【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐   作:skyfish

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第7話「模擬戦」

1944年5月21日

 

本日の天気は曇り、昼には晴れてくるらしい。

朝食後のミーティングが終わったあと第二格納庫ではストライカーの稼働音が響いていた。

 

「どうだ?調子は」

「ああ、問題ない」

 

そこには1人の男性、ホーマーとストライカーを履いた女性、メビウス1がいた。今しているのはスピットファイアMk.Ⅴ型ストライカーの起動確認だ。昨日同型の戦闘機に乗ったので動くかどうかのチェックを行っていた。

 

「しかし、飛行機乗らないと動かないとは面倒くさいことこのうえねぇな」

「同じことを昨日言われたよ」

 

軽く話をしストライカーから降りる。

 

「これなら今日の模擬戦をやれるだろう」

「性能で見ればこっちのほうが劣っているがな。それと前よりも落ち着いて見えるのは気のせいか?」

「そう見えるか?」

「なんとなくだが」

 

ホーマーの疑問にすぐ答えが導き出された。

 

「たぶん。これのおかげかもな」

 

メビウス1はそう言いながら腰に履いてあるものに手を当てた。

 

 

 

少しだけ時間を遡る。

 

「メビウス。遅れてしまったが持ってきたぞ」

「よかった。これでこのもやもやから解放できる」

 

メビウス1は坂本少佐が持っていたものを見て安堵の表情をした。彼女が持ってきたものはボロボロのジーンズだった。それとベルトもある。

 

「もう使っていないやつらしいがこれでいいのか?」

「こっちは大喜びだ。さすがにこれ一枚は嫌になっていたから」

 

坂本少佐からそれを受け取る。その時に坂本少佐から一言言われた。

 

「だが、ストライカーを履くときは脱がないとだめだぞ」

「は?なんで・・・あー、そういうことか」

 

すっかり忘れていたとメビウス1はそんな仕草をする。ストライカーは機体の構造により長ズボンや丈の長いスカートを履くことが出来ない。ある意味これのせいで服装がこうなっているのかもしれない。

 

「こっちでなんとかするさ。模擬戦の審判は誰がするんだ?」

「私だ。一つ言っておくがペイント弾を使うから撃っても大丈夫だぞ」

 

その後もいろいろ話した後自分の部屋に戻ってきた。そして引き出しの中にあるナイフを手にしジーンズの足の付け根あたりに刺した。それをかなり強引に切り込こむ。最終的に短パンのようなジーンズに仕上がった。分かりやすく言うなら女性が着る西部劇の衣装みたいなものだろうか。これでパンツ一枚で過ごす日からさよならだ。少し上機嫌になりメビウス1は格納庫に向かった。

 

 

 

「・・・というわけだ」

 

メビウス1の話を聞いたホーマーは頷きながら

 

「そっちの世界はズボン一枚じゃないのか?」

 

と質問してきた。言葉だと分からないかもしれないがこっちの世界でのズボンは俺の世界ではパンツになるので本当にややこしい。

 

「もしそんな恰好をしたら一発で刑務所行きだ」

 

そんな会話をしながら機体のチェックを済ませていった。

 

 

 

11:00

 

格納庫内で自分が使用する武器の説明をリネット軍曹から受けていた。

 

「これはブレン軽機関銃と言いまして、口径は7.7mm。発射速度は毎分約500発。有効射程は550mです」

 

リーネからの説明を聞きながらメビウス1はうつ伏せになり銃を構える。飛んでいるときの射撃体勢を再現しているのだ。いきなり実戦で使うのはまずいので少しでも自身がこの銃に馴染むようにやった。

 

「よし。行くか」

 

スピットファイアMk.Ⅴ型ストライカーを履き、魔導エンジンを起動させる。各部のチェックをしているときに横からリーネが話しかけてきた。

 

「メビウスさん一つ質問があるのですが、その頭のリボンはなんですか?」

「リボン?」

 

聞き返し頭に手をやる。すると何か布みたいなものに触れた。それを解く。それは実にシンプルなものだった。柄は一切入っていない。ただ、リバーシブルで片面が青、もう片方が白だった。それをじっと見つめる。

 

「ただの偶然かあるいは必然か・・・よく分からんが運命じみたものを感じるな」

「?」

 

メビウス1の独り言に首をかしげるリーネ。そんなことを気にせずにリボンを元の位置に結び直し機体のチェックを済ませる。

 

「それじゃあ、行きますか」

「がんばってください」

 

メビウス1はゆっくりと滑走路へと向かっていった。朝食後のミーティングでは自分の相手はバルクホルンらしい。滑走路に移動するとそこには先客が待っていた。

 

「なんでハルトマン中尉がいるんだ?」

 

そこにはストライカーを履いた美緒に何故かハルトマンが一緒にいたからだ。

 

「ああ、メビウス。実はな」

「エイラが私もやるって言ってきたんだよ。」

 

それを聞いてため息を漏らす

 

「何かあったのか?」

「何もない。ただ、朝食が終わってからずっと俺のことを目の敵みたいにしてるんだ。何でか分かるか?」

「私にも分からないな」

「さー。何でだろうねー」

 

坂本少佐は知らないと顔をするがハルトマンはにやけた顔で返答した。む、こいつは何か知ってて黙っているな。

 

「おい、お前何かし「あー!そろそろ行かなきゃ。お先ー!」・・・・・・」

 

はぐらかされて飛んで行ってしまった。まあ、これ以上相手を待たせるわけにはいかない。

 

「仕方ないか。俺たちも行くか」

「そうだな」

 

メビウス1と美緒の2人は滑走路を滑り雲で覆われた大空へと飛翔した。

 

 

 

「それではルールを説明するぞ。バルクホルンとエイラ、ハルトマンとメビウスでタッグマッチを行う。どちらかのチーム2人を先に撃墜したほうは勝ちだ」

 

審判役の坂本少佐の声が通信を通して耳に入ってくる。美緒は上空で、その下に4人がそれぞれのチームに分かれて待機していた。

 

「どうする。ハルトマン」

≪なにが?≫

 

折角ペアを組むことになったのだ。何か作戦を考えようと話しかけたが少しだけ拍子抜けな返事が返ってきた。

 

「何がって・・・フォーメーションの1つや2つ考えるべきじゃないか。即席だがないよ

りはましだと思うが」

 

2人でやるからには連携を取ったほうが戦況を有利に進めることができる。ハルトマンと一緒に飛ぶのはこれが初めてだが何もしないよりはマシだ。

 

≪ん~。たぶん向こうばらけるから考える必要無いんじゃない≫

 

その言葉に首をかしげるがハルトマンが指差す方向を見る。そこには白髪長髪の女の子、エイラがいた。

 

「まさかとは思うがこの場で私情持ち込むのか?さすがにそれはないだろう」

≪いや~、あり得るかもしれないよ?≫

 

ハルトマンは顔をにやけながら答える、それは一つの可能性として十分あった。

 

「じゃあ、エイラが俺のとこに来たらもう片方の相手を頼む」

≪いいよ。それよりさ、今朝サーニャと何してたの?≫

 

ハルトマンは模擬戦を前に関係のないことを聞いてくる。何でそのことを聞いてくるのかと疑問に思いながら今朝起こったことそのままを伝いた。

 

≪なるほどね~≫

「それでこれがなにか関係あるのか」

≪知ーらない≫

 

ハルトマンは笑いながら答える。エイラが俺に向ける感情の答えが分からず、深いため息を漏らした。

 

 

一方、バルクホルン&エイラチームでは

 

「エイラ、どちらを相手したい。私はメビウスの実力を知りたいからあいつをやりたい」

「いや、私があいつをやるゾ」

「あとからいきなり参加したんだ。こっちの言い分を聞け」

「あいつの顔にペイント弾撃たないと気が済まないゾ」

 

2人の間に火花が散る。バルクホルンはメビウスの実力を知りたい、エイラはメビウスと闘いたい(というかメビウスをぼろくそに叩きのめさないと気が済まない)。なぜエイラがこんなにもメビウス1のことを嫌っているか。それはエイラはサーニャのことが(ry

 

とまあこんな感じで険悪な状態となっていた。

 

「じゃあこうしよう」

「なにガ?」

「私はメビウスと闘いたい、だがお前も闘いたい」

 

そこまでいい少し間を開ける。バルクホルンは少しだけにやけて

 

「なら、やることは一つだ」

 

バルクホルンが言いたいことを理解したエイラは頷く。

 

「私もそれでいいゾ。でもエーリカは?」

「その時はその時だ」

≪準備はいいか?始めるぞ≫

 

坂本少佐の声が聞こえてくる。それに全員が返事をした。

 

≪それでは、初め!≫

 

通信から聞こえる美緒の一声。開始の言葉を聞きながらバルクホルンとエイラがメビウスに向かって突撃した。そして2人同時に同じ言葉を言う。

 

「「早い者勝ちだ!!」」

 

当のメビウス1は動揺を隠せていなかった。

 

「ちょっと待て、2人そろって俺狙いかよ!援護頼んだ!」

 

ハルトマンに言い終わるよりも早くメビウス1は急降下を開始、回避行動に移る。

 

「りょうか~い。そっちも頑張ってね」

 

メビウス1の緊迫した声とは逆に呑気な声でハルトマンは手を振っていた。急降下するメビウス1をエイラとバルクホルンの2人が追撃する。その距離がどんどん縮まっていく。

 

「ちっ、向こうの速度が上か!」

 

舌打ちしたと同時にバルクホルンが持つ二丁のMG42が火を噴いた。それを急旋回で躱し次に上昇を始める。その時、メビウス1の目はエイラの持つ銃、スオミKP/-31の銃口が自身の進路延長線上を向いているのを見逃さなかった。

 

咄嗟に減速し右へと旋回する。その瞬間自分がいたと思われる空間にペイント弾の雨が降り注いでいた。

 

≪え、躱しタ?!≫

 

エイラの驚いたような声が聞こえてくる。よほどあの攻撃に自信があったのだろうか。そんなことなど構わずにすぐさまエイラの背後を取ろうと動く。バルクホルンが接近してきたが、メビウス1とバルクホルンを遮るように銃弾が撃ち込まれた。

 

≪一人ぼっちは寂しいな。私も混ぜてよ≫

≪くっ、ハルトマン!じゃまするな!≫

 

バルクホルンはハルトマンの銃撃を避けようと回避行動をとる。ハルトマンの相手をしている間にメビウス1と間が開いた。

 

「ハルトマン、そっちは任せた!」

≪いいよ。メビウスも頑張ってね≫

 

メビウス1はもう1人の相手、エイラを視野に収めて銃を構えた。

 

 

ハルトマンとバルクホルンは会話をしながら闘っていた。

 

≪メビウスの相手をしたかったのだが・・・≫

「そんなこといわないで楽しもうよ、トゥルーデ」

 

互いに攻防を繰り返しながらも会話をする2人。そこでバルクホルンは少し思ったことを口にした。

 

≪ハルトマン。お前メビウスにエイラの固有魔法の話をしたか?≫

「あ・・・忘れてた。あははー」

≪それではあいつがエイラにやられるのは目に見えているぞ≫

 

途端に“やっちまったぜ!”みたいな顔をするハルトマンを見たバルクホルンは諦めの表情をした。

 

(あちゃ~メビウスに悪いことしたな。ごめん)

 

ハルトマンは心の中で謝罪しながらバルクホルに銃撃した。

 

 

一方、メビウス1はエイラに対して攻撃を行うが、顔は冴えていなかった。エイラはペイント弾をかすることなく回避する。傍から見ればその動きは無駄がなく見える。だが、メビウス1はある疑問を抱いていた。

 

(俺の攻撃はこれで4回目、あいつの攻撃を躱したのが7回目・・・なんだこの違和感は)

 

エイラの動きを隈なく見て、それはエースに匹敵するものと瞬時に理解した。だがそれゆえに納得できないものがあった。それはエイラの偏差射撃と回避行動である。偏差射撃は的確にメビウス1のことを捉えていた。直前に“急旋回をしなければ”確実にペイント弾の花を自身の体に咲かせていただろう。エイラの偏差射撃の技術は高い。だがここまで動きを予測できるのだろうか?もっと腑に落ちないのはこちらが攻撃した時だ。エイラは銃弾を簡単に避ける。これだけなら気にしないのだが彼女はそのとき“一度も”こちらを見ていないのだ。挙句の果てには射撃タイミングを見計らっての回避行動をやってのける。

 

まるでこちらのやることが丸見えだと言わんばかりにである。

 

エイラには申し訳ないが彼女の実力はメビウス1にとってはそんなに脅威ではない。なのにこちらの攻撃を見ないで容易く回避する姿にメビウス1の疑問は募るばかりであった。

 

(未来が見えているとでもいうのか?・・・なら)

 

メビウス1は手に持つ銃を構えなおす。

 

(それを踏まえたうえで行動するのみ!)

 

エイラを視界に入れ増速接近していった。

 

 

 

逆に、エイラは動揺を隠せずにいた。

 

(なんでダ!?なんで能力使ってるのに当たらないンダ?!)

 

エイラの固有魔法:未来予知は相手の動きを予想することができる。それにより模擬戦・実戦含めて被弾は0であった。またこれを使い偏差射撃を行い多くのネウロイを落としてきた。相手にとっては脅威であるこの力を使っているのに落とせないメビウスに対して同じ能力かと思いもした。だがそのようには見えなかった。

 

(それに)

 

エイラはメビウス1に対してある感情を抱いていた。怖いのだ、メビウスが。いや、正確には彼女の目が恐ろしく見えた。メビウスが攻撃するときも、こちらの攻撃を回避するときも、常にあの目が自分を見ているのだ。地上にいた時とはあきらかに違う。まるで鷹や鷲を彷彿させるような鋭い眼光に人間としての本能が警報を鳴り響かせていた。こちらの挙動を一切見逃さない。そんなことをエイラは感じ取っていた。

だが大丈夫だ。こっちには固有魔法の未来予知がある。メビウスの攻撃が私に当たることはない。メビウスに少しばかりの恐怖を抱きながらもエイラはどこか余裕であった。

 

その間にもメビウス1はエイラに接近していた。現在のエイラとの距離は100m、ブレン軽機関銃の射程距離からみれば十分だがまだだ、まだ遠すぎる。メビウス1はエイラが未来予知能力を持っていることを知らないが、これまでのエイラの動きからそのことを踏まえて行動していた。メビウス1は銃を構え引き金を引く。それを旋回でいとも簡単に回避するエイラ。

 

「その程度の攻撃じゃ当たらないゾ!」

 

エイラはメビウス1に挑発する。だがそのあとに聞こえたのは死神の声であった。

 

≪そうか。だが後ろががら空きだぞ≫

「え?」

 

エイラは後ろを振り向く。そこには銃を構えたメビウス1がそこにいた。

 

「なっ!」

 

エイラはそれを確認すると同時に驚いていた。なぜなら自分とメビウス1との距離が5mもなかったからである。メビウス1は銃撃をエイラに当てるのにある結論を出していた。エイラはこちらの攻撃を予知していたみたいに回避行動を行った。ただの攻撃では簡単に避けられてしまう。ならどうすればいいか?メビウス1は出した答えは実に単純なものだった。

 

(避けられるのなら、絶対に避けられない距離から攻撃を仕掛ければいい)

 

さらに回避しているときにこちらを見ないことを利用した。エイラに銃を乱射して回避行動をとらせる。つまり、この攻撃を囮にしたのだ。その間にメビウス1はエイラを見ながら未来位置を予測。エイラがこちらを見るころは攻撃するには十分すぎるところまで間合いを詰めていた。

 

エイラがすぐさま離れようと動き出すが、それよりも早くメビウス1は引き金を引いた。

毎分500発も放つブレン軽機関銃から放たれるペイント弾がエイラに襲い掛かり、彼女を

黄色に染め上げた。

 

≪エイラ、撃墜!≫

 

坂本少佐の撃墜判定の声が通信を通して聞こえてくる。

 

あまりのことに頭が追いつかず呆然とするエイラ。メビウス1はそんな彼女に言いたいことがあったが今は模擬戦中こともあり終わってからにしようと考えた。メビウス1はバルクホルンとハルトマンが闘っている空域に飛んで行った。

 

≪エイラ、撃墜!≫

 

その言葉を聞いた瞬間、バルクホルンとハルトマンはお互いの攻撃を中断した。それほど

までに先の言葉が信じられなかったからである。

 

「まさか!エイラがやられた!?」

「へー、メビウスやるじゃん。どうやったんだろう」

 

驚きを隠せない2人、それもそのはずだった。なんせエイラの未来予知を知らないのに彼

女を倒したのだから。

 

「くそ!あいつが来るまでに何とかしないと」

「じゃあ続きやろうか、トゥルーデ」

 

バルクホルンはメビウスが来る前にハルトマンを倒そうとした。このままではこちらが不

利だ。2人が離れて互いに向き合う。ヘッドオン、そして互いに手に持つ銃の引き金を引く。

ここで変化が起きた。

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

ガガガガガガガガガガガガチン!!

「うぇっ!マジ!?」

 

ハルトマンの持つ銃が弾切れを起こしたのだ、遊びすぎたことを後悔した。その隙にハル

トマンの背後を取り両手の銃を構えた。

 

「捉えた!」

≪こちらもな≫

 

いきなり通信から声が聞こえてくる。言いようのない悪寒がバルクホルンに襲い掛かり、

咄嗟にバレルロールを行った。その瞬間ペイント弾の嵐がさっきまでいた場所を通り過ぎ

た。

 

≪あれを避けるとは、いい腕だな≫

「エイラを落としたからといって調子に乗るなよ、メビウス!」

 

バルクホルンはメビウスに向けて銃を乱射するが後ろを取っている訳ではないので簡単に

避けられる。回避行動を取りながらメビウス1はハルトマンに通信を送っていた。

 

「ハルトマン、そっちの状況は?」

≪大丈夫だけど弾が切れちゃった。メビウスのほうはどうなの?≫

「残弾残り僅か、エイラ相手に使いすぎた。あと1回が限界だ」

≪難しいね≫

 

どうしようかと2人は頭を抱え込む。メビウス1は今の状況を考え直していた。

 

メビウス1:残弾僅か

ハルトマン:残弾ゼロ

バルクホルン:二丁の銃健在

エイラ:メビウス1によりリタイア

 

実に芳しくない状況である。こちらは2人健在なのに実質1人と変わらないのだ。しかも

攻撃できる回数はあと一回のみ。バルクホルン相手では一回の攻撃は絶対に避けられる。

これを当てるには相手の虚を突いた奇襲が一番だが、一対一の状態で奇襲という形に持ち

込むことは難しい。そう考えている間にもバルクホルンの銃撃をメビウス1は回避してい

た。

 

(どうする。このままじゃジリ貧だ)

 

どうにかしないと考えていると雲の切れ間から太陽の日の光が射しているのが見えた。

それを見たメビウス1はあることを思いついた。

 

「ハルトマン聞こえるか」

≪なーに?メビウス。もしかして、何か思いついたの≫

 

遠くのほうでメビウス1とバルクホルンの闘いを見ていたハルトマンを確認する。

 

「思いついたといえば思いついたのだが・・・かなり賭けに近い作戦だぞ?失敗すればこ

っちは残弾ゼロで逃げ続けなきゃいけない」

≪なになに?聞かせて聞かせて≫

 

ハルトマンに急かされてメビウス1は自分がつい先ほど思いついた作戦を伝えた。

 

「どうする?」

≪いいよ。おもしろそう≫

 

ハルトマンの了承を得て2人は行動に移った。

 

 

バルクホルンはメビウスに対して射撃しているが全く当たらない。また、メビウス1の目

を見てエイラほどではないが似たような感情を抱いていた。

 

(なんて目をしているんだ。私やハルトマンはともかくリーネやルッキーニは怯えて動け

ないだろうな)

 

メビウスのことを見てバルクホルンはあることに気が付いた。奴が固有魔法を使っていな

いことに。

 

「おい、メビウス。なぜ固有魔法を使わない。私は全力のお前とやりたいのだぞ」

 

バルクホルンは苛立ちを隠せていない。手抜きをしているメビウスに対して少しばかりの

怒りを感じていた。だが、聞こえてきたものは信じられないものだった。

 

≪固有魔法ってなんだ?≫

「・・・は?」

 

バルクホルンにしては間抜けな声を出しただろう。それほどにメビウスの言葉が理解でき

なかった。固有魔法を知らない?ウィッチとして常識である固有魔法を知らないと言った

のかこいつは。

 

「貴様それでエイラを落としたというのか!?」

≪やりにくかったぞ。あいつこっちの動きはお見通しだ、みたいに動くしな。なんだ?あ

いつなんか魔法使ったのか?≫

 

バルクホルンはメビウスの言葉に驚愕した。能力を使用するエイラ相手に実力だけでやっ

てのけたのだ。

 

「おもしろい。なら私をやってみせろ!」

 

バルクホルンは銃を構えなおした。

 

 

 

(よしよし、やる気になってくれたな)

 

メビウス1はバルクホルンを見つめながらそんなことを考えていた。メビウス1はジンキ

ングという回避行動でバルクホルンの射程に入らないようにしていた。

 

ジンキングとは機体を上下または左右とランダムに動かして相手の照準から逃げ続ける機

動である。低速で行えば追うほうは失速による墜落を恐れて照準がつけにくくなる。ただ

一般的にこれを使うときは相手に食いつかれて逃げの一手で使う最終手段、悪く言えばた

だの時間稼ぎだ。それをひたすら続ける。なかなか当たらずバルクホルンが少しだけ苛立

ちはじめたころ、メビウス1に通信が入った。

 

≪メビウス、配置完了したよ≫

「よし、始めるぞ」

 

メビウスは上昇を開始、それを追ってバルクホルンも上昇を始める。そしてメビウスは雲

に突っ込んだ。その次に聞こえてくる1発の発砲音。バルクホルンは身構えたが何もなか

ったのでそのまま雲に突入した。

 

雲の中を上昇すること10秒ほど、バルクホルンの前にメビウスの姿があった。それに雲に

入る時よりも距離が短い。それは機体の性能差が原因であった。

 

「もらった!!」

 

バルクホルンが銃を構え照準をメビウスに合わせる。それを見計らっていたかのようにメ

ビウス1はバレルロールを行った。

 

瞬間、メビウス1によって隠れていた太陽の陽の光がバルクホルンに降り注ぐ。

 

「くそっ」

 

雲の中にいたせいで余計に眩しく見え、片目を閉じる。

 

その一瞬の隙を見逃さなかった。

 

≪もらいー!!≫

「なっ!」

 

バルクホルンは心底驚いただろう。なにせ太陽を背に急降下銃撃を仕掛けているのがハル

トマンなのだから。それになぜ攻撃できるんだ。あいつの銃は弾切れのはず―――!

 

1秒もかからずに考察するが答えが出るはずもなくすぐさま回避行動に移るがあまりにも

遅すぎた。バルクホルンはハルトマンから放たれたペイント弾でストライカーに黄色い斑

点が描かれた。

 

≪バルクホルン撃墜!メビウス&ハルトマンチームの勝利!≫

 

模擬戦終了のホイッスルが響く。模擬戦の結果はメビウスとハルトマンの勝利で修まった。

メビウス1とハルトマンは近づき、パチンと互いの左手を叩いた。

 

「お疲れー。いやぁ、こんなにうまくいくなんて思わなかったね」

「ああ。まあ、成功したからよかった」

 

メビウス1はハルトマンの右手に持っているものを見る。それはメビウス1が使っていた

ブレン軽機関銃だった。

 

メビウス1が考えた作戦とはこういうものだった。

 

まず、メビウス1がバルクホルンを引き付けその間にハルトマンは雲の上に移動する。そ

の後にメビウス1が雲に突入するのだが、そのときにメビウスは1発だけ垂直に上昇する

自分の前に向けて撃っていた。これはハルトマンに対してこのあたりから出てくるという

合図だった。雲から出て来るやいなや、メビウス1は魔力による身体強化を利用してハル

トマンに向けて銃を投げた。それを受け取りハルトマンはメビウス1に向かって急降下を

開始。擦れ違いざまにハルトマンがバルクホルンを攻撃する。

 

太陽の光を利用してひるむこと、攻撃できないはずのハルトマンの銃撃による動揺

を合わせた奇襲を考えたのだ。

 

「それにしてもさ、どうやってエイラに勝ったの?」

「それについていろいろ聞きたいのだが、あいつの固有魔法?はなんだ」

「言い忘れてたけど“未来予知”だよ」

「・・・はい?ちょっと待て。詳しく聞かせろ」

 

そのあと、メビウス1はハルトマン、美緒、バルクホルン、エイラに対して固有魔法につ

いていろいろ質問していた。

 

 

 

ちょうどそのころ、基地から10kmほど離れた場所である人物がスナイパー銃についてい

るスコープを覗きながら空を眺めていた。

 

「雲の中に入ったか。これじゃあ見えないな」

 

そう呟きスコープから手を放す。それは二十歳を超えた黒髪長髪の凛々しい女性だった。

それにこんな季節にも関わらずマフラーを着用している。車に乗り運転手に伝える。

 

「基地に向かってくれ」

 

動き出した車の中で女性、アドルフィーネ・ガランドはある一人のウィッチのことを考え

ていた。

 

(あのウィッチは誰だ?報告にあった所属不明のウィッチのだろうか)

 

そう、彼女はメビウス1の機動を固有魔法である魔眼でスコープ越しに観察していた。

 

(そいつにあのエイラがやられていた。しかもあんな至近距離まで接近してやるとは・・・

何者だ?)

 

あのウィッチの動きは明らかにエースに相応しい動きだった。だが何故だろうか?

確証はないが本気を出しているようにも見えなかった。もし出したら501のウィッチ全員 

が束でかかっても無傷で返り討ちにしそうな実力の持ち主のように見えた。

 

「まずは会ってみるのが一番だな」

 

ガラントは呟き、知らないウィッチに対して無意識に高揚感を抱いていた。

 




pixiv小説でさきに出していたやつの最後の作品となりますので、ここから投稿ペースが落ちます。ご了承ください。

あと言い忘れていたことがあります。ストライクウィッチーズ1期の時間系列ですが

アニメ版
1944年 宮藤のところに父親からの手紙が届く(月日不明)
小説版
1944年7月に手紙が届く

同年9月 ガリア解放

とウィキにかいてあるんですよ。小説版は無視するとしても扶桑からブリタニアまでの移動に1か月かかるはずですから、2話~最終話までの期間は1、2か月・・・?
いやいやいや短くすギルでしょ!
ということで時間をいじっています。ごめんなさい。
なるべくストーリーの時系列にはまるように努力します   

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