Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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この話では主観がよく入れ替わるので、わかりづらかったら感想の方に意見をください。


第39話 決闘

 

 先の攻防に倍するスピードで両者が動く。

 最大速度は変わらない、動きのキレが良いためにそう見えるのだ。もはや常人には騎士たちがどのように動いているかすら追うことはできない。

 

「……シィィィ!」

 

 先制はディルムッド。やはり槍のリーチが大きすぎる。それが二本もあれば、大抵の武辺者など近づけもしない。だが──

 

「来るか……!」

 

 セイバーはすでに風の結界を解いている。この男を前に獲物を隠すなど卑劣な真似ができようか。

 逃げるでもなく、魔力放出の力押しでもない。武技を競い合うことこそ騎士として至高の幸せなのだから。

 

「っふぅ──」

 

 槍の二連撃はかわされた。本当にごくわずかのところを見切られた──鎧分の隙間すら存在しない刹那の見切り。

 セイバーは鎧すらも脱ぎ捨てて、川に浮かぶ葉っぱのようにするりと槍を避けてしまう。

 

「シャア!」

 

 ……ああ、かわすとも──お前ならば! だからこそもう一撃と、ランサーは更に攻撃を繰り出す。

 

「っくぅ──」

 

 これはかわせない。だが、槍を受けることは論外だ。

 体が流れた体勢で受け止めては剣を弾き飛ばされ、生身のままでランサーの猛攻にさらされることになる。だから──

 

「ぬ──」

 

 セイバーの身体が不自然に加速した。……魔力放出!

 わざと体を不安定な状態にしてから、魔力放出でコマのように体を弾いて横に滑り込んだか。しかも極小範囲での旋回を終えたすでに後には剣を振り下ろす体勢が整っている。

 人外じみたバランス感覚による賜物。

 

「ぬぁ!」

 

 “それも見抜いていた”。ああ、名にし負う騎士王ならば三撃目の突きでさえかわせるはず。

 だからこその4連撃。最初からそこまでしなければ彼女に一太刀入れることはできぬと感じていた。ゆえに、無理でも押し通す。

 

「が──あ! おお!」

 

 筋肉がぶちぶちとちぎれる音がする。突きなど連続でうつようなものではない。

 牽制ならともかく、これらは全て殺気を乗せた必滅の一撃なのだ。片手片手で一回ずつの計2撃。それが2腕の生き物としての限界。

 その限界を越えなければ騎士王とは戦えない。

 渾身の一撃とはすべての力を注ぎこんだもの。だが、渾身の一撃を一瞬のうちに4度放つという矛盾を越えなければ土台胸を張ってこの騎士王の前に立つことはできないのだ。

 

「……ぐぅ!」

 

 セイバーもさるもの。

 3撃目の時点で体勢が宇安定な状況から魔力放出で槍の殺傷範囲から体を振り回して外し、かわし終わった後にはすでに上段からの振り下ろし体勢に入っている。

 4撃目が不発に終われば、剣はランサーを両断する。

 だからこそ、ランサーは負けられないと奮起する。

 

「おお……!」

 

 常人なら剣を掲げたままに貫かれていた。が、この身は騎士王。

 直感などなくても筋肉の動きを見ればわかる。だが防げない。せめて後退してダメージを減らす? ふざけるな……そんなものは一度で十分だ。

 救われたのだ、聖杯戦争にも真なる騎士が居ることに。叶わぬと思っていた決闘がここに在る。だから──ッ!

 

「っらあ!」

 

 身体を振って4撃目に合わせた。

 大きな音がして、互いに弾き飛ばされる。防御も回避もすべては攻撃以外にありえない。それが騎士の作法と言うものだ。

 これは誉れある騎士たる礼儀である。逃げることなど許されない。ああ、全霊の武技でもって語り合おうぞ。

 

「……やるな、アルトリア」

「そちらこそ、ディルムッド」

 

 セイバーの腕にしびれが残っている。距離は詰められなかった。

 が、ダメージで見るならランサーの方が不利である。無理やり腕を振った上に槍と剣の衝突。それもランサーは片手で、セイバーは両手だった。

 

「まだまだ、だろう?」

「ああ、この程度で終わるなどとんでもない」

 

 だが、この程度ダメージなどと言えるかよ。

 ようやく会えたのだ。この決闘こそを待ち望んでいたのだ。楽しませてもらう。──これが我らの聖杯戦争だ!

 

「っシィ!」

 

 仕掛けたのはランサー。神速の突き。けれど。

 

「っふ──」

 

 セイバーを補足できない。ランサーの突きすらコマ送りで見れるほどの動体視力があり、さらには類まれなる直感まで持っている。

 たった一つの攻撃など目をつむっていても避けられる。だから──

 

「おおお!」

 

 ランサーはあえて“踏み込んだ”。あえて接近戦に持ち込む。

 ここはセイバーの殺傷圏内でもある。だが、リスクを侵さずに打撃を与えられるような相手ではないとわかっている。槍は突きだけではない──斬撃もできるのだから。

 

「……はは──」

 

 ああ、駄目だ。笑顔を抑えきれない。これほどの騎士としのぎを削り合えるとは何たる幸せか。

 

「くくく」

 

 聖剣がランサーのそばを通り過ぎた。

 腕を切り落とされそうになったところを、槍を離して回避……槍を掴みなおす。その隙にもう一撃が来た。胸に切り傷ができる。……あと数mm深ければ動きが止まっていた──か!

 

「はっはっは──」

 

 槍がセイバーの目をかすめた。

 直感で頭を引っ込めたら、首があったところを槍が薙いだ。心臓狙いの斬撃を聖剣で受け止めると首元に突きが来た。……首を傾けるのがわずかでも遅れていたら死んでいた──な!

 

「「……もっとだ!まだまだ──」

 

 台風のような風切り音が聞こえる。

 鉄と鉄がぶつかり合う音などほとんど聞こえない。10か20ほどの風切り音の間に一つ挟まれるかどうか。これは騎士たちが互いの攻撃をかわしているからだ。

 

 回避と一口に言っても、近距離のつばぜりあう距離で回避など実際はできたものではない。それも実力が伯仲した同士のものでは異常と言っていい。

 考える時間などないのだ。この距離では1秒が過ぎる間に数十合もの攻撃が交わされている。それも、一つ受けたら即死に繋がる一撃を。それをこの二騎はわずかな切り傷さえ許さない。

 何百、何千の攻撃が交わされたのか──

 

「っはああああ!」

 

 セイバーが全力で撃ちこんだ。

 

「っが!」

 

 防御させられる。いかにランサーと言えど片手で受けることなどできない。両槍で受けて、それでもなお衝撃で下がる。

 

「隙を見せたな!」

 

 だが、それよりも全力で撃ちこんだ後の方が隙は大きい。セイバーが剣を振り上げるよりも早くその槍は体に届く。

 

「っふ──」

 

 剣は振り下ろした状態では重りでしかない。だから手放す。槍をかわし、剣を掴んで前転。ランサーの突きの外側を駆け抜けて殺傷圏内より離脱する。

 

「聖杯を掴むため、この戦争にはせ参じたが──」

「思えば、苦難の日々であった。それは互いに同じであろうな、アルトリア」

 

「キャスター、そして大海魔。これだけでもこの戦争は我らの知るそれとは一線を画す。こんなどうしようもない戦場が世にあるとはな」

「聖杯に命を与えられ、第二の生を謳歌できると思った。この戦争では騎士としての誉れを存分に浴びることができると思った。だが、そう思えたのは最初だけであった」

 

「召喚された当初より、私はマスターを信頼などできなかった。あの男は聖杯を取ろうと思ってはいない。同じ方向すら見ていないのだ──共有するものなど何もない」

「我が主は聖杯を望んでいる。私もまた、主に聖杯を掲げることで騎士の誇りを取り戻したかった。だが、主に与えられた戦場は──私が望んだ戦場はあんなものではなかった」

 

「何としても聖杯を取り、故国を救うためにここに来た。断じて、足踏みするためではない。なのに……っ!」

「わが生涯に悔いなどない。だが、第二の生を得られるようなことがあれば騎士としての誇りを貫きたいと願った。しかし……っ!」

 

「だが、あなたと会えた」

「それでも、あなたと剣を交わせた」

 

「あなたの槍はとても素直だ。そして強い」

「あなたの剣はじゃじゃ馬です。けれど、それはあなたの信念があってこそ輝ける」

 

「ディルムッド卿、あなたほどの男と手合わせできたことは望外の幸運だった」

「たとえこれが偽りの生であったとしても、この決闘だけは本物だ」

 

「誰にも否定させはしない。この決闘こそが──」

「至高。それ以外の言葉などあり得ない」

 

「さあ……ディルムッド」

「ああ……アルトリア」

 

「「まだ決闘は終わらない!」」

 

 セイバーが突っ込む。

 もはや安全など頭の隅にすら残っていない。集中力が切れれば放出した魔力でバランスを崩して派手に地面に叩きつけられることになる。だが、もうそんなことを言っていられるような決闘ではない。

 

「っっおお!」

 

 速い! そして、迅い。なんという速度かと嘆息する。

 直線で来たのに見失うかと思った。だが、黄金の輝きはまぶしくて隠れるには向かない。迎撃する。あれほどの速度を乗せた一撃は片手で受けては痺れる。だが。

 

「っは! っとお」

 

 一撃は左で防がれた。腕が使えない時間などそれこそ一瞬。そして、彼の腕は二つある。すぐに右の槍が来る……だから、それをさせないために左側面へ飛び込んだ。

 

「っな──」

 

 驚いた、か? さすがに剣を振りかぶるより彼が向き直る方が早い。だから、さらに跳んで離脱。

 

「ち……!」

 

 ランサーは彼女を見失った。左に来たかと思えば、跳んで……早すぎてどこへ行ったかわからない。

 

 ──ざ──

 

 音が聞こえた。だが、振り向くわけにはいかない。直後にざしゅ、と踏み込みの音が聞こえて。

 

「……ぬあ!」

 

 相手の剣のリーチも重さも分かっている。ならば振り向いて確かめずとも踏み込みの音だけでどこに攻撃が来るかはわかる。だから相手の斬撃に自分も斬撃を合わせられる。

 

「っつ!」

 

 槍と剣がせめぎ合い、セイバーの方から離れる。

 お手本にすらならない最高を超えたヒットアンドウェイ。超高速の刃が四方から振り下ろされる。精神にやすりをかけるかのような紙一重の攻防。お互いにほんのわずかなミスが命取りとなる。

 それを全て踏み越えて両者は戦う。

 

「……楽しいな」

「ああ、なんと心躍る決闘だ……!」

 

 何度も何度も──常人では一度きりで精神力の全てを削り取られるような攻防を繰り返す。笑みすら浮かべて。

 

「……ふ」

 

 この状況、刻一刻とセイバーの不利に傾いている。呪いの槍に付けられた傷が癒えることはない。わずかな傷……セイバーほどの騎士なら支障にすらならぬ傷であるが、それでも数が多い。

 すでに持久戦の様相を呈しているが、わずかな流血と言えど重なれば一晩も持たない。意識が途切れればそれこそセイバーの聖杯戦争が終わる。

 

 しかし、ランサーの腕も限界が近い。片手で魔力放出での加速を乗せた聖剣と打ち合っているのだ。むしろ腕が砕けなかったのをほめるべきである。

 類まれなる技術がなければ衝撃を受け流せなかった。むろん、それを片手で──それも二つの槍それぞれでやってのけているのはもはや神業とすら言える。

 だが、それでもわずかづつでも負荷が溜まっている事実である。

 

 つまるところはチキンレースだ。片方は血を流し、片方は衝撃で腕がイカレつつある中で集中力を切らした方が負ける。

 

 

 

「……!」

 

 ランサーは思う。このままでは負けるのは自分であると。

 

「おおお!」

 

 セイバーは思う。早く決着をつけなければ、膝をつくのは自分になると。

 

 そして──

 

「っが! あ──」

 

 とうとうランサーに限界が来たようだ。槍が弾き飛ばされて左側ががら空きとなる。

 

「……ッ! 勝機があるとしたら、今しか──」

 

 セイバーが千載一遇の隙に全霊を込めようとして。

 悪寒が走った。ランサーは笑みを浮かべている。それも、会心の笑みを……

 

「っあ!? くぅ──」

 

 先ほどに倍する速度の突きが放たれたのが見える。

 ──かわせない。防御もできない。誘い込まれた! でなければ、転がっているのが破魔の紅薔薇だった説明がつかない。

 わざと手放し、両腕で必滅の黄薔薇を握ることで最高の一撃を放つ。しかも短槍だ──取り回しやすく、軽い。

 

「……ぎ! あああ────ッ!」

 

 胸に刺さる。いや、わざとそこで受け止めた。鎧もなしで、呪いの槍を。

 最初からここで決着をつけようと思っていた……傷など問題ではない! 罠にかかったというならば、嵌め返して見せましょう。

 

「ぐ! ぬおおお……」

 

 呪い? ここで倒せば問題ない。

 筋肉を締め付けている。もはや肉から槍は抜かせない。そしてもう一つの槍を取りに行かせる余裕など与えない。

 セイバーはぎりぎりと歯を食い縛り痛みに耐える。

 

「ギギギ──がああ!」

 

 あなたは素晴らしい騎士でした。名誉に値する二つとない決闘だった。

 だからこそ、手加減などしない。全力で──

 

「これで──終わりです!」

 

 両腕で聖剣をしっかりと握り、ランサーの頭上に渾身の力を込めて振り下ろす。

 

「……アルトリア」

 

 その瞳に写ったのは何だったのか。聖剣の一撃、それを──ランサーは逃げた。

 そう、逃げたのだ。一か八か槍を取りに行っていたら死んでいた。刺さった槍でセイバーを上に割るか、それとも抉るか。決闘であるならば最後はこれに賭ける以外に方策はない。

 だが、ランサーは槍を手放し落ちた槍とは逆方向に跳んだ。

 もちろん、それでセイバーの斬撃をかわせるわけがない。利き腕をおとされた。

 

 言い訳などできない。これは逃走である。そんなことをしても状況は好転しない。

 

「すまぬ、セイバー」

 

 圏外に逃れたランサーはうなだれる。

 

「なぜだ、ディルムッドよ。あなたほどの騎士がなぜ晩節を汚すような真似を──」

「……私には仕えるべき主君がいることを思い出したのでな」

 

「ランサー! あなたは、そんなことで……ッ!」

「決着は、いつか必ず──」

 

 ランサーは後ろを振り向かず全速力で逃げていく。セイバーは追いかけることはしなかった。

 必滅の黄薔薇を折って呪いを解いても、胸に穴が開いていることには変わらない。

 




ランサーの聖杯戦争は終わらない。この時点では、まだ――
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