【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

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明けましておめでとうございます

本編どうぞ


第6話「新たな相棒?」

1944年5月21日11:00

 

「模擬戦闘をやってみたい?」

「そうだ。できるか」

 

先ほど訓練を終えて滑走路の端に座って休憩していると坂本少佐が話しかけてきた。

なんでも俺の実力を見てみたいとのことだ。

 

「今朝のミーティングのときに俺の機体は機密も含めて搭乗制限をかけられたが、どうするんだ」

「レシプロを動かせないか?」

 

レシプロという言葉で考え込む。

 

「レシプロはどうだか・・・パイロット候補生の時に操縦したことはあるが乗ってみないと何とも言えないな」

「よし。では一緒に来てくれ。確か第2格納庫に使わないユニットがあったはずだ」

 

というわけで坂本少佐と共に第2格納庫へ歩いていった。

 

「確かここに・・・あった」

 

第2格納庫に着いたメビウス1と坂本少佐は格納庫の端にあるユニットを見つけた。その機体は灰色と暗い緑色の迷彩の模様をした機体だった。中央には丸いマークがあり外側から黄、白、青、中心に赤色が描かれていた。

 

「この機体は?」

「ああ、この機体はブリタニアが製造したストライカーユニットだ。たしか名前は」

「ウルトラマリン スピットファイアMk.Ⅴですよ。少佐殿」

 

声がしたほうを振り向くと格納庫の入口に男の人が工具箱片手に立っていた。歳は40~50くらいだろうか。作業服や顔は所々汚れている。見たところ整備兵の1人のようだがその雰囲気からかなりのベテランだとメビウス1は見抜いた。

 

「ホーマー曹長、どうしてここに」

「いやなに、たまたま少佐殿がここに行くのを見かけただけですよ。それより、彼女が例の?」

「ああそうだ。と、紹介が遅れたな。彼はブリタニア空軍のホーマー・ウィルキンス曹長。ここ第501統合戦闘航空団で整備班のリーダーを務めている」

 

坂本少佐に紹介されたホーマーはメビウス1と向き合い敬礼した。

 

「ブリタニア空軍のホーマーであります。話は聞いてますよ、メビウス少佐。中佐殿の命令であなたの機体を整備できないのが残念だがよろしく」

「ISAF空軍の・・・いや、この肩書はここじゃ意味ないか。第501統合戦闘航空団の臨時特殊戦闘隊員に配属したメビウスだ。機体をいじりたい気持ちは分かるが我慢してくれ。しばらく世話になる」

 

メビウス1も敬礼を返した。

 

「それよりも少佐殿、どうしてこの格納庫に?ウィッチたちのユニットは整備ができてますよ」

「実はメビウスの実力が知りたいから模擬戦をやろうと思ったのだが機体が出せないらしくてな。レシプロは動かしたことがあるようだから変わりの機体を探していたんだ」

 

ははぁなるほど、とホーマー曹長は呟いていた。その間に坂本少佐はスピットファイアと呼ばれるストライカーユニットに手をかける。

 

「これにメビウスを乗せようと思うのだが整備をお願いできないか」

 

坂本少佐はホーマー曹長に言ったが笑顔で返答された。

 

「大丈夫ですよ。いつでも出れるように俺が整備してるんですから」

「そうなのか。それなら部下の者にやらせればいいだろうに」

「あいつらを今ウィッチたちが使っているユニットの整備から外すと間に合わなくなってしまいますよ。だったら時間がある自分がやるのがいいですから」

 

会話が終わったころに坂本少佐が“乗ってみるか?”と目で話してきた。

それに同意してウルトラマリン スピットファイアMk.Ⅴに足を入れた。が、ピクリとも動かなかった。というか魔力というものが感じられなかった。

 

(・・・?昨日の魔力が感じられない)

「動かないだと?どっか具合が悪いのか。待ってろ、今すぐ直してやる」

 

昨日見た光景とは違うことに疑問を持つ美緒。持っていた工具箱を開けていろいろ取り出すホーマー曹長。それを見ていたメビウス1は止めに入った。

 

「大丈夫だ、機体に問題は無い。むしろこれは俺のせいだ」

「はぁ?どういうことだ」

 

ホーマー曹長は分からないとばかりに顔を向ける。

 

「たぶんだが、こいつのフライトマニュアルを読んでいないから動かすことができないんだ」

「たいていのウィッチは魔力入れるだけで起動させるが無理なのか?」

「さあ?もしあるならこいつのフライトマニュアルを持ってきてくれないか。ないなら、同型の戦闘機を操縦したいのだが」

「戦闘機なら隣の第3格納庫に置いてあるぞ」

 

第3格納庫に入るとそこには先ほどと同じ模様をしたレシプロ機が置いてあった。主翼は楕円形の形をしている。メビウス1が駆け出しのパイロット候補生だったころ、練習機としてT-3に乗ったことがある。だが、戦闘用として作られた機体を見たのは初めてであった。やはり生まれた時代が違うせいかT-3に比べに所々に古さが見られるがそれ以上の性能があることが見て取れた。

 

「これはさっきの同型の機体か?」

「ああ、さっき見せたもの同様にスピットファイアシリーズで一番多く作られた機体だ。今はエンジンの改良でリネット軍曹が使っている後継機のMk.Ⅸが広まっているがまだまだ現役だ」

 

ホーマー曹長から話を一通り聞いた後メビウス1は機体の操縦席に乗り込んだ。

 

「こいつを動かすにはこれか?」

「そうだ。そしてこっちが・・・」

 

操縦席に座るメビウス1に坂本少佐が主翼に立ちながら操縦席にある機器を教えた。

全てを教え終わる頃にはもう12時をとっくに過ぎていた。

 

「午後にこれを飛ばすか?」

「そうだな。こいつを飛ばしてからさっきのストライカーユニットでやろう。もう飛ぶだけなら問題ない。」

「早いな。もう覚えたのか」

「俺が昔乗っていた機体、ファントムはこれの倍以上の計器盤でびっしりだったからな」

 

操縦席から出ながらそう答えた。

 

13:30

 

滑走路にはスピットファイアMk.Ⅴに乗ったメビウス1。そしてそれぞれのストライカーユニットを履いた美緒、宮藤、リーネ、が待機していた。

 

「坂本さん、なんでメビウスさんは飛行機に乗ってるんですか?」

宮藤が坂本少佐に質問してきた。口には出さないがリーネも同じことを思っていた。

 

「我々が使うユニットを動かすのに同型の戦闘機に乗らないと動かせないそうだ」

 

坂本少佐が2人に説明する。

 

「はあ、なんだか面倒ですね。飛行機に乗らないとストライカーユニットを動かせないなんて」

「まあそう言うな。メビウス、準備はできたか?」

「エルロン、ラダー、エレベーターともに正常。OKだ、少佐」

 

メビウス1の返事を確認し4人は大空へと飛び立った。

 

 

 

≪宮藤と私は編隊飛行と障害物回避の訓練を行う。リーネはメビウスの飛行を見てやってくれ。同じ機種だからな≫

「はい。分かりました。メビウスさん、こっちです」

 

上空2000mで坂本・宮藤の戦闘訓練グループ、メビウス1・リーネの飛行訓練グループ(リーネは同行)に分かれた。

 

高度2500mでメビウス1は機体の操縦を確認しながら様々な戦闘機動をやっていた。主に基本機動である垂直旋回やロール、スプリットS、インメルマンターンなどを行った。

 

「ふむ、思った通りいい機体だ。50年前の機体だからどうかと思ったがT-3より鋭い動きができる」

 

1人呟いていたメビウス1にリーネが話しかけてきた。

 

「すごいです。初めて操縦したとは思えないです」

「お褒めいただき光栄だ。まあ機体の良さが大きいかな。ラプターとは違うがいい機動性をしている」

 

メビウス1はコックピットのガラス扉を開けてリーネと話した。リーネはメビウス1が乗る機体の右5mくらいの場所を飛んでいる。

 

「1つ聞きたいことがあるんだが、この機体の欠点はなんだ?それと武装は?」

「私が使っているMk.Ⅸもそうですが航続距離が短いことです。武装は20mm HS.404機関砲 2門 、0.303口径(7.7mm) 機関銃 4挺、 爆弾は500ポンド(224kg)が搭載可能です」

 

機体の性能を聞き自分が乗る機体のすべてを理解したメビウス1。

 

(他の機体も乗ってみたいな)

 

と心の中で思っていた。すると無線から向こうの訓練の音声が

 

≪宮藤、これで6個目だぞ。あと何個気球に突っ込めば気が済むんだ!もっと周りをよく見ろ!≫

≪すみません!坂本さん・・・うわっ!≫

 

声と共に何かを破るような音が一緒に聞こえてくる。その空域を見ると今まさに1つの気球がしぼんで海へ落ちようとしているのが見えた。

 

「・・・あんなので実戦大丈夫なのか?」

「あはは、芳佳ちゃんは実戦だとうまくいってるのですけど。あと、魔力量はみんなの中で1番多いのですよ。そのおかげでシールドも大きいんです」

「そうか。ん?シールド?」

 

メビウス1は初めて聞く単語・・・といっても知らないわけではないがそれについて聞いてみた。簡単に言うと魔力でシールドを作りネウロイのレーザーを防ぐのだそうだ。

 

「メビウスさんはシールド張れないんですか?かなりの魔力の持ち主を聞いているのですけど」

「いや、そんなものできないし攻撃は全部避けてたしな」

 

気球を見ていたメビウス1はあることを思いついた。回線を開き坂本少佐に話しかける。

 

「少佐、この機体の機動を試すのにその空域を飛んでもいいか」

 

数秒後、坂本少佐から通信が入る。

 

≪ここを飛ぶのか?ウィッチ用に多めにあるからぶつかってしまうぞ≫

 

坂本少佐からやめとくよう言われたがメビウス1はそれを拒んだ。

 

「その程度の障害物でやられる俺じゃない。宮藤軍曹を下がらせてくれ」

≪分かった。宮藤、こっちに来い≫

≪・・・はい≫

 

宮藤は疲れたとばかりに坂本少佐のところへ飛んで行った。

 

「リネット軍曹も少佐のところへ行っていいぞ。1人で飛んでみたい」

「え、いいんですか?それでは失礼します」

 

リーネはメビウス1から離れて坂本少佐と宮藤がいる場所へ向かった。それを見届けたメビウス1は前方に浮いている気球群に目を向ける。確認できる数は50くらいおそらく見えないものを合わせたら100は下らないだろう。

 

「なんか、どこかで似たようなものを見たことがあるような」

 

目の前に広がる気球を見て何かを思い出すメビウス1。

 

(気球・・・飛行船・・・ああ、そういえばノーム幽谷のミッションがあったな)

 

確かあのときは敵のジャミング飛行船を目視で撃墜しなければならなかったな、と大陸戦争の時のことを思い出していた。

 

「よし、じゃあ行くか、相棒?」

 

まるで自身の仲間に話しかけるように呟き、右足で機体を軽く小突いて気球が漂う空域に飛び込んだ。

 

一言でいえば華麗の一文字であった。気球はただ浮いている訳ではない。動かないようにしているが多少は風に流されて常にその位置を変える。そのおかげでさっきまであった空間にいきなり気球が現れることがある。先ほどの宮藤のように前方だけを見ていると横から風に流された気球に気付かず衝突する羽目になる。だから常に周りを見て

 

“どこに”気球があり

“どの方向に”動いて

“どこが”回避するうえで最善の通り道となるか

 

を瞬時に判断・行動に移す必要がある。ミーナの固有魔法“空間把握”を使えば苦労せずに回避行動ができるが、できない者は自分の目で確認するしかない。しかも今はウィッチの訓練のためたくさんの気球が浮いている。そこを普通の戦闘機で飛ぶのは難しいと美緒は思っていた。

 

だがその予想が否定される。

 

「すごい・・・」

 

メビウス1の機動を見ているリーネが呟いた。リーネだけではない、隣にいる美緒や宮藤もまるで自身の体の一部のように機体を操っているメビウス機を見ながら同じことを思っていた。

 

「宮藤、リーネ、よく見ておくといい。他人の動きを見るのもいい勉強になる」

 

美緒は2人に向かってそう言った。機動を見ながら美緒はメビウス1の実力を分析していた。

 

(機体の性能をあの短時間で理解、回避軌道に全く無駄がない。それに気球を避けた後すぐに動き出していることから周りを十分確認している・・・)

 

さらに風向きのせいで通り道が機体ギリギリとなった場所があったが、機体はかすめることなく通り抜けた。スピードを落とさず突っ込んだことからメビウス1にはそれをやってのける実力と自信、そして覚悟があることを美緒は理解した。

 

「これがメビウスさんの実力・・・」

 

隣にいる宮藤がそう呟いているころにはメビウス1が乗ったスピットファイアは気球の塊から抜け出していた。

 

「これで最後・・・か。メガリスのときに比べれば結構楽だったな」

 

いや比べるほどでもないか、と心の中で思った。気球を全て躱したメビウス1は上昇して旋回したあと坂本少佐のところに飛んで行った。

 

「坂本少佐、もうあのユニットを動かせると思うがすぐに模擬戦始めるか?」

 

すぐにやると思っていたが明日にしようと坂本少佐は言った。

そのあとはメビウス1とリーネは基地に戻り、坂本少佐と宮藤は訓練を再開した。

 

≪うわわわぁ~~!へぶっ!≫

 

着陸したころに無線でそんな音声がまた聞こえた。

 

 

 

21:00

 

夜間哨戒のため格納庫に入ったサーニャはそこに人影を見つけた。

 

「メビウスさん?」

「サーニャか」

 

そこにはメビウス1が自身の機体であるF-22Aのそばに座り右手を機体に当てていた。

 

「何をしているのですか?」

 

サーニャの質問に“相棒の整備だ”と答えた。

 

「いつ何が起きてもいいようにしとかないとな」

 

機体に顔を向けるメビウス1の顔を見るサーニャ。その顔はまるで仲間あるいは家族を見るような顔だった。

 

「本当に大切にしているのですね。そのストライカーユニットを」

「分かるのか?」

「はい。メビウスさんの顔を見れば」

 

それを聞いたメビウス1は照れ隠しに笑う。

 

「自分でいうのもなんだが、こいつとはもう一心同体、切っても切れない関係だな。ずっと一緒に飛んでいるから愛着がわいてくるんだよ。ところでサーニャはどうしてここに?」

「わたしは夜間哨戒でここに来ました」

 

夜間哨戒。この時代なら飛行機にアンテナをつけて敵の夜襲を感知するものだろう。

 

「1人だけで寂しくないか?」

「いえ、飛んでいる間は世界中のナイトウィッチと交信していますので寂しくありません」

「世界中?どうやって交信しているんだ」

 

疑問に思ったメビウス1はサーニャに聞いた。なんでも電離層反射による魔導波の伝播を利用して世界中のナイトウィッチと交信しているらしい。仕組みを理解することはできなかったが自分が知るところのインターネットや電子メールのようなものか、と考える。

 

後に、これに興味を持ったある研究者が研究と開発を重ねて、この世界オリジナルのインターネットを生み出し世に広まるのだが、メビウス1やサーニャなど今この時代を生きる人には知るよしもない。

 

「じゃあ、夜間哨戒がんばってくれ。あと休みの時に夜寝ないと体調崩すぞ」

「メビウスさんこそ遅くまで起きると明日に響きますよ」

 

それだけ話してサーニャは夜間哨戒のため飛んで行った。

 

「さて、エンジンの修復に取り掛かりますか」

 

メビウス1は相棒の整備を再開する。最初、あの神と名のる女の言葉を半信半疑で聞いていた。だが、機体に触れて、何かが自分から相棒に流れるのを感じて驚いた。

 

「エンジンの整備終了・・・あと、は・・・サイドワインダーを」

 

ぽつりぽつりと言いながら整備を続けようと機体に手を伸ばす。だがその手は機体に触れることなくメビウス1は深い眠りに落ちていった。

 




ホーマー・ウィルキンス
ブリタニア空軍整備部
階級は曹長
年齢53歳
ウィッチーズ基地での整備班のリーダーを務める。各国のウィッチが集うため整備班も多国籍な状態であり、ブリタニア人だが各国の戦闘機の整備ができる。整備班の中で一番の年長者だが腕は基地内で随一。
若いころは廃材から自分専用の自転車を作ったりなど、ブリタニア精神という名の魔改造をやっていた。リベリオンでライト姉妹が飛行機を発明したことを知り、飛行機に心を奪われた。その時から飛行機の整備をしたいと思い始めた。
年を取ったせいか、ブリタニア精神は治まっているがシャーリーとは意気投合しているらしい。

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