【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

31 / 48
専用BGM「Comona」


第26話「パ・ド・カレー上空戦‐君を忘れない‐」

8月27日

 

基地にネウロイ来襲の警報が響き渡った。ウィッチ全員がブリーフィング室に集まる。

 

「ガリアから敵が侵攻中とのことです」

 

「今日は珍しく予想が当たったな」

 

いつもは外れる予測が当たる。本来は当たるのが当たり前なのに最近の不規則な襲撃のせいで皆予想通りになるとは思わなかった。

 

「それで、進路は?」

 

「現在高度15000m。進路は真っ直ぐ基地に向かって来ているわ。現在基地上空にいるスカイアイさんからの情報だと敵は1機。形状はキューブ型。大きさは300mくらいだそうよ。」

 

「よし、バルクホルンとハルトマンは前衛。ペリーヌとリーネは後衛。宮藤は私とミーナの直援に当たってくれ。他は基地にて待機!」

 

「了解!」

 

 坂本の号令で呼ばれた7人は格納庫に向かい、大空へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ドーヴァー海峡上空

 

「敵機発見!」

 

美緒は魔眼でネウロイの姿を捉えた。

 

「報告通りだな。さすが未来の技術と言ったところか」

 

スカイアイの情報通り敵は300mクラス、巨大なキューブ型のネウロイだった。今までレーダーに捉えた敵は大中小の大きさは分かるが正確な大きさとその形状まではっきりと分からなかった。それを私たちの後方30kmの基地上空から探知、さらに戦っている者に戦闘状況を把握・伝達できるなどすごいの一言では片づけられない。しかもその効果範囲がまだまだ余裕があるというから驚きを隠せない。

 

「わかったわ。全機! いつものフォーメーションにて突撃!」

 

 出る前に言われた編制に別れて行動に移る。とネウロイに変化が起こった。

 

「え!?」

 

「分裂した?!」

 

先制攻撃をあたえようとしたバルクホルンとエーリカの目の前でネウロイは突如小型のキューブ型に分裂した。

 

「右下方80、中央100」

 

≪左30。合計210だな。ロッテを組んでいるものと単機で動いているやつがいる≫

 

遥か後方にいるスカイアイさんから敵の動きの詳細が伝えられる。あれほどの数を把握するとは彼女の能力は底知れない。

 

「スカイアイさん。報告だとネウロイのコアの位置が分かるそうですがどうですか?」

 

≪すまない。どれも同じ反応なうえ数が多い≫

 

「となると、あれをしらみつぶしに叩いていくしかないか」

 

「美緒は私と共に敵のコアの捜索を、宮藤さんは私達の直衛に。バルクホルン隊は中央、ペリーヌ隊は左をお願い。スカイアイさんは周辺の警戒をよろしくお願いします」

 

「了解!」

 

≪もしもの時は任せろ≫

 

ミーナの指示に従い、それぞれに散らばる。

 

≪バルクホルン機、前方にネウロイ郡約30機≫

 

「了解。いくら数ばかり多くても!」

 

バルクホルンは手にした銃を乱射する。数機を撃墜され銃弾を避けようと動く。それを誘導だと気付かず一つに集められた瞬間上空から接近してきたハルトマンの銃撃を喰らった。ネウロイは慌てて回避行動をとるが各々で動きがバラバラのせいで空中衝突を起こすものも出た。そんなことお構いなしに攻撃し、そのほとんどを撃墜する。

 

「やりー♪」

 

≪気を抜くのはまだ早い。新たな敵機が君たちを包囲しようとしている≫

 

「了解した。支援感謝する。いくぞフラウ」

 

はいはーいといい、全速力で2人は散開した。

 

 

ペリーヌの周りを複数のネウロイが囲んでいた。それを見て怪訝そうな顔をしながら彼女は目を閉じ集中する。

 

「トネール!」

 

雷撃魔法で彼女の周りを囲んでいたネウロイを一掃する。そして、仕留め損ねた敵をリーネが狙撃した。

 

 

任された場所で皆が能力を使い1つまた1つとネウロイを撃墜していく。だが、いくら数を減らしても全体でみるとあまり変わらない。やはりコアを破壊する以外勝利はなく、坂本は魔眼を使いコアを探した。

 

「どう坂本少佐。コアは見つかった?」

 

「いや、どうやらあの中にはいないようだ」

 

「そう」

 

このまま長期戦に持ち込まれるとこちらが不利になる。と宮藤が前方を指差した。

 

「ミーナ中佐! 坂本さん! 敵がこっちに来ます!」

 

 交戦していた敵の一部がこちらへとやってくる。指揮系統を無くすための行動なのか、それともそんな意味など無いのか分からない。一部、といってもその数は20を超えている。コアを探している坂本さんの邪魔をさせないためネウロイと彼女たちの間に入る。

 

 銃を構える。が通信が入った。

 

≪その敵は引き受けた≫

 

何かが高速で急降下し通り過ぎる。前方にいたネウロイ2機が突如真っ二つに切り裂かれた。通り過ぎた影を見る。メビウス1とオメガ11だった。

 

「どうしてここに? 基地に待機のはずだろう」

 

≪私の独断で出撃させた。下を見てくれ≫

 

スカイアイの言う通り私たちが飛んでいる下を見る。海の上だと思っていたが、私たちは気づかないうちにヨーロッパ大陸の海岸線まで近づいていた。

 

≪それ以上だと間に合わないと判断した。罰則なら後で受ける≫

 

 スカイアイは謝るが彼女の判断は正しい。射程距離が100㎞を超えるミサイルに先制攻撃をされたら絶対に間に合わない。いくら速度が出る機体でも飛び立ってから交戦空域まで辿り着くのに時間がかかる。その間に被害が出ているだろう。

 

≪それにミーナ中佐。昨日はすまなかった。メビウス8が迷惑をかけた≫

 

「………いえ。私は別に」

 

≪彼奴も貴女と同じだ。あの戦争で部下を目の前で亡くしている≫

 

「亡くなってるって……」

 

 意外な言葉に宮藤は言葉を失う。美緒は何も言わず。ミーナも同様だった。いや、昨日のオメガ11とのやりとりからなんとなく分かっていた。

 

≪スカイアイ≫

 

≪……ああ。分かっている。それよりもこっちが優先だ。メビウス隊、交戦を許可する。可能なかぎり弾薬の消費は抑えろ≫

 

≪了解。散開するぞ。メビウス1、交戦≫

≪メビウス8、交戦≫

 

 2人は編隊を解き、各個撃破に動き出した。

 

 

 

 

 

 

「敵機約150機か。コモナ防空戦を思い出すな」

 

メビウス8は呟く。大陸戦争でユージア大陸に戻るために必要不可欠だった偵察衛星の打ち上げ。それを阻止しようとエルジアは戦闘機・爆撃機の大部隊を投入した。それに対しISAFも出せる航空戦力と艦隊を集結させた。航空機だけでも敵味方ともに200機を超える数がコモナ諸島上空で繰り広げられた戦争史に名を残すことになる大空中戦。

 

当初ISAFはイージス艦の対空能力も加えて敵勢力の迎撃として島周辺に展開させた。が戦闘が始まると予想していなかったことが起こった。それはあまりにも数が多すぎてレーダーが役に立たなかったのだ。しかも戦闘開始直後で撃ち落とそうと放ったミサイルが味方に当たるという事態に陥り、さらなる被害が出るのを避けるため攻撃中止になった。

 

また、それ以上に上空の戦闘は混乱を極めた。敵味方関係なく機体の空中接触や衝突。あまりの入り乱れように両軍の空中管制官が指示を諦めたくらいだ。スカイアイもその一人であり、これを機に日々精進している。

 

そして、この戦闘で隊長、メビウス1が頭角を現すことになったことを忘れてはいけない。

 

「さて。真面目にやりますか」

 

メビウス8は持つ得物を構える。しかしそれは銃ではない。彼女が持つのは2mを超えるハルバード。メビウス1のように近接武器がほしくなり整備員に聞いたところこれがあったので拝借した。剣も勧められたが両手持ちのほうがいいと断っている。銃はMG42を二丁借り背負っている。例のジェット機型が来るまで温存する考えだ。

 

「せい!」

 

 ハルバードを振りかぶり一気に接近、振り下ろす。ネウロイが避けようと動く前にメビウス8の一振りで一度に3機を仕留める。

 

「次!」

 

 メビウス8は新たな得物を探し機体を加速させた。

 

 

 

 

 メビウス1は扶桑刀を左手に持ち一機、また一機と少しずつ着実に仕留めていた。右腕にM61機関銃を装着し13mm機関銃を一丁背負うが8と同じようにジェット型が来るまで可能な限り温存する。

 

≪メビウス1。後方から10機≫

 

スカイアイからの報告を受け後ろを見ると、ネウロイが10機俺を追ってきている。こちらの速度についてくる個体もいるのだなと改めて確認した。急降下それらを振り切るふりをする。案の定追ってきた。速度はそのままで、高度を下げる。

 

高度3000……2000……1000………500……………

 

機体を水平に戻す。高度はすでに50フィートをきっている。メビウス1が通った海面に水しぶきが上がる。それにかからないよう敵は追ってくる。メビウス1は少しずつ速度を落としていた。自分と敵との間が詰まる。一定の距離まで近づいたのか、ネウロイが攻撃を始めた。撃ってきた赤いレーザーが海面に着弾し水柱が上がる。

 

≪メビウスさん! アフターバーナーというもので振り切って!≫

 

「これでいいんだ!」

 

見かねたミーナからの通信を大声で言い返した。レーダーと自身の眼で敵を確認する。

 

「ここ!」

 

水力偏向ノズルを利用しストライカーを90度に上げた後、アフターバーナーを点火した。ロケットの打ち上げよろしく垂直に上昇する。その推進力により発生したエンジンの噴射を盛大に受けた海面から海水が爆弾の様に巻き上げられた。

 

追っていたネウロイから見ればいきなり海水の壁が現れたことに驚いただろう。すぐさま緊急回避をするが追ってきた10機のうち7機が突っ込み失速。海へと落ちた。先ほどの目くらましで完全にメビウス1を見失った3機は動きが鈍る。それを見逃す彼女ではない。

 

「インガンレンジ、ファイア!」

 

右腕のM61機関銃が火を噴く。引き金を引いた時間は1秒も満たない。だが十分すぎるほどの銃弾が放たれ標的のネウロイを蜂の巣にした。

 

「スカイアイ。指示をくれ」

 

新たなネウロイを落とすためスカイアイに指示を仰ぐ。

 

 

 

 

メビウス1は気付いていない。

 

 

 

先ほどの機動で高Gが発生していたにも関わらず、それに見合った負担が身体にも機体にも無かったことに

 

 

 

 

 

 

 

 

「………すごい」

 

目の前で繰り広げられる戦闘を見て宮藤はただただそう呟いた。もちろん501部隊の人たちの実力もすごいがメビウスさんとオメガさんも一騎当千と言っても過言ではない。やはり機体の性能の違いが如実に出ているのだろう。ネウロイの総数は正確には分からないが宮藤から見てもあと半分だということが分かった。でもまだコアを発見できていない。

 

通信が入ってきた。

 

≪メビウス隊。方位180から高速で接近する機影を確認。数は7≫

 

≪おいでなすったか≫

 

≪了解した。これより迎撃に向かう。いくぞ8≫

 

了解、オメガさんはいい2人は合流。高度を上げて私たちから離れて行った。

 

 

「向こうは二人に任せよう。だが」

 

「ええ。これ以上はこちらが不利ね」

 

ミーナたちが呟く。戦闘が始まってからすでに20分は経過している。予備の弾倉を持ってきているとはいえこれ以上時間をかけると弾切れを起こすかもしれない。

 

宮藤が何かを感じ取り、上空を見上げた。

 

「! 上!」

 

「なに!?」

 

宮藤が上空から逆落としを仕掛けるネウロイを発見し、坂本も振り向く。が、太陽の光のせいで見えない。

 

「行きます!」

 

宮藤は坂本の前に移動し、彼女を守るようにシールドを張り手に持つ機関銃を発射する。放たれた大量の12.7mm弾は、五機のネウロイを粉々にし、白い破片へと変えた。

 

「いいぞ。その調子で頼む」

 

 毎日の訓練の成果が出ている宮藤を見て、坂本は少し微笑む。と

 

「! いたぞ!」

 

 今彼女たちの脇を通り抜けた一機。その中心部にコアがあるのが見えた。

 

「あれね?」

 

「ああ」

 

「全隊員に通達。敵コアを発見。私達が叩くから、他を近寄らせないで!」

 

『了解!』

 

この戦闘に勝つため、彼女たちは疲れている自身の体に喝を入れる。

 

「行くわよ!」

 

「了解!」

 

 ミーナは坂本と宮藤と共にコアを追う。ネウロイは追われるも不規則な動きで逃げつづける。が、坂本、ミーナ、宮藤の3人から放たれる弾幕のすべてを避けきれず、一発がかすめた。

 

「宮藤。逃すな!」

 

「はい!」

 

被弾し動きが鈍くなったネウロイを逃すまいと追いかける。そして、コアに狙いを定めて引き金を引いた。ありったけの銃弾を受けたコアは白い破片となって砕け散った。

 

一見綺麗に見えるそれは銃弾の雨のようなもの。シールドを張りそれを防ぐ。しかし

 

(っ!?)

 

「! 美緒!」

 

砕け散った破片の一つが坂本のシールドを突き破り、坂本の側頭部をかすめた。

 

 

 

 

 

 

 

作戦が終了した後、ミーナは1人廃墟となった街に降り立った。

 

ここはパ・ド・カレー。ブリタニアとヨーロッパ大陸との交通の要所としてかつて栄えた港湾都市。ブリタニアへの撤退作戦の最終重要拠点であり、民間人の避難に時間を稼ぐため多くの軍人たちが殿を務め、命を落とした激戦地である。

 

そしてこの場所が、ミーナの恋人、クルト・フラッハフェルトが亡くなった場所。

 

 

 ミーナは廃棄された車に近寄った。人がいなくなってから3年手つかずのままだったせいだろう。車全体に錆が広がっている。まだ、彼がいたころに同じ車に乗ったことがある。これがその車なのか確認できるものがない。別の人が使っていたものの可能性が高い。なのにどこか懐かしい感じがするのだ。錆びついたドアは軽く引いただけで簡単に開く。

 

「……あ」

 

 そこには赤いリボンのついたかすみ色の包みが、運転席の上に鎮座していた。彼女に見つけてもらうように置いてあった。包みを開ける。その中にあったのは一通の手紙と赤いドレス。

 

ミーナは、それを残したのが誰なのか、分かった。

 

(クルト……)

 

共に音楽の道を志し、しかし戦争の影響でミーナは音楽の道を諦め、彼女だけを戦わせないと彼も音楽を捨てて彼女の整備兵となり、そしてこの地で散った。

 

「クルト……」

 

涙が頬を伝う。その雫は抱きしめるドレスを濡らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちのいる場所から南の方角100㎞の空域。その場所でメビウス隊とそれらは闘っていた。だが、その戦闘は傍から見て戦術・戦略なんてものが見られなかった。何故なら―――

 

≪メビウス1! 何故攻撃しない!?≫

 

「…………ッ!!!」

 

≪クソこいつら! 隊長ばっかり付きまといやがって!≫

 

メビウス8はM42をそれに向けて引き金を引く。何発か被弾させるが、それはすぐに再生した。それを見たメビウス8はある事実に驚く。

 

≪こいつも再生した。まさかこいつら全員コア持ち?≫

 

 今まで複数編隊を組んだジェット型ネウロイを相手したが、どれも一機のみ。そして、エースパイロットを真似たやつだけだった。それをメビウス8は耳にしていた。

 

だが―――

 

今相手をしているそれらの飛び方はまったく知らないやつだった。そして、それら全機がメビウス8を無視。7機全機がメビウス1に襲い掛かっていた。

 

 

≪メビウス1! 一体どうしたんだ!?≫

 

 

8はメビウス1に怒鳴る。メビウス1は自分に襲い掛かる敵を見た。その顔はいつもの彼女ではなく、苦悶の表情に歪んでいる。

 

「………違う」

 

小さく呟く。M61機関銃を隙だらけの一機に照準を合わせる。そして、引き金を――――――――――引けなかった。手が、震えていた。

 

「違う。違う違う違う違う――――ッ!!!」

 

 

 

メビウス1はそれらと会敵して、すぐに分かった。

 

エルジアのエースパイロット? 黄色中隊?

 

どちらも違う。

 

その飛び方をメビウス1は誰よりも知っていた。

 

だって、一番長く自分の隣を飛んでいたのだから

 

 

 

 

 

 

 

メビウス1に襲い掛かるその機種は

 

 

 

F-2A バイパーゼロ 

 




あえてノーコメント

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。