Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第12話 抑止の力

 

 あふれ出る黄金の光は百鬼夜行を焼き、空亡まで届いた。

 

「オン・コロコロ。センダリマトウギソワカ──」

 

「六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォッ!」

 

 龍の怒りが高まっていく。そして、龍の怒りを恐れて遁走する百鬼夜行が英雄王へと向かっていく。

 

「貴様ら──気に入らんぞ。畏れ、仰ぎ見るべきこの我をォ! 差し置いて堕ちた龍神などに背を向けるか!? 本来ならば我にひざまづくのが先であろうが、何故貴様らは我の怒りに震え逃げ出さぬ? 我とそやつ、どちらが怖いというのだ、おのれらは──ッ!」

 

 一喝とともに黄金の雨が降り注ぐ。その一滴一滴までもが宝具である。数十、数百単位の宝剣、魔剣、呪われた槍があらゆる全てを蹂躙する。

 

「ぬ……オオオオ──ッ!」

 

 しかし、質の差と言うのはどんなものにも存在する。この堕ちた龍神は龍脈から魔力を直接吸い取っている。汚している。

 

 けれど、英雄王は別なのだ。端を発せば同じ龍脈から生じる魔力。けれど、それは遠坂時臣を通したことで純度が下がる。

 言うなれば、余計なものがくっついた容器に入れてから他の容器に移すようなもの。直接組み上げている龍神と比べて差が出る。

 

「滅・滅・滅・滅」

 

「亡・亡・亡ォォォッ!」

 

 英雄王が本気を出せば、一瞬で──とはいかずともすぐに時臣の魔力は枯渇する。現に今とて、彼はバーサーカーを使役するのと同じ苦痛に身をよじっている。魔力を根こそぎ奪われる苦しみはどちらも同じく凄まじいものがある。

 

「時臣ィィィ……! 貴様、この程度の魔力で我が満足すると思うのか!? 我が家臣を称するならば、このくらい耐えてみせずにどうする!」

 

 滅茶苦茶なことを言う。と言うか、比べる対象が龍脈だ。そんなものに比べられてはたまらんと言いたいが、苦しみに悶える時臣は精神を総動員してこの状況を切り抜ける策を考える。あった。単純明快。しかし、それゆえに極上の策が。

 

 レイラインで弱々しい声を届ける。

 

「我なら、龍神など一瞬で倒せる。遊びはやめろ、だと──貴様、家臣の分際でエアを抜けと言うつもりか──―身の程を知れ、雑種!」

 

 けれど、その策は己がサーヴァントによって却下された。そして──

 

 

 

「ずいぶんと、まあ──見苦しいことになっているな、アーチャー」

 

 ここに剣の英霊、セイバーが到着した。綺礼の命令で文字通り飛んで──屋根の上を跳んでここまでたどり着いた。

 

「騎士の誇りにかけて、あのような不浄なものは捨て置けぬ。守ってやるから、弓兵の名に違わぬよう貫いて見せろよ英雄王」

 

 そして見えない剣を構えた。アサシンと会い見え、ここまで走ってきたわけだが体に疲労はない。

 龍神を前に油断などできるわけもなく、見えない剣を正眼に構えている。

 

「女が我に舐めた口を──」

「ほう? では、後ろで見ていようか」

 

「かまわ──」

 

 直後、二人のレイラインに怒鳴るような声が響く。

 

「やれ、マスターと時臣殿がうるさいな。サーヴァントらしく、言うことを聞こうか」

「きさ──」

 

「──破!」

 

 見えない剣で百鬼夜行を叩き潰した。だが、百鬼夜行なんてものはいくらでも出てくる。自然発生しているだけなのだ。そもそも攻撃ですらないし、龍神自身も笑って百鬼夜行を惨殺している。そんなものをいくら叩いたところで、空亡には何の痛痒も与えない。

 

「アーチャー。一瞬だけだが道を開く。そこに一撃必殺を!」

 

 セイバーは淀んだ魔力から百鬼夜行が生まれるさまを見て、百鬼夜行は無限に生まれ出でるものと理解した。ゆえ、狙うは一撃必殺だ。

 

「ぐ──待てと言うに……」

 

 アーチャーは苦々しげである。おそらく、時臣の魔力の心配でもしているのだろう。彼は無限に魔力が湧き出でるような宝具は持っていない。いや、聖杯が再現できていないのか。

 時臣の魔力を吸い尽くして攻撃を放つのならそれでもいいが、魔力が足りなくて撃てませんでしたではさすがに恰好がつかない。

 

「待てん! この様子──奴は龍脈から力を得ている。その力は無限に近いぞ。人の身で使役されるサーヴァントは有限の魔力しか持たない。まごつけば不利になるばかりだ! 行くぞ──」

 

 聞かず、作戦を決行した。

 

「──覚えていろよ!」

「この一撃にて龍神への道を切り開かん──! 風王鉄槌(ストライク・エア)

 

 豪風が湧き出る百鬼夜行を叩きのめし、肉片に変えて弾丸と化す。その死体がさらに百鬼夜行を叩きのめし、ビリヤードのように弾ける。

 

「道は作ったぞ!」

「心得た。龍神よ──貴様には穢れを祓う宝剣、龍の因子を断ち切る刃、忠に繋がりし宝珠を与えてやろう!」

 

 “それら”は、もはやランク的には神具に近い。全ては原本であるのだから解放する真名などなく、ゆえにわずかな魔力でも効果は減じたりなどしない。

 

「オン・コロコロ。センダリマトウギソワカ──」

 

「六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォッ!」

 

 龍神に知能はない。突出した残虐性のみがあり、その思考は憎しみと穢れに埋め尽くされている。

 だからこそ、かわすなどという行為は、概念すらも存在しない。防御は百鬼夜行が務めるものと思われるかもしれないが、あれは穢れから自然発生して空亡から逃げているだけなのだ。

 

「「とどけェェェェ──ッ!」」

 

 ゆえに当たる。空亡にはかわすことも防御することもできないのだから。百鬼夜行をかいくぐり、投げるという行為さえできたのなら必中は確約されている。もとより、捧げられた物は受け取るのが神である。

 

 穢れを切り裂かれ、龍としての存在を崩され、求めし忠を捧げられた。

 

(おもい)は、諸法に先立ち」

 

「諸法は、意に成る」

 

「意こそは、諸法を総ぶ」

 

「けがれたる意にて、且つかたり、且つ行なわば」

 

「ひくものの跡を追う、かの車輪のごとく苦しみ彼に従わん」

 

「汝、一切成就祓と成るやァァッ」

 

 堕ちた龍神は捧げられし神具を受け取り──消えた。

 

「や……った?」

「ふん。我の宝具をどれだけ使ったと思っている。倒せぬはずがなかろうが」

 

「あなたの戯言に付き合う気はない。どこかにこの結界を維持するキャスターがいるはずだ。探し出して討つ」

「は。堅い女だ。実につまらん」

 

「貴様がどう思おうとどうでもいい。やる気がないのならどこぞに行くと良い」

 

 

 

「中々の手際。お見事、お見事」

 

 声が響いた。多重に反響していて、どこか──蠅の羽音を思わせる。

 

「──キャスター! 貴様、どこにいる? よもや、ここまでのことをやらかして無事に帰れるとは思っておるまい」

 

 セイバーは注意深く周囲を観察する。

 

「貴様ァ! 失った数々の宝具──貴様の魂ごときで一つとて補填できるものと思うなよ。我自らが手を下してくれるぞ」

 

 アーチャーは適当な方角を睨みつけ、激怒した声を叩きつける。

 

「ふふ。良い気迫だ。うむ──そうでなければ。でなければ詰まらん……役者が途中でダレるほど興醒めすることはない。ああ、良いぞお前たち。まだまだ踊れるのだろう? 幕はまだ下がってなどいないぞ」

「なん……」

 

「この我を差し置き、演出家を気取るか雑種。この世にて最も尊いこの我が輝けないどころか、泥にまみれさすなど演出家の風上にもおけぬわ。三流ですらない愚物が──」

 

 アーチャーが我を失いそうになって──

 

「ぎゃァァぎゃっぎゃっぎゃっぎゃァァァ──」

 

 戦慄を呼び覚ます地の鼓動が響いた。

 

「危ない、アーチャー!」

 

 蹴っ飛ばした。

 

 そして、それが命を救った。

 

「があ──」

 

「ッガ! ごっ──」

 

 魔震が彼らを襲ったのだ。しかし、セイバーの蹴りにより両名ともにその瞬間は浮いていた。地震とはもとより地面に生えたものを揺らすものであれば、宙に浮くものに対して威力は1割にも満たないほどに減じる。

 

 だが、それでも人間ならば内臓をぐちゃぐちゃにされるほどの衝撃は喰らった。

 

「──っぐ。かは──すぅっ……はあ──。アーチャー、無事か?」

 

 セイバーは3呼吸で立ち上がることができるほどまで体を回復させた。いや、だましだまし動かしているだけだ。ダメージはむしろ体の芯に色濃く残っている。

 

「ぬぐ──。チィ……」

 

 アーチャーは寝ころんだままで宝物庫から様々なものを口にする。体力回復の宝具を余すことなく使い、回復した。

 

 二騎の英霊が緊張を増す中──“それ”の気配が高まっていく。

 そう──今までのはただの余震、単なる余興のようなもの。完全な邪龍はこんなものではない。なぜなら未だ空間は震えているだけ、龍の鱗が軋んでいるだけ。

 大暴発を目指して今も高まっている地殻運動エネルギーは、解き放たれる瞬間を今か今かと待ち望んでいる。

 

 狂いし龍神が望むのは忠。しかし、宝具によって示す忠などしょせんは残骸。遺物に過ぎない。宝であろうと、古臭い錆びた珠など寄越されてもうれしくない。

 それの“現在(いま)”には由緒あるものだから拝んでおこうか──などという軽い想いしか込められていないのだから。そんな飾り物など空亡には通じない。

 

 ──ああ、人の子よ、忠の心を忘れたか。それを時代遅れと嗤うのか。

 

 ならば今一度知らしめよう。そして再び見せるがいい、清々しい息吹によって一切成就祓と成れや。

 

 津波となって海を埋め尽くさんとする無数の廃神が、陸を目指し我先に遁走する。眼前の悉くを潰しながら。文字通りそこに逃げ場は存在せず、同心円状に押し寄せる災禍はやがて日本列島そのものを平らに均して砕くだろう。

 

 帝都の龍は狂っている。黄金の身体は爛れて腐り、万象灰燼と帰す魔性の震と化している。ついに真価を見せる魔震の咆哮。大地の神威。

 

 百鬼空亡がいる限り、希望はどこにもありなどしない。

 

 

 

「──馬鹿げた考えだ。まさか、この世に本当の忠なるものが存在するとでも? 日本では武士道などと言われるが、これが生まれたのは明治維新の後となる。つまり、武士などと言う身分が滅んでから武士道などと言うものがもてはやされ始めたのさ。騎士道だのなんだの、全ては結局同じモノに過ぎんよ。滅び去った残骸に後から意味を付け加えているに過ぎない」

 

 弓を携えた英霊がひび割れた地面を歩く。それは己が信じたものに裏切られた“正義の味方”。その残骸。

 

「忠、それは単なる人間の架空の物語が生んだ虚像にすぎんよ。現実にはそんなものは存在しない。主君に尽くす真心? そんなものは打算にしかすぎないと──小学校で学ばなかったのかね。それは古臭いものではなく──昔はよかったなどとうそぶく蒙昧どもの戯言で……虚言だよ」

 

 ここに抑止の守護者が戦場に足を踏み入れた。

 




人に使役されない純粋な守護者なんて出す馬鹿は実在するのでしょうか? --私です。
設定上、守護者はしゃべりすらしないような気もしますがそこは勘弁してください。登場した理由はもちろん地球の荒廃によって発生する人類の滅びの回避です。遠坂邸の龍脈はいわば人間の毛細血管でしかありませんが、そこから腐った血液が全身に回ると体が腐ります。
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