【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

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第3話「再会と二つの歴史」

シャーリーはひとり通路を歩いていた。

 

「985ノット・・・マッハ1.7・・・ふ・・・フフ・・・フフフフフフフフフフフ」

 

不気味な笑みを浮かべて小走りで格納庫へ向かうシャーリー。メビウス1の予想は間違ってはいなかった。なにせ目の前に未知のストライカーユニットがあるのだ。今の技術で作れるものではないとシャーリーは判断していた。

 

「シャーリー?どしたの?そんなににやけて」

 

別の通路から出てきたルッキーニが話しかけてきた。

 

「お、ルッキーニ。今日で音速の壁を簡単に打ち破ることができるぞ」

「ほんと!?」

「ああ。昨日連れて帰ったやつが履いてたやつ。じつはな・・・」

 

先ほど入手した情報を話すシャーリー。2人は騒ぎながら格納庫へ急いだ。

 

だがここで問題が発生した。

 

「むむ・・・あの機体の前に3人いるな・・・」

 

格納庫に着いたシャーリーとルッキーニは陰から様子を伺っていた。

例の玩具の前に3人、バルクホルン、ハルトマン、ペリーヌがいたからである。

昨日から例の機体に触れないよう全員に連絡がされていたため興味を持つ者が見に来ていた。これでは乗ることすらできない。

 

「ルッキーニ、少しあいつらの気を引いてくれないか」

「いいけどどうやって?」

「ん~、こんなのでいいんじゃないか?」

 

シャーリーは適当に思いついたことをルッキーニに伝えて実行に移した。

 

 

 

メビウス1の機体を前にバルクホルン、ハルトマン、ペリーヌの3人は見ながら話をしていた。

 

「にしても大きいねー。見たところジェットストライカーっぽいけど」

「実験の段階だから実用化はまだ先だ。それと、あのウィッチが所持していた銃を試撃ちするよう中佐に言われたのだが初速が我々のものと違いすぎる」

「どのくらいの違いですの?」

「私たちが使う銃は1分間に平均1200~1500発だろう?だがこれは違う・・・すぐに弾切れになったが少なくとも3000発はあった」

「毎分3000発!?」

 

あまりもの違いに声を上げるペリーヌ。ハルトマンも声はあげないものの驚いていた。

 

「へー、ウルスラに見せたらすごく喜ぶだろうなー」

「・・・だが1番異常なのはこのストライカーユニットだ。」

 

バルクホルンは真剣な目で機体を見ながら言う。

 

「それはどういう意味ですの?」

「坂本少佐から聞いたがこの機体、レーダーに映らないそうだ」

「レーダーに映らない・・・」

「こっらが気づかないうちに懐に入られるね」

 

その事実を理解し再び例の機体を見る3人。これが本当ならかなりの脅威だ。今はレーダーのおかげでネウロイを早期に発見し迎撃しているが、もしこれが敵なら知らないうちに近づかれて攻撃を受けていたとなりかねない。

 

「ねえねえ。なにしてるの?」

 

そこにルッキーニが入ってきた。

 

「例のウィッチのストライカーユニットを見てるんだよ」

「へ~・・・」

 

じーっと機体を見つめるルッキーニ。すると横に顔を向けて

 

「あれ?あそこにいるの昨日のウィッチじゃない?」

 

と奥を指差した。

 

「なに!」

「ん~?」

「どこですの?」

 

3人はルッキーニが指差すほうを見るが誰もいない。

機体から目を離したその一瞬の間に

 

「イィィィィィィィヤアァァァァッフゥゥゥゥォォォォォォォ!!!」

 

シャーリーがものすごい笑顔で大声をあげながらメビウス1の機体に乗った。

かなり適当な作戦だったがうまくいったようだ。

 

「なっ、おい!リベリアン!その機体には触るなとの命令を忘れたのか!」

「細かいことはいいんだよ!これで私は音速の世界を見に行くのさ!」

 

バルクホルンが言ってくるがお構いなし、シャーリーは機体を滑走路に移動させようと魔導エンジンに魔力を注ぎ込んだ。

 

一方、メビウス1とミーナ、美緒の3人は格納庫に向かっていた。

走りながらミーナが何かをしゃべっている。

 

「・・・じゃああなたは女性ではなく男性なの?」

「あぁそうだよ。確認するけど昨日俺を助けた時にはすでにこの姿になっていたのか?」

「ああ、そうだ」

 

頭が痛くなってきた。異世界に飛ばされたあげく女の体になるなんて。

神様の悪戯なのか知らないがこんなことした元凶にA-10の30mmGAU-8ガトリング砲をプレゼントしてやりたい。

 

「今の貴女は18歳くらいですけど前の世界の年齢はいくつなの?」

「俺は28歳だ。この話はあとでいいか。急いで案内してくれ」

「急ぎたいなら腰に巻いてあるそれを取ればいいだろう」

「あんな格好で外にでられるか!」

 

病室での会話を思い出す。メビウス1の女体化騒動がひとつだがもう一つの騒動は彼女たちが下をパンツのみで平然としていたことだった。

 

―――なんでパンツ一枚だけなんだ!ズボンを穿け!ずぼんを!―――

―――失礼ね。ちゃんと履いてるじゃない―――

―――どこが!?―――

―――貴様も履いているだろう。それがズボンだ―――

―――違う!!―――

 

などと会話が続いていたが埒が明かないため話を切り上げて格納庫で向かうことにした。

メビウス1は部屋を出る前に置いてあった大きめのタオルを腰に巻いて歩いている。

 

「文化も違えば価値観も違うってよく聞くがこれはないだろ・・・」

「ん?なにか言ったか?」

 

メビウス1の独り言に美緒が反応するが、「なんでもないです」と即答し3人は格納庫へ急いだ。

 

 

 

格納庫に着いた3人は人だかりができているのを発見した。近づくとその中心には先ほどの女の子シャーリーが仰向けに倒れており、肩を使い大きく呼吸している。

 

「ぜぇーはーぜぇーはーぜぇーはー・・・」

 

さながらフルマラソンをした後のように見えた。

シャーリーがいることを確認するとメビウス1は自分の相棒を探したが見つからない。

美緒にどこにあるか聞いて指差すほうを見た。

 

 

絶句。

 

 

そこにはF-22ラプターらしきものが置いてあった。主翼と尾翼は似ており、機体表面のラインが間違いなくラプターだと確認できた。ただ異常があるとすればコックピット部分がないこと、機体が壊れている訳ではないが当たり前のように縦半分に分かれている有様だった。

 

「あ・・・・・・相棒・・・?」

 

信じられないという顔をしながら機体にさわる。機体の主翼にISAFのマーク、尾翼にメビウス隊のエンブレムを確認しこの機体が間違いなく自分の機体だと理解した。

 

「相棒・・・・・・こんな姿になっちまって」

 

なんとか絞り出せた言葉であった。

 

 

「ミーナ、彼・・・といえばいいのか。あのままでいいのか?」

 

美緒は機体に触りながら膝をおり顔を俯かせているメビウス1のほうを指差すが

 

「そっとしておいてあげましょう。なんだか話しかけられる雰囲気ではないし・・・それに可哀想に見えるわ」

「あ・・・ああ、そうだな」

 

ミーナの提案を受け入れて人だかりのほうへ歩いていった。

 

「で、これはどういうことですか?」

 

その声に全員が振り返り、ミーナ中佐が来たことを知る。

 

「ああ、実はな・・・」

 

バルクホルンが今の状況を説明し始めた。

 

シャーリーがあの機体に乗り魔導エンジンをかけようと魔力を注いだのだがまったく動かなかった。起動させようとありったけの魔力を注いで何とかエンジンがついたのだが、その時にはシャーリーの魔力はほとんど使い切っていた。

そして、今に至るという。

 

「シャーリーさんが魔力を注いでも起動させるのがやっと・・・」

「飛ばすにはかなりの魔力量が必要になるわけか」

 

バルクホルンの話からあの機体の性質を推測した。

 

「はぁ、先ほども言いましたと思いますがあの機体に触れることは一切禁止します。いいですね?」

「了解した」

「りょうかーい」

「わかりました」

 

ミーナ中佐の命令にそれぞれ返事をする3人。

 

「それとシャーリーさん?」

「はー・・・はー・・・なんでしょうか?」

 

ものすごく疲れた顔をしてるシャーリーに対してミーナは笑顔で

 

「今すぐにとはいませんが、あとで私の部屋に来てくださいね」

 

と言った。赤の他人から見ればとてもきれいな笑顔に見えただろう。

 

「・・・はい」

 

何かを悟ったかのようにシャーリーの小さい返事が聞こえた。

 

 

シャーリーに伝えることを伝えたミーナはメビウス1のほうへ向いた。

メビウス1は先ほどと同じ体制のままであった。

彼が女ではなく男と聞いたとき、彼はウィッチではなく普通の戦闘機乗りだとミーナは推測していた。もし仮にウィッチなら自分の機体を見てあんな反応はしないだろう。ならここに来る前はあのストライカーユニットは戦闘機でそれに乗ったまま彼はこの世界に来てしまったと考えるのが妥当だとミーナは思った。

そして、なぜかわからないが彼は女の姿に、あの戦闘機はストライカーユニットへと姿を変えた。

自分の憶測だがこれで間違いないだろうとは判断した。

 

それにしてもいくらなんでも気を落としすぎではないだろうかとミーナは思った。

 

「お取込み中悪いのだけど詳しく話をしたいから執務室に来てもらえないかしら?」

「・・・その間にこの機体は大丈夫なのか?」

「皆に触らないよう命令したから安心して、それになにを落ち込んでいるの?」

 

さっきからブルーな雰囲気になっているメビウス1にミーナは質問した

メビウス1はゆっくりと立ち上がり

 

「俺が女になったことも含めて・・・絶望的な光景は見慣れたが・・・これは強烈すぎる」

 

自身の愛機を見ながらそう呟いた。

 

その後、2人は執務室へ移動した。この時でもメビウス1の気は凹んでいた。

 

「俺が女の体になるのはいいとして、なんで相棒までこんなことになるんだ・・・」

「落ち込んでいるけどさして問題は無いんじゃないかしら」

「どこが。あんな意味不明な形にされて、あれでどう飛べばいいんだ」

 

メビウス1はその一点のみを考えていた。機体が無事と言われて安心したが、あれではコックピットがないため乗ることができない。メビウス1は自分が女の体になったこと以上に神様の悪戯を恨んでいた。30mmGAU-8ガトリング砲だけでは物足りない、FAEB(燃料気化爆弾)でも気が治まるかどうか。

 

「おそらくですけどあの機体で飛ぶことはできると思いますよ」

「どうやって?乗るところなんてないじゃないか」

「乗るのではありません。履くのです」

「・・・は?履く?あれを?」

「詳しい説明はこの世界のことを含めてお話しします。いいですか」

「分かった。頼む」

 

メビウス1はミーナからこの世界のことを聞いた。まず、魔法が存在しそれを操る魔女がいること。ストライカーユニットという魔力を動力源とする機械が開発されたこと。1939年に黒い異形の敵〝ネウロイ″が世界各地に出現し人類に対し侵略を始めたこと。通常兵器でも戦果はあるもののそのほとんどが効かないこと。その戦いによってヨーロッパ大陸のほとんどが侵略されたこと。これに対し、唯一ネウロイに対抗できるストライカーユニットを使える魔女で編成された部隊ができたこと、などを話してくれた。

 

「それが私たち、ストライクウィッチーズ隊です。主にヨーロッパ大陸最後の砦であるこのブリテン島をネウロイから守るのが任務です。ほかにも部隊があり、それぞれの任務を帯びています」

 

それを聞いたメビウス1はただただ黙っていた。自分たちとは違う世界。そこでは人類共通の敵を倒すために国、宗教、民族の垣根を越えて人々が協力し合い戦っている。これだけ聞けば人類がひとつになっていると見えるだろう。だがメビウス1はあることを気にしていた。この状況はまるで―――

 

「それでは今度は・・・えーっと、なんてお呼びすればいいのかしら?」

「メビウスと呼んでくれ。シャーリーの奴にもそう伝えたからな」

 

それじゃあ、といいメビウス1は話を始めた。

 

「あんたが知っているとおり俺の世界にネウロイなんて化け物はいない。まあここに飛ばされる前に偶然見つけたがな。で、当然ネウロイとの戦争はなかった。だが―――」

 

メビウス1の話が進むにつれてミーナの表情がだんだん暗いものになっているのがわかった。当然だ。自分が話しているのは俺の世界で2年前に終結したばかりの国と国の戦争、人間同士の“殺し合い”なのだから。

 

メビウス1はその戦争のきっかけから話を進めた。エルジアという軍事大国とその他の小国家群の間で長く武装平和という緊張状態が続いたこと、1999年に起こった小惑星ユリシーズの落下、それに伴う大量の難民の発生とその押付け合い、軍事大国エルジアの武力侵攻、それに対抗して小国同士で軍事同盟“ISAF”を結成、敗走を繰り返しユージア大陸からの撤退、その後に始まるきわどい中での反撃作戦、中立国首都サンサルバシオンの解放、エルジア首都ファーバンティへの侵攻、そして終戦・・・。

 

「ユリシーズ落下から戦争終結までの6年間・・・死人が山ほど出た。政府の公式発表と民間が独自に調べた内容は違うが・・・一説には2000万人が亡くなったとの情報もある」

 

その話を聞きながらミーナはメビウス1の目を見続けた。彼は話している間目をやや下のほうを向けていたが、その眼は何も見ていない。虚空を見つめているようだった。ミーナは真剣にメビウス1の話を受け止めていた。それはミーナが常日頃から思っていたこと、今はネウロイという脅威に対して人類は団結しているがもしネウロイがいなければ人間同士、ウィッチ同士の殺し合いがあったことは目に見えていた。

 

「俺自身、任務とはいえたくさんの人を殺した。戦争は終わった」

 

話を終えたメビウス1は両手で顔を覆った。辛いことがあったことが分かった。

 

「あなた自身もつらい思いをしたのね」

「ああ、俺の隊の前の隊員たちは反撃作戦に入る前に・・・」

 

ミーナは自分の質問を後悔した。彼に悲しみを思い出させてしまったのだから。

 

「ごめんなさい、つらい思いをさせて」

「いいんだ。探りを入れるようで悪いがあんたもつらいなにかがあるのが分かった」

 

メビウス1の指摘は間違いでなかった。ミーナ自身もここブリタニアに撤退するときに彼女の恋人が亡くなっている。

 

謝罪としてミーナはそのことを言おうとしたがメビウス1は右手で待ったをかけた。『無理をして言わなくてもいい』と無言で告げていた。

 

「ごめんなさい。本当に申し訳ありません」

 

ミーナが深々と頭を下げ謝罪の意を示す。

 

「気にするな。それに階級でいえばあんたが上官だろ?そんなに頭下げられるとこっちが困る」

 

メビウス1の言葉で顔をあげる。

 

「年相応のことばを言っているのに、今のあなただとおかしな感じね」

「それは怒ってのいいのか?」

 

そんな会話をし、2人は少しだけ笑いあった。




言い訳になってしまうのですが、最初は機体の操縦が分からないと動かせない設定にしようとしたのですが、ストライクウィッチーズ第二話で宮藤がぶっつけ本番で飛んでるじゃないですか。

それで私の勝手な解釈で魔力を送る→操縦知らなくても動かせると思っているのでメビウス1をかなりの魔力をもつ設定にしました。

あ、メビウス1だけは操縦知らないと他ストライカー乗れません

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