Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第34話 乱入

 

「ランサー。お前にどうにかできる手段はあるか?」

 

 消えた大海魔の跡を見ながら聞いた。今はライダーが固有結界に閉じ込めているが、すぐに出てくる。

 その時までに対処を考えなければいけない。助けを求めている時間はないし、残りのサーヴァントにそんな期待はできない。

 

「悔しいが、ない」

 

 そして、ランサーに大海魔の撃破は不可能だ。ライダーの武威はあくまで人間に対するもの。二つの宝具は人間大のものにしか対応していない。

 槍が届かなければ何もできないのだ。

 

「ならば、私が宝具を使おう」

 

 決断した。見えない剣が空気の渦を巻く。ただ一人、セイバーならばどうにかなる。人間よりもはるかにでかい城壁すら一撃で切り崩す切り札。──対城宝具を。

 

「それがあるなら──」

 

 先に使ってくれ、と言いかける。

 

「だが、正直に言うとそれを使えば後がどうなるかはわからない。おそらく、鎧は消える。我が身まで消えないことを祈るばかりだが、そこまで魔力が心もとなくはないのが幸運だ」

 

 しかし、それは早計と言うもの。切れる札ならばすでに切っている。それをしない、できない理由がある。

 それは簡単がゆえに解決不能。単なる魔力不足なのだから。

 

「……セイバー」

 

 サーヴァントとして避けては通れない問題。魔力消費。最悪、現界するための魔力すら失って聖杯戦争から脱落する。

 

「私の一太刀、無駄にしてくれるなよランサー」

 

 猜疑とともに言い放つ。まだ彼女は全面的にランサーを信用したわけではない。今はあくまで一時休戦であり、これが終われば戦う相手。

 

「いいだろう」

 

 だが、彼はその猜疑を受け止める。疑うのは当然だ。ゆえに働きで信用させて見せよう、と。

 

「そういうわけだ、ライダーのマスターよ。大海魔を落とす場所を指定できるか?」

「ああ、できるはずだ。ただ、場所を伝えるのに伝令を寄越してもらう必要がある」

 

「よし、ならば──」

 

 言いかけたところで、何かが落ちてきた。だが、確認するまでもなくこの邪悪な気配は──

 

「馬鹿な、バーサーカーだと!?」

 

 そう、邪なる聖人。狂った神父が墜落してきた。

 それは見るからに彼の意志ではない。弾き飛ばされた、つまりは今まで他のサーヴァントを相手にしていた。

 正気を保っているならそちらに意識を集中してもよさそうだが、生憎この相手は狂っている。敵を目の前に攻撃しない理由はない。

 

「こいつ、一体どこから」

「ええい、狂戦士などと戦っている暇はないというのに──」

 

 焦る。時間はないのだ。

 すぐに大海魔は姿を現す。人を喰って魔力を十分に蓄えた怪物が殺戮を開始する。セイバーとランサーが力を合わせなければ、地獄が冬木市を覆い尽くす。

 

「下がれ、ライダーのマスター。こいつを排除しなければ大海魔討伐には移れん」

 

 けれど、まずはこちらの相手をしなければならない。セイバーは宝具を二度は使えない。少なくとも、今日は。

 

「いいか、十分以内に片付けろよ。絶対だからな!?」

 

 ウェイバーはそんなことを言い捨ててすたこらさっさと逃げていく。

 

「さて、ランサー。まずはこちらが相手だ。準備はいいな?」

「無論。名高き騎士王と轡を並べて戦えるのだ。これ程名誉なことはない。願わくば、これが一騎打ちであれば……」

 

「言うな。状況が状況──加えて、あの者は狂っている」

「ああ、狂気に堕ちたものに一騎打ちの名誉は贅沢すぎるか。……一番槍は私が頂く!」

 

 ランサーが神速で踏み込んだ。バーサーカーなどに反応できるわけがない。破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)が心臓を射抜かんとし、金属音とともに弾かれた。

 

「──な!?」

 

 驚愕する。あの防御力、なんらかの宝具の効果だと思っていた。だが、触れた対象の魔術的効果を打ち消す効果は確かに発動したはずだ。……なのに。

 

「続くぞランサー。一撃で駄目なら2太刀目で!」

 

 さらに大きい金属音が響く。全力の打ち込み──だが、何の効果もない。狂った神父は拳を振るう。

 

「セイバー、危ない!」

 

 その拳をランサーはもう一方の槍で叩き落とそうとする。だが、ぶれもしない──金属音を響かせて、ただそれだけで軌道が変わらない。

 なんという常識外れの防御力。いや、桁外れすぎてこんなものが防御力などと言えるのか。

 

「──ッチ!」

 

 かわして、懐に入ろうとして。

 

「■■■■■■────」

 

 間髪入れずに放たれた蹴りをかわすために大きく退却した。

 

「っくぅぅ」

 

 バーサーカーが睨んでくる。お返しとばかりにランサーは10数発もの突きを入れて、喰らっている中で放たれたパンチをかわして後退する。

 

「■■■■■■────」

 

 休んでいる暇はない。とりあえず近い方の敵であるランサーに突進して張り手を入れる。それをなんなくかわして後ろを取る。

 

「前で駄目なら後ろならどうだ!?」

 

 またもや一瞬で10数の突きを放った。

 全て喰らったバーサーカーは気にもせずに振り返ってバックブロー。ランサーは触れもさせずにかわし、セイバーの横につく。

 

「一つ、考えたことがある」

「なんだ?」

 

「奴の宝具は体そのものかもしれん」

「どういうことだ?」

 

「俺の槍は魔力的効果を打ち消す。だから、なんらかの加護か結界なら防御を無視することができる。だが、通らない。ということは、あいつの体そのものが宝具なのではないかと思った」

「服が宝具だという可能性は?」

 

「首や目まで覆えるというのなら、そうかもしれん」

「なるほど。では、奴の体そのものが宝具だったとしよう。何か手立ては?」

 

「やはり魔力切れを狙う時間はない。挟み込んで、攻撃力を倍加させて必殺を狙う」

「なるほど。二つの攻撃を合わせれば倍か。道理だな」

 

 そして。

 

「■■■■■■────」

 

 バーサーカーが吠えた。

 

「「──ッ!」」

 

 両者ともに歴戦の戦士。好機と見た二騎は両脇から挟み込む。

 

「はあああああ!」

 

 ランサーは左から嵐のような突きをお見舞いする。

 

「せやああああ!」

 

 セイバーは右から爆撃のごとき斬撃を連続させる。

 

「■■■■■■────」

 

 けれど、バーサーカーには通じない。

 無敵の防御力は色あせることなくそこにある。皮膚を切り裂くどころか動かすことすらできない。まるで山を相手にしているかのよう。

 両側から攻撃して威力が倍加するのは体が飛んだところを反対から打ち据えるからだ。こゆるぎすらしなければ、そんな浅慮に意味はない。

 

「っくぅ──」

 

 狂戦士の攻撃が鋭くなった気がする。いや、相変わらずのろいのだ。注意していればかわせないことはない。

 埠頭でのアーチャーとの戦いは見ていて、だから防御力が高いことは知っていた。それで今回の戦いでも余裕をもってかわせたわけだが。ヒヤリとする瞬間が多くなってきた気がする。

 

「……これは? そうか、ランサー気をつけろ。こいつ、慣れてきている……ッ!」

 

 上級者なら当たり前にやること。呼吸を読み、動きを予想する。あれだけの防御力があって、真正面から攻撃を受け止めれば観察もしやすいだろう。

 だが、バーサーカーがそんなことをやるのか、と驚いて。

 

「……なに? バーサーカーとは理性を失った者では──っが!」

 

 とうとう当たってしまった。その並のサーヴァントならば一撃で屠るバーサーカーの攻撃が。

 

「ランサー!?」

 

 驚いた拍子にセイバーにも当ってしまって。予想外に威力が強くて体が浮いた。狂戦士はその隙を逃さない。蹴りを入れられた。

 

「──あぐっ!」

 

 その神父は偉丈夫で、見上げるほどの長身だ。少女の身体のセイバーと比べるとまるで大人と子供。蹴りは頭に当たった。

 

「は──ぐっ!」

 

 頭が揺れる。魔力噴射を用いて蹴りに合わせて体を逆方向に飛ばしていなかったら間違いなく死んでいた。

 

「なんという強さなのか。私とランサーの二人がかりを苦も無く跳ね返すとは──ッ!」

 

 だが、狂っているならやりようはある。だが──ああ、頭が揺れる。地面が波打つ。今、いつだ? 戦闘を始めてから何分経った? ライダーの限界が来るまで、あとどれだけの時間がある?

 

「もう遠慮はしない。俺は──全力で貴様を討ち果たす!」

 

 ランサーが吠えた。今まで全力を出さなかったわけではない。あれがランサーの100%。けれど、そういうことではない。まだ全力は出してない。これからが本番だと宣言して自分に言い聞かせる。ようは自己暗示だ。120%の力を出すための。

 

「■■■■■■────」

 

 聞いているのか、聞いていないのか。バーサーカーもまた吠える。かかってこいまぶしい英雄たち。いくら束になろうが、全てねじ切ってやるとばかりに。

 

「──ふ。そうだな。遠慮をしている時ではない!」

 

 聖剣を解放した。ストライク・エアに回していた魔力が使用可能となる。だが、そういうことではない。これもまた己の力を引き上げるための自己暗示だ。

 

「「これからが本番だ!」」

 

 ランサーが目を穿つ。セイバーが右足に斬撃を放った。そしてランサーが左足を切り払い、セイバーが首筋を剣を叩きつける。救い上げるように槍。左足を切りつけるがバランスは崩さない。さらに斬撃、突き、斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃──

 

 バーサーカーを中心とした剣戟と槍の2重嵐。抜け出ることなどできはしない。二騎の姿を捉えることも不可能。

 何発も何発も、いくらでも攻撃が積み重なる。

 

「──?」

 

 セイバーがランサーのそれてきた突きを横に逸らして回避し攻撃を続ける。続けていると、また。3度、4度……何度も流れ弾が直撃コースで向かって来る。

 

 これはなんだ? セイバーの剣は狙いを外さない。だけど、ランサーの双槍は片手持ちゆえに狙いを外しやすいのか、とそう思った。そんなことがあるだろうか。この騎士ほどの腕前で、双槍だからと獲物を外すようなことが。

 

 疑念。最初から信用していたわけではなかった。繰り返すが、ただ休戦協定を結んでいるだけなのだ。

 裏切られたとて、そういう場合ではないだろうとは思うが、裏切り自体を責めるつもりは毛頭ない。

 

 だが、しかし。これは、やはりそういうことなのかと臍を噛む。お前ほどの騎士が──セイバーはランサーにいつの間にか期待してしまっていたことに気付く。だが、それは失望と同義だ。

 

 そして、その疑念は自らの足を掬う。

 

「セイバーッ!?」

 

 一瞬の油断が命取り。バーサーカーの攻撃をかわせない、そして致命の一撃だと理解して。

 

「……無念」

「やらせはせん!」

 

 そうは言っても手段がない。バーサーカーの攻撃が落とすこともそらすこともできないのは証明されている。すまぬな、ライダー。無理だったらしいなどとセイバーは想いを馳せ。

 

「お前が死んで、誰が民草を守れるというのだ!? 諦めるなセイバー」

 

 強引に割り込んだ。攻撃はもう止められない。だから、自らの身体を盾にした。

 

「っランサー!」

 

 身体が飛んだ。軌道がずれたため致命ではないが、この傷ではもうバーサーカーとは戦えない。攻撃はのろいが、威力はでかいまさに一撃必殺。

 

 この状況では、もう──大海魔への対処などできるはずがない。

 




冬木市滅亡のお知らせ。ヒーローはどこに。
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