【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐ 作:skyfish
町を出てからフルスピードを維持し、5分もぜずに基地に到着、滑走路に着陸する。だがスピードを落とさず格納庫に入り、そしてストライカーをまるで靴下みたいに脱ぎ捨てた。それを見ていた整備員たちが「ああ!」と小さな悲鳴を上げていたがそんなことなど気にしなかった。
「状況!」
整備員に怒鳴りつけて今どうなっているか問い詰める。格納庫には基地に残っているはずの皆のストライカーが無くなっていた。自分が付く前にスクランブル発進したのだろう。ホーマーが地図を片手にやってきた。
「敵の位置は」
「『グリット東07地域 高度15000』でネウロイ反応が15分前に出た。そんで…おい! 今どこらへんにいるんだ?」
「少し待ってください………分かりました! 指令所が言うに今は隣のブロック08地域で2分後に会敵するだそうです」
受話器片手に言ってくれた整備員の言葉を聞き、すぐさま地図を見る。
「大陸の内部…ネウロイの拠点は?」
「ここだ」
ホーマーが万年筆で地図にバツ印を書く。そこと交戦位置を交互に見つめる。
「自分も出る。M61と13mm銃を用意してくれ」
「この前の敵はまだ出てきてないぞ」
「今回の交戦空域は敵拠点に近すぎる。もしもを考えて出たほうがいい」
すぐさまF-22Aストライカーに乗り込む。準備している間に整備員から13mm銃を背負い、M61銃を手に持つ。
コンテナで渡されたときに銃の中身を調べたが、手で持てるように改良されたせいか銃弾は全部で350発くらいしか装填できなかった。戦闘機相手だと20mm弾が有効であるが装填数が通常より少ないと速く弾切れになってしまう。エンジンやコックピットを狙えば十分かもしれないが、念を入れて以前使った13mm銃を持っていくことにしたのだ。
「遅れてシャーリーの奴らも帰ってくるからな」
「了解した。行って来い」
「メビウス1。出撃する」
灰色の猛禽は力強く羽ばたく。目指すはヨーロッパ大陸のガリアに広がる森があるほうへ。
レーダーを確認すると、大きい光点を取り囲むかのように小さい6つの光点が動いている。
向こうの無線が聞こえてくる。
≪トゥルーデ! 前に出すぎよ!≫
トゥルーデとは確かバルクホルンの仇名だったはずだ。これまでの闘いで彼女の腕の高さは理解している。だがそこまで無茶をするやつではなかったはずだが。
「妹さんがいるっていうのに、なにやってんだあのバカは…!」
バルクホルンとミーナの2人の会話を盗み聞きしてしまったとき、バルクホルンに妹がいることを知った。そのときに言った彼女はそれよりも戦うことを優先した。
祖国を取り戻すまではクリスに顔向けが立たない
そんなことを言っていた彼女の言葉を思い出す。それを頭の中で繰り返す。
「…チッ」
無意識に、メビウス1は自身ですら気づかず舌打ちしていた。彼は、彼女は、知らないうちに苛立っていた。あと10kmで交戦空域に到着する。
≪うあ!?≫
≪きゃっ!?≫
聞こえてくる2つの声。そして一筋の光線が伸び、爆発した。
≪ぐあぁっ!≫
≪バルクホルン!≫
「くそ! あのバカ!」
バルクホルンが持っていた銃にレーザーが当たり詰まっていた縦断が誘爆した。メビウス1は落下する彼女を見つける。すぐさま自分も急降下を開始。彼女のすぐ横に着くように減速をかける。ジェット機のスピードだと速すぎる。ケガをした彼女の体の負担にならないように落下速度を合わせようとする。
「もうすこし……抑えて…抑えて」
口から自然と声が漏れる。相棒に乗った状態で落下している人を捕まえるなど、元の世界では絶対にできないことだ。メビウス1は今まで養ってきた集中力を駆使してバルクホルンを捕まえ、負担をかけないように止まった。
地面まであと約50m。ギリギリのところだった。
「おい! 聞こえるかバルクホルン!?」
「う…あ…」
息はしているが返事がない。気絶しているだけだと思うがそれよりも深刻なのは胸のあたりにある傷だ。服が血で赤く染まっている。傷の状態が気になるが両手がふさがっているため分からない。しかし、胸が被弾箇所ならもし肺にまで達していたら重症だ。
「こちらメビウス1。バルクホルンは胸に被弾、はっきり分からないが重症の可能性あり! どうすればいい? 医療道具をもっているやつは!?」
「メビウスさん! 私は治癒魔法があります。治してみせます。必ず!」
「わかった。メビウス1と宮藤はバルクホルンを連れて戦線を離脱する。敵を近づけさせないでくれ」
「私が護衛します!」
「頼む」
護衛を申し出たペリーヌも加わり4人は下に広がる森林の中へと降りて行った。
地面に降りすぐにバルクホルンを寝かせる。血でまみれた上着を取ると傷の状態が分かってきた。上着で隠れていたせいで気づかなかったが小さな金属片が彼女の胸に刺さっている。
「こいつはひどいな。宮藤、頼む」
「はいっ」
すぐさま宮藤はバルクホルンに刺さっている金属片を抜き取る。
「うぐっ!」
「気づきましたか。動かないでください、いま治療します!」
金属片を取ったときの痛みでバルクホルンが目を覚ます。取った後出血の勢いがあがったが宮藤の治癒魔法でその勢いも治まる。これなら傷も治るだろう。
だがその安心を消すかのように無線が入ってきた。
≪メビウス。基地からの報告でガリアの巣から何かが4機高速で接近中!≫
「やはり来たか。ペリーヌここを頼んだ」
「任せてください!」
相棒に乗り込み各種のチェックを済ませる。急いで飛ぼうとするが
「待て……」
バルクホルンの言葉で止められた。見ると彼女は痛みのせいか顔を歪めながらもメビウスのほうを見ていた。
「何故私を助けた? ……私のことなんか気にせず貴様が戦っていればあのネウロイなど…」
弱弱しい声でバルクホルンは呟く。メビウス1は彼女を言葉を静か聞く
「お前たちも、私のことなどほうておいて行け。……その力を敵に、使え…!」
「いやです。必ず助けます!」
「たった1人の妹を、クリスを守れなかった私などどうでもいい。私の命など捨て駒でいいんだ…」
バルクホルンは目を閉じる。もうここで死んでもいいと諦めたような、覚悟を決めたような顔で。
「ふざけんじゃねえよ。小娘」
それにメビウス1が待ったをかけた。
「なに…?」
「自分の命はどうでもいい? 総撃墜数200越えのエースがそんなことを言うなんてな。………じゃあ聞くが、お前が死んだら妹さんは、クリスちゃんがどんな顔をするか、分かってそんな戯言を言ったのか!!!」
宮藤、ペリーヌ、バルクホルンは驚いていた。あのメビウスが怒っている。静かなイメージが強いメビウスが、顔を憤怒の形相に変えて。3人は黙っていた。いや黙っているしかなかった。怖いとかそんなんじゃない、別の何かを感じさせたから。
メビウス1は自分がバルクホルンに対してひどく怒っている理由が今になって分かった。自分とは違い、大切なもの、家族がいるのにそれをないがしろにしている彼女が許せなかったのだ。
「………あるエースパイロットがいった言葉だ」
メビウス1は自分を落ち着かせようとする。いつもの表情に戻ったがその眼は怒りに染まったままだった。
「『エースは3つにわけられる。“強さを求める者”“誇りで戦う者”“戦況を見極める者”この3つだ』とな。………これらのエースから英雄が生まれるが必ず条件がある。それは“生き残ること”だ」
大陸戦争の戦局が大きく変わる先駆けとなったミッション『ストーンヘンジ攻撃作戦』。そのときにきこえた無線。
≪犬死するな。生き残ってこそ英雄だ≫
今でもあれを言った人物がだれか分からない。だが鮮明に思い出せる言葉だ。
「別に英雄になれとは言わない。だけど簡単に命を投げ出さないでくれ。残されるものの気持ちを考えてほしい」
≪4機こちらに接近中! メビウス、何をしている!? 早くしてくれ!!≫
美緒から通信が聞こえてくる。
「たった一人の家族だろう? 彼女のためにも死んじゃいけないんだお前は…」
メビウス1はバルクホルンを見つめる。先ほどは怒りの目で見ていたが、今は悲しそうな目で彼女を見つめる。
「クリスを1人にするな。あんな思いをするのは、俺一人だけで十分だ」
それだけを言い残しメビウスは飛び去って行った。
「あいつは何故あそこまで」
「メビウスさん……過去になにかあったのでしょうか…?」
「……………随分前に言ってました」
「ペリーヌさん?」
宮藤とバルクホルンの疑問に代わりにペリーヌが答えた。
「メビウス少佐の家族は……彼女が軍に入った年に全員災害で亡くなっています」
「え…」
「それにこんなことも言ってました」
「こんなこと?」
「『ネウロイに殺されたほうがマシだったかもしれない。怒りの矛先を向けられたのだから』………と」
「ネウロイに殺されたほうがよかったって、そんなのあるわけ………」
宮藤はそれを否定しようとする。ネウロイと災害は違いすぎる。その二つを一緒で考えるものじゃないと思ったからだ。
「メビウス少佐の考えに口出しする権利は私たちにはありませんのよ。でも自身の肉親…大切なものを失ったからこそあんなに怒ったのでしょう」
「…………そう、か」
「バルクホルンさん?」
小さく呟くバルクホルン。彼女はメビウスがなぜあんなことをしたのかを理解した。1人残された悲しみと苦しみを知っているメビウスは自分と同じ思いをする人を出したくなかった。その一心であそこまでした理由を知った。
そして、自分がどんなに愚かだったのかを。
そうだ。自分はまだ死ねない。
祖国を取り戻すためにも
仲間のためにも
クリスのためにも
そして、自分自身のためにも―――――!
「宮藤、早く傷を治してくれ」
「あ、はい!」
「あの敵は、私が倒す」
バルクホルンは上空でミーナたちが戦っているネウロイを睨む。
彼女の目には、もう迷いはなく、決意の炎が宿っていた。
メビウス1は接近する機影4機をレーダーで捕捉していた。速さからしてこの前のジェット機と同じに違いない。次第に目標が見えてきた。ヘッドオン。敵機の正面にAMRAAMを4発撃ちこんだ。中央にいた2機に命中。左右にいた2機はフレアとチャフを散布し、その機体の高い機動力でミサイルから逃れた。
「あの機動性、カナード付きのデルタ翼……タイフーンか!」
ハルトマンが買った模型のモデル、タイフーンと同じ形をした黒色のネウロイだった。あの機動性にはF-22でも手を焼かせる。あれに取り付かれたらかなり厄介だ。
「すぐに仕留めるしかない」
近くにいるもう1機のタイフーンに接近、照準を合わせる。
「インガンレンジ『Waring Waring!』!?」
ロックオン警告がなる。後ろを見ると背後にもう一機のタイフーンが後ろを取っていた。
「チィッ!」
思わず舌打ちをする。すぐさま右上に上昇、回避運動を取る。だが後ろの敵は執拗に後ろを取り続ける。
「こいつ! しつこい!」
後ろの敵との距離は機銃の射程内に入っているのに撃って来ようとしない。それどころかさらに接近しようとバーナーをふかしている。まるで絶対の間合いから仕留めようと見える。
「確実に私を殺すつもりか! なら、ついてこい!」
メビウス1はスピードを上げ、タイフーンとの距離を離す。それに対し敵も距離を離さまいと加速する。ミサイルを使う気配はない。機体の性能を活かしてあくまで機銃で仕留めるようだ。しかし何故だろうか。この戦法、すでに知っている気がする…?
「なんだ? どこで見た? 思い出せ…思い出せ…」
動きながらもメビウス1は必死に思い出そうとする。
浮かび上がるのは暗くなった夜空
一斉に灯された都市の明かり
大通りで繰り広げられる敵味方入り混じっての戦車戦
その上空でそれ以上の戦闘機たちが暗い夜空の中を飛ぶ光景―――
その中にいた。あのタイフーン―――!
「あの動きは…まさか『オルムステッド』!?」
ありえない。そう思うメビウス1だったが今まさに彼女を追い詰めいているタイフーンの動きはあの時の動きと同じだった。
オルムステッド
エルジア軍のエースパイロット。サンサルバシオン解放作戦でF-22Aに乗り換えたメビウス1と対峙。戦闘の末、メビウス1が撃った弾が取り付けてあったミサイルに着弾。誘爆し機体が爆散した。記録では戦死となっている。
思い返せばあのMig-29も見覚えがあった。
そうだ。思い返してみればあのときのMig-29の動きも自分は知っている。コンベース港の石油タンク精製所と備蓄施設を破壊するミッションで出会った。
マルコス
エルジア軍のエースパイロット。彼も戦死となっている。
だが、なぜこの世界にいるのか? 最初は自分と同じようにこの世界に飛ばされたのかと思ったがそれはなかった。Mig-29――マルコスとおなじ動きをする機体のコックピットを狙ったが人なんていなかった。ということは、ネウロイが彼らを模倣している。そう考えるのが妥当だ。
「っ。 それよりも・・・!」
未だに後ろから迫ってくる敵を見る。やはり動きは『オルムステッド』にそっくりだ。
自身の速度はマッハ1.9ほど。タイフーンはマッハ2で距離を詰めてくる。
(確かあの敵の間合いは…)
急いであの時の戦闘を思い出そうとする。メビウス1にとっての強みは一度敵エースと戦っていることだ。
ネウロイはどんどん近づいてくる。そして
「今だ!」
敵の間合いを思い出しバレルロールを行った。敵の銃弾が何もいない場所を通過する。その射線上にもう一機のタイフーン型ネウロイ。銃撃をまともにあびたネウロイは蜂の巣になり墜ちていった。
味方を誤射してしまったからか、敵の動きが止まる。残った1機の後ろに回り込みながらメビウス1は横目でそれを見る。
(思った通りだ。あのネウロイは『オルムステッド』を真似ている)
記憶を頼りにオルムステッドの間合いで回避してみたらドンピシャだった。そして、別の怒りが生まれる。
「お前がどう思っているか知らないが…」
アフターバーナーを点火。最後の一機に接近する。
「死んだ奴を真似るな」
戦闘機パイロットそれぞれ飛び方は異なる。エースになるとそれは顕著に表れる。その飛び方ひとつひとつがパイロットの生き様、誇りだとメビウス1は思っている。だからそんなことを知らないネウロイがそれを真似るのは同じ戦闘機パイロットとして許せなかった。
「消えろ!」
あのときと同じようにコックピット部分を狙い、引き金を引いた。
飛び散る破片。そしてコアが姿を現す。そのまま全弾使いコアを破壊した。もう二度と真似されないように。
「敵ネウロイ4機撃墜。レーダーに反応なし。基地のレーダーは?」
≪こちらでも確認しました。接近するネウロイ反応はありません。お疲れ様でした≫
「ええ。あとはあのでかぶつだけだけど―――」
見ると白い光が生まれ砕けたガラス細工のように消滅した。どうやら彼女たちがやったようだ。
「敵ネウロイの沈黙を確認。帰還する。RTB」
メビウス1とミーナたちは基地へと戻った。
7月8日
バルクホルンは身支度を急いで済ませる。昨日の戦闘が終わった後ミーナに休暇をお願いしたのだ。理由はもちろんクリスに会いに行くため。
「バルクホルンさ~ん。ハルトマンさんが待っていますよ~」
「ああ。今いく」
部屋を出て廊下を歩くと通路の隅のほうにメビウスがいた。
「メビウス…」
「クリスちゃんに会いに行くのか?」
「ああ」
会話が進まない。別に悪い雰囲気ではないのだが。
「メビウス」
「なんだ?」
「あのときはすまなかった。そして、ありがとう。私にも大切なものがやっと分かった」
「そうか。バルクホルン、これを」
そう言いながらメビウス1は手にしたものをバルクホルンに見せ渡す。それをみたバルクホルンは少しばかり驚いた。
「な、なんだこれは?」
「千羽鶴だ。故郷のノースポイントで病人の早い回復祈って贈るものだ。もっとカラフルにしたかったが紙が無くてな」
メビウス1が最近まで一人で作っていたもの。それは千羽鶴だった。ノースポイント文化の一つで有名な折り紙であり、最も有名な折り紙である折り鶴を1000羽作り、糸などで綴じて束ねたものである。長寿のシンボルでもある折り鶴を1000羽折ることで、病気快癒・長寿がかなうという俗信があり、入院者への贈り物などとしてよく用いられる。これの起源はじつのところ分からない。1970年代以降に生まれたことは記録に残っているが、いつ、だれが、誰のために作ったのかが一切謎である。だが千羽鶴は人々の間に浸透し誰もが知っている折り紙となった。
メビウス1が作った折り紙はそのほとんどが新聞紙で、少しばかり色のある紙がある。なんとか物足りなさを紛らわすためにランダムに色の突いた折鶴を入れてある。
「クリスちゃんに渡してくれ」
「分かった。ありがとう。クリスもきっと喜ぶだろう」
バルクホルンはメビウス1に礼を言い、ハルトマンが待つ車のほうに走って行った。
それを無言で見送りながらメビウス1は自分の部屋に入る。内側から鍵をかけて厨房から無断でくすねたもの―――ノースポイントのお酒と風味がよく似る扶桑酒をグラスに注ぎそれを飲み干す。
昼間からお酒を飲むことをメビウス1は絶対にしない。だが今日だけはメビウス1にとって許されていた。
「―――Everyday I wake-up unsure―――」
メビウス1は1人歌い始める。大陸戦争が終わった次の年に作曲され、瞬く間にユージア全土で愛されるようになったあの歌を。
空を見ながらメビウス1は歌い続ける。
その目には、一筋の涙が流れていた。
どんどん更新速度が遅れているのが最近の悩み。
それと最近思ったこと。
ガンダムシリーズでの最初のほう(初代、Z、ZZ、逆シャア)はストーリーも絵も最高と思うのは気のせいだろうか?
言っときますが私がガンダム知るきっかけは種です。ガンダムファンから見れば新参者だと思うが、それと比べると昔のほうが絵は古く見えても面白く見えてしまう今日この頃。
ガンダムシリーズ各作品、賛否両論だとおもう。そのなかでAGEはガンダムシリーズで初めて絵で堕ちてしまった作品と思うのは私の気のせいだろうか?(AGEファンの皆さんごめんなさい)
最後まで見ていただきありがとうございます。4