Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第43話 脚本家、二人

 

 ケイネスはがやがやと騒がしい人込みを見て嘆息する。

 

「つい……た?」

 

 己でも信じられない快挙だった。

 状況は詰んでいるとしか言いようがないはずなのに、空港までたどり着いた。そう、魔術すら失ったのに──だ。彼は自分が何していたのかさえ分かっていなかった。

 

「──」

 

 何か、ポケットに入っているような気がしてまさぐってみると、くしゃくしゃに丸められたチケットが二枚入っていた。

 おあつらえ向きに、今から出発する便だ。おもむろに腕の中ですやすやと寝ている愛する女に向かって語りかける。

 

「帰ろう、ソラウ。そして、全てをやり直すんだ」

 

 優しげな眼を向けた。

 ──彼は気付かない。当然だ、ウェイバーと決闘を演じ、切嗣による狙撃の恐怖を耐え抜いてここまで来た。その疲労たるやすさまじい。もはや彼を支える者は己の気力以外にありえない。

 

 だから、とてもではないが責めることができないだろう。

 認識阻害……それは魔術師が霊装を飛行機に持ち込むためには必要不可欠で、それでなくとも奇抜な格好をする者が多いくせに、姿を隠さなくてはならないのが魔術師であるために誰もが当たり前に使っている。

 一般人に己と持ち物を変に思わせないため、意識に干渉して感心を避ける魔術はもはやマナーとすら言っていい。

 そんなもの、ケイネスは使っていないし使えない。ソラウ? 心が壊れた女は魔術回路を持っていようと魔術師とは呼べない。

 

 今のケイネスの格好は戦場帰りの傭兵など目ではないほどに物騒である。いくらか肉が削れてかさぶたができている。血こそしたたっていないものの、血がぶちまけられたかのような痕は無数にある。

 周りの普通の人間が警察を呼ばない理由がない。

 

 その異変に気付かないのは慣れのせいでもあるだろう、いつも当然のように使っていたから、使えなくなった今でも同じような感覚でいてしまう。

 だけど、それは不可能のように思えるけど、それができていたら心構えくらいはできたはずだ。

 

 そう──

 

「ずいぶんとお疲れのようですね。これからお帰りですか? 協会の方に頼っていただければ手配いたしましたのに」

 

 目の前に敵が現れることを予測できていてもよかったのに。

 

 

 

「なぜ、君が……? 確か、監督役の──」

 

 神父を見て首をかしげる。

 見るからに場にそぐわない。いや、神父が神父服姿で飛行機を利用しても何もおかしなことはないのだけど。

 けれど、この男はルールを制定し騒ぎを収めるのが役割だから空港にいるのはおかしい。狙撃痕でも片付けていればいい。

 

「息子の綺礼です。この後のご予定をお聞きしてもよろしいでしょうか? もしや、すでに飛行機のチケットは手配済みですかな。いえ、そんなことはありますまい。聖杯戦争に関して冬木への交通手段は見張っておりますから、あなたがチケットを手配していないことは教会の方でも把握しております。ああ、お気に触れたら謝罪しますよ。教会としては当然の処置で、これは魔術師であれば誰にでも例外はないことはわかっていただきたいものですが」

 

 片手を上げて人好きのする笑みを浮かべた。それに親しみを覚えないのはどういうことだろう。

 ……近づいてくる。

 なにか、すごい違和感がある。堂々としているから気付きづらいが、何かが完全に間違っている。ん? そういえば。

 

「ああ、思い出した。その折ではお世話になった。しかし、いったいなぜ──」

 

 抜身で剣など持っているのかと聞こうとして。

 

「あなたを助けに来たのですよ」

 

 近づいた綺礼は片手で持った剣を投げつけた。狙いは──ケイネスの抱える女。

 

「──ッ!」

 

 ぞくりと悪寒が背中を走り抜けた。その殺気は本物で、身体が硬直しそうになるがそれは許されない。

 なぜなら、そんな人として当たり前の反応をしてしまえば彼の愛する女性は永遠にいなくなってしまう。

 

「……ソラウ!」

 

 身を投げ出した。ソラウに当てさせるわけにはいかない! それだけを考えて、そして身を投げ出したら当然床に激突する。

 ソラウを抱えた腕を上げたから、顔面からダイブするはめになった。

 

「──ふむ、英雄王め。余計なものを持たせよって……何が万全を期すためだ。やはり無駄に警戒を招くだけで終わったな。しかし、捨てたら奴に殺されるだろうしな」

 

 投擲した剣が外れた神父は不機嫌そうに顎に手をやる。どうやらアレは英雄王に渡されたもので、だからこそ当然収納もできなかったようだ。

 そして、ただぶん投げただけと評するのが適当な投擲は鈍すぎた。だからケイネスでもかわせた。

 

「なぜ、貴様が」

 

 だが、問題は神父が攻撃してきた理由だ。彼が自分を攻撃する理由がない。

 まさか、教会関係者が聖杯戦争の参加者であることなどあるまい。教会の人間が魔術師の力を手にするなどあり得ない。

 では空港に着くまで銃撃してきたアインツベルン、彼らと手を結んだか? ……まさか。

 

「同じ問いを繰り返すかね? だが、確かに答えを手に入れるためには何度でも問わなければならない。例えその答えが欲したものと違っても」

「……何を?」

 

 神父がす、と袖をまくり上げた。その腕に刻まれた紋様は──

 

「わかったかね? 私も君と同じマスターだ。サーヴァントを失ったマスターを始末しに来ても不思議ではあるまい」

 

 令呪である。聖杯戦争のマスターたる証。ケイネスが失ったもの。

 

「いや──吾輩は下りる! 降参だ。このまま大人しく倫敦へ帰り、もう二度と冬木に足を踏み入れはしない。だから──」

「見逃せと? 断る」

 

 冷たく見放した。

 

「な──」

 

 絶望した。ああ、チケットはここにあるのだ。倫敦行きのチケットはなぜかしらんが二人分が手の中に。けれど、神父を突破するのは不可能だ。もはやあらゆる望み断たれた。

 ケイネス=エルメロイ=アーチボルトはここで終わりだ。妻諸共に、ここで死ぬ。

 




ウェイバー、切嗣と来て3つ目の絶望。試練のつるべ打ちとかいうレベルじゃないですね。誰が絵図書いてるんだか。
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