【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

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※注意

超自己満足回です。史実を間違っている可能性もあります。

覚悟のある方だけお進みください。


第14話「憑依と激しき風」

ルッキーニたちがこっくりさんをやっているころ。美緒とミーナは執務室でのんびりお茶をしていた。ちなみに飲んでいる物は美緒がお茶、ミーナは紅茶である。

 

「今日の宮藤さんの訓練でまた仕事が増えてしまったわ…」

「ふむ、あいつは訓練ではまるで素人だが実戦ではいい動きをするのだがな」

 

お茶をすすりながら今日の宮藤の訓練を思い出していたが、ミーナの一言で中断される。

 

「そういえば美緒。宮藤さんが来た時に一緒に来た“あの機体”は?」

「ん? ああ、あれか。そういえば、宮藤が赤城を守ったり、隊に入隊したりといろいろあったから忘れていた。はっはっは!」

 

それにはさらに宮藤の特訓に力を入れすぎたせいもある。

 

「それにストライカーだけでなく同型の戦闘機も寄越してくるなんて」

「ああ、向こうの開発陣たちがいうには『試作段階ですので、両方乗ってみての評価をください』とのことだ。私好みの機動戦重視の設計になっているらしい。私の戦闘スタイルを知っているせいか、テストパイロットを依頼された」

 

すっかり忘れていたとまた豪快に笑いだす美緒。彼女が言うには扶桑の量産機『零式艦上戦闘脚(ストライカー)』の次世代型の試作機と言ったものだろうか?

 

「あら? そういえば、扶桑の次世代戦闘脚は『紫電改』ではなかったかしら?」

「それはそうなのだが、あれは零式に比べ速度、上昇力、降下性能は大きく上回るが旋回性能が劣る。竹井醇子のことは知っているか?」

 

美緒の質問にミーナはええと答える。ヨーロッパ出身のウィッチにとって彼女の名前を知らない者はいない。

 

竹井醇子

扶桑皇国海軍遣欧艦隊リバウ航空隊所属、第504統合戦闘航空団戦闘隊長。坂本美緒と同期であり、ともに戦場を駆け抜けた戦友だ。大戦初期のリバウ基地では当時、坂本美緒、竹井醇子、西沢義子の3人と共に空を飛び、「リバウの三羽鳥」の異名を持つ。さらに竹井醇子は『リバウの貴婦人』の二つ名を持つ。

 

「あいつの戦闘スタイルは編隊戦闘重視だから『紫電改』との相性はいいんだ。だが、聞いての通り私は単騎戦闘重視だ。だから今まで零式に乗っていた。宮藤をスカウトしに扶桑に戻っているときに」

「試作ストライカーのテストパイロットに選ばれたと」

「そういうわけだ。いつまでもそのままにしておくわけにはいかないしな。明日あたりでも――」

 

美緒が言い終わらわずに基地の警報が鳴り響いた。それにすぐに反応し2人は動き出した。

 

 

 

「全機、スクランブル! 私も出ます!」

 

ミーナはそうウィッチたちに指示を出すと、ハンガーに向かいながら通信兵に尋ねていた。

 

「どうして発見が遅れたの?」

「はっ! どうやら、海面100m前後の超低空を飛行していたらしくレーダーに引っ掛からなかったようです」

 

ミーナの横を歩きながら通信兵は得られた情報を伝える。

 

「また反応によるとネウロイは小型が10機以上、中型が1機だそうです」

「ネウロイの狙いがペベンシーのレーダー基地なのは本当?」

「はい。進行方向からして間違いありません」

(ネウロイが我々の眼を潰そうとしている?…まさかね)

 

自身の中に生まれた疑問を否定しながらミーナはハンガーに急いだ。

 

 

 

一方その頃

 

「出撃?……戦か? 我も出よう」

「いいのか?」

「我は戦いしか知らぬ女子(おなご)なれば」

 

ハンガーに着いたはいいが巴御前に憑りつかれた芳佳をどうするかで迷ったが彼女は一緒に出ると言った。ストライカーも難なく動かし、

 

「これが未来の弓か…ここまで武器が変わるとはな」

 

銃も多少驚きながらも受け入れていた。すべてを装備し終えた芳佳=巴御前はさながら戦に出る前の生前の彼女に重ねて見える。

 

「巴、いざ参る! 飛べ、天馬!」

 

凄まじい魔力と小さな旋風を発生させながら発進する。

 

こうして平成の女武将は、ブリタニアの空へと飛び立った。

 

 

 

ミーナたちが飛び立ったころ、エイラたちはハンガーのほうに歩いていた。

 

「なあ、こっくりさんって宮藤に憑りついたものだけだよな? なんで他の奴がでるんだ?」

「私は分からないわ…」

「儂も詳しくは知らん。だが、あの妖術はあまりせんほうが良い。此度は儂のような亡霊だから良いが、あれはなにが呼び出されるが皆目見当がつかん。悪霊の類であったのならば…おぬしら、今頃この世におらぬぞ?」

 

いつもと口調が大きく違うメビウス1の言葉にエイラとサーニャは背筋をゾッとしながら歩き続ける。

 

「…なあ、1つ聞いていいか?」

「なんじゃ?」

 

エイラの質問にメビウス1(?)は立ち止まる。

 

「なんであいつと別れたんだ? 本に書いてある通りだと…よく分かんないけどなんだか口喧嘩して別れたみたいだけどさ」

「うむ…」

 

メビウス1に憑りついた何かは1人黙り込む。この顔は後悔というよりも、なにか申し訳ない気持ちを抱いているような表情だった。

 

「あの時は、儂は朝廷と対立し、同じく血を分けた兄弟たちと戦うこととなった。戦に敗れ、我が命は風前の灯。だが、あやつだけは死なせとうなかった。じゃから儂は武士の誇りを言い訳にあやつと今生の別れとなった。………あやつの心を知らずにな」

 

それは動乱の時代を懸命に生き、戦場を駆け抜け、そして儚く散ったある男の物語。彼は自身の人生において後悔はしていなかった。ただ、自身がいなくなった後、彼女のことを見守っているとき、自分はなんと愚かなことをしたのかと、死後初めて自分の生前の選択を悔やんだ。だからこそ―――

 

「あの小娘に転生して、おぬしらがやった妖術でわずかな時とはいえ、前世の記憶が蘇ったのであろう。故に、儂は行かねばならん。あの別れからあやつはずっと一人だ。あの顔は見るに堪えぬ。この体の持ち主に憑りついてしまったのはすまぬが、今の儂にとっては僥倖(ぎょうこう)。生前の後悔を晴らさねば」

 

そういい、メビウス1は歩き出した。ハンガーにつき乗り物を探すが

 

「なんじゃこれは? これがこの世の馬なのか?」

 

メビウス1のストライカー F-22A の前に立ち顔をしかめる。

 

「そうだぞ。それに足を入れるんだ」

「こいつに足を入れるだと?…だめじゃ。これでは落ち着かん。なにか鞍に跨るような乗り物はないのか?」

「は? いやいや、お前はそうかもしれないけどメビウスは基地で待機命令なんだ。出ちゃだめだろう」

「だめなのか?」

 

メビウス1(?)は聞いたがエイラは上官命令だから駄目だ、と言った。隣にいるサーニャも無言でうなずいている。

 

「…しかたないの」

 

メビウス1(?)はそう呟きエイラの前に立つ。エイラをキッ、と睨む。すると

 

「うぁ…」

「エイラ!?」

 

エイラは姿勢を崩して前に倒れそうになる。それを抱きかかえるようにメビウス1(?)は受け止めた。そして、ハンガーの壁にエイラを寝かせる。

 

「何を…したの?」

「なに、殺気を流してこやつを気絶させただけよ。しかし、動かなくさせるだけに抑えたのだがな…まあそんなことは良い」

 

メビウス1(?)は立ち上がり、サーニャに言った。

 

「じき、こやつも目が覚めるじゃろう。手荒な真似をしてすまんな、小娘。じゃが、儂は行かねばならんのでな」

 

それだけを言い残し、メビウス1は――メビウス1に憑りついた何かは――別のハンガーに歩いて行った。

 

 

別のハンガーに着いたメビウス1はそこにいた新人の整備員に声をかけた。

 

「そこのもの、空飛ぶ馬を探しているのじゃが、何処にある。扶桑のものが好ましいが」

「あれ? メビウス少佐。飛行機に乗るのですか? ミーナ中佐に言われて?」

「さようじゃ」

「扶桑のもの…。あ、そういえば第4ハンガーに置いてあったな。ついてきてください」

「うむ、感謝する」

 

メビウス1は新人整備員のうしろを歩く。道中、壁に置いてあったパンツァーファウストを2本ほど拝借した。そして、第4ハンガーにつく。そこには深い緑色をした零式戦闘機よりも少しだけ大きい飛行機が置いてあった。

 

「ついこの前届けられたものですけど…これでいいでしょうか?」

「構わん。手間をかかせたな。礼を言うぞ」

「いえいえこれくらい…しかし、なんかいつもと比べて口調おかしくないですか?」

「気のせいじゃ」

 

メビウス1はそれに乗り込みエンジンを始動させる。

 

「うむ、メビウスとやらの記憶のおかげか、儂でも動かせるぞ」

 

そうしている間に機体はハンガーから出て滑走路に向かう。エンジンの音が響き渡る。

 

「うん? 何の音だ?…………はあ!?」

 

別のハンガーにいたホーマーは音の正体を見て驚愕した。なんであれが動いてるんだ!? 

急いで置いてあったハンガーに走る。そこにいた新人に怒鳴った。

 

「おい! あれに誰が乗ってるんだ!?」

「ほ、ホーマー曹長。実はメビウスが…イテッ!」

「メビウスが?! この馬鹿野郎! あれは試験飛行済ませてねぇんだぞ!」

 

新人に思いっきり拳骨食らわせながらホーマーはメビウスが乗る機体を見る。もう滑走路に着き、動作確認を済ませてしまっていた。

 

「さて、参ろうか」

 

エンジンの出力を上げる。プロペラの音がさらに大きくなる。

 

「戻れ! 戻ってこい!」

「もうワシらには止められん…行かせてやれ」

 

ホーマーは諦めたかのように他の整備員に言った。

 

プロペラが動き出し機体を前に進ませる。そして、浮遊感が襲い、機体は宙に浮かび上がった。

 

 

 

ちょうどそのころ、ミーナたちはネウロイと会敵していた。

「報告よりも多いわね」

 

敵は中型を中心に15機の小型が編隊を組んで海面すれすれを飛んでいた。小型の大きさは4mほどの円盤型。まるで空飛ぶお皿のようだ。

 

「新型だな。随分と小回りが利くようだ」

 

坂本は口元に笑みを浮かべる。

 

「バルクホルンとハルトマンが先行し、他のものは援護に当たれ!」

「了解、サムライ」

「りょうか…い?」

 

美緒は全員に指示を出す。だが1人だけ命令を聞かない者がいた。バルクホルンたちよりも高速で、2人の間を通り過ぎる。白い水兵服に、零式艦上ストライカーを履いたそれは…

 

「宮藤だと!?」

「あちゃ~」

「きゃああ、芳佳ちゃん!」

 

シャーリーは手のひらで顔を覆い、リーネは悲鳴を上げる。

芳佳=巴御前は、猛スピードでネウロイに接近する。

 

「宮藤さん! 指示に従って!」

「あれが敵…じゃな。怪異も変わったものじゃ」

 

ミーナの声を無視した芳佳=巴御前は小型ネウロイの1機に13mm機関銃の銃口を向けトリガーを引いた。

 

銃弾がネウロイの中心を貫く。いや、射貫くと言ったほうが正しいだろうか。

 

「まずは一騎」

 

黒い爆煙を上げながら崩壊する円盤型のネウロイ。

 

「宮藤!?」

 

唖然とする坂本。他のものたちもあまりのことに言葉が出ない。事情を知る者を除いてだが。

 

「ほらほら! あれやっぱり巴だよ! 芳佳じゃないって!」

「………なあ、あれほんとに巴なんとかに憑かれてるんじゃないか?」

「暗示! 暗示に決まっていますわ!」

 

当事者たち(主にルッキーニ)はひそひそと宮藤の豹変ぶりを見て話す。隊長であるミーナも宮藤の変わりように思考が停止していたが、すぐに指示を出す。

 

「え…と、バルクホルンとハルトマンは宮藤さんの援護を! 美緒もお願い!」

 

何しろ今の宮藤は速すぎる。Wエースのバルクホルンとハルトマン、それに坂本しかついていけそうにない。その間に芳佳=巴御前はもうすでに6機の小型ネウロイを撃墜していた。

 

だが、ネウロイもやられてばかりではない残り9機を分けさけ、3機を坂本たちに、残り6機を宮藤に、戦力を分断させて1番の障害である芳佳=巴御前を仕留めようと動き出した。

 

「我を殺るつもりか。よかろう。かかってくるがよい!」

 

それが合図であるかのようにネウロイは芳佳=巴御前を包囲、レーザー攻撃を始めた。

 

「宮藤!」

「全員、宮藤さんを援護して!」

 

宮藤を助けようとしたいが彼女との間に小型3機、さらに中型がじゃまをし近寄れない。宮藤=巴御前は1機撃墜したが絶望的状況は変わらない。

 

「木曽殿! 義仲殿! 何ゆえ…何ゆえ、巴を解き放たれた!? 巴は何時何時までも、殿のために獲物を狩る鷹でおりたかったのに!」

 

其の目に涙が浮かぶ。ネウロイのレーザーをぎりぎり避ける芳佳=巴御前。

 

「巴は最後まで、一緒に戦いとう御座った!」

 

生前の記憶が蘇る。

 

平安末期、平家の暴政に対して挙兵した木曽義仲は、京に入って征夷大将軍になった。

だが後に朝廷と対立。

源範頼(みなもとののりより)義経(よしつね)の軍に敗れ、敗走の折、近江粟津(おうみあわず)で巴を一人、落ち延びさせて自らは討ち死にを遂げたとされる。

 

「何ゆえ―――!」

 

涙を流す芳佳=巴御前の心の揺れが隙を生む。それを見逃すわけでもなく後方にいたネウロイはレーザーを撃とうとし…

 

≪お主に、生きてほしかったからじゃ≫

「え…?」

 

耳に入ってきた声。それと同時に何かが飛んで後方のネウロイに命中。爆発を起こし、砕け散った。

 

「なっ、なに?」

「誰が…」

 

小型3機を落とし、中型に阻まれていたミーナたちは何が起きたか分かっていない。そして、上空から聞こえるプロペラの駆動音が聞こえ、その方角を見た。

 

それは急降下をはじめ、中型に接近する。中型から放たれるレーザーを華麗に躱して胴体に着いていた60㎏爆弾を投下。大きな爆発が発生し大穴を開けた。だが、コアには当たらなかったが動きを止めることに成功し、その横を通り過ぎた。

 

その機体を見た坂本は驚きの声を上げた。

 

「あれは十七試艦上戦闘機!? だれが乗ってるんだ?」

 

彼女が驚くのも無理はない。

 

十七試艦上戦闘機(仮名)

扶桑の次世代戦闘機の一つとして開発が進んでいたが度重なる失敗と試行錯誤の結果、ほかの開発チームより後れを取ることとなりつい最近になって試作型が完成した、美緒がテストするはずだった戦闘機だった。

 

それに乗っていたのは右手にパンツァーハウストを構えた――

 

「こちらミーナ。そこの戦闘機、誰なの?」

「うん? それは儂に対して言っているのか?」

「メビウス!? あなたなにしているの?!」

 

ミーナは声を荒げる。基地に待機という決まりだったのにメビウスはなにをやっているのか。

 

「ふむ、すまぬがミーナとやらよ。我はメビウスであってメビウスでない。儂はこの体を借りているにすぎぬ亡霊じゃ」

「? あなた何を言って?」

「詳しくはそこのメガネとやらをかけている女子(おなご)と胸の大きい女子(おなご)、背の小さい小娘に聞け。儂を呼んだのはそのほうらだからな」

「え?」

「私?」

「わたくしも?!」

「ほう、それは…」

「これが終わったらじっくり聞きますからね」

 

ミーナと美緒は3人に顔を向ける。その顔は笑顔だったがほんの少し青筋が浮かび上がっていた。

 

「ふむ、確かに名のらないのは武士の恥。儂がだれか答えよう。

儂は源義賢(みなもとのよしかた)が次男、信濃源氏の棟梁、木曽義仲であるぞ!」

 

通信越しに聞こえるメビウスの声。それを理解したのは美緒とこっくりさんをやった3人。そして、芳佳=巴御前だった。

 

「殿!」

 

巴はメビウス…義仲が操る戦闘機に近づく。操縦席の開閉部分を開けてお互いの顔を見つめた。

 

「久しいな巴。儂はこの者に憑りついているが…儂が分かるか?」

「何を、おっしゃいますか。そのようなことすぐ分かります」

「そうか」

 

芳佳に憑りついた巴御前。メビウス1に憑りついた木曽義仲。生前、今生の別れとなった2人は偶然とはいえ、800年の時を経て、異国の空で再開した。

 

「お主に謝らねばならん。巴、すまなかった。あの時、お主の気持ちを理解することなく、武士の誇りを盾にお主を遠ざけた。儂の選択がお主を苦しめてしまった」

 

メビウス1は―――木曽義仲は深々と頭を下げた。自分の過ちにより苦しませてしまった自身の片腕ともいうべき女に。

 

それを見ていた芳佳は―――巴は涙を流しながらも、笑っていた。

 

「殿、顔を上げてください。もういいのです。過去は過去、もう終わってしまったことを悔いても仕方ありませぬ。それに、巴は喜んでいます。こうして、仮初とはいえ、殿に、貴方様にお会いできたのですから」

「左様か。…お主も儂も現世にいられるのも時間の問題。巴よ。お主に最後の命を下すぞ」

「はっ!」

 

芳佳=巴は姿勢を正す。

 

「儂に最後まで仕えよ。その覚悟はあるか?」

「いうまでもなく、巴は、いつでも殿の御傍に。たとえ地獄の道行きでもお供致します」

「よくぞ言った! ゆくぞ、巴。久方ぶりの戦、存分に暴れようぞ。背は預けたぞ」

「御意のままに!」

 

1人はストライカーに乗り、もう1人は試作の戦闘機に乗る2人の武人。対するは4機の小型ネウロイ。そのど真ん中に2人は飛び込んでいった。

 

ネウロイはレーザーを放つも芳佳=巴御前どころかそれよりも大きい戦闘機を操るメビウス1=木曽義仲に当たるどころかかすりもしない。

 

「隙だらけじゃ。もっと精進してから出直すのじゃな」

 

トリガーを引き、十七試艦上戦闘機に搭載された三式13.2mm機銃が火を噴く。中・大型でも傷をつけることができるそれは、小型ネウロイには十分すぎるほどの威力だ。蜂の巣になりボロボロに崩れ落ちる。飛行機の死角である真下から別のネウロイが攻撃を仕掛けるが、芳佳=巴が張るシールドに阻まれる。

 

「殿は殺らせない!」

 

そして、そのシールドの外側に移動したメビウス1=義仲は勝手に持参した最後のパンツァーハウストを発射。命中、爆散させる。

 

「ふむ、どうやら腕は鈍っていないようじゃな」

「殿のほうこそ」

「馬とは勝手が違うがな。じゃがこれもなかなかじゃ。いや、まったく面白いのう!」

 

がはははははっ! とメビウス1=義仲は豪快に笑い、それを見て芳佳=巴は微笑む。

 

それを遠くから中型を仕留め終えたミーナたちが見ていた。

 

「あれってメビウスさんと宮藤さん…よね?」

「さあ、だが木曽義仲、巴御前………宮藤の奴ならまだしもメビウスのほうは何故扶桑の過去の人物を知っている?」

「さて、どういうことか説明してもらおうかしら、ルッキーニ少尉?」

「え、えっとね、実は―――」

 

ルッキーニはこっくりさんのことを全て話した。芳佳に巴御前らしきものが憑依したがメビウスのことは知らないという。基地から通信が入る。

 

≪うえ、気持ち悪。ミーナ中佐聞こえるカ?≫

「エイラ少尉どうしたの?」

≪そっちにメビウス来てないか? いや、メビウスなのかあれ? 止めたんだけど気を失ってさ≫

「メビウスなら今、宮藤さんと一緒に戦っています」

≪どんな感じ?≫

「そうね…」

 

ミーナは2人を見る。残り2機となった小型ネウロイをメビウスと芳佳は取り囲んでいた。

ネウロイのレーザーを華麗に躱す。その姿は、まるでダンスを踊っているかのように見えた。

 

「巴、そろそろ終いにしようぞ」

「いつでも」

「よし……構え!」

 

左手を掲げる。生前、軍を指揮していたころのように声をあげる。

 

「矢を放てぇ!!」

 

芳佳=巴の九九式二号二型改13mm機関銃が、メビウス1=義仲の機体翼内の九九式20mm二号機銃四型が同時に火を噴いた。

 

閃光を発してネウロイは飛び散る。

 

「終わったか」

「はい…」

 

義仲を巴は見つめ合う。

 

「さて、限界のようじゃ。巴、達者でな」

「たとえ離れ離れでも、巴は殿の御傍におりまする」

「はっはっは…忠道、大義である。……次に会うのは…いつ……であろうな」

「願わくば………戦場ではない……どこか…で………」

「はは………それも………良い…なぁ」

 

突然、芳佳とメビウス1は気を失った。ストライカーのプロペラが止まり宮藤は真っ逆さまに落ちる。メビウス1の乗る機体もゆっくりと降下し始める。

 

 

「きゃああああ、 芳佳ちゃん!」

「…あれ、私………ストライカーつけてる?」

「メビウス~、お・き・ろ!」

「イテっ! なにすん……な!」

 

自分の姿を見て、宮藤は素っ頓狂な声をあげた。メビウス1もいつのまにか飛行機に乗っていることに驚き慌てて機首を上げる。

 

「いつの間に出撃していたんですか~!?」

「俺…なんで戦闘機に乗ってんだ? 寝てたはずなのに」

「覚えてないのか?」

 

近づいたシャーリーが顔を覗き込む。ミーナに事情を説明してもらうとルッキーニたちのこっくりさんのせいで何者かの霊に憑りつかれたのだそうだ。

 

「でもでも! 毎回こっくりさんやれば戦力倍増だよ! 微妙に役立たずの芳佳がたちまちエースパイロット!」

「いいわけないだろう!」

「微妙にって…」

「もう止めてくれ」

 

一番の被害者であるメビウス1は溜め息交じりに答えた。そんなことをされたら命がいくつあっても足りない。

 

「はあ、とりあえず今後一切こっくりさんは禁止。分かったわね」

「え~」

「返事は?」

「………は~い」

 

ミーナの目が笑っていないことに気付いたルッキーニは小さくなり、うなずいた。

 

しかし、

 

数日後

 

「中佐!クロステルマン中尉がルッキーニ少尉のダウジング占いでジャンヌダルクになってしまいました!」

「……ルッキーニ少尉をここに呼んで」

 

ミーナはこめかみを押さえて頭を振った。

 

 

その数日後

 

「中佐! イェーガー大尉がルッキーニ少尉のダイス占いで、カラミティ・ジェーンになってしまいました!」

「ルッキーニ少尉を呼びなさい!」

 

ミーナはバンッと執務机に手を突いた。

 

 

またまた数日後

 

「中佐! 今度はリーネ軍曹がルッキーニ少尉のルーン占いで不思議の国のアリスになってしまいました!」

「ルッッッッッッキイィィィィィィニ少尉!」

 

ミーナは頭を掻きむしり、悲鳴を上げた。

 

その後、ありとあらゆるオカルト儀式が禁止になったのは言うまでもない。

 




ボツ話

数日後

「中佐!クロステルマン中尉がルッキーニ少尉のダウジング占いでジャンヌ・ダルクに、メビウスがジル・ド・レェになってしまいました!」

「ジャンヌウウウウウウウウウウ!!!」
「少し落ち着きましょうか。ジル元帥」

「……ルッキーニ少尉をここに呼んで」

ミーナはこめかみを押さえて頭を振った。


その数日後

「中佐! イェーガー大尉がルッキーニ少尉のダイス占いで、カラミティ・ジェーンに、メビウスがワイルド・ビル・ヒコックになってしまいました!」

「久しぶりじゃないかビル。気晴らしに()りあうかい?」
「いいねぇ、ジェーン。感覚を取り戻すにはもってこいだ」
「何を賭ける?」
「今夜の酒代」
「いいよ! 脳天撃ち抜かれても恨むなよ!」
「こっちのセリフというやつさ!」
「「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」」

「ルッキーニ少尉を呼びなさい!」

ミーナはバンッと執務机に手を突いた。


またまた数日後

「中佐! 今度はリーネ軍曹がルッキーニ少尉のルーン占いで不思議の国のアリスに、メビウスは……………………どう報告すればいいか分かりません!」

「ねえ。ここはどこかしら、リーネ(わたし)?」
「分からないわ、わたし(リーネ)。でも安心して、私たちにはお友達がついているもの」
「うん。そうだね」

「「ねえ、ジャバウォック」」
「ア■■■A■aa■■■■■ア■■AAア■■■――――――!!!」


「ルッッッッッッキイィィィィィィニ少尉!」

ミーナは頭を掻きむしり、悲鳴を上げた。

その後、ありとあらゆるオカルト儀式が禁止になったのは言うまでもない。

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