Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第18話 少女の勇気

 

「……ふう──」

 

 少女──いや、少女とも呼べない小学生の女の子が繁華街としては異常なほどに寂しい街を歩いている。表通りなのに人通りに乏しいのは、誘拐事件が多発しているためだ。

 

「みつからない……」

 

 そんなところにこの少女が居るのは異常事態と言っていい。それもそのはず──彼女は禁止されているにも関わらず、友達を探しに外に出たのだ。

 それは度し難いほどの無謀さの表れだ。それは、もしかしたら彼女が魔術師だからかもしれない。とはいっても、習い始めたばかりの見習い未満である。頼りとするには、付け焼刃に過ぎる矮小な力だ。

 

 大人の男に乱暴されそうになったとき、彼女の力ではどうにもならない。それは──魔術をかじっていてもかじっていなくても同じだが、魔術を扱うゆえの誇りと言うものが彼女にはある。

 要するに天狗になっている。

 

 まあ、思春期にはありがちな自意識過剰の一種である。彼女が凡百と違うのは、本当に“才能ある人間”だということ。

 それでも大人の男には抵抗できないのだが。対抗したいなら別に魔術を習わなくても、スタンガンを携帯した方がよっぽど役に立つと言うものだ。

 

 けれど、この場合──誘拐犯が魔術を使う場合においてはどちらがいいのか。やっぱり、立ち向かうなら特攻してスタンガンでもぶちかました方が効果的なんだろうけど。

 

「──ッ!」

 

 そして、傍から見れば不運なことに。だけど少女にとっては幸運にも誘拐犯──雨生龍之介が初歩的な魔術で子供を操って連れ去ろうとしているのを目撃した。さらわれようとしている子供は二人いる。しかも、抵抗する様子はない。

 

「これは……」

 

 ばっと身を隠す。店が立ち並ぶこの場所なら隠れる場所はいくらでもある。逆に懲りすぎる方が不自然になって見つかりやすいだろう。普通の子なら悲鳴を上げてしまいそうだけど、その点では彼女は違った。

 天性の才能──この時点で戦闘センスは偉大なる父を上回っているのかもしれない。

 

「落ち着け。──こんな時こそ冷静に。『常に余裕を持って優雅たれ』よ、わたし」

 

 そっと様子をうかがう。凜は自分が戦う力を持っていないことは自覚していた。まあ、それで友人を探しに行く限り、滅茶苦茶と言えば滅茶苦茶だが。

 それでもここで考えなしに突進する愚行はおかさない。

 

「──ついて、行く?」

 

 熟考する。

 目の前のあいつは子供に夢中になっている。どう殺そうと考えているのか独り言を吐きながら考えている様は醜悪であるけれど、尾行しても気づかなそうなのは好都合だ。

 だからといって、ついて行くのも考え物。

 

 彼女が一般人であったならば警察に届けるべきだとすぐにわかる。人相さえわからない現状よりも捜査はずいぶんと進歩することだろうから。

 けれど、あいつは神秘を使う。警察にはそれに対抗する手段がない。あるいは、父に言っても──いや、それだと間に合わない。幼い凜に父が警察とつながりを持っていることなど察せるわけがない。

 そもそも、このまま見逃せばあの子たちは助からないだろう。さらに言えば、凛には想像もつかないことであるけれど、今の時臣は戦闘を行えるコンディションではない。

 

 だから──

 

「この場で倒す……!」

 

 勝負は一瞬。全力の一撃を叩き込んで、その隙にあの子たちを救出する。そう決めて、実行した。

 子どもであろうが流石は遠坂凜と言える。父とは役者が違う。初歩的ではあるが、それなりの威力を持つ一撃を不意打ちで叩き込んだ。

 

 ──やった。

 

 気付かれていない、というか周囲を警戒する様子のない誘拐犯に一撃をくれてやった。その誘拐犯は腹を押さえて目を白黒させている。けれど10秒もすれば回復するだろう。子供の力ではその程度が限界だ。だが、その間に──

 

「大丈夫? 逃げるわよ」

 

 連れ去られようとしていた子供たちに声をかける。抵抗されては面倒だから、という理由ではない。不安だろうと気遣っただけだ。けれど、手を引いて走り出すよりはマシだった。

 

「……」

 

 反応がないという異常事態に冷静に対処できるのだから。このまま手を引いていたら凜自身が転倒する可能性もあった。魔術──おそらくは暗示だろうとアタリをつける。

 

「来なさい!」

 

 こういうとき、明確な指示を与えられていないと暗示にかかった人間は強い指示に逆らわない。明確な意思を持てないから、暗示をかけた主でなくともほいほい命令を聞いてしまうのだ。

 

 手を取って逃げるのが一番いい。だが──二人いる。連れ去られそうになっている子供は二人いるのだ。暗示にかかった人間を走らせるのは難しい。小さな少女の身では手を引くのも重労働。とはいえ、やるしかないと覚悟を決めた横で誘拐犯が気を取り直した。

 

「ぐ──な、なんだったんだ。今の?」

 

 ふらついた龍之介の目が凛の姿を捉える。凛の背中に悪寒が走る。

 

「──っく!」

 

 大人の足には敵わない。だが、戦うというのは更に論外。しかも足手まといの子供二人を連れていれば、もう打つ手などないだろう。

 

「仕方がないわね!」

 

 そいつの腕をつかんだ。

 正確には、魔力針が指し示すブレスレットを。おそらくはこれが魔術の媒介と見た。宝石魔術とは媒介を通して発動する魔術。その意味では専門分野に近いだろう。

 

「う──」

 

 けれど、破壊方法なんて知らない。というか、まずは操作方法を習うのが先だろう。それすら知らない、まだ学んでいない。掴んだはいいけれど、どうしようもない──

 

「お嬢ちゃん、どうしたのかな。迷子かな? だめだよ、今は危険な人がうろついているみたいだからね」

 

 誘拐犯がそっと手を伸ばして頭に触れた。

 本能的な忌避感と生理的な嫌悪でめまいを覚える。吐きそうだ。けれど、見習いと言えど魔術師である自分がたかが誘拐犯などに膝を屈するわけにはいかない──!

 

「……そうだ!」

 

 唐突に思い出した。それは現状を打開する方策。「魔力を注ぎすぎては壊れてしまう」と言った父の言葉。

 

「壊す──魔力を許容量以上に注ぎ込めば……ッ!」

 

 迷わずに実行した。全身全霊──すべての力を込めて、やったことどころか想像したことがないレベルで魔力を励起する。無理やり押し込むイメージ。

 

 ブレスレットががたがたと揺れ出す。魔力が漏れる。

 

「……ッ壊れろ!」

 

 壊れた。しかも爆散した。運が良かったのか──余波は誘拐犯の方へ行った。今度こそ、10秒やそこらでは回復しないだろう。どころか、子供たちにかけられた暗示まで解けた。暗示なんてそんなものだ。自力で解くのは難しいけれど、他人が解く分には頬でも張り飛ばせばいい。

 

「──逃げるわよ!」

 

 再三の逃走。まあ、逃げようとするのは二度目であるが。──けれど。

 

「何処へ行こうというのです? この神の死んだ世界で。あなたを見守るものは何もないというのに──」

 

 あの誘拐犯とは比べ物にならないほど“気色悪い”声が降ってきた。誘拐犯の仲間がおっとり刀で駆け付けた。

 




これは時臣師の胃が死ぬ……
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