Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第28話 大災害の予兆

 

「……ライダー」

 

 言峰と話していた時、ずっと下を向いていたウェイバーが空に上がって口を開く。この二人はずっと戦車から降りなかった。代行者に対する当然の警戒である。

 

「む? 吐きたいなら吐いておけ。さすがにアレはなあ。余も参った」

「平気そうな顔をしてなかったか?」

 

 余裕綽々にしか見えなかったと、ウェイバーは口を尖らせた。

 

「それはまあなんだ。坊主の危機だったからな。マスターを守らずしてどうしてサーヴァントか」

「あいつ、そんなにヤバいのか?」

 

 神父の姿を思い出す。

 確かにあの状況で、むしろ歓喜に打ち震えているようだった彼は相当に人間としてタガが外れている。さらに言うなら、マスターが一人で出歩いているということは相当の戦闘力を秘めているということでもある。

 危険人物としてはもう魔術師ですら避けて通りたくなるレベルである。のだが、このライダーが恐れるようなイメージはない。

 

「坊主はあいつと戦うな」

「──っな!」

 

「坊主の魔術とやらの腕を信用してないのではない。まあ、魔術と言ってもよく知らぬのだが。そう卑下するものでもなかろ」

「じゃあ──」

 

「それを考えても、あれはちと相手がまずいな。余が会ったマスターなどお主とアインツベルンの女くらいのもの。あとはランサーのところの声を聞いたくらいか。だがな、“あれ”はマズいぞ。余とて殺られかねんわ」

「……はあ?」

 

 珍しく本気である。彼は馬鹿げた行動をしているときでも本気だが、それとは違う抜身の真剣のような雰囲気がある。

 そこまでヤバイということかと、ウェイバーは今さら息を呑んだ。人間としてタガが外れているのはその人間性だけではなく、身体ですらも同様。精神が外れているから肉体も外れたのか、はたまたその逆かはわからないが、とにかくあの神父は危険すぎるということは十分に伝わってきた。

 

「そんなことが──だってお前サーヴァントだろ? マスターじゃサーヴァントを殺せないからサーヴァント同士で争うのに、マスターがサーヴァント殺せるって馬鹿げてるだろ」

「そうかもしれん。奴にはサーヴァントを殺せるだけの攻撃力はないかもしれん。そういう意味ではキャスターの奴がアインツベルンのサーヴァントでよかったわい。あやつの強化をかけられた言峰綺礼の相手をするのは厄介ぞ。ランサーの方も違うのは僥倖かもしれぬな。2本のうち1本借りれば殺しかねんぞ」

 

「──そういうことなら、少しは安心できるかもしれない」

 

 実は微妙なバランスだった。マスター無双など冗談ではない。ウェイバーは少し考え込む。

 

「ホントにな」

「セイバーの見えない剣──あれは他人に貸せると思うか?」

 

 重苦しい声で言った。

 

「いや、あれは正体を隠しておる。そこまでするということはまず、あの剣さえ見れば正体がわかるほどに有名な英霊なのだろう。ということは、あの剣は至高の逸品であるはず。それを他人に貸すとはいくらマスター相手でもなかろう。で、それがどうした」

「あいつのサーヴァントはセイバーだ」

 

 断定する。もちろん、一緒に居るところを見たわけではない。セイバーを見たのは港が最初で聖杯問答のときで二度。神父を見たのは先の一件が最初で最後。彼らが繋がりを見せたということはない。

 

「ほう。なぜ、そう思う?」

 

 ライダーは目を細める。まるで優秀な生徒を見る先生のような。

 

「まず、ランサーのマスターはケイネス先生で、キャスターのマスターはアインツベルン。今ちまたを騒がせている奴は最初の港湾の戦いに参加しなかったアサシンと非正規のマスターだ。正規の参加者なら隠ぺい工作を怠るなんてありえないからな」

「うむ」

 

「けどな、代行者。元代行者だっけか? 神父が聖杯戦争に参加するのはおかしいんだよ。どの枠に収まるかというと外様だろう。教会が隠ぺいを怠るなんてありえないし、むしろ関係なかろうと積極的に隠さなければいけない立場だ。けどな、あいつらは根本的な姿勢として神秘を認めていない。代行者としてはマスターとサーヴァントを皆殺しにした後、どこかにあるはずの聖杯を砕きに行く以外にありえない。参加するなんて代行者のやり方じゃないんだよ。むしろ、協会は異端認定してその代行者ごとなかったことにするだろうね」

 

「なら、なぜ聖杯戦争に参加したのかという話に戻るけど、港湾の戦いを思い出してほしい。アーチャーのすぐ後にセイバーが現れただろ? 大体、お前らが酒をかっ喰らったあの騒ぎ、聖杯問答とか言ってたな。お前は。あの時だって、2回目に会うような反応じゃなかったぞ。もっとドロドロした感じだった」

 

「だから、あの代行者と協力しているのは遠坂だ。実は遠坂は1人の参加者と内通しているという噂が開始前からあったんだよ。その遠坂のサーヴァントはアーチャーだ。だって、サーヴァントは聖杯を取るために現界したんだから。それがマスターに聖杯を取る気がないと判れば気落ちするさ。あの時のセイバーみたいに。大体、アーチャーの奴は下っ端の立場に甘んじられる奴じゃないだろう」

 

「教会と遠坂は手を結んでいる。目的は遠坂は根源到達で、協会は聖杯を遠坂の根源到達なんかに無駄うちさせること。協会は信用できない。代行者が下で遠坂に協力しているんだから、協会は遠坂の手に落ちていると言ってもいいかもしれない。おそらく、それは冬木の教会を取り仕切る人間が個人的にやっていることだ」

 

 長々とした説明セリフ。自分の考えを整理するためのそれだが、ライダーはもう一度説明を求めるほど馬鹿ではない。

 

「──なんと! 協会は聖杯戦争のルールを決めると言う話ではないか。始まる前から審判と手を組むなどズルではないか」

 

 事が始まる前から協力していた者たちがいることくらいは予想はついていたものの、ライダーはそもそもルールを制定する側のことは最初から知らない。

 そこでルールを破っていたとしても、なんて卑劣なとしか感想は浮かんでこない。

 

「ズルなんだよ。サーヴァント同士の仲は悪いみたいだけど、令呪で従わされれば2対1だ。そんなん、どうやって戦えばいいんだよ」

「大変じゃのう」

 

「他人事か、お前は!」

「いや、なに。お前さんががんばったから、余も一つ張り切っていこうかと思っての。それに、これは戦争だ。馬鹿正直に正面から挑む必要もあるまい」

 

 胸を張る。そもそも彼は騎士道を奉じるサーヴァントではない。その豪胆さに隠れて見えづらいが、策を使えば不利なら退きもする。地力もあって相手取るのは実に厄介なサーヴァントである。

 

「1対1なら勝てるってのかよ、お前」

「ここは大船に乗ったつもりでどーんと構えておればよい。わっはっはっは──」

 

 そこで、一匹の鳥が舞い降りる。他からの使い魔だが、敵意はないことを確認して腕にとまらせた。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 止まった鳥の足に結ばれた手紙をほどく。

 

「なんじゃ?」

「教会からの手紙──アサシンのことについてか」

 

 嫌な顔をした。話題が最大級に厄い上に、送り主が先ほど遠坂に協力していることが確定している教会だ。どこの方面から見たって最大級に嫌な予感しかしない。

 

「どうする」

「直接乗り込むのはマズい。教会は最初から遠坂の手の中だから。でも、これから教会から提示されるルールを知らないのも危険だ」

 

「大変なものじゃな。人目もはばからず殺しまくっているアサシンを倒すという話ではないのか」

「表向きはそれだろうけど、裏で何か企みがあるはずだ。ここで何もしかけないだなんてありえない。向こうは初めから僕らを騙してたんだ」

 

 そう、確かに教会に招くとしたら口実はそれ以外にありえない。ルール制定側が参加者の予想を裏切ればそっぽを向かれるだけだ。とはいえ、遠坂に協力しているなら他の参加者に益するような行為はしないだろう。

 

「では?」

「使い魔を飛ばそう。遠坂の当主なら逆探知できるかもしれない。このまま空を飛びながらあっちの言い分を聞くから、お前は下から狙撃されないか見てろ。なんたって、まだアーチャーが残ってるんだから」

 

「アーチャーはそんなことせんと思うが、下を警戒しておくべきなのは言う通りじゃな。下は余に任せてお主はそっちの仕事をしとれ」

 

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