【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐ 作:skyfish
貴方たちはあとがきに必ず反応すると
「誰か手を貸してくれ! その下に人が!」
「お母さん! いやああああ」
「水だ! 生存者だ! 水をもってきてくれ!」
町に―――いや、ヨーロッパ大陸の全土に響き渡る絶望の声。あの夜が一夜明けたロンドンの街並みを上空から見下ろす。
「ロンドンが……」
変わり果てたロンドンを見る。その被害は3年前のバトル・オブ・ブリテンのロンドン空襲を遥かに超えていた。
「こんな……こんなことが………」
「―――くそっ!」
上空哨戒に飛んでいる皆が口を噛みしめた。
場所は変わり、ある建物内で作戦会議が行われている。ここはバッキンガム宮殿。ブリタア王室が所有する宮殿の一つだ。そこではモニターに映された例の資料の説明をメビウス1、8、スカイアイが行っていた。
「――――以上が、要塞施設“メガリス”の全貌になります」
(こんなものを、エルジアは造っていたのか……!!)
静かに説明を聞いていたベルツは怒りを露わに持っていた万年筆が折れた。当然と言えば当然だろう。すべての始まりとなったあの災厄をあろうことか戦争に、兵器に利用しようと考えたのだから。
「それで、この悪魔の兵器をどうやって破壊するの?」
傍らで聞いていたミーナが質問する。
「それについては我々がとった作戦をまず説明させてもらう」
チョークを手に黒板に描かれたメガリス全体図に矢印を描きながらあの日の作戦を思い出す。
① 特殊部隊がメガリス内部に侵入しサブコントロール室がある13階を制圧する。
② サブコントロール室の扉は電子ロックで閉ざされているため、ダクト内部にある3つのジェネレーターを破壊し解除。
③ サブコントロール室を制圧し、施設中央の大型弾道ミサイルへの道を開放。戦闘機が突入、攻撃し、脱出する。
「ちょっと待て! 戦闘機で要塞内部に突入したのか!?」
「そうだ。あの時は時間が無かった。それに、彼女が突入した本人だ」
メビウス1に視線が集まる。半地下になったミサイルサイロの正面通路から飛び込んで目標ミサイルを破壊、さらに直上の発射口から脱出を果たすという荒技をやってのけた。あの時を思い返してもあの作戦は自殺行為に等しかった。しかし、これにはしっかりとした理由がある。破壊目標のミサイルがISAF本部が置かれているノースポイント首都を含めたユージア大陸の主要都市に定められている可能性があったのだ。発射される前に破壊する。それを可能にできたのが新生メビウス中隊のおかげだった。当時、要塞正面から見て左側をメビウス1、右側がメビウス8、中央地下のジェネレーターをメビウス2が破壊し、最後の大型ミサイルに隊長であるメビウス1がもう一度突入した。
スカイアイの説明を簡単に表すとこんなものだ。一通り説明を終えたあと「だが」と付け加える。
「今回のメガリスはあの時と状況が違うかもしれない」
「というと?」
「俺たちがあれを叩いたときまだメガリスは未完成だった。だが、資料にあったネウロイ化による復元の可能性。それにあの時よりも隕石の量が多かった。おそらく、このメガリスネウロイは完全体に近いかもしれない。壊しても治る。対空火器。護衛の敵も多いはずだ。だから、今回重要になるのがコアの完全破壊だ」
これらを踏まえたうえで作戦を説明する。
① 艦隊を要塞の南100㎞に囮として集結させる。
② ウィッチのみで構成された部隊が要塞に奇襲をかけ、敵残存航空勢力を引き寄せ殲滅する。
③ その隙を狙い、地上特殊部隊がメガリスに侵入。サブコントロール室がある13階をおさえる。その場所にネウロイのコアが置いてある可能性が高い。そこが要塞の中枢だ。
④ ウィッチがダクトに侵入し3つのジェネレーターを同時に破壊。再生を防ぐため攻撃を続ける。
⑤ 扉が開いたら中に潜入。爆薬を設置し、コアを破壊。速やかに脱出する。
「ふざけるな! 艦隊を囮に使うと言うのか!」
「艦砲射撃の一斉掃射で叩けばいいだろう!」
作戦内容に不満の声を上げるブリタニア海軍の将校たち。彼らの言い分も分かる。だが
「これが、現状で一番最良の作戦であります!」
ベルツの大声にその場にいる全員が押し黙った。
「彼女たちの情報が正しければ、メガリスの隕石落下有効射程距離は最長3000㎞。それに比べ戦艦の射程距離は? 精々50km。そこまで近づく前に艦隊が全滅するのは目に見えている! メガリスは無数の対空兵器を備える要塞。シールドを持たない通常戦力では太刀打ちできない。唯一対抗できるのはシールドを展開できるウィッチのみだ。この作戦に次はない。時間が経てばたつほど不利になるのは我々の方だ!」
こうしている間にまたあの雨が降り注ぐかもしれない。メガリスの射程距離はヨーロッパ全土を捉えているのだ。早急に破壊しなければブリタニアだけでなくヨーロッパ大陸各所で行われている作戦全て断念、大陸を放棄せざる負えない最悪の事態になりかねない。
「―――どうやら、結論は1つしかないようだ」
一部始終を見ていたある男性の声に皆が背筋を伸ばした。この男性こそブリタニア王室現ブリタニア国王である。
「ブリタニア国王ジョージ6世の名において命ずる。速やかにこの悪夢を終わらせよ」
『はっ!』
「以上が今回の作戦です。艦隊が囮となっている間、私たちはネウロイの拠点を攻撃、潜入部隊の掩護になります」
501部隊とワイト島分遣隊のウィッチが集まり作戦の詳しい内容が言い渡される。
「それで、どういう役回りにすればいいんだ?」
「要塞には無数の対空火器が置いてあるだろう。だから、最初は501と分遣隊の全員で対空火器の排除。対地攻撃に慣れているマルセイユとガランドは潜入部隊の援護を中心に臨機応変に戦ってくれ。その後、潜入部隊の準備が整い次第今から言うグループがダクト内に突入。ジェネレーターを破壊してもらう」
ダクトA:アメリー・プランシャール、フランシー・ジェラード、ラウラ・トート
ダクトB:ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマン、
ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ
ダクトC:宮藤芳佳、リネット・ビショップ、ペリーヌ・クロステルマン
「何故この人選なんですか?」
「1人をターゲット破壊担当にし、その前と後ろに護衛としてつかせてもらう。もう一つ理由を加えると、この3人の組み合わせが一番と考えたからだ」
ジェネレーター破壊のために3人はどうしても重要だ。その上でこの組み合わせとした。互いに連携を取りやすいと考えた結果だった。
「おい。それならマルセイユじゃなくミーナのほうが良いのではないか?」
「ミーナ中佐には現地指揮をお願いしてある。潜入部隊との連絡も兼ねているから無理だ」
「それにだ。お前たちなら大丈夫だ。犬猿の仲らしいが、逆を言えば『喧嘩するほど仲がいい』んだろ?」
「「誰がこいつとなんか!」」
珍しく口が合う二人を見てハルトマンはお腹を抱えて笑う。
「敵の航空戦力はどうするの?」
「それには、メビウス隊の2人がやる。いいな?」
「ああ」「任せておけ」
「メガリスネウロイ破壊後、全員の帰還を持って作戦を終了する。いいか、必ず帰還せよ。それ以外は、許可しない――以上だ」
「私たち2人は除外かー。まあ当然だよな」
「……そうだ、な」
皆が作戦の準備に取り掛かる中、2人のウィッチが話していた。坂本美緒とウィルマ・ビショップ。共にウィッチとしての峠を越え、シールドを張れなくなった二人は今回の作戦から外された。坂本は認めたくなかったが、彼らの言うメガリスは対空火器の城。音速を超える戦闘機やミサイルを撃ち落とす精度をもつ兵器が配備されている以上シールドを出せなくなった2人は彼女たちの戦線に加わることはできない。
「で、これからどうする?」
「愚問だな。そういうお前はどうなんだ?」
「そんなの決まってるでしょ」
坂本は愛用の扶桑刀、ウィルマはボーイズMk1対装甲ライフルを手にする。
作戦に加わることはできない。だが、このまま何もしないのは性に合わない。自分にできることをする。なら、私たちができることはただ一つ。
「皆の帰る家(空母)を守ること」
「それが我々の使命だな」
やれることをやろう。それこそが私たちの理念なのだから。
ロンドンから現状集められる各国の艦隊が集い始めているポーツマス軍港に移動している。その道中、昨夜の爪痕も見えた。
「ひどい……」
「ネウロイも恐ろしいですがこのようなものを人が作ったとは思えませんわ」
「これほどの戦略兵器だが、メガリスは決定的な欠陥を抱えている」
「え?」
「広範囲に隕石を落せるが正確に狙えないんだ。だからターゲットを含める周辺をまとめて消滅させる。それが本来の運用だったらしい。だが、目標が遠ければ遠いほどその制度は下がる。よって、要塞には隕石落下のミサイルの他に弾道ミサイルが存在する。」
「だんどうみさいる?」
弾道ミサイルという言葉を知らない彼女たちはどんなものか分からないだろう。
「弾道ミサイルってのは、簡単に言えば超長距離の大型ミサイルだ。射程は長いもので地球の裏まで届く」
「そ、そんなものまであるんですか……!?」
「こいつもあると思う。だが、今回は発射される前にコアを破壊して一緒に瓦礫に埋める作戦だ。如何に俺たちと潜入部隊が迅速に動けるかが勝敗の決め手だ」
説明している間メビウス1はあることを思っていた。あの時と同じ状況であるこの国は空を怖がる人たちに溢れているのではないかと。
(女神さま聞こえているか?)
(何でしょうか)
(一つ。頼みがある)
(頼み?)
(それは――――)
夜を迎えたポーツマス港を扶桑、ブリタニア、ガリアからなる大艦隊が抜錨した。(ガリア軍は解放戦線において陸軍はヒスパニア、海軍はブリタニアを拠点にしていた)
扶桑艦隊
戦艦:長門 陸奥
空母:天城 加賀 (赤城は前回の戦闘による損傷により不参加)
重巡:高雄型4隻 利根型2隻
軽巡洋艦10隻 駆逐艦20隻
ブリタニア艦隊
戦艦:N3型戦艦4隻(セント・アンドリュー、セント・デーヴィッド、セント・ジョージ、セント・パトリック)
空母:イラストリアス級3隻(イラストリアス、フォーミダブル、ヴィクトリアス)
他巡洋艦駆逐艦合わせ30隻
ガリア艦隊
戦艦:リシュリュー級戦艦(リシュリュー、ジャン・バール)
空母:ベアルン
他巡洋艦駆逐艦合わせ20隻
約100隻からなる大艦隊が北海を通るルートを征く。それに比べ少数の艦隊がポーツマスから西へ行くルートを選択する。その艦隊がメガリス攻略隊のウィッチが乗っている部隊。ブリタニア海軍の軍艦から選ばれた艦船が進んでいく。インプラカブル級航空母艦一番艦インプラカブル。今年の4月に就役した新しい軍艦だ。それを守るように両脇にキング・ジョージ5世級戦艦2隻(キング・ジョージ5世、プリンス・オブ・ウェールズ)がつき、他巡洋艦10隻が単縦陣で航行している。
インプラカブルにはウルトラマリン シーファイヤ 60機が搭載されている。そのパイロットたち全員この艦隊を直掩にあたる。そして、今作戦が彼らの初となる任務だ。寝ている者やまだ起きて煙草をふかしている連中もいるが、その表情は険しい。皆怖いんだ。それを紛らわそうとする。
「おりゃー! ドロー2!」
「私もドロー2」
「ん(ドロー4)……黄色」
「あらラッキー。私もドロー2」
「いやあああああ」
ワイト島分遣隊の面々は街で見つけた。UNOと呼ばれる見慣れないカードゲームをしていた。因みに声の順番はフラン、メアリー、フラン、角丸である。
「3人とも突入する際の役割は決めた?」
「前をフラン。後ろにメアリー。私が真ん中」
「メアリーが後ろに固定。ストライカーからシールド張れるからね。攻撃力の高い銃使っているラウラを中央にして前を私が守る。これかな」
「これが私たち、ワイト島分遣隊の最後の闘いになると思うわ。必ず成功させましょう」
角丸の言葉に皆が頷いた。
「お。面白そうなのやってるね私も混ぜて」
「ウィルマさん。妹さんと話は済んだんですか?」
「まーね。同じこと言うけど、帰る家私がきっちり守るから、あなた達もしっかりやりなさい」
「「はい!」」
空母甲板上。雲一つない星空をエイラとサーニャは眺めていた。昨日と同じ空とは思えないほど美しい。
「いよいよダナ」
「そうね……」
「お前たちそこにいると風邪ひくぞ」
見かねたスカイアイが2人に毛布を渡す。航行しているため船外はずっと風が吹いている。
「スカイアイ……いえ、ナガブチさんは怖くないんですか?」
「怖いさ。あの日も隕石が降る中の作戦だった。成功するまで生きた心地がしなかったし二度とやるか! と思ったほどだ。だが、あれは私たちの世界の負の遺産だ。完全に破壊するのが我々ISAFの役目だと思っている。あの苦しみを再現されるのは見過ごせないんだ。私もメビウス1もメビウス8もな」
「………あんたもいろいろあったんダナ」
「………ああ。いろいろあり過ぎた」
その一言に多くの出来事が詰まっているとエイラもサーニャも感じ取った。
スカイアイ。本名ギルバート・ナガブチ。彼もメビウスたちと同じく深い傷痕を抱えていた。ユリシーズの際両親を亡くし、大陸戦争開戦時に起こったサンサルバシオン市内の戦車戦で妻子が巻き込まれ妻が亡くなった。しかも味方の攻撃だったことが後に分かったためぶつけ様のない怒りと悲しみに襲われた。あの混乱から娘(当時11歳)の行方が分からない。もし生きていたら彼女たちと同じくらいの歳になっているだろう。
似たような境遇であるサーニャを見て娘の面影を重ねた彼女はサーニャの頭を優しく撫でた。
「ナガブチさん?」
「いろいろ終わったあとはぐれた両親に合えたら、存分に甘えてもらえ。それくらい許してもらえるさ」
「―――はい」
「な、なら私もごごごご挨拶いってもいいいいかナ!?」
「ぶっ。はははははははっ!」
「な、何笑ってんだよー!」
結婚前に彼女の両親にご挨拶に行く彼氏か何かかお前はと思った。
そして、作戦開始予定時刻9月19日05:00の一時間前04:00
慌ただしくなった艦内。攻略部隊であるウィッチたちは準備を進めていた。ポーツマス港を出港し、ブリテン島とアイルランド島の間の海峡を通過し北上。現在艦隊はオークニー諸島ウェストレー島南側に停泊している。メガリスがある島から100㎞ほど離れ島影で艦隊は見えていないはず。ここから出撃する予定だ。
「芳佳。大丈夫か?」
「え? 私は大丈夫ですよ。大丈夫です」
と言っているが、ほんの少し。本当に少しだけ手が震えていた。やはり怖いのだ。迷惑をかけないようにしているが、本能が恐怖を感じ取っているのかもしれない。
「宮藤芳佳。ちょっと後ろを向け」
「え? あ、はい」
宮藤が後ろを向いた後ウィッチの状態になったメビウス1。そして、自身の髪に結ばれているリボン。メビウス1―――リボン付きの死神の異名が形となったであろう青いリボンを解いた。それを鉢巻みたいに結んだ。
「いたたた! 強すぎです」
「ああすまん」
もう一度結び直した。鏡を見た宮藤はメビウス1に振り向く。
「これは」
「お守りみたいなもんだ……少しは気が引き締まったか?」
「はい」
「よし。じゃあ格納庫に行くぞ。もうみんな集まっているだろうからな」
格納庫には全員が集まっていた。と、入ると同時に館内放送が鳴る。
≪全員。そのままで聞いてほしい。先行しているレオナード大佐から伝えたいことがあるようだ。それでは、どうぞ≫
≪おはよう諸君。君たちに伝えたいことがある≫
潜入部隊の指揮官であるレオナード大佐(ベルツ)から一体何があるのかと皆が怪訝な表情になる。
≪1時間後、我々は海軍史上最大の作戦に参加する。
我らの大陸に混沌をもたらした敵を打ち倒す作戦となる。
我々は国も、人種も異なるが、我々は共に闘い、共に傷つき、そして死んでいった。
信じるものの為に、自由の為に戦ってきた。
今日この日、我々は1つの目的のため結集する。
我らの美しき大陸を開放し、人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために。
我々の勝利はヨーロッパ大陸解放と新たなる繁栄の時代を告げる先駆けとなるだろう≫
ベルツの演説に皆が聞き入る中メビウス1とスカイアイは目を合わせた。この演説は自分たちのメガリス攻略作戦の前に上官から言われて内容とそっくりだったのだ。驚きメビウス8を見ると隠れて親指を立てて見せた。
(お前の仕業かよ。まあ、悪くない)
≪勝利は我々のものである!≫
ベルツの演説を聞き兵士たちの士気は最高潮を迎えた。皆が演説を復唱する。
≪取り戻そう、人々に平和を≫
『取り戻そう、人々に平和を!』
≪勝ち取ろう、我々の自由と未来を≫
『勝ち取ろう、我々の自由と未来を!』
≪『世界は全ての人のものである!』≫
≪さあ、私たちの砕けた空≪ソラノカケラ≫を取り戻そう!≫
あとがき
AWACS≪Skyeye,here.All Mobius aircraft, report in.≫
FREND≪Mobius 2 on standby≫
FREND≪Mobius 3 through 7 on standby≫
FREND≪Mobius 8 on standby.≫
Skyfish≪Mobius 9 on standby.≫
You≪ ≫
AWACS≪Preparations are complete. Ready for battle.≫
≪All aircraft, follow Mobius 1! ≫