Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第14話 龍神

 

 凶将は生まれては砕かれ、屍の散弾の有様と化して3人を襲う。

 

「はあああああ!」

 

 セイバーは駆ける。その弾を足場にして宙を駆け抜けるのだ。すでにその聖剣を隠すものはない。黄金の光をこれでもかと言わんばかりに振りかざして龍を目指す。

 

「ぬううううう!」

 

 そして、龍を押しとどめているのは意外にも英雄王であった。天の鎖(エルキドゥ)によって龍神を縛り付けている。対神兵器であるそれは、大地を砕くほどのマグニチュードを縛り付けている。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

 紅き弓兵がギリギリと弓を引き絞る。背後には無数の刀剣が浮いている。

 

「──―“偽・螺旋剣”(カラドボルクⅡ)

 

 九頭龍の中心、爛れた人型に当たる寸前に砕けた。当然だ──たかが宝具が龍神の地震……それも震源からもたらされる絶大なエネルギーに耐えられるわけがない。何の痛痒を与えることなく砕け散るのは当然のこと。だから。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 宝具に込められた歴史そのものを爆弾と化した。別にそれでダメージを受けたりはしないが、それでも驚きはする。人間に判別可能な知能の類はなくとも、そういう反応くらいはする。

 

「はあああああ!」

 

 セイバーの斬撃。──触れてはいない。そんな分かりきった過ちは犯さない。ほんの一呼吸の間に接近し、斬気を叩きつけて離脱する。それも、凶将どもを足場にして。卓越した技量だけでは成し得ない、天賦の運と合わせて初めて成立する技だった。

 

 が──

 

 活動する地脈に対し、通じる理屈がどこにある。

 重ねて言おう、これは龍だ。人ではない。

 鱗は岩盤であり、顎門(アギト)は地の裂け目、咆哮は界を揺るがす震災である。

 いわば具象化した地殻運動エネルギー。それを殴りつければ、砕けるのは人だ。

 

 きろり、と狂った目玉が奇怪に動く。

 痛痒すら感じさせず、触れた獲物を見定めて。

 

「みぃーつけたぁ、キヒ」

 

 わざわざ近づいてきてくれた玩具へと、第八等廃神は枯れた喜びの声を上げた。もとより女は大好物だ。龍の因子? 狂った龍に同族の気配を認識しろと言う方が間違っている。

 

「おーにさんこちら、手の鳴る方へ」

 

「夢にその腸バラと撒く」

 

 腐った巨腕がセイバーに振り下ろされる。

 

「く──おおお!」

 

 切り払い、蹴りつける。まともに喰らわずともひき肉にされるその威力。

 初めに落ちてきた腕を切り裂いて、横から来た巨腕に乗る様に跳べたのは幸いだった。かなりの衝撃を逃すことができた。おかげで右足が無残につぶされただけで済んだ。

 

 息を呑むような有様。これを見て、元通りに動くようになると思える人間はオカルトに傾倒しているかクローンでも盲信しているのだろう。なにせ、長さが半分になっている。足が潰されて、骨が圧潰していたるところから突き出ている。

 

 サーヴァントであるから回復はできるかもしれない。──しかし、それは時間と魔力を費やせばの話だ。一朝一夕で治せるような傷ではない。

 

「──ッチ。セイバー!」

 

 弓兵が大地へ向けて剣を放つ。磔とする。陣を描く。

 それで完成。土行を通じ、相生導く金気の楔。五行大極相通じて陰気を操る堪輿の業がここに成る。

 

 それ、すなわち。

 

「あれぇ? う、あああ、ああああ……アアアアアアアッ、アアアアアアアアアアア──!」

 

 霊道を断ち切り、気を乱すという均衡の崩壊。土地を枯らして災禍を招く、地脈殺しの下法である。いかに強大であろうとも、自らの因は存在核故に逃れられない。空亡は視界を失って激昂しながら暴れ狂う。

 

 地脈の網が機能不全に陥るということは、知覚と言うセンサーをかき乱されたのと同じことだ。目も鼻も髭すらも、麻痺して何も見えない状態。一種のめくらへと陥っている。

 

 絶叫はかつてない規模で大気を揺るがし、凶将どもは大挙して放射状に押し寄せるが、それは獲物の姿を捉えていないなによりの証だった。もはやこの場、この時だけは、地脈の網は分断されて要を完全に無くしている。

 

「どこへ行ったッ、どこへやったッ!」

 

「ねえ、痛いの。痒いの。寂しいの」

 

「狭い……枯れるッ!」

 

「暗いよ怖いよ置いてかないでッ!」

 

「何処だ、何処に、どこにいるゥゥゥ────ッ!」

 

 激昂した龍神はさらに暴威を増した。が、それは知能のない邪神。感情のままに動いているため、自身の異常事態を理解できず行動が遅れた。その間にセイバーは弓兵のもとまで下がっている。

 

 そんなことができるのは、エミヤが冬木の地に所縁がある英霊だからだ。彼は何度も聖杯戦争を体験している──歴史的には次の聖杯戦争だが。

 その過程で、聖杯そのものに関わるファクターとして地脈は重要だ。それはこの遠坂が管理する地脈であり、現在は甘粕によって汚染された地脈である此処も例外ではない。何十回何百回もの聖杯戦争を経験しているがゆえに、この土地で分からないことなどない。

 

 此処だからこそ、そして彼がサーヴァントではなく守護者としてここに在るからこそ可能な封印である。

 

 

 

「──は。その程度か、セイバー。騎士王が聞いてあきれる。ほれ、王の慈悲だ──心して受け取るとよい」

「……一応、感謝しておきましょう」

 

 アーチャーの渡した薬によりセイバーの足は見れるところまでは回復する。さすが世界全ての財を所有する王と言ったところか。

 セイバーの足は回復した。そう、うまく骨を立てれば足を棒のごとく立たせることができるまで。そこまでだ、空亡がつけた傷は呪いの性質を持つがために。

 

「では──全力を出してみようか」

 

 弓兵が一歩進んだ。それに従い、並んだすべての刀剣が天上を指す。

 

「……行け」

 

 大陸すら割りかねないほどの魔力──いや、ここまでの密度の量を誇るならばそれはすでに神域に達している。贋作とはいえ聖剣、魔剣の類がそれこそ人類の歴史のごとくに陳列され、その一切合切が龍神を襲った。

 

「オン・コロコロ。センダリマトウギソワカ──」

 

「六算祓エヤ滅・滅・滅・滅・亡・亡・亡ォォォッ!」

 

 しかし、健在である。空亡は斃せない。人間の手に終える怪物ではない。

 

 地脈を打ち滅ぼすことだけは、人の領域を超えている。この世に大地がある限り、黄龍は不滅の存在なのだから。

 

 おそらくは地球と言う(いのち)が息絶える、その時まで。

 

 しかし、それをなんとかしなくてはならないのも事実。無理だ不可能だとどうこう言っているだけではどうともならず。

 

「遠神笑美給、遠つ神愛み給へ」

 

「一切衆生の罪穢ぇ」

 

「くちおしや、あなくちおしやぁぁー」

 

「重種の神宝どこじゃろなぁ。祓祝詞をくりゃしゃんせ」

 

「大御名となえてくりゃしゃんせ」

 

「祓いて清めに参ろやなぁ、参ろやなぁ」

 

 龍神が軋む。エミヤが仕掛けた封印が悲鳴を上げる。人が施したものである以上、龍神に砕けないわけがない。そして、龍神の本体がエミヤの固有結界に触れた時、結界はあっけなく散るだろう。

 その際には三人の英雄は即座に殺されるに違いない。

 

「──で、それがどうした? 強い敵に打ち勝つため己を高める……ああ、王道だな。美しいよ。見ていて感動でも覚えるかもしれないな。けれど、それではどうしようもない敵と言うのも存在する。それと相対した時、どうする? 己の殻を打ち破り、更なる力を求めるか? 阿呆め。それは英雄と化け物の話だ。しょせん、化け物など人間から外れた哀れな仲間はずれにすぎんよ。勝てんからこそ神だ。話が逆転している」

 

 皮肉に満ちたその言葉は、自分の信じる正義に裏切られた故か。

 

「ならば諦めろという話になるか? いいや、違う。勝つ方法はもう一つある。神を化け物にまで堕とせばいい。勝てんのならば、相手の方を弱くする。強くなるのに限度はあるが、生憎とこちらの選択は下限がない。──さて、どうかな? 龍神殿。俺が仕掛けた罠は効いたか?」

 

 地脈が枯れた。いや、一瞬だけその状態を作ったのだ。いくら龍神と言えど、己を現界させる魔力を供給できねば弱体化する。なぜなら、それは己を形作る要素そのものであるのだから。

 

 先ほどの封印──それが砕ける一瞬、魔力の供給を断つように細工していた。

 

「フェイカーよ、褒めてやろう! この我が輝ける舞台を創ったことに関してはなぁ!」

 

 功を焦ったのか。いや、そんな性格ではない。彼は世界のすべてが自分のためにあると信じて疑っていない。そもそも、自分の威光のおかげでこの舞台が出来上がったのだとすら思っているだろう。だから、端役がしたことはすべて自分のためだと思っている。見せ場ができたのだ。ここでやらねば、いつやると?

 

「な──英雄王!? 勝手な真似を……」

 

 当然エミヤは驚く。英雄王が自分勝手な性格だと知ってはいてもその行動を把握できてはいない。まさか、ここでやらかすとは思ってもいなかった。どんな面の皮の厚さだ──他人が手柄を上げたら、いいところだけかっさらうなど。

 

「さあ、エアよ。あの哀れな龍神を砕け! ──天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ))

 

 莫大な力の奔流を感じる。ああ、これはマズイと直感して。

 

「ぐ──」

 

 このままでは自分の固有結界の方が砕かれる。そう予感して固有結界を解いた。と、同時──

 

 世界が砕かれた。

 

 龍神が一言も残すことなく消える。キャスターは……これは彼の固有結界であっても、魔術の一形態にすぎぬ無色。よって、彼に砕かれた世界のフィードバックが来ることもない。

 

 それが来たのはエミヤである。わずかな波動を喰らっただけで吐血した。もとより固有結界とは心象風景の現実浸食。そんなものを壊されかけたのだから負荷は推して知るべし。

 

 どこからか、称賛と惜しみない拍手が聞こえた気がして──

 

「──ふ。どうやら俺はお払い箱らしい」

 

 血に濡れた顔で皮肉気な笑みを浮かべ直した。“世界”からの魔力供給を断たれた。このままでは1時間も持たない。

 

「当然だな。貴様など、舞台に上がるのもおこがましい。我の舞台の端役を務められたこと、永劫に誇るがいい」

 

 アーチャーが姿を消す。霊体化してどこぞに消えたのだろう。

 

「エミヤ。あなたのおかげで助かった。礼を言おう」

 

 セイバーは剣をおろし、エミヤを敬意のまなざしで見つめている。キャスターの粘つくようなそれと違い、実に晴れやかで向けられたものが誇りに思えるようなそれ。

 

「セイバー。一つだけ忠告しておこう。言峰綺礼は魔性だ、気を付けておけ」

 

 一つだけ言うと、いずこかを睨み見つける。

 

「さあ、君も早く行くがいい。ここは崩れる。マスターも心配だろう?」

「──しかし、あなたは」

 

 この世界と運命を共にするつもりか、と問いかけようとして。

 

「行け。しょせん、私は使い走りにすぎん。こんな使い捨てなど気にするな──どうせ、この体はもういくらももたんよ」

「エミヤ、あなたのことは忘れない」

 

 踵を返し、駆け出した。

 

 

 

 残ったエミヤは声を張り上げる。

 

「さて、出てきてもらおうか?」

 




病巣が消えたのでエミヤはここで消えます。純粋な守護者を世界の加護なしでとどめておける術は存在しないので、エミヤの出番は次のバトルまでとなります。
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