慎二くん転生する   作:茶ゴス

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「クソ!なんだよ!いないなんて誤算だぞ!」

 

 

 教会を出た僕は、足早に衛宮士郎の家へと向かい、衛宮士郎のオヤジとやらに協力を仰ごうとした。しかし、結果はハズレ。何故か衛宮の家にいた藤村大河曰く世界旅行に二人して行っているらしい。本当にやられた。

 他に魔術に関係している場所は遠坂だが、現在の彼処にはまだまだ未熟な遠坂凜、魔術師ではない遠坂の母親がいるだけだろう。他にめぼしい所なんて冬木にはない。

 

 ははは、RPGで仲間ができると思って結局自分一人だけで戦わないといけなかったみたいな状況だ。笑えない。

 

 

 仕方ない。今日の所はここらで切り上げて帰るか。いざと慣れば英雄王に頼れなくても言峰綺礼に頼ろう。あれなら実力的には問題はない。だけど性格的に助けてくれるとは思えないのが難点だ……

 

 もしかして、僕一人でどうにかしないといけない?

 落ち着け、僕。そんな事はない筈だ。流石にこの8歳時の身体だけであの間桐臓硯をどうにか出来るとは思えない。協力者は必要不可欠なのだ……

 せめてムーンセルみたいにデータのハッキングでどうにか出来るのならどうにでも出来るのだけれど……ここは現実世界。そんな都合の良いことでは出来ていない。

 

 もし協力者を得られなかったらどうする?

 こんな非力で無力な僕に出来ることなんて無い。よくよく考えれば桜を助けられなくても誰にも責められない。別に助けられなくてもいいのだ。

 

 

「……そんなわけないだろ」

 

 

 一度やると決めたのだ。今更やめるとか考えたくもない。何より、死んだ僕を思って泣いてくれたあいつに申し付けがつかない。

 もし、もしこの人生が終わって天国であいつと会えたら胸を張ってあいつに言ってやりたい。お前の友達は僕だって……

 

 損得勘定なんか関係ない。しみったれた友情とかどうでもいい。僕を動かす原動力はどこまで行っても僕のプライドなのだから。

 あいつにばっかりカッコつけさせてたまるか。あいつが思わず絶句するようなことでもしてやらないと気がすまない。

 

 

 2回死んだせいかな。やっぱり僕は根本的におかしくなってしまったんだ。

 

 

 おかしくなったついでに妹の一人くらい助けてやるくらいしてやるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 間桐邸に帰ってきた。雑草が生えっぱなしの汚い家。古臭いドアを開けるとギィと音がなる。

 取り敢えず今日は休もう。明日になれば何か妙案を思い浮かぶかもしれないし。

 

 

「……こんな遅くまで何をやっていたのかの?」

 

「……お祖父様」

 

 

 一番会いたくない奴にあってしまった。

 そう言えば僕は蟲の監視を振りきって教会に行ったのだ。不審に思われても仕方ない。

 

 

「ただ、街の探索をしてただけですよ。街を知っておくのは重要でしょ?」

 

「ふむ、確かにそうじゃが……何故教会や衛宮の小僧の家に行ったのだ?」

 

 

 まずい、だいぶ不審がられている。っていうか衛宮の家の方も目を向けてたのか。抜け目ないな、この爺さん。

 

 

「何故と言っても理由はないですよ。目立つものだから行ってみただけですし……」

 

「………」

 

 

 目を細め僕の眼を見てくる。

 まっすぐに見つめ返してやる。嘘を突き通せ間桐慎二。今眼の前の化け物に気取られたら命はないのだ。

 自分すら騙して見せないといけないぞ。

 

 

「……嘘じゃな」

 

「え?」

 

 

 突然腹部を強烈な痛みが襲った。

 メルトリリスに刺された時のような鋭い痛みではない。何かで殴られたような鈍い痛み。

 

 思わず後退る。腹を抑えて座り込む。胃の中の物を全部戻してしまいそうな錯覚を覚えてしまう。

 

 

「やれやれ、一体どういうつもりかはわからんが、儂に敵対するつもりなのはわかる」

 

 

 顔面に何かが当たり吹き飛ばされる。

 そのまま玄関のドアに叩きつけられた。頭がくらくらする。血が流れているのだろうか……

 

 

「なに……を」

 

「それをお主が言うのか慎二。儂は悲しいぞ、愛する孫に裏切られてな」

 

 

 飛来してくる何かを咄嗟に躱そうとするが、痛みで身体が動かずにドアに叩きつけられる。

 

 ああ、成る程。攻撃の正体は蟲か。特に大きな蟲ではない。普通にバッタくらいの大きさの蟲。だけどその体当たりは尋常ではない。恐らくは魔力によって強化しているのだろう。

 2匹腹部に当たる。

 

 

「がはっ!!」

 

 

 血を吐き出すような錯覚を覚える。血を吐き出している訳ではないが、口の中が凄く酸っぱい。

 少し胃液が逆流しているのだろうか……

 

 

「儂も実の孫に手をかけるつもりはない、まあ、相応の罰は受けてもらうがの」

 

 

 ハッ!

 お前にそんな感性があるわけが無いだろうに。どうせ僕のことなんか出来損ないの小道具としか思っていないだろうに。

 

 

「……無理…して……人間を…務める……必要はない……ぞ……化け物」

 

「なに?」

 

 

 ドアを支えにズルズルと立ち上がる。

 体中に痛みが走る。今まで感じたことのない痛み。だけど、不思議とこれよりもメルトリリスの一撃のほうが辛かった気がする。あの時は痛覚遮断までしていたのにだ。

 

 目の前の化け物の存在に恐怖を感じる。だけど、聖杯戦争で負けて覚悟もないまま自分の身体が崩壊していったあの時よりはマシだ。

 

 

 所詮はそんな程度。化け物と言っても、8歳の僕が体験したこと以上の物を与えられないのだ。

 そんな存在、恐るるに足りない。

 

 

「僕を……屈服させたいなら……後3倍は……キツくないとね…」

 

 

 フラフラの身体で精一杯虚勢を貼る。まだ何も準備も出来ていなかった状態でいきなり死地に立たされている。どんなクソゲーだよってぶん投げたくなるけど、これは現実なんだ。

 恐らくこのままでは僕は死ぬか精神を殺されるだろう。

 

 だけど、僕がどうなったとしてもこんな化け物に屈服したりはしない。

 弱虫なあいつでもやれそうな事を僕に出来ないわけがない。

 僕を睨みつけている化け物をあざ笑うように一歩踏み出す。その瞬間に腹部へと飛来する蟲。

 

 避ける力もなくドアに叩きつけられる。

 

 

「……望むならば一思いに殺してやろう」

 

 

 ほら、簡単に殺せちゃうんでしょ。

 でも、ただで殺されるつもりはない。アンタの毒はメルトリリスに比べれば貧弱なもの。アンタの攻撃はメルトリリスに比べれば怖くない。アンタの存在はあの時のメルトリリスに比べれば陳腐なものだ。

 

 そんな絶対的な存在だったメルトリリスも僕のお陰で倒せただろう。

 

 そう、あの時の出来事に比べればこれくらい大したことはない。

 

 

 手を膝についてヨロヨロと立ち上がる。

 あいつならこんな状態でも前に進む。あいつはそんな奴なんだ。

 肋骨が折れている?関係ないね。

 内臓に傷が入った?かすり傷さ。

 血を大量に失った?そんな物食べてりゃ治る。

 

 何度蟲に叩きつけられようとも立ち上がる。お前の攻撃なんて屁でもないって嗤いながら一歩一歩歩く。

 そんな僕に臓硯は焦りだす。見なよ、何百年も生きた化け物が8歳の子供にビビってるんだぜ?滑稽だろ?

 

 拳を握り、一歩一歩近付く。蟲が飛んでくる。避けなくてはいけない……

 ヨロケルように避けたが、脇腹を掠り少し肉を抉られた。痛いな、凄く痛い。

 

 だけど、さっきよりもマシだと思う。多分痛みで神経が麻痺し始めているんだ。これは少しマズイな。やっぱり限界というものは存在する。どれだけ僕の精神が強靭だろうとこの肉体は子供なのだ。

 

 

 ポタポタと血を流しながら歩く。あと一歩、あと一歩で臓硯の目の前まで行ける。

 魔力も何もなく、子供の身体じゃあ非力な僕だけど、一発くらいはぶん殴ってやりたい。

 

 

「く、くるな!!」

 

 

 数十匹の蟲が襲い掛かってくる。満身創痍の僕が避けられるはずもなく、ドアに叩きつけられる。

 

 くそ、あと一歩だったのに……身体も動かないか。ここが限界……

 妹を助けるなんて大それたことを言ったけど、僕一人ではこれくらいしか出来なかったか……

 

 ライダーがいれば簡単だったろうけど……あいつはいない。

 

 目の前で見てわかるほどに安堵している化け物を見ながら悔やむ。何故僕には力がないのだろうか、悔しいとも感じるが、それ以上に腹が立つ。

 本来の僕ならばここまで落ちぶれてはいない。こんな世界の僕になったせいでスペックが下がってしまっている。

 

 くそ、しっかりしろよな、間桐慎二。僕だって言うなら、もっとハイスペックに生まれろよ……

 

 

 まあ、過ぎたことは仕方ない。僕が消えることに未練は凄く残っている。だけどどうしようもない。

 

 ……このまま僕が消えたらあいつも消えてしまうのか。それはなんだか嫌だなぁ……

 

 

「……岸波…」

 

 

 瞬間、ドアが吹き飛ばされた。

 

 

「………」

 

 

 地面を転がり、夕暮れが差してくる方向に視線を向ける。

 そこには、英雄王が悠然と立っていた。身につけている金色の鎧は美しく光を反射し、赤い目は冷めた様子で化け物を見ていた。

 

 

「どう……して……」

 

「……勘違いするでないぞ、此度貴様の行動は見させてもらった」

 

 

 何かの宝具でも使って見ていたのだろうか……

 

 

「貴様の覚悟、裁定するに値するかをな……」

 

「覚悟……麻婆……」

 

「ひとつ言っておいてやろう。貴様がアレを食すのは到底不可能だ。しかしな、貴様はそれでいて我を前に臆しながらも己が自己性を謳った。王を前に……だ」

 

 

 ……ああ、そうか。そう言えばそうだったな……

 この英雄王は遠目で見てても分かるように、人の話を聞かずに人を見ているのだ。

 

 

「心底腹立たしい……が、この世に蔓延る害虫共に比べれば幾分かは見どころがあるよな」

 

 

 あいつが言っていた。ギルガメッシュは自分を裁定者と名乗っていたと。

 自分自身の目でその人物を見定めると……

 

 

「ここで貴様が死ぬのも良いとは思うたが、何故か興が乗った。感謝しろよ小僧、お前の頼み聞いてやろう。名を言え」

 

「……間桐… シンジ」

 

「そうか、ではシンジ、貴様はそこで見ているが良い」

 

 

 そこからは一方的な蹂躙だった。

 臓硯は多数の虫を逃がすことで生き逃れようとしたが、英雄王の宝具の前にそんなことも敵わず……桜の体内に逃げようともしたが、英雄王が取り出した剣で、桜を切ると体内にいたであろう臓硯の蟲の屍骸を桜が吐き出した。

 僅か1分で数百年という歳月を生きた化け物は殺された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あり、がとう…英雄王……」

 

「良い、では我は行くが、もう面倒は御免だぞ?」

 

「ああ……助かったよ……」

 

 

 英雄王と別れ、痛む身体を我慢して桜を背負って歩く。

 今の僕には何も出来ない。妹を連れて生きることも出来るわけがない。

 

 恐らく間桐の家は崩壊するだろう。僕の父親もいるにはいるが、やはり臓硯が全てを動かしていたのは事実なのだ。それがいなくなったとすれば、表でも裏でも力が無くなり、消滅する。

 

 そうなれば僕達は路頭に迷う事になるだろう……

 

 

 だけど、今ならまだ間に合う。僕には無いけど、披露していて背中で眠る桜には帰る場所がある。

 

 

 

 血を流しながら数十分歩いて遠坂邸に辿り着いた。

 その間、何人かの人とすれ違ったが、僕の血には気づかずに歩き去っていった。これは幸運だったのだろう。今、事が大きくなってしまってはダメなのだから……

 

 

「お前は気楽でいいよな……ずっと拷問に耐えてきて……ある時いきなり…助けられて本当の母親に引き……取られるなんてさ」

 

 

 これで最期なのだ、いやみったらしく桜へと愚痴を零しながら、僕はインターホンへと手を伸ばす。

 

 

「まあ…頑張った妹への初めての……プレゼントってやつさ……感謝…しろよ」

 

 

 震える手でインターホンを鳴らし、桜を地面に寝かせ足早に立ち去る。

 ここには僕の居場所はない。もしかしたら僕ごと面倒を見てくれるかもしれない……

 

 

 でも、そんなのは僕が認めない。

 あの遠坂の世話になるなんて反吐がでる。

 

 そうなるくらいなら、バーサーカーの料理を食う方が……いや、それなら遠坂の家に拾われるな……

 

 

 まあ、いい。僕と遠坂は相容れない存在なのだ、どれだけ僕が優秀だろうとあいつは認めない。

 そんな奴と一緒になんていられないや……

 

 

 遠坂邸から離れて、塀により掛かるように座り込む。

 

 血を流しすぎたのかな、暗い空が白くなっていく。

 もう動けないか……僕はこのまま……

 

 

 

「見つけたぞ少年」

 

「………」

 

「ふむ、気絶しているか、仕方ない教会へと運ぶか」

 

「………」

 

「しかし、私の麻婆豆腐を食したいとは中々に理解っているではないか」

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