Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第2話 ランサーVSキャスター

 

「ふむ。我が主は現代を見物して来いと? 中々ありがたい言葉だが、目新しいものなどないのだがね。……しかし、作戦は了解した」

 

 召喚してからいろいろあったが、作戦としては結局アイリスフィールをマスターと誤認させ、切嗣が裏でマスターを狙うことに落ち着いた。

 ただし基本的に切嗣はサーヴァントを信用していないため、作戦内容を甘粕に話すことはなかった。のだが、甘粕はこうして見破ってしまう。暗殺者などいくらでも相手をしたことがあるのだから、切嗣の作戦に当たりを付けるのはたやすい。

 

「我々は主催者の一族として出場しているわけだが、あくまで参加者としてこの戦争に足を踏み入れた。ならば、暗殺も手段の一つだろう。開催者がするならば興醒めでしかないが、同じ立場のものを出し抜くためならば使いようだ」

 

 そう言って、簡単に受け入れてしまった。正々堂々を好む性質ではあるが、正道も非道も受け入れる度量の広さが彼にはある。いや、問題なのはそれが広すぎるということか。

 

 

 

 アイリスフィールが歩く横を甘粕が霊体化しついて日本の街並みを歩いて行く。そして、頃合いを見はかって実体化する。

 ──甘粕は気配に向かって傲岸に声をかける。

 

「よくぞ来た」

 

 招待に答え現れたのは青い槍兵である。その両槍を立てられていて、戦闘態勢には入っていない。

 

「セイバー。その闘気、正々堂々の勝負を挑むか?」

 

「今日一日、この町を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込むばかり。俺の誘いに応じたのはお前だけだ。その凄絶な闘志。名のある騎士とお見受けするが。──いかに?」

 

 問いかけた。そう言う本人こそ鮮烈な闘士を纏っている。決闘をもちかけているのだ、この男は。この聖杯戦争に招かれている以上、この敵もまた英霊であることは疑いようもなく──

 

「済まないが、正体は明かせない。だが、我が二槍に偽りなどない。心行くまで──決闘を」

「これは、これは。立ち姿だけでもわかる。お前は素晴らしい英雄だ。英雄の名に違わぬ闘気。およそ槍においては右に出る者のいない技量。お前こそ人間の輝きだ。ああ、お前という存在に出会わせてくれた聖杯戦争に心からの感謝を捧げよう。ランサーよ、お前に心からの畏怖と尊敬を」

 

 ゆえに甘粕は心からの畏敬の念を向けるのだ。

 この男は生来他人を軽視する性質ではなく、むしろ心からの賞賛を喝采する男である。ただし、人の話は聞かない。自分はキャスターであると言うのに、勘違いを訂正しようと言う気配もない。

 

「──ふ。最初に見えた英霊がお前でよかった。名乗りを上げられないのが残念で仕方ない」

 

 槍を構えた。

 

「名など重要ではなかろうよ。お前という存在を、決闘を通して俺の魂に刻み込んでくれ。強く、気高き者よ」

 

 甘粕もまた軍刀を抜いた。

 

「応。お前こそ、磨き抜かれた武の輝きを見せてくれ」

 

 7騎のサーヴァントは全て召喚され、ここに聖杯戦争初戦──ランサーとキャスターが激突する。

 

「いざ」

 

 じりじりとした緊張感が破裂する寸前の風船のように張り詰める。

 

「尋常に──」

 

 そして、極限の緊張は振り切れてもなおその密度を増し──

 

 

 

「「勝負!」」

 

 

 

 始まった。

 

 甘粕正彦はまぎれもなく魔王である。しかし、サーヴァントという型に嵌められたことで術は初歩の初歩しか使えなくなっている。

 

 本人はそれを気にしていないが、もしそれが封印がなければ間違いなく埠頭ごと吹き飛ばしている。まあ、もっとも──核兵器を平気で使うような人間に、たったそれだけの被害で済ませろと言う方が間違っているのかもしれない。

 

「おおおおおおお!」

 

 魔王が吠える。使うのは戟法の剛。戟法の迅とは対をなす魔術で、肉体強度を増す剛と速度を増す迅のうち──防御力を選択した。

 

「はああ……!」

 

 リーチでは槍が有利。そして、速さでも上回っているこの現状ではランサーが有利だ。そして、甘粕をセイバーと勘違いしているために手抜きはあり得ない。

 そして、甘粕は遠距離攻撃を使おうにも、咒法の射を使うためには戟法の剛を解除する必要がある。その隙は致命的だ。ゆえに接近戦で対応する。

 

 純粋な槍と刀の技量の競い合いになる。

 

 ランサーはきらびやかな槍の扱いをする。人類の極限とも呼べる練度での突き──それはもはや目で追いきれない。さらに突きからの切り払いは大味で正確無比かつ強力、隙はない。

 

 甘粕はそれすらかわす。見えないのなら、見なければいいとでも言わんばかりに。

 彼は殺気を感じ取り、攻撃を予測して初動の瞬間にかわす。攻撃を見てもいないのだから見えなくとも関係ない、などと言うバカげた理屈が通じるのはこの男一人だけだろう。

 攻撃を行う前にかわせば、ランサーほどの技量を持つ者ならば簡単に軌道を捻じ曲げる。とはいえ、それほどのレベルの心眼は人間離れ──いや、英雄離れしている。

 

 そして、反撃。軍刀での一閃はランサーとは違い、泥臭いものだ。一流の才能は備えている。しかし、英雄という存在は人類を超えし者。加えて言うならば、それは甘粕正彦の本来の姿ではない。彼本来の資質はキャスターらしく咒法特化なのだ。

 ゆえに、精彩を欠くのは当たり前の話だった。

 

「──っぐ!」

 

 だが、ランサーは息を呑む。受け止めた斬撃が思っていたよりもずっと重い。打ち返して一撃を入れると言う目論見はご破算となった。

 

 このランサーの驚愕は無理からぬことである。実際のところ、速度は破壊力と比例する。速いが威力が軽いなんてものは、そういう獲物で無理やり速さを引き上げているからに他ならない。つまり、不純なのだ。道理に反しているのだ。あるべき型に嵌っていない。

 

 ランサーの槍は純粋な強さである。ゆえに速さと破壊力が両立しないなどあり得ない。けれど甘粕のは反対なのだ。速度に比べて破壊力が強すぎる。その不自然さ──

 

「──重い。もしや、それが宝具の能力か?」

 

 と、推測する。

 

「いいや。俺はただ己の夢を回しているにすぎんよ」

 

 ネタ晴らし──甘粕はそんなことを気にすることがないから、こんなセリフも簡単に吐いてしまえるし、逆説的にはだから誰かがこの言葉の意味を理解することはない。説明などというものほどこの男に縁遠いものはないから。

 

 結局のところ、あえていうならばそれは魔術だ。甘粕はキャスターとして現界している。

 攻撃力を上げると言う魔術を使っているから、そんな不自然なことになると言うだけ。もとより、自然を崩し己が求めるままに世界を変革するのが魔術師としての自然なありようであるのだ。

 

 結局、ランサーは相手がどんな宝具を持っているかわからないと言うしごく当たり前のことを再確認しただけだった。

 

「──ふ!」

 

 甘粕はそのまま追撃。が、ランサーは状態が崩れて槍が流された状態から、くるりと槍を回して一撃を殴る様に受け止めた。

 曲芸じみた、しかし芯の通った威力のある一撃だ。ここでつばぜり合いに持ち込んだ。

 

「いささか面妖な刀を使うようだが──このまま切り伏せさせてもらうぞ、セイバー!」

 

 ぐぐ、と押し込まれ始める。これは純粋に呼び出されたクラスの差だ、純粋な力勝負となった時、3騎士とキャスターでは騎士に天秤が傾く。

 

「ぐぐ……!」

 

 甘粕は押し込まれる。しかし、その顔には笑みが。好きなのだ──追い込まれると言うことが。自身を追い込める男がいることが。

 

 ゆえにこそ──

 

「はははははは! 素晴らしい! そこに至るまでの修練はどれほど辛く険しいものであろうか!」

 

 奮起する。笑いでもって己が認めた相手に応えるのだ。

 

「──なに!?」

 

 ピンチになって力を発揮する。本来の英雄ならそういうものだろう。しかし、彼らはすでに死んでいる。座に登録されている英霊が呼び出されている以上、その能力は一定のはずなのに──

 

「強く……なっているだと──!」

 

 逆に押し込まれる。力関係が逆転し──

 

「──は!」

 

 弾き飛ばされた。

 

「まだだ、ランサー。お前の輝きはこれだけではない!」

 

 はた迷惑な信頼全開で追撃を仕掛け。

 

「なめるなよ、セイバー。これで取れると思ったか!?」

 

 裂帛の気迫を伴った突きの一撃が甘粕の進撃を止めた。斬撃は槍の使い方としては邪道であるが、それで威力は落ちない。むしろ裂帛の気合いが威力を底上げし、甘粕の悪癖が出た。

 

「……っぐぅ! 素晴らしい槍さばき──なんという気迫か! ああ、お前は輝いているぞランサー」

 

 ああ、この輝きを目に焼き付けたい。そう思ったのは寸毫に過ぎないが、英雄の前では命取りである。胸をわずかに切り裂かれていた。

 

「だが──ふむ。戟法の剛ならば、先ほどの一撃を耐えられていたはずなのだが……いや、なるほど。宝具か。それもお前の使う宝具が防御の無効化などというせせこましいものであるはずがない。今俺が使っているのはいわく魔術らしいからな──それを無効化したとなれば、魔術そのもの、あるいは魔力を切り裂く宝具か」

 

 はた迷惑な信頼のせいで、真実に近い所を突いた。これにはランサーも苦笑いして。

 

「──我が宝具を見抜いたところで、いい気になるなよセイバー。お前の剣筋、見えてきたぞ」

 

 再三の仕切り直し。次こそはその心臓を貰うとばかりに突きに特化した体制を取る。

 

「お前の輝きもまた、よく見せてもらったぞ、ランサー。お前は素晴らしい。だが、貴様の力はこの程度のものではないだろう? さあ、俺の宝具を見るがいい──!」

 

 甘粕は戟法を消す。本当に宝具を使う勢いだ。

 

 聖杯戦争において権謀術策を旨とするキャスター。その彼が今、何を考えているのかというと──何も考えていなかった。ノリが全てだ。

 ただし、こいつの魔術はその性質上ノリで威力が上がる。今、甘粕はノリで埠頭どころかマスター代理(アイリスフィール)ごと焼き尽くそうとしている。

 いや、本人にはその気はないのだ。ただ──ランサーならば防ぎきれると、本気で思っているだけで。

 

 そして、その一撃は──

 

「AAALALALALALALALALALA」

 

 雷とともに振った轟音により仕切り直しとなるのだった。

 




安心と信頼の暴走男。キャスターです。使おうとした宝具はロッズ・フロム・ゴッド。令呪でランサーが空間転移した場合、アイリスフィールは死んでいました。
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