Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
どうしてこうなった──と、ライダーの宝具に載せられたセイバーとウェイバーがそろって頭を抱えている。
そもそもこの二人は仲良く悩むような間柄ではない。むしろ殺し合う関係……まあ、実力が上すぎて殺そうとも思えないが。
しかし、両方ともになぜ己が敵と仲良く頭を抱えているかは理解できないのであった。
「「……はぁ」」
同時にため息を吐いた。遠い目をして回想する。
とはいえ、事情は簡単である。
何か思いついた様子のライダーが市場から酒をかっぱらって、道中で見つけたセイバーをかっさらって飛んでいるというわけだ。目的地は知らない。
まあ、いつも通りと言えばいつも通り──慣れはしないものの諦めがついている。……隣に敵のサーヴァントさえいなければ!
セイバーの方は少し込み入っている。まず彼女はアサシンの撤退を見送って遠坂母娘を送り届けた後、遠坂邸へと戻った。そして、またもや偵察に送り出された。
まあ、戦局を変えるような事態ではなかったし、時臣も起きていなかったからそこに不思議はない。目的を果たせていないのだから、門前払いを喰らうのも仕方あるまい。
師の家族を守ったのに不憫なことではあるし、マスターである綺礼にも残念な事件だったかもしれない。
まあ、そんなわけでセイバーは精神的な疲労を抱えながらも外に出た。探索はやすりで精神力を削るような苦行で、とてもやるせないがそれでもやらなければならない。
ここでサボれるような性格をしていたら生きやすかったのかもしれないが、当の本人は生きやすさなんて求めていない。ことによると、アサシンに狙われながらの探索行の方がマシだったかもしれない。
なぜなら、最も悲惨と言われる拷問法はシベリアで穴を掘って埋め直すことなどと言われる。……つまり無為。何のためにやっているのかわからないことは、人間の精神に多大なるストレスを与える。それが英雄であろうとも。
もし、正統なるアサシンが参加していたら、三騎士の一人を討ち取るという快挙を打ち立てていたかもしれない。それほどに、彼女は疲れ果てていた。
情報収集というのはわかる。だが、それは聖杯を取るためではなく、いけすかないアーチャーにくれてやるためなのだ。本当に私は何のために聖杯戦争に参加しているのだろうと思う。
目的はある。聖杯に託す願いは今も変わらずこの心に焼き付いている。だが、聖杯を取れないのであれば、こんな戦争に参加している意義があるのか。
己がマスターを殺してやりたいほど憎んでも、殺すという選択肢は取れない。それをしようとしたら最期、令呪でもって自殺させられるだろう。
けれど、令呪を浪費させるというところまでは頭は回らない。そういう搦め手めいたものは時代背景的に許されなかったし、己の矜持が許さない。
諌言はした。だが、あのマスターは聞きもしない。いや──いっそのこと聞いてくれもしない方がよかっただろう。奴は揚げ足を取るばかりで、嫌がらせばかりを言う。
だからこそ、どれだけ頑張ってみても光は見えない。
そして、そこを浚われた。ライダーがいきなり不意打ちで腕を掴んで戦車に乗せてきたのだ。なまじ殺気がないのがいけなかった。
直観力がすぐれているために己が危機には敏感で、だからこそ他のことは少しおろそかになっていた。普段ならばすれ違いざまに切り捨てることもできたろう。だが、今の彼女は疲弊している。
肉体の疲弊ならばだましだまし何とかなったかもしれないが、精神の疲弊はどうしようもない。さらにいえば、空亡に負わされた深刻な身体ダメージは未だ彼女を苛んでいる。
「──何用だ、ライダー? 今すぐそのそっ首、叩き落としてくれようか」
むっつりと腕を組み、ライダーを横目で睨みつける。何も言わずに叩き斬ってもよかったが、相手に殺気がないためやりづらい。どうも──積極的に“殺してやる”というような気になれない。
「いや。お前さん、なんだか疲れとるようだったんでのう。いい機会かと思ったんで浚わせてもらった」
そんな彼女には関係なく彼はいつも通りに自由闊達な有様である。毒気を抜かれることこの上ない。それでウェイバーあたりは貧乏くじを引き続けるのだが。
「なにが──“いい機会”だ!? ふざけるなよ、私たちは共に同じ道を行くような関係ではなかろうが!」
だが、不快であることには変わりない。激昂とまではいかなくとも、怒りはする。
「まあまあ、そう言わんで余の配下に加わる気はないか?」
「──ない!!」
少し殺気が芽生えた。
「むぅぅ」
「貴様……私をからかっているのか! 良い度胸だ、その豪放さとともにここで死ね」
「いやいや。ちゃんとした用事があって連れて来たんじゃ、心配するでない」
「……」
舌打ちして腕を組んだ。どうせ──こいつを倒してもセイバーの聖杯戦争の勝敗には関係がないのだ。まあ、それは本人が思ったことで、聖杯戦争をかき回してくれるということでむしろ戦う選択肢がないのが実情である。
そんなわけで険悪な雰囲気が続いている。ウェイバーとしてはいつ切っ先が向けられるのか気が気ではない。セイバーの剣は透明で見えないが。
「近づいてきおったわい」
その言葉に二人は無言で視線を寄越す。そして絶句した。
「──アインツベルン!? お前、何考えてるんだよ!」
見えてきたのはアインツベルンの森だった。この近くに有名な観光地があるとかそういうオチはない。
むしろ一般人には分からない形で封鎖されているために、目的地などと言うものがあるとしたらアインツベルン以外の何物でもない。
「そんなこと、キャスターに会うために決まっておろう」
「……ッはあ!?」
「なんのつもりだ……!?」
そのまま結界に突撃、侵入しようとする。
「何の用かな? ずいぶんとまあ、豪勢な面子だな。ライダー、セイバー、そしてウェイバー・ベルベット」
結界の前にキャスターが現れた。ライダーと空中で対峙する。
「うむ。お前の聖杯にかける想いを聞きに来た」
「ふむ。──隠した覚えはないが」
この男、初対面で自分の望みを言い放っている。──他サーヴァントすべてに標的にされかねない願いを何の臆面もなく言い放ったのだから感心するほかないが、セイバーとしてはこの機会に倒しておきたいくらいだった。
「聖杯は、ふさわしき者の手に渡る定めという」
この男らしからぬ真面目な面持ちで言う。いや、真面目な時は真面目なのだ──落差が激しいだけで。
「それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だという。だが、何も見極めをつけるだけなら血を流すには及ばない。お互い英霊同士、お互いの格に納得がいくまで語り合えば、自ずと答えは出る」
どん、と酒樽を叩いた。
「──で、問いに来たというわけか。もちろん、貴様の思いも隠すようなことはあるまい?」
この滅茶苦茶さは征服王らしいことこの上なく、そして人の輝きを愛する魔王ならばこれを断りなどしない。お互い、とても“らしい”が見ている方は気が気ではない。
「うむ。当然だ。貴様と同じく、隠すつもりなどもとよりない」
「では、語り合おうか」
「いやいや。ここでというのも味がなかろう? どうだ──酒でも酌み交わさんか。それとも、おぬし下戸か」
「──ふ。名にし負う征服王の誘いを断るわけにはいかんな。……降りるか」
広場に降りる。そこはアインツベルンの本城がすぐそばにあるが、気にしているのはウェイバーのみである。いや。
「これはどういうことかしら? キャスター」
アイリスフィールが現れた。もちろん、状況がよくわからないから表に出てきたということではない。結界内の状況は把握している。
その上で逃げても無駄だと判断した。後ろからやられるくらいなら、正面から出た方が生き残る確率はわずかに上がる。キャスターだって居ることだし。
「マスターか。なに、英霊の格を比べ合うだけだ。心配は要らんよ」
「──お酒?」
眉をひそめた。ライダーの抱えるそれは酒樽にしか見えない。なんとも気楽なことだと嘆息する。と、同時に命の危険は低そうだと安心する。さすがに油断はできないが。
「ああ、それともあなたも飲むかね?」
「遠慮させてもらうわ。──アルコールは苦手なの」
「そうか。それは残念じゃな」
大して残念でもなさそうだった。また、キャスターはアイリスフィールが酒を飲めることを知っていて何も言わなかった。
三騎の英雄が腰を下ろす。
ウェイバーさんマジ苦労人。