Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第4話 ケイネスの失策

 

 二騎と二騎がそれぞれ流れ弾が当たりそうなほど近くで戦っている。

 

「ならば、俺は貴様の相手をすることにしようか。決闘は一対一でなければな。多少周りが騒がしいが──キャスター。貴様ほどの剣技があれば問題はなかろう」

 

 ランサーが槍を甘粕へと向ける。騎士の誇りは決闘を奉ずる。1対1が二組。残りは二人となれば、迷わず先ほどまでの決闘を継続することを選択するのがこの男だ。

 

「ふむ。お前との決闘も心が躍るものではある。しかし、これほどまでに輝きが集まっているというのに、見ることが叶うのが一つでは悲しすぎるだろう」

 

 おおげさに嘆いて見せる。この男はいつも感情表現がオーバーだ。いや、オーバーなのは彼の全てか。やることなすこと規模が大きすぎる。

 

「貴様の戯言は聞かん。貴様の願いは聖杯に託してはいけないものだ。ここで貴様を倒し、狂った野望を阻止してくれる」

 

 そして、ランサーにキャスターの言を聞く気はない。というか、本質的に彼は騎士の誇りとやらで一人納得するだけなのだ。他者と向き合わない痴れた一人芝居。それは、呪われた黒子のせいであるのかもしれないが。

 

「──ふ。青い。青いなぁ、ランサーよ。ここまでの舞台が整っているのに、1対1が3つでは多少芸がなかろう。よもや……役者が一流なら、舞台も至高などと思ってはおるまい?」

 

「……貴様。騎士の誇りを侮るか」

 

「騎士の誇り──なるほど、けっこう。それもまた俺が愛する輝きだ。だがな……生憎と俺は粗忽者でな。そんなものは持ち合わせてはおらんのだよ」

 

「ならば、貴様の目……俺から離せないようにしてくれる。貴様の視界に入るのは俺一人でいい」

 

「──よかろう。そこまで言われては、俺も付き合わんわけにはいかんな。ああ、語り明かそうかランサー」

 

 甘粕が魔術を身にまとう。選択したのは剛法の迅。スピードと攻撃力に特化した型であり、防御力は捨てた。

 

『ランサー、何をしている?』

 

 そこに、マスターから話しかけられる。パスからの通話なので他には聞かれない。そのはずなのだが、甘粕はニヤリと笑う。

 

 一体、何に魔術を切り替えたのだか。大胆と言うか、なんというか──

 

「我が主。ご覧ください、今にキャスターを仕留めてみせましょう」

『馬鹿め。何を言っているのだ、ライダーを見てみろ。セイバーに苦戦しているではないか。これはチャンスだ。まずはライダーを下して見せよ』

 

 この主従は決定的にすれ違っている。

 

 従僕は騎士として戦い抜くことを望んでいる。主への忠誠も根は全く同じ概念から端を発し、それは不可分だ。イスラム教者が豚肉を食べながらもコーランを拝むことがないように、それは矛盾しない。

 むしろ、こっちはよいけどあっちは都合がよいからダメなどとはいかないし、あってはならない。それは信仰への裏切りだ。

 

 騎士の誇り──それは主への忠誠と清廉なる騎士道合わせてこそ。ゆえにランサーは聖杯戦争において余計な枷を背負い込む無能である。

 現代と古代の戦争はまるで別物だと言うことを知りもしなければ、理解することすら放棄している。彼はまずマスターを捨てるべきだ。マスターを殺す気概を持てなくて、どうして聖杯に近づけようか。そうしてこそ、邪魔な騎士道を捨てることができるのだ。

 

「しかし、彼の者はセイバーとの一騎打ちの最中。そこに横槍を入れるということは──」

『くどいぞ、ランサー。令呪をもって命ずる。【セイバーと協力してライダーを倒せ】』

 

 業を煮やしたマスターは令呪を使う。

 

 結局のところ、無能同士でお似合いと言ったところだろう。目の前をしっかり見るのは重要だ。

 目をそらした隙に一撃を叩き込まれて殺されるのはよくある話で、だからこそ目の前の相手に集中するのだ。それができてこその戦士。まず目の前に集中できなくてなぜ己の命を守れようか。

 

 けれど、戦場を俯瞰する上の人間は別の視点を持たなくてはならない。目の前の対処など従僕に任せればよいのだ。

 彼が担当するべきなのは、他のサーヴァントの行動や思惑を警戒することなのだから。もっとも、それができて二流で──可能性まで考慮に入れなければ一流とは言えない。

 

 この聖杯戦争ならば簡単だ。──だって、いきなり死徒27祖が介入してくるなんてことはそうそうありえないのだから。ゆえに、アサシンのみに警戒すればいい。

 

 そして、この場合ではフリーであるキャスター=甘粕がどう出るかを全く考慮していない。そもそも、バーサーカーとアーチャーとてこのまま戦い続けると言う保証はないのだ。1対2ならば簡単に倒せるなどと思ったのか。

 それこそ、未熟である証明に他ならない。

 

 結局のところ、マスターたるケイネスもまた魔術師の決闘しか知らぬ身で、聖杯戦争に身を投じた馬鹿なのだ。聖杯戦争というものを己の尺度でしか見れないという点では全く同じで、しかし彼らの相性はよくない。

 

 誤解している人間は誤解している者同士で、違う解釈の仕方をするならば歩み寄れるはずがない。古代の決闘しか知らない愚者と魔術の決闘しか知らない馬鹿は、全力で間違えた道を共に走る。

 

「我が主よ……! お恨みします」

「むぅ? ランサーよ、貴様までが加わるか?」

 

 槍をひるがえして自分に向けたランサーに、ライダーは呆れた。いや、キャスターに背を向けていいのかよ、お前さん。と。剛腕をもってセイバーと切り結びながら嘆息する。

 

「邪魔するか、ランサー! 貴様、騎士の誇りをどうしたと言う!?」

 

 そして、セイバーは激昂した。古代の決闘しか知らぬと言う意味ではこちらも同じ。けれど、彼女のマスターは違う。むしろ、聖杯戦争に敷かれるルールこそが元代行者たる彼の流儀。そして、怒りを収める度量がなくても、それすら無視できるほどの祈りが彼女にはある。

 

 ゆえに、乗り越えられるとしたら彼女だろう。

 

「すまぬ。セイバー、そしてライダーよ。令呪をもって命じられたのだ──逆らえない」

 

 そして、ランサーは血の涙を流す。決闘に水を差すのは、許されざる害悪である。犬にも劣る畜生である。本人がそう思うからそうなのだ。この舞台は現代。しかし、彼が生きるのは古代である。

 ああ、今己は誰からも指を刺されて嗤われる狗に落ちたと信じ込み……それでも忠を変えることはない。それは裏切られても信じ続けると言う美談というよりも、ただの未練だろう。

 

 なぜなら、観客とはそういう見方をするものだ。染みができたものに興味はない。ああ、俺が見たいのは曇りのない純白のみだとばかりに断罪する。要するに、彼は聖杯戦争になど来るべきではなかった──そういうことなのだろう。

 

「く……! 私は──どうすればいいのだ──! ……マスター、あなたまでもがランサーと協力してライダーを倒せと言うのか!?」

 

 そして、セイバーはランサーとは違い、早くも適応し始める。令呪を使われたわけでもないのに、剣は決闘を邪魔した不埒ものではなくライダーへと向ける。……令呪を使われたわけでもないのに。

 

 感情は泣き叫んでいる。血の涙を流さんばかりに慟哭している。しかし、頭では──この状況では2対1もしくは3対1のほうが都合がよい。決して1の側に自分が回るような立ち振る舞いはしてはいけないと、頭では冷静に考えている。

 




本文を見て誤解されるかもしれませんが筆者はランサーは嫌いではありません。ただ、彼は出てくるアニメを間違えましたね。
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