Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第31話 大海魔戦【そろいぶみ】

 

 空を駆ける戦車が触手を蹂躙する。

 それは神の雄牛が引く絶対無敵の宝具。その走りの前に轢き潰されないものはなく、跡は荒野が残るのみ。まとう雷はあらゆる全てを焼き尽くす。

 

 だが──無益だ。

 

 蹂躙? 破壊? 粉々に轢き潰して焼き尽くす? 跡形も残らなかろうが、相手のそれは再生ではなく増殖。別に分子も残さず滅殺すれば回復できなくなるわけではない。残っていれば炭であろうと喰らって生えるし、それも残っていなければ別のところから触手を生やせばいい。

 

 ゆえ、戦車の攻撃は何の意義もない。いや、意味はあるのだ。周りをちょろちょろうるさく飛び回って大海魔の気を引いて、陸から引き離す程度の意味はある。

 

 実は、こんな陽動はアサシンが大海魔を完全に制御できていれば役に立たなかった。アサシンは軍師を務めていたこともある男だ。そんな計算とも呼べない打算が働かないわけがない。

 それができないのは大海魔の制御を手放しているから。だから大海魔は本能で勝手に動く。そもそもアサシンは外の状況を分かっていない。どのサーヴァントと戦っているかさえ判然としないありさまだ。

 

 あらゆる要素の末、膠着状況が生まれていた。しかし、大海魔はともかくライダーが持たない。ウェイバーの魔力には限りがあるから。

 それはアサシンも同様だが、足らなくなればそれこそなんの力も持たない野次馬を喰らい始めるタイムリミットと化していた。

 

「ひぃ!」

 

 ウェイバーの髪の毛を触手がかすめていった。目を見開き、背中からは嫌な汗が多量に噴き出る。

 死はもちろん恐怖だが、それもこんな怪物にもたらされるものであるならばそれこそ銃弾で頭を撃ちぬくことが救いとなるだろう。

 

「むぅ。らちが明かんわい。さて、どうしたものか──」

 

 ライダーが苦笑を浮かべた。このまま続ければ町の被害は防げるかもしれないが、それも魔力が尽きるまで。雷を発しながら空を駆けるにも魔力は喰う。

 

「うわぁ! 触手が、触手がぁぁ!」

 

 がくがくと震えている。

 ウェイバーは魔術師であっても戦う人間ではない。こんな触手が手の触れそうな距離でびゅんびゅん動き回っている状況で冷静でいろと言う方が無茶だ。必死に頭を下げて悲鳴を上げまくっている現状は、狂気に落ちていないだけ彼の優秀さを証明するものだ。

 

「坊主も限界か。……これは、ランサーか。いや、それだけではない。この気配……!」

 

 マスターの精神がやばいし、埒もあかない。限界だと見定めて、一度退避する。この怪物退治のためには──サーヴァント一騎では無理だから力を借りる。

 

 

 

 そして、ライダーが退避した少し後。

 いきなり大海魔の半分近くが消し飛んだ。アーチャーによる宝具爆撃だった。4つの宝刀が大海魔を削り飛ばしたのだ。

 しかし、さすがにアサシンも狂っているとは言えど自身をど真ん中に置きはしない。外れだ。倒すには全体を一瞬にして粉々にするか術者を倒すしかないが……

 

 そして、追撃は来ない。

 一撃のもとに全てを破壊しなければ再生するにしても、彼の宝具があれば別に全て削り切るのに問題はなかろう。破片が残っても川のど真ん中だ。すぐに死ぬ。

 それができないのは、しないのは一重に彼の傲慢さゆえだろう。もしくは彼を操りきれないマスターの不甲斐なさか。

 

 

 

「……アーチャーの加勢はないものと思った方がよさそうだ」

 

 集まってきた3騎のうちセイバーが口火を開く。一応は協調性のある──というか、話ができるサーヴァントはこれで全騎。

 

「しかし、彼の火力があってもあれだけの回復能力を上回るのは難しいのでは?」

 

 ランサー。

 

「確かに、難しい状況じゃ。ところで一応聞いておくが、おぬしらは協力してくれるということでよいのかの?」

「ええ。協力しましょう」

「異論はない。しかし意外だな、ライダーよ。空気を読まず配下になれというかと思ったが」

 

「人質を取って配下にしても面白くもなかろうが」

 

 ふん、と鼻を鳴らした。

 

「茶化すのはやめにしましょう、時間が惜しい」

 

 セイバーがいさめた。というよりは、単に切って捨てただけか。

 

「うむ、では作戦を募ろうか。見たとおり余では足止めが精いっぱいで、向こうの魔力切れに期待するのも具合が悪い」

 

 サーヴァントの人喰いは基本的な能力で、サーヴァントであればだれでもできる。だが、この三騎は己の誇りにかけてそれだけは絶対にしない。

 けれど、あの怪物ならばやるだろう。そうなれば終わりだ。無限に魔力を得て不死の怪物が誕生する。そうなれば、術者が死んでも自律的に動いて世界の終りが始まる。

 

「待つのは駄目だ。もう戦闘機があいつに壊されている。最低でも二人殺されてるし、それでなくとも戦闘機の撃破は大ごとだ。もう隠し切れないほどの騒ぎになっている。これ以上時間をかければ聖杯戦争に支障が出る。いや、もう出ているはずだ」

 

 ウェイバーが口を挟んだ。普段はヘタレているが、やるべきときはサーヴァント三騎の間にも口を挟める男である。

 

「なるほど、敵の消耗を待つ作戦は使えませんか。しかし、もとよりそのような気はありません。アサシンの魔術は彼自身ではなく宝具が代行しています。奴の持つ魔本さえ破壊できれば大海魔も消えるはずです」

 

 セイバーが情報を提供する。以前に交戦経験があるのは彼女だけだ。

 

「ならば、その役目は俺に任せてもらおう。奴の持つ魔本さえ見えれば、俺のゲイ・ジャルグは一撃で術式を破壊できる」

「ならば先鋒は私とライダーが務める。ランサー、ここからでも狙えるか?」

 

「無論だ。モノさえ見えれば、造作もない」

 

 当然と言った顔。当たり前すぎて自慢にも値しないという──その態度は頼もしくさえある。

 

「だがな、セイバーよ。余は戦車があるとして、どうやって奴に攻撃する? あいつは川の中だぞ」

「この身は湖の乙女より加護を授かっている。どれだけの水であろうと我が歩みを阻むことはない」

 

 凶悪な笑顔を浮かべた。

 

「おお、それはすごい。ますます我が旗下に加えたくなった」

「一度見直したが、その必要はなかったようだ」

 

 嘆息して。

 

「では、やろうか」

 

 怪物に向き直る。気合は十分。人々を守るため、今──三騎の英雄が戦場を駆ける。

 

「ああ、今はあの怪物の腹からアサシンを引きづり出すのが先決。諍いは腹の中におさめ、協力しようではないか」

「ならば、一番槍は余がいただく!」

 

 その戦車で駆ける。雷を纏い、空気を押しつぶしてひしゃげさせ、爆発させながら。

 

「は──簡単にとらせる私だと思ったか!」

 

 そして、ライダーに負けてよしとするセイバーではない。こちらも駆ける。いや、その疾走はもはや多段弾頭とさえ呼べる。地を、そして湖を張り付くように低空を健脚に魔力放出を乗せて踏み砕く。

 




サーヴァントとしての英霊のネックとなるのは魔力。どんな力を持っていようと魔力が尽きればそれまでで、だからこそ人を喰えるのは大きなアドバンテージです。大海魔が何十人か食えば分裂、独立してもはや冬木ごと焼き尽くす以外になくなります。もちろん、その段階になったらアサシンを殺しても無意味です。
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