Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第26話 魔術師VS魔術師殺し

 

「ふん。城に結界も張れぬとは、三流魔術師め」

 

 ケイネスはたどり着いた正面扉になんら魔術的防御が施されていないのを見て不快げに眉をひそめた。

 切嗣としては、それで正面扉以外から入ってこられる方が面倒くさいことになると言うだろうが。

 

 あっさりと水銀で扉を八つ裂きにして、我が物顔で城へと踏み入った。

 

「アーチボルト家9代目当主ケイネス・エルメロイがここにつかまつる。アインツベルンの魔術師よ、求める聖杯に命と誇りを賭して。いざ尋常に立ち会うがいい」

 

 エントランスの中央で傲岸不遜に直立し、朗々と言い放った。

 

「ケイネス=アーチボルト。アインツベルンの城へようこそ、と言ってあげたら喜ぶかね?」

 

 ホールの奥、階段を上がった先に切嗣はいる。煙草を吹かしながら銃をだらりと下げている。挑発的な物言いで、視線はどこか他のところを見ている。舐め腐った態度である。

 

「──ほほう。手加減は不要のようだな?」

 

 無論、切嗣の挑発にケイネスはあっさりと乗ってしまう。

 

「魔術など、近代兵器の前には何の役にも立たんということがわからない時代遅れの魔術師が──まあ、後悔する暇もなく殺してあげよう」

 

 更なる挑発。煙草の煙を吐いた。

 

「ほざいたな、三流。アーチボルトの魔術、貴様ごときに開示するのはもったいないが、下民を教育してやるのも貴き者の役目か」

 

 ケイネスの足元にある水銀が鎌首をもたげる。

 直後、切嗣はキャリコM950を連射する。もちろん、効くわけがない。失策しかないが、ケイネスは聖杯戦争でも一二を争うほどの魔術師である。小さな鉛玉など、いくら連射しようがその程度を防げないわけがない。

 

「──」

 

 それでも切嗣は平気な顔で撃ち続ける。

 

「ッ小癪な三流が──小うるさい!」

 

 確かにうるさい。銃弾が水銀に跳ね返されて、耳をふさぎたくなるほどの騒音を発する。それでもケイネスはここで防音の魔術を使って隙を晒すほどのド素人ではない。

 

「八つ裂きにしてくれる!」

 

 水銀を放った。

 

「やれ」

 

 切嗣の小さい声。だが、骨伝導マイクを通して指示を送るには十分。

 

 エントランスが爆発した。

 

 もちろん、魔術ではなく爆薬。地雷式ではない。そんなものを本拠地に仕掛けるのは想像を超えた間抜けだけだ。別の部屋にいる舞弥に無線で床下の爆弾を起爆させた。

 エントランスの素材をわざわざ電波を遮る物質で作る馬鹿はいない。というか、作られた年代を考えれば無理である。

 

「──ぐぅぅ。この三流がァ──三流が、三流が、三流以下の魔術師の面汚しがァァ──ッ!」

 

 水銀は音まで防御してくれない。鼓膜が破れて音が聞こえない──だが、目は無事だ。敵を見失ってはいない。

 爆破による衝撃や熱波のダメージも届いていない。そう、ケイネスは魔術の腕”だけは”超一流であるのだから。

 

Scalp()!」

「ぐぅっ!」

 

 爆炎の煙の中から水銀を飛ばす斬撃を放つ。切嗣はわざとらしい苦しみの声を上げながらバックステップで避けて後ろの通路に逃げ込んだ。

 

「むぅ──。こっちか?」

 

 耳が聞こえなくなったのは2秒かそこら。切嗣が用意して計算された配置に置かれた爆薬は組み合わされて個々の衝撃を増幅、相乗されて叩き込まれたのだから。

 正当なアサシンのサーヴァントくらいなら倒すことができてもおかしくないほどの威力ではあり、轟音も相当だ。最も防御のしにくい足元からであれば、こんなものを受け止めることができるマスターは後にも先にもケイネス=アーチボルトただ一人。

 

 まるで局所的な台風が吹き荒れたかのようなエントランスを後にして切嗣を追いかける。

 

「──馬鹿め。足音が聞こえているぞ、消音の魔術すら使えんのか貴様は」

 

 あざけったようなことを言われるが、もちろんワザとである。追ってきてもらわなければ困る。まあ、こんなところで油断してもらおうとまでは思っていないが。

 

「なるほど。あれを人の身で防げるとは脱帽だよ。まあ、あの落下の衝撃から生き残れたんだ。順当と言えば順当。さて、一撃必殺を決めて見ようか」

 

 足音を隠す気がないのは自分もだが、相手も同じらしい。言葉を返し……足を止めて、待つ。ちょうど曲がり角から顔を出した瞬間に撃つ。

 切嗣の常識では角を曲がる瞬間は同時に牽制攻撃するか十分に安全を確認するが、ケイネスは何の確認もなく顔を出した。

 そして、実際無傷であるのだから一概に間違っているとは言えない。切嗣の使用する銃弾の威力も十分に見切り、装甲を薄くして攻撃に回す。

 

「──は。不意を討つしかできない無能め。兵器だと下らない──魔術の神秘がそんなものに負けるわけがないのだ。……Scalp(斬ッ)!」

 

 切嗣は同じ攻撃か? と一瞬思う。だが。

 

「違う──か! Time alter(固有時制御) ── double accel(二倍速)!」

 

 八方向からの攻撃。まさか“八つ”裂きにこだわっているわけではないだろうけど。

 

「その傲慢が隙だよ」

 

 トンプソンコンテンダ―を目にもとまらぬ速さで抜き撃った。ケイネスは集中が乱れ、結果として八方向からの斬撃は切嗣の全身を浅く斬り裂くに終わる。

 

「──っが!」

 

 攻撃に多くの水銀を割き、切嗣の攻撃の威力はこの程度と油断して装甲を薄くしたから肩を撃ち抜かれるような羽目になる。

 威力の弱いものを全力で防ぐのは効率が悪い。とはいえ、いくらかの余裕は必要だった。銃器による抜き打ちなどいくらでも対応できると思った傲慢がこの結果を招いた。

 

「──ぐぅぅ……!」

 

 苦しそうに胸を抑えた切嗣はまた逃げ出す。自分の魔術による副作用。無理やりに倍の速さで体を動かせばとてつもない負荷が来る。キャスターならば治癒も可能だろうが──

 

「さて、エミヤの魔術刻印に自動治癒機能はない。先の駆け引きを勝負と捉えたなら、負けたのはどちらか」

 

 やはり、ダメージが大きいのは自分だろうと自嘲する。そう、衛宮切嗣は魔術師としてケイネス=アーチボルトに疑いの余地なく劣る。

 

「だが、戦場では殺したもの勝ちだよ」

 

 ……計画通りだ。むしろ、もっと負傷するものかと予想していた。予想外にビル爆破の時のキャスターの追撃が効いていたのかもしれない。

 

「……痛ぅ」

 

 だが、本当にあの攻撃を無傷で切り抜けられたわけではない。最初から喰らうつもりだったとはいえ、かわせないとは──

 

「まあ、これも外せないかな。体には結構きついんだがね。Time alter《固有時制御》── triple stagnate(三重停滞)

 

 今度は先の逆。体の動きから血流まで三分の一のスピードに抑えた。もちろん、そんなことをすれば激痛が走るのは想像に難くないし、健康にも甚大な悪影響が出てしまう。だが、そうすることで生命反応を隠ぺいできる。

 

「もっとも、ケイネス=アーチボルトが見逃すなどあり得ない」

 

 そら──水銀が来た。

 

 

 

「お前の子ども騙しのような攻撃に油断した──それは認めよう。もっと速く、そしてより効率よく防御態勢を整えれば、あのような奇跡は起こらなかった。魔術師の面汚しが、下賤の屑が、私に血を流させるなど何かの間違いであったと思い知らせてくれよう!」

 

 いたぶるつもりか? ここにいるのがわかっていて、声を張り上げている。どうやら、銃創は完治したらしい。声に震えがない。傷が残っていたらもう少し震える。

 

「──下らん! 私はこのような戦いをするために聖杯戦争に参加しているのではなァァい! ふざけるなよド三流。このような罠が私に効くかァ!」

 

 事実、ブービートラップその他は水銀に制圧されている。ただし、役目は果たしている。あっけなく踏みつぶされて彼の神経を逆なでするという役目は。

 

「まさか先と同じ手が通じるとは思っているまいな。貴様がこの私に一矢を報いたのは駆け引きでも奇策でも何でもない。ただの不条理という偶然なのだ。その違いを判らせてやる……!」

 

 来た、か。もう一歩でお互いが見える位置にくる。

 

「もはや楽には殺さぬ。肺と心臓だけを治癒で再生しながら爪先からじっくり切り刻んでやる。悔やみながら、苦しみながら、絶望しながら死んで行け。そして死にながら呪うがいい──貴様の雇い主の臆病ぶりを。そして聖杯戦争を辱めたアインツベルンをなァ!」

 

 会敵。

 

Fervor(滾れ) mei(我が) sanguis(血潮)!」

 

 もはや油断などない。隙を見せればそこを突かれる。ならば、隙などない重戦車のごとくこの哀れで矮小なる敵を踏みつぶせばいい。

 

 正面に水銀を展開。即座に後ろや足元にも回せるように。遠くに離すのは良くない。だから、このまま完璧な防御をもって攻撃に変える。

 どうやらあの殺し屋は全力を込めたらしき弾を打ち込もうとしているが、そんなものは全力で防御すれば弾けないはずがない。

 

 それは状況判断として間違っていない。切嗣がそう仕向けたということを除けば完璧と言っていい。

 

 これまでの魔術殺しの殺し技は全て一撃必殺。油断を突いて最大攻撃を叩き込むと言うものだった。

 大体、最初のビル爆破からして大味で、とんでもない威力で一切合財を無に帰そうとしてきたのだ。城に足を踏み入れて最初の一撃──床からの爆破。とんでもない威力だった。城が崩れていないのが不思議に思えるほどに。

 そして、コンデンサーの一撃もまた油断を突いて水銀の防御を貫通しようとした。これはもうなんとかして水銀の防御を突き破ろうとしているとしか考えられない。

 

 そう考えたのは間違いとは呼べなくて、だから切嗣の切り札の一撃を全力で防御して──

 

「……が! ぎゃ……が……ッ!」

 

 ケイネス=アーチボルトは壊された。

 

「──僕の勝ちだ」

 

 これぞ衛宮切嗣の礼装、起源弾。“切って、つなぐ”切嗣の起源を具現化する。今行われた攻撃の対象は魔術の源である魔術回路そのもので、回路は切ってつながれた。

 元通りにはならない。無理やり癒着させたようなものだ。紐を切って結べばその分だけ短くなる。体の中を通る神経でもある魔術回路にそんなことをされたら廃人になってしまう。

 

「衛宮、切嗣ゥ!」

 

 そこに、ランサーが現れた。瀕死状態、7割がた死の世界に足を突っ込んでいるケイネスを抱きかかえる。

 

「おのれ。よくも我がマスターを。貴様らはそこまでして聖杯が欲しいか!? 決闘など単なるまやかし──貴様が指示したのか? 私を辱めるのがそんなに楽しいか!? 全力も出さず、宝具とて開陳することなく……あんなものが決闘と呼べるものか!」

 

 叫んだ。血の涙を流している。

 

「……」

 

 切嗣の感想は一つ。……コイツ、何言ってるんだ?

 

「キャスターが追い付かぬ今、貴様を殺すのは容易い。だが、それでマスターを死なせるようなことがあってはならない。だが──だが! あまりにも酷いだろう。なぜこのような仕打ちを受けねばならない。我々が何をしたという。我々をそんなにも罪深い存在だと言うのか、お前たちは」

 

「貴様ら、そんなに……そんなにも勝ちたいか……? そうまでして聖杯が欲しいか? この俺がたった一つ抱いた祈りさえ踏みにじって──貴様らは何一つ恥じることはないのか!? 許さん。断じて貴様らを許さん。騎士の誇りを貶めた亡者ども。その祈りを我が血で汚すがいい。聖杯に呪いあれ。その願望に禍あれ。いつか地獄の窯に落ちながら、このディルムッドの怒りを思いしれェ!」

 

 恨み言を残して消えた。撤退し、マスターを治療するつもりだろう。

 

「キャスター。お前は地獄を何だと思う?」

 

 煙草に火をつけ、後ろにいるキャスターに問う。霊体化ではない。邯鄲法の一つ、透法を使っていたからランサーは気付かなかった。

 

「むろん、理想郷」

 

 言い訳のしようもなく敵を見逃した彼は迷いなく断言した。

 

「そうか、よかったな。お前の理想郷はここに在るぞ」

 

 切嗣は胸一杯に吸い込んだ煙草の煙を吐き出した。

 




順調に黒星を重ねるケイネス。
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