Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第16話 エミヤの策

 

 全力で距離を詰め、攻撃する。この際、攻撃があるかもしれないとは思わない。軍刀による一撃くらいはやるかもしれないが、遠距離攻撃は使わない。相手の力を見抜く能力はエミヤにはないのだが、彼は格上と戦ってきた経験がある。

 

 性格を見抜き、足を掬う。それくらいやってこなければ彼の戦場は立つことすらもできないような人外のそれだった。今回も、刀相手に遠距離戦でカタをつけようとはしないという彼の性格を読んで突っ込んだ。まあ、弓で戦おうとすれば使うだろうが。

 

 だからあとは、エミヤが斬り合いに勝てるかどうかの話。確かに甘粕は遠距離戦に比べれば近距離戦は拙いといっていいほどである。けれどそれは、別に勝利を約束しない。

 

「お前の輝きを存分に見せてくれ!」

 

 予想どうりに向かい打たれた。何の変哲もない軍刀の一閃をエミヤの斬撃に合わせる。──だが、1tトラックを真正面から叩きのめすだけの威力はある。

 

「まあ、そんな攻撃は生前から一撃喰らえば死ぬのは変わりない。別に殺されるなら人一人殺せるだけの威力だろうと、山一つ砕けようと同じことだろう。お前らはいつもいつも──派手好きだな」

 

 攻撃すれば隙はできる。とある馬鹿はそれすら知らなかったが、エミヤは十分にわかっている。どころか、さらに先の段階に進んでいる。

 彼は隙を晒して相手の攻撃を限定する。ただの一流ならば、思わず隙に攻撃を仕掛けてしまう。狙い通りに相手を動かしてこそ超一流。

 

 だが、隙を突く選択は敵にしても決して間違っているとは言えないのだ。隙を突かれれば体勢は崩れるし、そもそも反応だってしづらい。だから間違っているのはエミヤの戦法だとすら言えるだろう。

 

 そんな間違っているとしか言えない行為を断行する。そして、それも間違っていない。なぜなら、格下に剣で負けることさえ了解してしまえば格上には対抗できるようになるのだ──このように。

 

 激突した刀は砕かれた。けれど自分は無事だ。

 

「新しい刀を用意するには時間が要るだろう? さあ、どうかわしてくれる!?」

 

 突きからの軌道を変えての打ち下ろし。そう攻撃してくれるように誘導したから──当然対抗策も用意してある。

 

 ……頭突きした。

 

「……っぐ! なるほど、理想を曲げないその信念──大した石頭だな!」

 

 密着したがゆえに二人とも攻撃できない。いや、甘粕は別に剣士ではない。軍刀を帯刀しているのはむしろ己が大日本帝国の栄えある兵士と思っているからこそで、いうならば勲章のようなものだ。だから足も使うし、必要だったら殴りもする。

 

 ひざで蹴り上げた。

 

「……っが! ぐぅ──チェックだ!」

 

 そして、それすらも誘導。密着した瞬間に、その時点では役立たずな刀の投影を行った。そして、蹴り上げられたときにちょうど手の中に生まれる。逆手に持って振り下ろした。対して威力などない──それでも岩は割れるだろうし、人も殺せる。

 

「……っが!」

 

 けれど、甘粕は殺せない。

 

「っは! その防御力、死徒並だな──再生能力はどうだか知らんが、試す気はない!」

 

 派手にのけぞって血が飛び散った。ノ―ダメージなんてうまい話はないし、当然甘粕の頭は悪魔とかそういう面白生物の頭ではない。あれだけ盛大に叩かれれば脳震盪を起こす。意識を失うほどではないけれど、まともな思考力を保てはしない。

 

「すごい……な! さすが──」

 

 それでも吐くのは称賛なあたり、ブレない。だが、邯鄲法の強度は大きく落ちた。意識すること、望むことが邯鄲法の第一歩。意識が続く限り体がどうなろうと邯鄲法は途切れないけれど、それはあくまで意識が続くならだ。

 

「お前はここで死んでゆけ」

 

 狙うのは心臓。ただの経験だ。死徒は頭を潰しても動く。だが、心臓を潰せば大抵は死ぬ。

 それでも殺しきれないものがいるから恐ろしいのだが──ここにいる甘粕はあくまでキャスターのサーヴァント。生前はどうあれ、これで殺しきれないとは思えない。

 

 そして、サーヴァント「キャスター」は確かにそれで死ぬ。できるなら、だが。そう、彼は善性を持つ魔王。ピンチに陥るにあたり、奮起する性を持つ。

 

「おおおおおおお!」

 

 叫んだ。ひるんだ己に喝を入れる。意識に巣食うもやを気合で振り払った。──まるで主人公である。まあ、気合を入れれば威力も上がるのは邯鄲法の原理にも合致している。

 

 肘で干将とつばぜりあう。さらに手刀で莫邪を叩き落とした。

 

「──甘粕ゥ!」

「エミヤ!」

 

 今更干将は手放せない。そして莫邪を叩き落とされた衝撃で右手は痺れて用をなさない。うなりを上げて心臓に迫る手刀を迎撃する手段はエミヤにはない。

 

「──っづ……ぬお──」

 

 だから迎撃は諦めた。無傷で切り抜けることも無理だ。なら、即死しない程度にダメージを抑えるため手刀を受ける箇所を──

 

「っが!」

 

 血を吐く。片肺を潰された。だが心臓は無事。まだ体は動く。投影し直した莫邪で斬り上げて、当然のごとくかわされるから手放して爆破する。

 

「──ぐぅ」

 

 ごろごろと転がって距離を取り、片膝をついて甘粕を見やる。満身創痍だ。そもそも、ブロークンファンタズムによるダメージが深い。

 

「ふ。見事。見事だ英霊エミヤよ。俺とここまで戦える奴はそうそういない。大したものだ」

「そう褒めてくれるな──気色の悪い」

 

「つれないな。だが、勇者は魔王と仲良くはしないものだ」

「ガキの読み物がお好みか? 魔王」

 

「勧善懲悪。正義は必ず勝つ。よいではないか──少なくとも、盛り上がりの最高潮だけ飛ばして、何も解決せず、命を削る勝負もなく、ただ男女がドロドロの関係を続けて、終わったのか終わってないのかよくわからない何か勘違いした大人向けの読み物などよりもよほどいいと思うのだがな」

「は。生憎と、サブカルには生前から明るくなくてね」

 

「お前も日本の英霊だろう? 世界に誇る日本の漫画をお前が知らないとは嘆かわしい」

「は。消えるまで秋葉原にでも行っていればどうだ? 大人しく漫画でも読んでいる分にはいくらお前でも他人に迷惑をかけないだろう」

 

「ふむ。それはそれで一考させてもらうが──世間話で終わる気はないだろう? そろそろ時間のはずだ。お前に残された時間は一分もない。もう体が透けているぞ?」

 

 確かに、よく見なければわからないが足がわずかに透けている。幽霊が連想されるが、まあその一種であることには違いない。

 

「さて。では、一矢くらいは報いさせてもらおうか」

 

 彼は己の状況をはっきりと認識していて、それでもさっぱりとした笑みを浮かべた。

 

「遠慮することはない。この魔王を倒してくれてもかまわんぞ。それに、もうお前は俺に一撃をくれたではないか。この傷は俺の生涯の誇りとしよう」

 

 そして、対する魔王は本心からヒーローの活躍を望む。頭から血を流す凄惨な姿で。

 

「傷物にされたと怒ってくれた方が精神衛生的にはいくらかマシだったな。まあ、死にたいという期待には誠心誠意応えさせてもらう」

「別に死にたいと思っているわけではない。志半ばで倒れること──それほど恐怖することは他にはない。それは誰だって同じことだと思うがな。しかし、やりたいことをやりきって、そして未来を託せる人間に会えたのなら、笑って逝けるだろう。命あるものは必ず滅ぶ。ゆえに、己の死に納得できるかが重要なのだ」

 

「いいことを教えてやろう、魔王。人間はな、どんな状況であれ死は怖いもの──らしいぞ」

「ほう? そういうものか。だが、お前はどうやら俺と同類らしいな。己が死に納得できるよう励めよ英雄」

 

「もう死んでいるさ──I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

 矢をつがえ。

 

「──―“偽・螺旋剣”(カラド、ボルク)

 

 発射。

 

「魅せろ英雄──『ロッズ・フロム・ゴォォォォッド』!」

 

 こちらもすぐさま射出した。だが、甘粕の攻撃は展開時間がかかる分弾着が遅れる。ゆえにエミヤの攻撃は先に甘粕へと到達し、切り払われた。

 透法の解──軍刀が当たる直前に邯鄲法を切り替えて物質を消滅させる術法を叩き込んだ。破片すら出なかったためブロークンファンタズムは使えない。直前にやろうにもそれを妨害するために甘粕自ら踏み込んで迎え撃った。

 

「さすがにそのくらいはやれるだろうさ……ッ!」

 

 予想していた。だから、さらに一手。

 

「──む?」

「──―鶴翼、欠落ヲ不ラズ」

 

 干将莫邪を明後日の方に投げた。甘粕が目を取られた一瞬に。

 

「────心技、泰山ニ至リ」

 

 さらに投影。

 

「──―心技、黄河ヲ渡ル」

 

 干将莫邪が強化され、幅広の刃となる。

 

「──―唯名、別天ニ納メ。両雄、共ニ命ヲ別ツ……!」

 

 両の大刀で斬りかかった。

 

「──は!」

 

 だが、受け止められる。強化と言っても精々5倍や10倍が関の山。それでは甘粕は斃せない。しかし、音が聞こえた。甘粕がそれを無視していたら、頭と胴体が泣き別れしていただろう。

 

「──後ろか!」

 

 絶体絶命。今は邯鄲法を強化に使っている。ゆえに、後ろの干将莫邪を咒法で落とすことはできない。つばぜりあっている状態で他の魔術は使えない。これぞ戦略。詰将棋のように全ての局面をくみ上げていったエミヤの手腕。戦場を見通す心眼。

 

「夢は──」

「……?」

 

「諦めなければ、必ず叶うと──信じているのだ!」

「……な──ッ!?」

 

 だからこれは純粋な力技──単純に腕力を強化して全てを叩き壊した。信念で逆境を跳ね返すという前ふりさえなければ魔王らしい。

 

 けれど、ここで諦めるエミヤではない。そんな生易しい環境で生きてきた英霊ではない。諦めない。諦めない。諦めない。何がどうなろうと、そもそも諦めるという概念自体が欠落した欠陥人間。

 

「投影、開始……!」

 

 彼が最期に信じたものは、頼ったものは遠き彼の日に心を通じた最高の英霊との絆。愛する女性の後ろ姿。

 

 ──エクスカリバー

 

 黄金の聖剣であった。

 

「──」

 

 さすがの甘粕も声を失う。感動に打ち震えて微動だにできないのだろう。そして、その聖剣は──神の雷により贋作者ごと砕かれた。

 

 

 

「っぐ……ぐぐぐ」

 

 そして、後に残ったのはぼろぼろになった甘粕正彦ただ一人。

 

 そう、これはただの自滅だ。不注意で自分の攻撃を喰らったというだけのこと。戟法を使っていなかったら本当に死んでいた。実は危なかった。というか、今他のサーヴァントと戦ったら惨敗してもおかしくないコンディションである。

 

「最後にお前は俺に光を見せてくれたのだな。エミヤ、お前の名は忘れない。俺の心に永劫刻み込もう。素晴らしき英雄よ」

 

 などと言っているが、実は干将莫邪を砕いた時点で勝負は決まっていた。横着をせずに宝具を消していたら自分の攻撃を喰らうこともなかったのだが。

 

 それを含めてエミヤの手柄と言えるだろう。そういう彼の性格まで把握して全てを操って魔王への攻撃を成功させた。それも、魔王の手による本気の一撃を自分に喰らわせてやったのだから、ノ―ダメージなわけがない。

 

 遠距離戦を挑めばロッズフロムゴッドを使うのはわかりきっていた。

 だから、必要なのは何をやらかすかわからないという印象を植え付けること。こちらは簡単だった。初めから人を過大評価するやつだから。そしてロッズフロムゴッドを射出した後に意識をそらすこと。

 こちらは最期まで賭けだったが、無事に成功した。ここらへんは英雄の物語を見たいという甘粕の気質も関わって来るだろう。

 

 ふたを開けてみれば……一番大きな被害をこうむったのは甘粕正彦自身だったということだ。遠坂とその協力者に不意打ちを仕掛けて結果がそれだとは──本人としては嬉しくて仕方ないだろう。

 彼の望みは人間の輝きを見る事。ゆえ、この状況は願ったり叶ったりである。案外、この時点で聖杯は甘粕の願いを正しく叶えているのかもしれない。

 

「英霊、エミヤに──敬礼ィ!」

 

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