Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
雷を降らせた男は高らかに己が名を謳い上げる。
「我は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した」
現れたのは紅い外套を纏った大男。立派な牡牛に引かれた馬車にのり、今──サーヴァントたちに己が王道を語り聞かせる。
「何を考えてやがりますかー! この馬鹿は」
横にいるのはマスターと思しき少年。サーヴァントの手綱を握れていないことは明らかだ。哀れにも焦りに焦って、今の状況を飲み込めてすらいない様子である。
「うぬらとは、聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、まずは問うておくことがある。うぬら、ひとつ我が軍門に下り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存である」
大真面目な顔でやらかした。
反応は馬鹿を見るような冷たい目だった。ランサーはふう、とため息をつき呆れたように。
「その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いをかわした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー!」
侮蔑の視線とともに切り捨てた。
「ふむ。真剣勝負の邪魔をするとは中々無粋な奴だな、イスカンダルよ。ここに来たと言うことは──なるほど三つ巴か。お前ほどの剛毅な男が、勇者でなくて何だというか。いいぞ、始めようか」
興醒めした視線を投げかけた──と思いきや、次の瞬間には男を褒め称えている。それはそれ。これはこれということなのだろう。不快な行為をされたが、すぐに水に流す。
実際、彼が親友を自称する男は人類として最底辺にして鬼畜外道。悪魔など、彼に比べたら願いを叶えてやり、さらには甘やかしてまでくれる天使にしか見えない。──ゆえ、甘粕にとってはこの程度の無礼は気にするまでもない些細なことでしかない。
重要なのは、己が求めるままに想いを貫き通せるか。そしてその想いの絶対値──甘粕正彦の好む人間とはそういうものだ。そして、イスカンダルは十二分にその条件を満たしている。
「おいおい、待てよセイバー。儂はお前さんを誘っているんじゃぞ。返答は如何に?」
そして、勘違いはこちらもだ。まあ、身体能力を魔術で強化して剣技で戦うキャスターなど誰が想像できようが。──似たような者なら、けっこう居そうな気もするが。
「残念だが断らせてもらおう、征服王イスカンダルよ、お前の夢は素晴らしい。見果てぬ夢を追い続けんとする気概。仲間とともに駆け抜けようと言った想いもまた、これ以上なく輝いている。だが、俺には夢があるのだ」
大真面目に語り聞かせた。彼はいつでも愚直なまでに己に正直な男で、その傍迷惑なまでの誠実さは見てわかるほどである。
「ほう。残念じゃな──」
ライダーが気を落とし、話は終わり。普通ならばそうだ。しかし甘粕正彦は違う。──誰も聞いちゃいないのに語り始めた。
「そう。俺は魔王になりたい。お前とて、異民族との戦いがなければ、その夢は輝かなかったのだ。敵がいたからこそ、貴様の物語は悲しくも美しい極上の代物である。ゆえに──この俺自身があらゆる物語の敵役を務めたい!……俺は人の輝きをいつまでも愛でていたいのだ」
謳い上げた。ライダーと対抗して、というより機会があればいつだって口にしたいのだろう。
「──貴様。なんという……」
顔をゆがめた。なんだそれは? 邪悪な願い──確かに犠牲という意味ならそうだろう。人類種の敵になろうというのだ。
犠牲などどれだけ出るのか想像がつかない。けれど、この男の夢を語る姿はあくまで真摯で人類を心から愛しているらしいことが分かってしまう。
愛ゆえに壊すなど、それは征服王の知る感情ではなく……正邪の判別がつかない。どう評していいのかわからない。このような気持ちに向き合うのは初めてで──
「ライダー。この馬鹿! どうする気だよ──この状況で!?」
マスターに現実に引き戻された。そう、今は気を抜いていい時ではない。
「むろん、戦争だ。サーヴァントがこれほど集まったのだ。よもや、出てこないと言う選択肢はあるまい。世界に召し上げられた英霊がそんな臆病者であるはずがない。──なあ、アーチャーにセイバーよ」
甘粕が答えた。
「なんだって!?」
真っ先に驚きを口にするのはウェイバーである。他の二人も口に出さないものの驚いている。──セイバーはお前だろうが。と。
「真の王は天上天下にただ一人。この我だ。王たる我によくぞ吠えたな──雑種が。我が拝謁の栄に浴してなお、この我を臆病者と呼ぶとは──疾く腹を切って詫びるがよい!」
黄金の鎧を来たサーヴァントが目につく街灯の上に下りてきた。
もちろん、マスターは遠く離れた場所で頭を抱えている。ここでは隠れているのが上策なのに──とは思っても、それを言ってはサーヴァントを怒らせる。どうせ、今から言っても引きゃしないのだ。
「一応、本気で隠れていたのだがな。姿を隠すのは私としても不満だったのだ。さあ、私の相手は誰だ? 騎士の誇りにかけて、粉砕してくれよう」
対してセイバーの主はそもそもそんな感性を持たない。困ったな、とは思えどもそれだけ。そこに感情はなく、ただ機械的に状況を処理するのみである。
ここで疑惑が一つ。この二騎の距離は離れていたとはいえ、サーヴァント同士としては近すぎる。
それに気づいたのは戦場を俯瞰する切嗣のみであるが、彼は己のサーヴァントを信用していないためにその情報を伝えることはない。
「壮観だ。これほどまでに俺を興奮させてくれることがかつてあっただろうか。ああ、貴様らは輝いている。飽き果てるほどに堪能させてくれ──貴様らの雄姿を!」
絶頂すらしそうなほどに喜色を浮かべた甘粕が凶悪な笑みで全員に等しく圧力をかける。さあ来い、英雄どもよ──と。
「おい、黒い方のセイバーよ。なぜ二人のクラスが分かった? それに、同じクラスが二騎召喚されるなど聞いておらんぞ。どうなっておる」
「ふ。簡単なことだ。ただの消去法だよ。誤解を正しておくが俺はキャスターだ。そして、ランサーとライダーがここにいる。残りはセイバー、アーチャー、バーサーカー、アサシンだが──お前らは狂ってもいなければ、下賤な暗殺者などでもない。清冽な闘気を纏ったサーヴァントが二騎ともなれば、答えは自ずからわかろう」
「いや、お前さんキャスターだったんかい。お前さんほど剣の扱いに精通した魔術師もおるまいて」
「お褒めにあずかり光栄だが、俺自身にはほとんど魔術の素養はない。そういうのはわが友の領域だ。まあ、邯鄲法が魔術とみなされているようだがな」
「ほう。それを言ってしまってよいのか? こんなところで」
よくわからないが、そういう魔術を使っているのだろう。あとでウェイバーに聞いてみるか、などとライダーは思う。
もっとも、そんな魔術はこの世界には存在しないが。
「そういう性分なのだ──仕方なかろう」
「この我を無視するか、雑種。よかろう──貴様のような道理を知らぬ無礼者には手ずから裁きを下してやろう。光栄に思うがよい……っ!?」
5騎もいれば、話は方々へ飛ぶ。かまってもらえないアーチャーが早くも激昂した。
その瞬間6人目がアーチャーに襲い掛かった。
「■■■■■!」
「■■■■■■■■■■■■■■」
「■■■■■ ■■■■■」
「■■■■■■■■■■」
「──■■■■■■■■!」
「■■■■■■■■■」
「■■■■■■」
「■■■■■■■■■■■■■」
狂戦士──穢れた黄金が、真なる黄金へ牙を剥く。
「──6人目とはな。ああ……なんと素晴らしい。我が
甘粕は両手を天にかかげ大笑する。とてつもなく嬉しそうだ。
「おいおい。こりゃ……いよいよ収拾つかなくなってきたんと違うか?」
ライダーはむむむ、と唸る。互いに聖杯を取るために相争い、近代兵器すら凌駕するサーヴァント──7騎中、6騎がここに居る。控えめに言って、しっちゃかめっちゃかである。
「馬鹿、ライダー。ここは逃げるんだよ! 乱戦になるじゃないか。そんなところに一人で置いてかれちゃ僕が死ぬ! 死んぢゃう!」
涙ながらに訴えかける。まあ、それも仕方のない。6騎のサーヴァントの只中は、およそ魔術師すら生きていられる環境ではありえない。
「しかしのぉ。儂はまだセイバーとアーチャーに声をかけていないんだが」
「私に軍門に下れと? 面白い冗談だな、ライダー。私の相手は貴様か?」
セイバーがライダーに剣を向ける。向こうで二騎が争う間近にて、4つ巴の中真っ先に武器を構えるとは余裕があるのかないのか。しかし、それは他の三騎がセイバーただ一人を狙う結果とはならなかった。
「むぅ。待遇は応相談だが?」
「くどい。我が剣にて貴様を下してくれよう。ライダー」
話は終わりとでも言わんばかりにライダーへ襲い掛かる。ウェイバーには目もくれない。まあ、マスター狙いは安全策ではなく賭けになるだろうがリターンは大きいはずのそれを考えもしない。彼女もまたランサーと同じく騎士であるから。
そして、ランサーは──
本編とは、関係ありませんが――戦神館主人公の四四八は『健全な精神は健全な肉体に宿る』という信念を持っています。つまり逆十字こそが