Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第33話 魔術師の誇り

 

「──ほう」

 

 英雄王は悦に浸っていた。中々愉快な道化とほかならぬ自らのマスターを嘲笑っているのだ。虫けらを天空の視点から眺めている。

 そうとも、自分よりも偉大なるものなど存在しない。この世は自分を楽しませる以外の存在価値などないと断じている。

 

「ははは。戯れろよ雑種。もとより貴様らはその程度の価値しかない」

 

 この男は意外と昼ドラ展開が好きなのだ。だから、玩具箱を弄り回して気に入ら無くなれば捨てるだけだ。この世に友とするだけの傑物などもういないから。

 

「戯れて、嗤われ、そして死ね。この世界には要らぬ人間が多すぎる──くくっ」

 

 笑う。ああ、この茶番劇がハッピーエンドなどで終わるわけがない。そんな未来は初めから閉ざされている。

 そして、英雄王ある限りあの二人は道化の役割を振られるのだ。絶対者の命令が如く、そして脚本家の託宣が如く。人々が見て笑顔になれるような展開になどさせるものかよ。

 

「ち──」

 

 上機嫌にしていた彼が舌打ちする。それは、彼の主と道化に注がれるもう一つの視線を感じ取ったから。

 ああ、素晴らしいと賛美する視線がうっとうしい。お前たちは素晴らしい。だから、もっと見せてくれと期待している。

 

 お前は何を言っている? 泥水を前になんて美味しそうだと舌なめずりする狂人め、反吐が出るわ。貴様の思うようになどさせんよ。貴様など──

 

「演出家などと気取るなよ雑種。貴様のそれは演出などではないわ、たわけ」

 

 そんなものは英雄王は演出とは認めない。

 脚本家とは己でもって完結するもの。ゆえに、気に入った人間を連れて来て試練に放り込むなど怖気が走る。そんなものは芸術ですらない。

 ああ、そうとも。そんなものは拷問以下の単なる破壊行為にすぎない。殺すならばさっさと殺せよ、何をもたもたしているのか。

 

「貴様の思い上がった勘違い、我が正してくれる。そこで見ているのだな、真の演出家と言うものを」

 

 ここに、今まで遊んでいた英雄王が本気を出す。魔王が裏から操る舞台を破壊し、己の物語を敷かんと腰を上げた。

 

 かくして物語は加速する。

 

 

 

 そして、人払いの結界で覆われた結界の中、二人のマスターが対峙していた。時臣と雁夜……見知った仲で、だからこそ血まみれの愛憎劇を繰り広げる。

 

「……雁夜。そんな有様でなにをするつもりだ?」

 

 見ると、明らかに魔力が増大している。溜めていた魔力を使用していたはずがない。こいつが魔術師になった時期からして、そんなものを用意できたはずがない。

 ならば間桐の家から持ち出したものとも考えたが、それより楽な手段がある。何らかの手段で桜から魔力を奪ったのだろう。桜や凛がどうだのと言って、やることがこれかと怒っている。

 

「お前こそ。アサシンに凜ちゃんを殺させようとでもしたのか? 大した魔術師様だな、どんな意味があるのか知らんがそこまでして勝ちたいか」

 

 雁夜は今まででも明らかに時臣に怒りの念を抱いていた。だが、桜の処女を喰らった蟲を仕込まれたこと、凛がアサシンの凶行に会いそうになっていたことで完全に憎しみの域にまで達していた。

 八つ当たりじみていることに気付いていればもう少し格好良かったのかもしれないが──こうなればもはや後先など考えられない醜い有様に成り果てた。

 

 殺してやる、とただその一念だけで動いている。

 そもそも、雁夜の身体に動く力は残っていない。憎悪を原動力にして蝕まれた半死体を無理やり動かしているだけだ。

 

「──ふ。あれこそ魔術師の誇りと言うものだよ。君には想像もつくまいが、ね。凜は大した魔術師になる。きっと、私を超えるほどの魔術師になってくれるはずだ」

「桜を殺せる魔術師に、か。そんなことはさせない」

 

「させない? どうも、私には君のやっていることが分からない。君の行動がどうして桜を救うことになるのかね」

「それこそ、お前に想像もつかないさ。魔術師」

 

「ふむ。魔術師と言われても罵詈雑言の類には聞こえんが、君はそういうつもりで言っているのだろう。お前が魔術師になったのも、どういう心の動きがあったのかはわからないが君なりに考えて桜を助け出そうとしたのだろう」

「……チ」

 

「だが、一つ質問だ。なぜあれだけ憎んでいた魔術師になれたのだ、お前は? 才能はあったが活かせなかった。だから今更になってもまがい物くらいにはなれたのだろう。だがな、私は何があっても君だけは魔術師になることはないと思っていた。それは、君の魔術師と言うものへの憎しみを知っていたからだ。繰り返すが、なぜ魔術師になろうと思ったんだ、雁夜」

「魔術師なんて皆死んでしまえと思ってる。だからさ」

 

「ほう? まあ、君ならそう言うのだろう。よくわからないが、君の魔術そのものへの憎しみが相当なモノだったのくらいは見ていればわかる。理由はうかがい知れないし、知る気もないが。主張を覆した理由は、別に魔術の素晴らしさに目覚めたわけではないと思うのだがどうかね」

「その通りだよ。皆死んでしまえ──お前も、俺も。マスターどもも教会の連中も一人残らずくたばっちまえ」

 

「少しは君の気持ちが理解できたよ。だが、死ぬのは君だけだ。君は死ねば満足なのだろうが、私は遠坂家代々の悲願を果たさなくてはならないのだ。私が果たせなくとも、才能ある凛が後に続いてくれる。桜だっているが、それでも私の代で魔法に到達することを諦めたわけではない。聖杯戦争に勝つのは私だ。ゆえに君を斃そう」

「聖杯戦争か。もし俺が勝ったら、お前が最もくだらないと思うことに使ってやるよ。どうせ、魔法魔法とそれ以外に興味もないんだろうけどな」

 

「理解してもらう気もない。構えるがいい、雁夜──君もなりそこないとはいえ魔術師なのだ。死力を尽くした魔術戦で死ぬなら本望だろう」

 

 杖を構えた。これでもう、一瞬で雁夜を焼き尽くせる。

 

「まさか。魔術なんてただの道具だ。俺は目的を果たす──絶対に」

 

 ゆら、と脱力している。なにか魔術を行使している雰囲気ではない。ちょっとした魔術を使うにも血を吹きだしていた雁夜が、呻きすらしない。

 

「魔術を使わない気かね? もしそうなら、このまま焼き尽くすがそれで満足だとでも」

 

 時臣は先制攻撃をする気はなかった。

 前回の決着は目つぶしに惑わされた結果、ただ思い切り雁夜をぶん殴って終わると言うものだった。魔術師として、そんな決着は容認できない。

 だから、今度こそ魔術で決着をつけるつもりだった。雁夜の使うあらゆる魔術を正面から押しつぶし、最後に魔術でもって引導を渡す。だが、使わないというのであれば──

 

「使うさ。道具を使わなきゃ、お前には勝てないしな」

 

 そして、雁夜が使ったそれは、彼をさらに軽蔑させることとなった。

 そんなことまでするのか。人間としての誇りすらない奴だと思っていた。だが、こんなことまでする奴だったとは。卑劣な輩め、お前までがそんなことをするのか。

 憤りが火のように時臣の心を焼き尽くす。

 

「銃、か。そんなものに頼って──私を侮辱しているのかね? 近代兵器などを使って、お前はそんな程度だと。浅はかに過ぎるぞ。そんなもので魔術師に勝てるはずがないことくらい、お前でもわかっていると思っていたのだが買い被りだったようだな」

「は、お前の美意識なんか知るかよ──ッ!」

 

 撃つ。

 ハンドガンのような小型の銃で、確かにこの口径で時臣の結界を貫くのは無理と言っていい。弾数も少なくて、銃に精通している切嗣あたりが見たら自決用かと問うだろう。

 前に進むだけでまっすぐにすら飛ばない銃はだたの重りだぞなどとアドバイスするかもしれない。むしろ、撃つ雁夜の腕の方を心配しなければならないだろう。

 

「そんなもので何ができると──ッ!?」

 

 だが、結界が削れている。撃たれたのはわかったが、その威力は理解できない。たかが兵器に貫けるわけがない。

 それはあり得ない事態で、だから魔術を使ったとしか考えられない。けど、それは嬉しくもなんともない。それは──間桐の魔術ではないだろう……ッ!

 

「おおおおおお!」

 

 雁夜は時臣の動揺を見て凶悪な笑みを浮かべる。顔の左側は引きつった状態で静止して、もう片方だけで凄惨な笑みを浮かべて目が飛び出そうになっている。

 

「馬鹿な……! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な──なぜお前ごときが破れる? その銃は何だ!?」

 

 なんだそれはありえない!

 貴様ごときが遠坂の結界を削れるものか。大体、一体何発撃っている。十は超えた。銃なんてものは知りたくもないが、そもそも弾を補充しようとしてもいないのに、今だって銃は弾を吐き出し続けている。

 それはおかしいと、素人でもわかる。

 

「時臣ィ!」

 

 連射速度が速くなる。指の動きと銃が合っていない。合っていない? そうか、この弾は。注意して見るとすぐにわかる。

 別に最初から隠ぺいはしていなかった。ガンドのような魔力弾──それにしては効率がいい。

 

「そんな魔術、貴様に作れるはずがない。何がお前に力を与えたというのだ!?」

 

 問うと、蠅の羽音が聞こえた気がした。

 

「そうか──そういうことか! 貴様、キャスターに下ったか。あの狂人に頭を垂れ、魔術をめぐんでもらったというわけか」

 

 激昂した。そんな有様で、手段を選ばずに勝って何が嬉しい!? 自分の力で何とかしようともせず、あのような英雄もどきにすがったか。昔のお前はそんな卑劣漢ではなかったと韜晦する。

 

「そうだ。魔術なんて、頭を下げて誰かからもらってくりゃ、それでいいだろ」

 

 勝てればそれいいと、雁夜は引きつった喜悦を浮かべる。時臣の修練をただ与えられたものであっさりと乗り越える──それは昏い喜びだった。

 

「……ッ雁夜ァ! 魔術師とは、己が道を切り開く者。永遠の探求を求め、求道に己が身を捧げたものを言う。私は貴様を魔術師だとは認めない!」

「いいや。魔術師さ。目的のためには何を踏みにじってもかまわないのが魔術師だ。だから、自分の尊厳くらいいくらでも踏みにじってやる!」

 

「貴様など。──貴様など、絶対に認めるかァ!」

「斃してやる。お前を斃せるのなら、他に何もいらない! なんでもくれてやる……悪魔にも、魔王にでも。──すべて持っていけ!」

 

 ここで時臣が反撃に転じる。

 火球を作ってぶっ放す。防御するにしても回避するにしても動きは一瞬止まる。時臣の魔術は宝石魔術。これはただの牽制で魔力を碌にこめていない。次の本命につなげるための布石。

 

「──おお!」

 

 そして、雁夜はそれを殴り飛ばした。

 

「な?」

 

 一瞬だけ呆けてしまった。

 それが命取り。そのぼろぼろになった矮躯からは想像もできないスピードで回り込む。元気な若者のごとき動きで、完全に予想外。

 時臣は魔術師としてまだまだ全盛から下ってはいないが、体力の方は年とともに減ってくる。

 

「おらぁ!」

 

 ヤクザのごとき掛け声で殴った。

 

「っが! は──」

 

 これが雁夜の邯鄲法。

 術理そのものは願いが力になるという簡単なものだが、出力を上げるにも熟練が要るし、使いこなすにはよほどの鍛錬を積まねばならない玄人仕様である。一方で雁夜は素人そのものだ。

 それでも時臣と戦えるのは、雁夜の願いがそういうものであるからに他ならない。

 

 時臣を斃す。それだけでいい。それしか願わない。

 それさえ果たせれば後はどうでもいい。後先考えないというのは、それ以外に意識がぶれないということでもある。

 ただひたすらにそれを願い、祈りを純化させる。

 

 だからこそ、この力を得た。

 時臣が相手の時だけは、五常楽すべてが『遠坂時臣』を上回る。遠距離攻撃能力の咒法も、接近戦の戟法も。ほんのわずかだけ上を行く。

 ──これは、遠坂時臣を倒すためだけの邯鄲法。

 

「調子に乗るな!」

 

 時臣は殴られてのけぞったお返しとばかりに宝石の欠片を投げる。すかさず爆破する。

 

「──ッち!」

 

 そのままマウントを取って殴ろうとしていた雁夜の身体が浮く。そう、それは時臣の能力を上回るものだから溜めた力の上は行けない。アイテムは能力の範囲に含まれないのだ。

 

 このように一見、時臣に対してだけは無敵のように思える能力だが多くの穴がある。そもそもが時臣を倒すためだけの能力だから、他のことには一切使えない。凜や桜を守るための力ですらないのだ、これは。

 

「小癪な真似を。キャスターに恵んでもらった力で私に勝てるものか。恥を知れよ、似非魔術師め」

 

 時臣はもう見切った。あんなものは宝石魔術でなら破れると。実際、それは間違っていない。

 ただ与えられただけの力で勝てるほど時臣は甘くない。

 

「だから、俺はお前に勝つんだ」

 

 雁夜は銃を乱射する。とはいえ、一秒に一発程度で狙いも碌に定まっていない。傷を与えるにも至らない。

 

「っぐ──」

 

 とはいえ、障壁で弾くのにも限界はある。刻印を使用して身体強化。回り込みながら銃弾をかわす。

 けれど、相手はそれについてくる。銃弾こそかわしやすくなったが、動きの素早さは依然雁夜のほうが上。さて、どう宝石を当てるかと考えていると。

 

 腹を殴られた。だからこっちは蹴り返す。ちょっと素早さが上だからって素人がそうそうかわせるわけがない。雁夜もまともにもらった。

 殴る。そして殴り返す。泥沼に陥いりそうになったとき、時臣がはっと気づく。これでは以前の原始的な暴力と変わらない。

 だから、耐えることにした。殴られても骨が折られるほどではない。十分耐えられる程度の力だ。耐えて、耐えて──雁夜が息が切れたところを狙って宝石を叩き込んだ。

 

「が……は──」

 

 耐えられるわけがない。

 そもそも雁夜は最初から意識がもうろうとしている。体力は魔術で人並み以上、もちろん一般人レベルでの話だが一方で意識レベルは病人と何ら変わらないのだ。

 熱に浮かされてぼうっとして、体のあちこちから痛みが響いてくる。内臓は常に気持ち悪さを訴える。そんな中でまともに考え事をしろという方が無理だ。

 

「残念ながら、君は君でしかなかったようだ。さようなら、雁夜。せめて、魔術で葬ってやろう」

 

 ここで時臣は油断してしまった。動けなく、そして銃は手放してしまっている雁夜は何もできないだろうと。キャスターの操る邯鄲法がそんなに簡単なもののわけがないのに。

 

「時臣ぃぃ」

 

 意識がある。邯鄲法を使う条件はそれだけなのだ。だから使えた。渾身の力を込めた衝撃が、銃弾もないのに時臣の顔を右ストレートのごとく打ちぬいた。

 

「が……ぐあっ」

 

 つまり気障ったらしく近づいて止めを刺そうとしたところで、顎に衝撃を喰らって倒れたというわけだ。

 あればイメージしやすいだけで、咒法に銃は必要ないために。

 

「斃した……? 俺が、時臣を?」

 

 勝ったはずの彼は、気絶した時臣の前で呆然と呟いた。

 




裏では海魔戦が続いています。ちなみに雁夜の邯鄲法は詠段レベルです。あれは破段ですらありません。
原作で甘粕はキーラを眷属にしていましたが、この展開を読めた方はどれくらいいらっしゃったでしょうか。
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