【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

42 / 48
第37話「リボンと黄色 後編“13”」

目が覚める。見知らぬ天井と窓から見える空を眺めていた。

 どうして生きているのか分からなかった。確かに自分は、機体と運命を共にしたはず。あの戦闘の感触が手にまだ残っていることからそれほど時間は経過していない。自分はISAFの捕虜になったと考えるのが妥当か。運が良いのか悪いのか。自分は死に底なってしまった。だとしてもあと数日の命だろう。別に死ぬのは怖くない。自分はもう死んでいるのだ。

 左目は包帯を巻かれていた。もう使い物にならないだろう。もし運よく生き延びても空を飛ぶことさえ敵わない。良くて空軍学校の教師になれるかもしれないが、敗戦国になったエルジアの軍の育成をISAFがすぐに認めるわけがない。どうしようかと悩んでも相談できる仲間はいない。

 

 手元にあったハンカチはもう無い。

 

 あの戦闘で失くしてしまったのだろう。それを残念に思いながら、あの感触を噛みしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、信じがたいことにこの世界は自分がいたところとは全く違う世界に飛ばされたことを把握した。もといたところの50年前の物。レシプロ機。自分が知らない大陸、国家。そして、魔法という概念。ウィッチと呼ばれる女性軍人―――いや、正確に言うなら彼女たちはまだ女の子だろう。あんな、年端もいかない子まで戦場に出さないといけないのは気が引ける。

 数日ぶりに対面する自分の愛機だったもの。数日前、トブルクの港に不時着した大型の飛行機。着水と同時に脱出したあと自分は救助された。海から引き上げられ、機体の原型は保たれているものの海水を被ったせいか錆が目立つ。エンジンは破損し、中の精密機械も海水でやられて復旧不可能。愛機は二度と飛ぶことが出来ない鉄の塊と化していた。だからだろうか。長年の相棒に触れる。

 

―――ありがとう

 

 大陸戦争。2年間に及ぶ、黄色中隊の栄光と衰退を共に見て、共に戦った自身の機体に最大の敬意を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左目に眼帯をした彼はリハビリを終え、目の前の機体にいた。メッサーシャルフBf 109F カールスラントの主力戦闘機である。彼が動けるようになって最初に思ったことは『また空を飛べるかもしれない』これ1つのみだった。もといた世界で無理でも、この世界なら可能かもしれない。実際1940年代のユージア大陸、ISAF本部が置かれることになるノースポイントに隻眼のエースパイロットが実際にいたのだ。実例があるなら自分にできないことはないはず、戦闘機に乗ることを思いながら今日まで過ごしてきた。片目の自分の申し出を了承してくれるとは内心思っていなかった(裏では残骸となったSu-37の調査が遅々として進まないこと。それに乗っていた黄色の13の実力を把握するためが挙げられる。その他諸々の理由も存在)やはりレシプロだけあってすべてがアナログ。安全装置などないから急旋回時のGで気を失ったら墜落する。高Gに慣れているとはいえ今の自分はこの時代のパイロットスーツ。慢心してはいけない。

 

 

 

『あなたがあの機体のパイロット?』

 

 

 

 同行することになったのは加東圭子という名の女性。ウィッチの装備であるストライカーと呼ばれる足に穿く戦闘機のようなものを装着している。戦闘に出る為ではないため腰の拳銃のみ。手にはカメラを持っている。

 離陸し、最初はただ真っ直ぐ飛ぶ。片目で視界がどうなるか実際に飛んでみないと分からない。やはりと言うべきか立体感がつかめない。しばし目を慣れさせた後、大きく旋回を始める。機体の性能チェック。すぐにコツを掴んだ。それに何より空を飛べることがうれしく感じる。戦闘機乗りの性だからか。その間にも圭子はパシャパシャと写真を撮っている。

 

 現在滑走路の南10km上空を飛んでいる。広大な砂漠が広がる大地の空から下を眺めると南の方角、さらに10km先地上付近に何かが光った。隣にいる圭子に確認するとそれが敵、つまりネウロイだとの返事が返ってきた。その後の行動は早かった。戦闘機に乗っていた頃の勘とでもいうのか。敵機を見つけたらすぐに動く。増層を切り捨て、速度を上げる。置いていった圭子の声も無視。敵は飛行機というよりも筒状で頭にプロペラを付けた奇妙な形をしていた。砂漠の砂丘擦れ擦れを飛んでいる。あれでは今の時代のレーダーに映らない。相手は10機。少数での奇襲を考えていたのだろうが見つければこちらの物。太陽を背に急降下急接近する。自分だけで撃滅するのは不可能。ならば、相手の進撃を止めることが重要と判断する。編隊を組む先頭の敵に狙いを定めた。7.92mm MG 17 機関銃が火を噴く。瞬く間に先頭の二機を仕留める。逆に奇襲された小型ネウロイたちの編隊が乱れた。皆ばらけてそれぞれ黄色の13に襲い掛かる。だが、統率のとれていない包囲攻撃など彼にとって怖くない。統率のとれた包囲攻撃は彼の部隊の得意戦術なのだから。一機、また一機と確実に仕留めていく。五機目を追っているとネウロイが二機後ろから追ってきた。目の前の奴は囮だった。少しは考えて行動する敵なのだと認識する。目の前の囮ネウロイが左旋回すると同時に後方二機のネウロイは黄色の13に攻撃を仕掛けた。彼は右に旋回し回避………ではなかった。右旋回と見せかけ、機体を背面させながらのバレルロール。バレルロールを終えた彼の前には先ほどまで追っていたあの囮ネウロイが存在しそれを撃ち落とす。

 

 それを見ていた圭子はその光景をこう口にする。

 

『あの時の彼はすべてのネウロイの動きを把握しているように見えたわ。まるでもう1人のマルセイユの闘いを見ているみたい』

 

 その後、スクランブル出撃したマルセイユ達が参戦したことによりここでの戦闘はすぐに終わった。

 

 

 

 

 

その後、いろいろあった

 

 

 

 あの戦闘を見て模擬戦をしたいと迫るマルセイユを適当に誤魔化したり

 

 

 

 俺のBf109Fを黄色中隊カラーにペイントしているライーサを見つけたり

 

 

 

 いろいろなところで圭子に盗撮されたり

 

 

 

 酔いつぶれたマルセイユのとなりでマティルダと会話したり

 

 

 

 どういうわけか、稲垣真美の空戦の指導をしたり…………などなど

 

 

 

 たった二カ月という短い間にいろいろなことを見てきた。そして―――

 

 

 

『………くそっ』

 

 意識が朦朧とするなか、自分は甦った愛機Su-37のコックピットに座っている。

 

ネウロイとして突如出現、猛威を振るう、ストーンヘンジ。破壊作戦に出た自分に立ちはだかった5機のSu-37型ネウロイ。最後の一機。完全に動きを読まれていたが、砲台の形振り構わない攻撃に撃ち落とされる。それでも攻撃はしっかりと狙っていた。キャノピーのガラスの破片が両足に突き刺さっている。それは肉を貫通し操縦席にまで達していた。座席は血で濡れ、出血で意識が薄れるも激痛で目を覚ます。響き渡る警告音は燃料漏れ。誘爆はしなかったものの、数発受けていた。急速に燃料が減っていく。基地まで辿り着けない。脱出してもこの傷だ。助かる見込みは―――ない。

 

 

 ストーンヘンジ型ネウロイの砲台はその半数がまだ健在。時間が経てば復活する。だが、コアは見つけた。本来は通信ジャミング機器が設置されていた施設中心部分。そこに爛々と赤く輝くネウロイのコア。

 

『はー…………』

 

 これが、この世界に来てしまった理由なのか? 答えは分からない。ただ、もしまた飛べるならまた奴と戦いと思った。それは無理な話になったが、お前はここで消えてもらう。この世界から永遠に。

 

『最後まで付き合ってもらうぞ、相棒』

 

 もの言わぬ兵器である機体は、操縦者の意志通りに動くことでその忠誠を示す。残り少なくなった燃料を惜しむことせず、黄色の13はアフターバーナーを使った。高度を下げながら、減速せず、真っ直ぐコアに迫る。その真意を見抜いたのか対空砲火がより一層濃くなる。垂直尾翼の一つが吹き飛ぶ。速度が機体性能限界のマッハ2を超える。

 

『貴様の役目は終わった。消えてもらうぞ。俺と一緒に!』

 

 熾烈な対空砲火の弾幕を掻い潜り、ついにSu-37の先端が接触した。死ぬ瞬間、その光景がスローモーションのように感じると良く聞くが、まさにそれが当てはまった。先端から潰されながらゆっくりと迫りくる。

 

『あとは、マルセイユ。お前たち次第だ―――頼んだぞ』

 

 呟き、刹那、モニターが真っ黒に染まる。鉄の磨り潰され爆発の音も途中で途切れた。

 

 

 

 

 それを皆はじっと見ていた。メビウス1と黄色の13を通して見た大陸戦争。この世界に来てからの黄色の13の記憶。それを見ていたマルセイユは体を震わせていた。

 

 そして、二人の闘いも終わりへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 もう何度目か分からなくなるほど剣を混じりあった。どちらの刀身も刃こぼれが目立つ。致命傷は無いものの双方切り傷が多数ある。

 

≪――――――――ッ!!!≫

 

 黄色の13から先に仕掛けてくる。右手のサーベルが振り下ろされるタイミングに合わせて扶桑刀を斬り上げた。

 

バギッ!

 

 扶桑刀を受けた部分からサーベルが折れた。刃こぼれした場所を的確に狙った結果だった。これで残りは左手のサーベルのみ。ここで、メビウス1は黄色の13が右足を上げていることに気が付く。

 

(まさかっ!?)

 

 咄嗟に身を引いたメビウス1。その瞬間、ボッ!! という破裂音と共に右足の蹴りが繰り出された。偏向ノズルとアフターバーナーにより生まれる即死クラスの蹴り。それをギリギリのところで躱すも遅れた扶桑刀が餌食となり刀身が半分に折れてしまった。だが、これだけで終わらない。その回転の勢いを殺さないまま、黄色の13は残った左手のサーベルで斬りかかった。

 

 

 

 

 

 完全に反応が遅れた。後ろに下がり避けるのはもう間に合わない。折れた刀で受けてもあの勢いだ。刀ごと切り裂かれるだろう。だが

 

(俺は、まだ死ねない!!!)

 

 元の世界にいる中隊の仲間たちのためにも

 

後ろで戦いを見守るあいつらのためにも

 

そして何より、あんたのためにも―――!!

 

次の瞬間。メビウス1は黄色の13のサーベルを舐める様に躱した。方法は先ほど黄色の13がやったのと原理は同じ、偏向ノズル。左のストライカーは上を、右のストライカーは下を向け、さながらフィギアスケートの回転技のように黄色の13の懐に入り込んだ。残っているのは折れた扶桑刀。十分だ。まさかの動きに黄色の13も目を見開いている。

 

 

 

「13ッ!!!」

 

 

 

 メビウス1は折れた扶桑刀を突きだす。それは吸い込まれるように胸のコアを貫通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が止まったかのように、静寂が訪れる。メビウス1の最後の一撃によりコアを貫通した。折れた刀身の切先が背中から生えている。ぐったりと、メビウス1に支えられるように倒れ込む。

 

「俺の勝ちだ。Yellow13」

 

 

 

「――――――アア、俺ノ敗ケダ。リボン付キ」

 

 

 

ネウロイが………いや、黄色の13がしゃべった。

 

「ワガママニ付キ合ッタコト、感謝スル。ヤット、皆ノ………トコロニ―――――――」

 

 限界がやってきた。コアが破壊されたことにより体の崩壊が始まる。ストライカーも同様だ。1つ違いがあるのは、通常と違い、まるで砂金のように輝き、細かく、空に消えて逝った。

 

 

 

『黄色の13』の肉体は大空に消え 地上に戻ることはない。彼を知る者の記憶の中で存在し続ける。歴史に残ることは無い。だが、それでも一部の人だけが語り継ぐ、一人のエースとして存在し続ける。

 

 

 

「Yellow13………安らかに」

 

 

 

こうして、異世界の空で、二人のエースの闘いは幕を閉じた。

 




ここまでつらかった。

A/B全開キックの元ネタは、ストライカーキックするウィッチのこと。(名前忘れた)
偏向ノズル×アフターバーナ―から繰り出されるキックは即死級だと思います。



残りあと5話

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。