Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第21話 聖杯問答(乙)

 

「では、始めようか三つ巴の聖杯問答を。誰がより聖杯の王に相応しいか酒杯に問えば(つまび)らかになると言うものよ」

 

 どん、と酒樽を置いてライダーが言い放った。

 

「──戯れはそこまでにしておけよ。雑種」

 

 そこに異論を向けるアーチャーがいきなり現れた。それは霊体化を解いただけで、移動手段は普通に徒歩である。

 

「アーチャー。なぜここに──あなたは龍神との戦いでの負傷が!」

「戯け! 我はダメージなど何一つ負っていない! なんならかわいらしい花を手折って見せてくれようぞ」

 

 身体の芯に残るダメージを全く表に出さない。それは、そもそもダメージを負っていない征服王以外の3騎は同じ。

 

「──ほう? さすが英雄王。言うことが違うな。……蛮族がか弱き村娘に向かって言う言葉がよくお似合いだぞ。もっとも、私のことを手弱女と言うならば代償にその首をもらうがな」

「ほざけ。小娘」

 

 今にも剣を抜きそうな気配である。お互いに協力など望んだ覚えはない。セイバーに至っては一方的な奉仕だというのだから……まあ、殺し合う機会があったら大喜びするレベルであろう。

 

「町で姿を見かけたんで誘ったんだが、険悪だの」

「先の戦いでは見事な連携を見せてくれたものだがな。残念だ」

 

 キャスターが嘆息した。……本当に残念そうである。煽りでも何でもなく。

 しかし、この場において火に油を注いだのは間違いなく彼であり、さすがは第八等廃神神野明影の主である。

 

「魔術師風情が。この場で斬ってくれようか。そのふざけた態度は見過ごせんぞ、雑種」

 

 一触即発の雰囲気。というか、逆に何故バトルにならないのか不思議である。これもライダーの器ゆえか。

 

「遅かったではないか、金ぴかよ」

 

 パンと手を叩いて悪い流れを断ち切った。

 

「駆けつけ一杯。ほれ」

 

 柄杓で酒を酌んで渡す。

 

「──」

 

 英雄王は無言で口をつけ、眉をひそめる。

 

「ふん。なんだこの安酒は。こんなもので英雄の格が測れるものか」

「そうか? この市場ではなかなかの逸品だぞ」

 

 のんきなものである。まあ、彼がそうでなければ四つ巴に突入する。ウェイバーも、そしてアイリスフィールも彼の手腕に期待するしかない。

 

 ウェイバーはここでバトルなんてやられたら死ぬし、アイリスフィールだって城が壊されたら困る。そして、ウェイバーほど切実ではないけれどキャスターに施させた保険が機能せず死ぬ危険だってある。

 

「そう思うのは、お前が本当の酒と言うものを知らんからだ。雑種め」

 

 空中から黄金の酒瓶を取り出した。

 

「喰らうがいい。そして思い知るがいい。これが真の王が嗜む酒の味だ」

 

 盃を3人に投げた。

 

「これは重畳」

 

 征服王は何も躊躇することなく受け取った。そして、遠慮もせずに飲み干す。

 

「んむ。うまい!」

 

 豪快という言葉がよく似合う。

 

「酒も財も、我が宝物庫には至高の宝しかありえない」

 

 こちらは優雅に飲む。

 

「これで王の格付けは決まったようなものだろう?」

「それとこれとは話は別であろうが。大望こそが重要なのだぞ」

 

「──は。それが勘違いというのだ。そもそも世界の宝は全て我のものだ。聖杯しかり。この世の理だ。わきまえよ」

「むぅ? ならば、おぬしは聖杯を持っていたと? 聖杯とはどのようなものだ。本当の姿は知らんのでのう。教えてくれんか」

 

「知らんわ。我が宝物庫は既に我が認識を越えている。雑種の尺度で測るな。宝物であったならば、それは我のものだ。盗もうなどと、盗人猛々しいにもほどがあるわ」

 

「は。錯乱したサーヴァントがもう一人。つくづくこの聖杯戦争は正道から外れている」

 

 セイバーがいやに荒んだ目でアーチャーを見た。

 

「ふむ。聖杯が本当に貴様のものであるならば、盗みなどせん」

 

 キャスターがゆっくりと酒をたしなむ。さすがに彼であろうと飲んだことがないほどの味である。英雄王の面目躍如といったところか。

 

「ほう? こすっからい魔術師らしからぬ潔さだな。あのような無礼を働いたとは思えんよ。もっとも、あれだけのことをしておいて恩赦を望もうなどという分不相応な願いを持ってはおらぬだろうな」

「この身は日本帝國に仕えている。貴様の法で裁かれてやることはできんよ。もし、俺がお前の裁きを受けるときが来るとしたら、戦争で負けた時にほかならん。勝ってもいないうちからこうしてやるだのああしてやるだの言うのは負け犬のやることだ。いかんせん、そういう奴らに限って声ばかりが大きい。──ああ、そうだ。お前の声は大きいな?」

 

「貴様……」

 

 殺気が滲む。きっかけがあれば宝物庫を開いてしまいそうなほどに。

 

 余談ではあるが、ここで各自の状況を確認しておこう。まずは英雄王。彼自身はすこぶる健康だ。回復アイテムのがぶ飲みで動くのに支障はない。

 ただし、時臣は死にかけだ。別にこのままでは死ぬとかそういうことではないが、弱った状態で魔力を吸われたら死ぬ。

 サーヴァントとしての制約で魔力を回復する宝具は使えないのだ。これはキャスターの神仏召喚、ランサーの二刀流が使えないのと同じ理由である。

 

 そして、騎士王。こちらは体が回復し切っていない。まあ、龍神との戦いから一晩も経っていないからさもありなんといったところ。

 特に足へのダメージが酷いので俊敏な動きなど望むべくもない。もし戦うとしたら重戦車のように戦うしかないだろう。

 さらに悪いことには使える魔力はそう多くない。マスターが正式な魔術師とは呼べないせいで、いざというときの魔力なんて他マスターが当たり前に用意しているものは持ってないし、そもそも供給できる魔力の量ですら小さい。

 

 魔王。彼は自爆したダメージが抜けきっていない。ゆえに今夜くらいは慎重な行動を──取れないかもしれないが、心掛けくらいはするだろう。そして、3騎の英雄により龍神は敗れ去った。別に戦闘能力が弱くなるわけではないにしろ、一般的な精神の持ち主なら敵に自分から仕掛けることなど考えられなくなる。

 

 最後の一人、征服王。彼だけは万全だ。完全無欠の征服王である。全開でバトルしたところで何の問題もないし、懸念すべき点もない。まあ、彼のマスターは馬鹿なところが懸念だよ! と言うであろうが、そこはそれ。

 

 今宵、この聖杯問答において、最も有利なものがいるとしたら征服王である。体調は万全、後顧に憂いなし。

 最も戦闘で有利な者が、勃発しそうな戦闘のストッパーになるとは何とも皮肉な話である。

 

 

 

「この世の宝の全てが貴様のものだと? ふざけたことを抜かすなよ。本当にそうであるなら尊重もするがな。己の所有物には責任を持つものだ。聖杯戦争の犠牲者にお前は責任を持っているか? 被害者たちをお前の意志でもって殺したか? ──で、ないならば俺は聖杯をお前の所有物とは認めんよ」

「例え誰が苦しみ、民が根こそぎ死に果てようとそれは我の背負うものだ。己の所有物に対する責任? 凡俗の戯言というほかない。この世の全てなど──とうの昔に背負っている」

 

「そんなものは変わらんさ。ああ、潔いのは認めよう。だがな、この世の全てを背負っている? ならば何も背負っていないのと同じだよ。道も知らず、結果も知らずただ背負うだけでは意味がない。俺は、俺が出合い時には育て忠告し殺してきた全ての人々を覚えている」

「つくづくものの道理と言うものが分かっていないらしい。雑種と一括りにするには異端に過ぎるな。狂っているよ、貴様」

 

「ああ、なぜかそう言われることが多いのだよ。なぜかな? 俺は常に思考することを自らに課している。論理的な結論と言うものを重んじている。いつ俺の話が破綻したのかさっぱりわからない。それとも、狂人とは論理と言うものを解さない輩だと思っていたが、違うのかね?」

「ふん。傲慢な思想に染まった雑種め。貴様の器には余ると心得よ」

「あなたが破綻しているのは論理ではなく結論でしょう、キャスター。人類を滅亡させかねないあなたは十分に狂っている。──あるいは、アサシンよりも」

 

 セイバーが吐き捨てた。

 

「はて? なにか破綻していたかね」

 

 キャスターはニヤニヤと議論を楽しんでいるようだ。

 

「狂人には自分が狂っていることは理解できぬらしいな。もっとも、狂人に何が理解できるかなど知らんが」

「ならば、聞かせてもらおうではないか。人の輝きを永久に愛するため魔王になりたいと言った俺の夢、それを物狂いの戯言といったお前の夢を。なあ、騎士王よ」

 




胃痛はまだ終わらない。
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