【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐ 作:skyfish
そして、黄色い風が蘇る
ベルツは執務室である資料を漁っていた。それは今日501基地に訪れるウィッチ、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユについての資料とストームウィッチーズの資料である。
昨日、彼女がこのロンドンに来ているという情報を耳にしたとき正直に驚いた。なにせ彼女はウィッチの中で一番の有名人といって間違いない。そんな彼女が来ているという情報が人々に知られればいろんな意味で大混乱になるだろう。故に、情報が漏れないように統制していたため、いろいろなコネを持っている彼でも知ったのが直前だった。さらに彼女はメビウスに用事があるという情報もあったため、不思議に思い彼女の経歴を見ているのだった。
そして、1943年の作戦の戦闘被害の詳細に目が止まった。
「1943年当時のリベリオン試作重爆撃機B-29編隊による高高度からの絨毯爆撃。航空部隊に敵を低空へ誘導、その後高高度で爆撃部隊が浸入し敵を殲滅する作戦……か」
作戦内容を読み上げた後次の欄に書いてある文字に移る。そこに書いてあるのは『失敗』の文字。
作戦は順調に進んでいたそうだ。だが肝心の爆撃部隊が全滅。作戦中止になった。そして、そこに書かれている内容に彼は顔をしかめる。
「ネウロイによる長距離空間砲撃……?」
その言葉に彼はある光景を思い出す。それは生前に見たあの光景だ。しかし、すぐに自分の思い違いだろうと考える。仮に先ほどの推測が当たってたらとっくにアフリカ戦線の部隊は壊滅しているからだ。そして、彼らだけであの兵器を破壊できるとは不可能である。
しかし、その後の資料を漁ってもそれきりその攻撃記録が全くない。
「なにか、あるな」
確証はないのに、彼の中では何かを確信していた。
そして、501基地内 管制塔
「宮藤さんがネウロイに接触したのは間違いないわ」
管制塔にいるミーナはサーニャの魔道針の結果を坂本たちに伝えた。
「でも、そこから先はサーニャさんも分からないって」
「すいません」
≪スカイアイのほうはどうなんだ≫
≪メビウス1の返事が来ない。宮藤軍曹と接触してからレーダーの反応が無くなった。一体どうなってる≫
メビウス1が撃墜されたわけではない。レーダーが壊れたわけでもジャミングを受けてる様子もない。こんな状態は初めてだった。
≪オメガだ。自分も出撃するか?≫
滑走路に待機しているオメガさんから通信が入る
「いいえ。オメガさんはここに残って。敵が一機とは限らない。これ以上戦力の分散は好ましくないわ」
≪確かに一理ある。だが、なんだこの胸騒ぎは……?≫
メビウス8の第六感が何かを告げていた。
「くそ。一体なにが」
坂本たちが宮藤とネウロイがいる場所を目指して飛んでいる。1人で先行した宮藤と追ったメビウスとの連絡が取れない。あのスカイアイの能力をもってしても2人を捕捉できないなんて。
と、思っていると遥か前方で火球が生まれた。よく見ると複雑に絡み合う飛行機雲が生まれては消えてを繰り返していた。
「なんだあの爆発は!? まさか宮藤のやつやられたんじゃ」
坂本は魔眼を使い神経を集中する。見えてきたのは宮藤の姿。そしてその先では戦闘が繰り広げられている。おそらくメビウスが戦っているのだ。それもかなりの機動で飛んでいるのが分かる。坂本は敵の姿を見ようとさらに神経を集中した。
「メビウスが戦っている。敵は―――馬鹿な!」
坂本は魔眼で敵の姿を捉えた。同時に見えたものを否定する。
「どうした少佐。なにが見えたんだ?」
バルクホルンが坂本に聞く。だが彼女はまだ困惑していた。
「敵は………ネウロイだ、ウィッチの姿をした」
「ちょっと待って。メビウスたちのようにジェットストライカーってこと?」
坂本は答えなかった。つまりは肯定。だけどまだ何か困惑しているように見えた。
「まだ、なにかあるのか?」
「ああ。だが、正直見えたものが信じられない。一体なんの冗談だ」
坂本が皆に言おうとしたとき。宮藤が手に持つ銃を構えたのを見た。
「! ダメだ宮藤! 撃つな!!」
美緒は出せる限りの大声で叫んだ。しかし、それは宮藤に届かなかった。
今まで以上の機動で動き回る。それでも俺は黄色の13の後ろを取れないでいた。Su-37はステルス能力がない代わりに高い機動性を誇る機体だ。そして、それはF-22ラプターを上回る。だが、それでも自分は長く黄色中隊のSu-37と戦ってきた。今では彼の部隊の十八番であるコブラ機動もできる。だから、俺は奴に後ろを取らせた後コブラを実践。オーバーシュートを成功させた。兵装、AIM-9短距離空対空ミサイルを選択。AIM-9の弾頭が作動し、Su-37のエンジンから放たれる赤外線を捉える。
「FOXツ―――何!」
ミサイルを発射しようとした瞬間。黄色の13はフレアを放出させた。フレアの赤外線レーダーを惑わす熱量を出されたおかげで目標を見失い、その隙に黄色の13はロックオン範囲から逃れていた。そして、メビウス1は黄色の13の実力に背筋が凍った。
(こいつ、ロックオンのタイミングを見切ったのか……!?)
驚愕するもすぐに頭を切り替える。いつまでも引きずっていたらやられてしまう。それは戦場の常識だ。そうしている間に後ろを取られたら自分が落とされる。奴の後ろを取り直し13mm機関銃を構え、撃った。しかし、その銃弾を黄色の13は余裕で躱す。
「くそっ、初速が遅すぎるこのションベン弾め!」
13mm機関銃は当たればジェット戦闘機にもダメージを与えられる。しかしやはり技術の問題でその弾速と初速はM61と比べ圧倒的に劣っていた。天と地では済まない。月とすっぽんくらいの差だ。
すると追われる形になっていた黄色の13は急降下を始めた。自分もそれに続く。俺と奴が直線に並ぶ。これならこの銃でも当たるかもしれない。俺は照準を合わせた。そのとき、後ろを向いていたはずの黄色の13が反転急停止。完全に向き合うと同時にその手に持つ銃が火を噴いた。
「な!?」
突然のことに驚きバレルロールで銃撃を躱し、黄色の13の横を通り過ぎる。後ろを確認すると奴はまた反転し今度は俺の背後を完全にとっていた。そうして何が起きたのかようやく理解する。
「クルビット……!」
クルビット。戦闘機機動であるコブラの応用技。コブラは機体を垂直にしてから前に機首を倒すが、これは機体を一回転させる。Su-37のような特に優れた機動性と失速時の操縦性を持った機体だからこそ可能な空戦機動だ。自分が乗るラプターでも可能だが、一度もやったことがない。ファーバンティでそれはやっていなかった。ということは今回が初めて実践したということだ。
けたたましく鳴るロックオン警報。黄色の13から見れば今の自分の位置は絶好の的だ。
やられる―――!!
そう思ったとき、黄色の13はミサイルを撃たずに急旋回した。先ほどまでいた場所に銃弾が通り過ぎる。
一体誰が。その方角を見る。そこにいたのは、宮藤芳佳だった。
≪メビウスさん! よか「下がれと言っただろ、馬鹿野郎!!!」≫
宮藤は俺を助けるために攻撃したのだろう。現に俺は助かった。だが、彼女はやってはいけないことをしてしまった。
黄色の13の鋭い眼光が、宮藤を捉えていた。
「やめろ。13!」
メビウス1は叫ぶ。しかし、Su-37の懐にある一発のR-73が切り離され―――火が付いた。
私の目の前でメビウスさんが戦っている。それは戦場でいつも見慣れた光景。ただひとつ違いがあるとするなら、あんなに苦戦するあの人の顔を初めて見たことだった。メビウスさんは強い。それは私も理解している。なのに、今の彼女は、私が見ても追い詰められているのがはっきりと分かった。
戦闘が始まる前、メビウスさんは私に遠くに行けと言っていた。危険だから基地に戻れ。だけど、それでいいのだろうか? ふとそんな疑問が私の中に沸いていた。確かにメビウスさんの戦闘について行けるとは思っていない。だけど、私にも何かできることがあるのではないか? そう思い、ずっとこの場に留まっていた。
そして、ネウロイが急に止まり、メビウスさんの後ろを取った。あれだとメビウスさんが撃たれちゃう!
(止まっている今なら……!)
クルビット……芳佳は知らないが……で一時的に空中に制止している状態となったネウロイに銃を向け引き金を引いた。銃弾は当たらなかったがメビウスさんへの攻撃はなくなった。
「メビウスさん! よか≪下がれと言っただろ、馬鹿野郎!!!≫」
メビウスさんに怒鳴られる。それはバルクホルンさんのときよりも怖く感じた。そして、ネウロイから一本の、みさいる、と呼んでいるものが切り離され、私に向かって飛んできた。それは速い、当たれば私は死んでしまうだろう。でも私たちにはシールドがある。だから私はすぐさま前方に直径10mのシールドを展開する。シールドでみさいるの爆風は防げる。
高速の何かが私の前を通り過ぎる。みさいるは私ではなく、通り過ぎた何かを追って私から離れた。ミサイルが追っている先にいたのは――――メビウスさんだった。
「そんな……なんで?」
シールドで防げることが分かっているのに、なんで自分を犠牲にするようなことをするんですか。そんな疑問を余所に、メビウスさんはストライカーから火の粉を撒き、急旋回した。みさいるは―――メビウスさんを追い続けた。彼女は逃げながら持つ機関銃をみさいるに向け撃った。しかし、どれも当たらない。そして銃撃が無くなった。みさいるは健在。メビウスさんは迫りくるみさいるに13mm機関銃を投げつけた。それはミサイルに命中し、爆発する。その爆風に包まれ
「メビウスさん!」
黒煙の中から、メビウスさんが落ちていった。
その光景を見た坂本はすぐに命令を出した。
「全員最大速力でメビウスを助けろ!」
『了解!!』
誰が何をするなんて考えている暇など無かった。とにかく撃墜されたメビウスが海に落ちる前に助け出さなくてはならなかった。全員が出せる最大速で向かう。最初に追いついたのは、シャーリーだった。
「メビウス大丈夫かって、こいつは………!」
「! メビウスしっかりしろ。おい!」
シャーリーがメビウスの体を支え、後から来たバルクホルンが能力の怪力を使いストライカーを支える。遅れてきた者達も到着する。そして目に入るそれに皆が絶句した。
全身が爆風で飛び散ったミサイルと機関銃の破片が刺さり血が流れている。そして、一番目を背けたくなるのが、メビウスの右胸の下に、13mm機関銃の銃身の破片が身体を貫通したままの状態だった。誰が見ても重症。命に係わる傷だった。
「メビウス、メビウス! 返事をしろ!!」
「は………あぁ……………………ゲボッ」
坂本の返事に全く反応しない。呼吸は小さく。口から血を吐いた。傷の場所が場所だ。息をしようにもその度に激痛が走り、満足に呼吸ができないのかもしれない。両の目は光を失い、虚空を眺めている。
「メビウスさん!」
宮藤が遅れてやってきた。そして、その惨状に言葉を失う。ペリーヌが宮藤の頬を叩いた。
「貴女のせいですわよ! 貴女が自分勝手なことをしたせいでメビウスさんがこんな目に!!」
「ペリーヌさん。落ち着いて……」
「これが落ち着いていられますの!?」
「いい加減にしろお前たち!!」
見かねた坂本が叱責する。
「それより……見ろ」
坂本が上に指をさす方向を見る。そこからゆっくりと、メビウスと闘っていた人型ネウロイが降下してきた。皆がメビウスを守るよう銃を構える。そして、その顔がはっきりとわかる距離まで近づき、さらに驚愕の空気に包まれる。
「な―――?!」
「………マジ?」
「夢でも見ているのか……?」
人型ネウロイはメビウスと同じジェット機型のストライカーを履いていた。それだけ黒でなく、灰色迷彩をしたペイント、主翼を黄色で塗ってある。
だが、彼女たちが驚いているのはそこではない。ネウロイの顔。それはあまりにも良く知る人物の顔に酷似していた。
「マルセイユ……」
そう。今日基地に来ると知らされていたウィッチ、『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』と瓜二つだったからだ。唯一違いがあるすれば左目に眼帯をしていることだろう。
沈黙に包まれる。坂本は混乱していた。すぐにメビウスを治療しないといけない。これが最優先事項だ。だが、この目の前のネウロイをどう対処する? あのメビウスに一撃を加えたほどの相手だ。相当の実力を持っているのは確かである。どうする。どうする。どうする――!
その沈黙を破ったのは、メビウス1だった。
「さー、ティー…ん……!」
「メビウス。目が覚めた―――!?」
全員がメビウス1の方を見て、言葉を失う。
「ふーーッ! ふーーッ!」
彼女は意識が朦朧とする状態で、扶桑刀をネウロイへと向けていた。血を流しすぎたせ
いでもう目がろくに見えない状態なはずなのに、その目は真っ直ぐネウロイを睨み付けていた。
ネウロイはメビウスを見つめた後ゆっくりと上昇。ガリア方面へと去って行った。
そして、緊張の糸が溶けたかのようにメビウス1はぐったりと体を支えるシャーリーに倒れ込んだ。
「おい! しっかりしろメビウス!」
「メビウス!」
「メビウスさん!」
「ミーナ聞こえるか! メビウスが被弾重症。緊急治療の準備を――――」
メビウス1のセリフ内ではYellow13 文章では黄色の13と明記します。
皆さんよいお年を。