Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第29話 大災害の予兆(他)

 

「──時臣君」

「璃正殿」

 

 ここは教会。相容れぬはずの二者が、まるで長年の友人のように気安い雰囲気で話している。いや、事実そうなのだ。

 彼らは祖父の代から互いの助力を誓うほどの交流を得ている。それは血で血で洗う仁義なき殺し合いの中で芽生えた異なる陣営の和解かもしれないが、残念ながら関係はここだけで、そしてルール違反にしか使われない絆だった。

 

「聖杯戦争の様子はどうかね。我が聖堂教会は協力を惜しまない。いくらでも頼ってほしい。どうか気にせずに。君と私の仲なのだから」

 

 あくまでも両者の関係は友人のような気安いもので。場が場であるならば、そのまま紳士同士の心地の良い交流であったことだろう。

 

「ご助力、ありがたくいただいております。ご子息である綺礼君も、中々にできた人間です。私をよくサポートしてくれる。扱うサーヴァントも強力だ。魔術とて今のままではなく、彼ならばもっと先にも行けるでしょう」

 

 お互いに心の余裕を感じさせる会話であり、しかし陰にはうまくいかぬ世の中をなんとかわたっていこうとする気概が見える。

 がむしゃらでもなく、無謀でもなく己の持てる力と人脈、知恵を駆使して進もうとする大人ならではのやり方で目的の達成を狙う。

 

「ありがたい言葉です。息子も喜ぶでしょう。ただ、魔術は聖杯戦争が終われば用はなけしょう。あやつには、新たな道を見つけてしいと願っています」

「では、そのためにも」

 

「ええ。聖杯を遠坂の手に」

「我々の勝利はすでに確定しています。この聖杯戦争にアーチャーとセイバーを破れるサーヴァントは存在しない。しかし」

 

「アサシンのことですな」

「ええ。一刻も早く潜伏するアサシンを倒さなければ、神秘の秘匿に支障が出てしまう」

 

「申し訳ない。我々にもっと情報を処理できる能力があれば」

 

 かの主従は語るのもためらうほどの被害を出している。さすがにその筋の専門といえど、隠しきれるようなものではない。教会の仕事はそれだけではないのだし。

 

「いいえ、あなたがたはよくやってくれています。アサシンとそのマスターが、それ以上に奔放に振る舞っているのです。気に病む必要はありませんよ」

「隠しきれていないのは本当のことですよ、時臣君」

 

「だから、早々に討伐する必要がある」

「けれど、教会の追手から見事に姿を隠していて所在がわからない。申し訳ない」

 

「いえいえ、サーヴァントが相手なのだから仕方のないことでしょう。ですから、ご助力をいただきたいのです」

「──なんと」

 

「見つけられないのなら、他人に見つけさせればいい。なんと言いましたか、アインツベルンに雇われた魔術師……衛宮切嗣でしたか。近代兵器などを使うような下賤な犬ならば、同じく卑賤たる輩も嗅ぎ付けられることでしょう。蛇の道は蛇ともいう」

「なるほど。それはいい案ですな。しかし、そう都合よく動いてくれますか」

 

「だから餌を吊るします。アサシンを討った者には令呪の一画を。奴は聖杯戦争そのものを脅かしている。教会が動いたとしても不自然ではありません」

「しかし、それではアインツベルンに有利になってしまうのでは?」

 

「餌は吊るす。ですが、令呪は我々がいただきますよ。下民が苦労し、成果を上流階級が受け取るのが世の理と言うものでしょう」

「なるほど。それはいい案だ。さっそく手配しましょう」

 

 動き出す。老獪な狸どもが策略をもって動きだす。もっとも、策略と言うものは予想もつかないことで失敗したりする。そして、聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントで予想通りに動いてくれる駒など何騎いるものやら。

 

 

 

 そして、アインツベルン。

 

「状況を整理しようか。アイリ、舞弥」

 

 とある部屋の中。冷暖房は完備されていない。こういうところは魔術師ゆえの手落ちといったところだろう。

 キャスターはいない。排除されている。もはや彼には情報を与えることでさえ危険だとほかならぬ自らのマスターに断じられている。

 

「消耗しているのがセイバーとアーチャー、そしてランサー。うちのキャスターも少なくないダメージを負っているわ。一番厄介なのはライダーかもしれない。マスターも有能みたいだし、ハンデを背負ったまま最終戦に挑むのは心もとないわ。消耗が少ないと言えばバーサーカーもね。あれには無敵の防御力がある」

 

 衛宮切嗣は魔術師殺し。それには戦闘能力よりも情報収集が必要とされる。化け物は殺しまくって勝手に目立ってくれるかもしれないが、魔術師は人の闇に隠れて惨劇をもたらす。戦闘よりも隠密の方が得意なのだ。

 誰よりも情報の重要性を理解する故に、聖杯戦争の状況推移を誰よりも把握しているのは当然ともいえる。

 

「バーサーカーについては、あれは制御不能のサーヴァントだ。あの防御力は異常とさえ言えるが、それだけだ。むしろバーサーカーの魔力消費と合わせて燃費が悪すぎて終盤に至る前にリタイアするだろう。そもそもマスターを狙えば防御力なんて関係ないしね」

「なら当面の問題はアサシンね。聖杯戦争の存続にかかわる問題にまで発展している。放置すればどこまで騒ぎを大きくしてしまうものやら」

 

 はあ、とため息を吐いた。御三家としては頭を悩ます問題だ。他の参加者だって悩んでいるだろうが、しかし一番に責任を負うのはやはり御三家である。

 

「だからこそ、寄ってくるマスターを殺す。あれはやりすぎだ。僕らが何もしなくても誰かが倒す。ならば僕らのやることはアサシンを殺してたかだか数人を救うことじゃない。聖杯戦争の終結を早めて未来の何万、何億もの人々を救う」

 

 まあ、もっとも──。と続ける。

 

「そのマスターは中々に巧妙に隠れているようだ。潜伏先としていくらか場所は絞れているが、魔術師連中には到底見つけ出すことは叶わない。髪の毛一本さえなければ特定などできないことは今の科学も魔術も変わらないからね。騒ぎを起こしたところに急行するほかあるまいよ。騒ぎを収めたい側としては皮肉だけれど、ね」

 

 衛宮切嗣は魔術師なんてそんなものだと嘲笑う。騒ぎを収めたいがゆえに、騒ぎを起こさせる矛盾。それをどうにもできず、誇りとやらのために考え方を変えることもできない。

 ああ、なんて馬鹿馬鹿しい奴ら。魔術なんてそんなものを盲信して、そんなものはしょせん道具だろう。

 

「……そうね。確かに目先の出来事に拘泥するべきではないかもしれない。でも、切嗣。すぐにアサシンが討伐されるということは──」

「ああ、ここにいるのも限界だろう。ランサーの襲撃にライダーの来訪、この城を維持する意味はない。それに、一人目が脱落した時点で君は……ッ!」

 

「わかってる。だから、移動しなくちゃいけないんでしょう。信じてるわ、切嗣」

「──愛してるよ、アイリ」

 

 二つの影が重なる。その姿を優しげに、しかし機械的に見守る一つの視線。

 そして、あろうことかもう一つ。あらゆるものを透かして、賛美しながらお前たちの結末をただ悲劇的なものにしてたまるかものかと──人を愛する魔王の瞳が見ていることを彼らは知らない。

 

 

 

 そして、聖堂教会にあつまれという手紙が来た。そこに使い魔を派遣して聞かされたことはアサシンを討った者に令呪一つを与えると言うもの。

 

 そもそも教会の正統性自体を疑う者は少なくない。

 ならば、そういう疑念が噴出するかと思いきや集まった者たちはただ一つの言葉さえ吐かなかった。それは単純に全員が使い魔を寄越して、鳥や鼠にはしゃべる声帯がなかったというだけの話。物理的に不可能だから質問自体がなかった。

 それ自体予想済みで、だから聖堂教会はこの期に及んで好き勝手できるのだ。さらに言えば、話せるだけの魔術機構を備えれば逆探知も可能となる。

 

 教会は真っ黒である。サーヴァントで攻め入られても文句は言えない。ランサーに攻め入れられたアインツベルンのように。まあ、酒飲みに結界破られた件については怒ってもよいだろうが。

 

 だが、それは不可能とは言えないまでも参加者全員に都合が悪いことになってしまう。なぜなら協会は情報隠ぺいをその役目としている。

 それを潰してしまったらアサシン以上に神秘を流出させることになってしまう。だから、よほどのことがあっても仕掛けられない。それは聖杯戦争の打ち切りを意味してしまうことにすらなりえるのだから。

 

 大体、そこには二騎のサーヴァントが控えているかもしれないのだ。教会に足を踏み入れたが最後、アーチャーによって追い詰められ、セイバーに首を狩られるという最悪の事態も十分に想像できる。

 

 とはいえ、協会がなんでもかんでも好きにできるかといったらそうではない。明らかに遠坂に利する行動を取ったならば殲滅するし、アサシン以外の4騎で協力して討伐に出る。

 そも、魔術師は魔法を求め聖杯戦争に参加するが、魔法は早い者勝ちでしかない。取ったものは後進に後ろ足で糞を投げつける。だから、遠坂が聖杯戦争に勝つと判れば標準的な魔術師なら聖杯戦争そのものの破壊をもくろむはずだ。

 

 さらには遠坂への協力は教会ではなく言峰璃正の意志である。あまり横紙破りはできない。

 璃正が動けるのは終盤戦──数にして3騎のサーヴァントが堕ちてからになるだろう。聖杯戦争そのものの破壊をもくろむ輩を殲滅する。まあ、もっとも……今も悪巧みはしているが。

 

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