

「あの…メビウス少佐…?」

「……俺はなにも守れていない」

「え?」

 

メビウス1は顔を俯かせていたが、顔を上げて窓越しに広がる青空を見上げた。とても哀しい顔で。

 

「8年前に全員死んじまった」

「………」

 

ペリーヌは言葉を失う。

 

「ある天災に巻き込まれてな。大勢の人が亡くなった。あの時の俺はそのことが信じられなかった。…いや、信じたくなかったんだろうな。軍に入ったばかりでやっと守る力を手に入れた矢先、守りたい存在が消えちまったんだから」

 

まるで独り言のように言う。それはペリーヌに聞かせるために言っているのか。それとも、自分に言い聞かせるように言っているのか。

 

「(ネウロイに殺されたほうがましだったのかもな、そうすれば怒りの矛先を向けられたのだから)」

「? なにかおっしゃいましたか?」

「いや、なんでもない。家族を失ったという点だと俺たちは似た者同士だな。つまらない話をした。忘れてくれ」

 

そして、メビウス1は玉ねぎをみじん切りにしようと切り始めた。

 

「痛っ!」

 

指を切った。

 

 

 

そして夕食時

 

「メ~ビ~ウ~ス~。腹減った~」

「お腹すいた~」

「ご・は・ん~♪ご・は・ん~♪」

「食事前に騒ぐなリベリアン! あとハルトマンは歌うな!」

 

厨房隣の食堂は全員集まっており、皆が『早く食べたい』という名の統一性のない大合唱(?)を歌っている。これ以上待たせると下手したら暴動に発展するやもしれない。メビウス1が思い出した“ある料理”の最終段階を終わらせてテーブルに並べた。

 

「なんだこれ?」

「でっかいオムレツ?」

「これといって特徴は無いナ」

「これだけ? パンもお米もなし?」

 

皆の目の前に出された料理に疑問の声が上がる。メビウスの、異世界の料理に期待していた皆は少しだけがっかりしていた。

 

「とりあえず食ってみろ」

『いただきま~す』

 

いただきますの号令があがりその食べ物にスプーンが刺し込む。すると――

 

「おお!? なんだこれ」

「中にご飯が詰まってる」

「赤いわね」

「気に入ったか? それはオムライスっていうんだ」

 

メビウス1が思い出した卵料理、それはオムライスだった。一般的な家庭料理なので俺の世界代表と言えるかは分からないが。

 

「おいし~」

「この味はトマトケチャップだな」

「調理はほとんどがペリーヌがやったから彼女のおかげだけどな」

「い、いえ、それほどでも…」

「「ふんふ~ん♪」」

 

ルッキーニとハルトマンが鼻歌を歌いながらケチャップで絵を描いていた。あの二人なら絶対やるだろうな。

 

「お、ルッキーニ面白いことしてるな。おかわりしたら私もやろう」

 

訂正、もう1人いた。

 

「御口に合ってなによりだ」

「たまにメビウスの料理食べたいな」

「期待しているよ」

「……しまった」

 

へんなプレッシャーがメビウス1に襲った。

 




書いていたらシリアス成分が紛れ込んでしまった。

そんなつもりなかったのになんだか自然にできてしまって…

なんというかその………ごめんなさい_| ̄|〇

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