Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第15話 魔王と正義の味方

 

「──ふむ。気付くよな、お前ならば」

 

 “魔王”が姿を現した。キャスターと言うサーヴァントの型に縛られているとはいえ、その魂は隠しようがないほどに禍々しい気配を纏っている。

 凶悪な笑みを浮かべつつ宙に浮いているのだ。魔王のように。

 

「なるほど、自信満々に他人を賛美するのが甘粕正彦か」

 

 対して、エミヤは皮肉気な笑みを崩さない。この男を前にすれば克己なり反骨なりを感じて、決して冷静ではいられないものだが──この男はフラットだ。摩耗して、削られて平坦になっている。

 

「別に俺は誰かを過大評価しているつもりはないがな。だが、そうだな。自分が大した人物だと慢心しないように常に自戒してはいる」

 

 ゆっくりとエミヤの身体を眺めまわす。別にいやらしい意味ではなく、それで大体の実力が分かる。満足げにうなづくのも──ともすれば誤解に結び付くのかもしれない。

 

「だから、他人だろう。そんなに他人を評価して──人間は殴られたら死ぬぞ。お前の妄想の中ではどうなっているか知らんがな」

「──お前は死なんだろう、それぐらいでは。まあ、一般人はそうかもしれんから俺は聖杯を手にしたいと望んだわけだが」

 

「はた迷惑な男だな、君は。どうかその思い上がった想いを抱えて海底にでも沈んでくれ」

「おいおい、冷たいな──お前は。お前ほどの勇者ならば、ここは奮い立って決意の一つや二つ述べてくれてもいいんじゃないのか? なあ……正義の味方よ」

 

「ならば、ごみはさっさと片付けようか。──決意の一つや二つとはこれでいいかな? 一つになってしまったが」

「ふむ。まあ、啖呵としては面白くないな。その胸に燃え盛る熱い想い、人の勇気を愛するこの俺が見抜けないとでも?」

 

「──そんなものはない! しょせん、守護者とはただの使い走りでしかない。お前は人の世界の維持に邪魔でしかない。消えろよ、異物。しょせん、お前も俺もここにいるのが不自然なのだ。殺し合って消えるのが定めだろう!」

 

 ──何かが禁忌に触れたのか。激昂した。

 

「その気になったか? 人々を救うため、そして何よりもただ一人の少女を助けるために力を奮う。──素晴らしい! その想いを恥じる必要はない。さあ、来いよ正義の味方。華々しくやろうではないか」

 

 ちき、とキャスターが軍刀を構える。つくづく、物好きな男である。この男の適正はむしろ咒法、遠距離攻撃にこそあるのだから。そして、それを使わない理由は“ノリ”ただそれだけである。

 

 他に理由はない。この男は作戦とか戦略とかを考えない。いや、考えるのかもしれないがそれは前準備だけ。いざ本番になったら“やらかす”のが常である。それをわかっていて、治す気もないのだから救えない。

 

「──投影開始(トレース・オン)

 

 そして、エミヤもまた干将莫邪を手に取る。実を言えば、こちらも適正は似たようなもの。生前、剣術に傾倒していたものの弓術もさぼっていたわけではない。人より秀でるものがあるなら弓術のみ。練磨の果てに至った人の極限が彼なのだから、元より才のあった弓術はもはや神域に至っている。

 

 剣術を選んだのはギャンブルする気がないからだ。確かに弓術を用いれば殺せるかもしれない。だが、もしかわされれば隙を突かれてあっという間に倒されてしまう。それはよくない。キャスターが己を始末した後、セイバーを追う可能性があるのだから。

 

 ──もちろん、剣術でも負ける気はないが。

 

「……破!」

 

 先手はキャスター。エミヤの剣術は後の先を取るもの。超一流の相手に対して凡人の彼は先手を取れない。だから、かわして機会をうかがう戦法を取る。

 

 キャスターは超一流とは呼べない。一流ではあるが、セイバーと剣技を比べて勝てるほどではない。彼の超一流はやはり魔術。邯鄲法の扱いである。ゆえに戟法によってセイバーの魔力放出を遥かに凌駕する肉体強化を得ている。

 

 その一撃は城すら砕く一撃である。

 

「──ぐぅぅ……」

 

 エミヤはその一撃を受けられない。大体、彼も魔術師だといったところで強化の魔術は拙い。彼の一撃をまともに受けられるほどの肉体強度を得られるはずもないし、先手を取って潰すなんてのはハナから諦めている。

 

「……おおお!」

 

 だからこそ、初めから逸らすつもりだった。10割の力なら両手の剣ごと潰されるだろう。けれど、2割の力なら? うまいこと逸らしてそれだけしか力が伝わらないように立ち回れば基礎ステータスが低いエミヤとて、魔王に立ち向かえる。互角に戦える。

 

「──っぐ。投影開始(トレース・オン)

 

 けれど、そんな程度の力でも彼の刃は砕かれてしまった。──そんなことはいくらでもある。彼の性質上、自分より強い相手と戦うことは避けられない。そもそも、彼の戦い方は格上と戦うことに特化している。

 

「二本目……か!」

 

 正確には3本目と4本目ということになるのだろう。軍刀の一撃は逸らされ、今や軍刀はエミヤの横に流れ、引き戻すには時間が足りない。対して再構成されたエミヤの刃は体の前で構えられている。

 

「──っふ」

 

 そして、首筋を狙った。急所狙い、手加減なしの一撃だ。迫りくるのは二つの刃、片方をどうにかしたとしてももう一方がある。必殺必中の一撃。

 

「なんと素晴らしい男だよ、お前は。俺をここまで追い詰めるとはな」

 

 だから、甘粕はかわさなかった。──耐えた。ただ単純に耐久力を上げて。首筋こそ切り裂かれたものの頸動脈までには届いていない。

 

「──ッ!? ここで簡単に行くとは思っていなかったが……」

 

 退いた。何かマズイと思った。こういうとき、エミヤが相手してきた化け物は大抵とんでもないことをやらかす。とにかく、距離を──ッ! まあ、その判断は間違いかもしれないが。

 

「ふふ、はっはっはっはっはっは! やはり英雄。これほどまでの力を持ち、なおかつ冷静な判断で過たず状況を俯瞰する。お前の強さを俺に見せろ! 『ロッズ・フロォム・ゴォォォォォッド』!」

 

 大気圏外からの一撃を放った。

 

「これは──ッ! この大馬鹿者がァ──なんてものを使ってくれる!?」

 

 上を見る。エミヤには生前に得た知識がある──とはいえ、そんな馬鹿げた兵器の開発案があるという噂話程度だが。それも大気圏外から質量爆弾を落とすということくらいしか知らない。

 けれど、それで十分だ。

 

 現代人の教養として隕石の威力くらいは知っている。ロッズフロムゴッドの威力の原理は似たようなものだ。だからこそ恐怖する。この辺の感覚が理解できる守護者は彼くらいのものだろう。

 

 現代の兵器、まあ未来兵器のようなものだが、ならば狙いがずれることはあり得ない。より正確に、ピンポイントに──それが現代兵器のトレンドである。ならば、上に向けて射れば自動的に当るのは確実だと判る。

 

「だが、問題は威力か……!」

 

 宝具は神秘を纏っている。莫大な歴史を内包している。ゆえ、隕石でさえ貫ける。──が、そんなことに意味はない。

 なぜなら、貫かれて穴の開いた隕石はそのまま落ちてくるからだ。質量が2割か3割か減ったところで誤差でしかなかろう。英雄王なら話は違ったかもしれないが、エミヤは攻撃に全振りしている。あれを防御したければ、完全に砕く必要がある。

 

「──やるしかないか」

 

 ちらりと甘粕を見る。防御態勢に入ってすらいない。むしろ、こちらを警戒している。特攻でも警戒しているのか──エミヤ個人的にはロッズフロムゴッドとやらが直撃して相打ちになるのがもっとも確率の高い未来だとしか思えないが。

 

 無論、甘粕はエミヤがロッズフロムゴッドを撃墜して己に刃を向けてくることを疑っていない。

 

「────I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

 ゆえ、狙うのは最も高い難易度。

 ロッズフロムゴッドの弾を空中で撃墜する。もちろん、貫いても意味はない。だから、弾の内部で爆発させる。矢が内部に留まる瞬間など、それこそ人間が感知できるような時間ではない。一瞬、ですらこれを表現するには長すぎる。刹那にも満たないわずかな刻。それを捉える必要がある。

 

「──―“偽・螺旋剣”《カラドボルク》」

 

 射る。狙いは付ける必要はない。ここからでは大気圏外を周回する“それ”が見えるわけがないし、それが自分の上に落ちてくるのは分かり切ったことだ。

 

「──」

 

 声を出すことはしない。そんなものを出していたら、言い切る前に吹っ飛んでいる。射った。

 

 爆散。

 

 音がここまで聞こえてきた。そして、ぱちぱちと言う音が聞こえる。

 

「──ああ、お前は俺の想像を超えた。まさか、無効化でも防御でもなく……撃墜するとはな。まったく、お前はどれだけ凄い男なのだ。称賛を禁じ得ない。どうか惜しみない称賛を受け取ってくれ、気高く強い正義の味方よ」

 

 心から称賛している。その心に嘘偽りは一片もない。心の底からエミヤを尊敬して、褒めたたえている。もちろん、エミヤとしてはいい加減にしろよこの野郎という感想以外は抱きようがないのだが。

 

「ならば、一つお願いを聞いて欲しいものだね。……豆腐に頭をぶつけて死ね、この野郎」

「ふむ。豆腐は脆いからな。時速何kmくらいでぶつかれば死ねるのだろうか……」

 

 悩みだした。変にまじめな奴である。まあ、邯鄲法の試練を受ける資格を持つ盧生というのは、どいつもこいつも頭のいい馬鹿であるのだが。

 

「──ふん。貴様の戯言は聞き飽きた。そして、底も見えた。今度はこちらから行かせてもらう」

 

 ちき、といつの間にやら握っていた干将莫邪を向けた。

 




本作最強の馬鹿二人のバトル。
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