Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第46話 求婚

 

 セイバーががちゃがちゃと足音を鳴らして遠坂邸へ足を踏み入れる。

 

「ふむ、ずいぶんと機嫌が悪いようだなセイバーよ。今更偵察に意味などあるまい? それとも、自らを囮にして挑む者を待っているのか」

 

 そこにアーチャーが声をかけた。片手にワインをひっさげて──今までずっとエントランスで待っていたようだ。どれだけ飲んだのかはわからないが、酔っている様子はない。

 

「……英雄王か。私のことなら放っておいてほしい。それとも、あなたが私と戦うか? それでもいいぞ。なにせ──この戦争に真なる決闘など存在しないのだ!」

 

 叫んだ。

 

「ほう? ゆえに暴れたいと申すか。それは、綺礼の奴へのいら立ちの八つ当たりもあるのかな」

 

 アーチャーは腹立たしくなるほどに清々しい笑顔を浮かべている。馬鹿にしているのかと思って剣を取り出すが、相手は蔵どころか鎧も出さない。

 

「……ッ! マスターのことは関係ない。そもそも私はアレがマスターなどと認めていない。聖杯を取る気もなく、サーヴァントもつけずに出歩いて命を危機にさらすような人間と共闘することなどできない」

 

 剣を向けるが、ただの威嚇だ。

 

「それはどうかな。我にはあやつが自分が聖杯を求める理由に気付き始めているように思うがな」

「──戯言を」

 

 そんな様子など見えたものではなかった。それに──あるとしたら貴様が何か吹き込んだだけのことだろうと憤りが増すだけだ。貴様の企みなど、どうせろくなものではあるまい。

 

「我の言葉を戯言と軽んじるか? 不届き者め。しかし許そう。じゃじゃ馬をしつけるのも王の嗜みだ」

 

 アーチャーはなお一層、愉快そうにしている。

 

「なるほど。サーヴァントを探して街をうろつくのは無駄だったらしい。ここに頭の湧いたサーヴァントが居る。討伐するのに十分な理由だ。──なぜ気付かなかったのだろうな」

 

 何が楽しいのかと思うが、どうせ発狂したサーヴァントと片付ける。

 

「くはは。面白い奴よ」

 

 表情は変わらない。馬鹿にされているとしか思えない。

 

「嗤われる理由などない。剣を抜け英雄王──今宵、三騎目の脱落者にしてくれよう」

 

 一歩、進んだ。

 

「ヒトの領分を超えた悲願に手を伸ばす愚か者……その破滅を愛してやれるのは天上天下にただ一人、このギルガメッシュをおいて他にない。儚くも眩しき者よ。我が腕に抱かれるがいい。それが我の決定だ」

 

 それでも、警戒する様子はない。鎧すら出さない。

 

「そうか。ならば貴様はここで殺すことが私の決定だといっておこう」

 

 もう相手が剣を抜かずとも関係ない。どうせ聖杯戦争など私闘以下の諍いなのだ。無手の相手だろうと斬ってしまって構わんだろう。

 

「くっくっく。よいよい。本来ならば手討ちにするところだが、かわいがってやろうではないか」

「精々舐めていろ。その間に首をいただく」

 

 言って、さらに一歩進めると……だしぬけにアーチャーが蔵を展開、宝具を飛ばした。

 

「──は! 一度見ていれば、こんなものォ」

 

 弾いた。一本くらいならどんなに威力が高かろうがどうということはない。英雄は化け物を倒してこそであるように、力の差をひっくり返すのは英雄の生き様だ。

 

「どれだけ耐えられるかな? 精々けなげに舞い、我を楽しませろ」

 

 蔵が広がる。何本もの宝具が宙に浮かび、爆撃する。そう、一本ならばどうということはない──雨あられと降り注ぐそれは大英雄すら打ち砕く破壊の奔流。

 かわし、そらすことが通じない。そらしたところで何十本のうちの一に過ぎない。

 

「……ちぃッ!」

 

 それでもアーチャーとはいえ彼の本領は宝具による爆撃であって”射撃”ではない。

 セイバーならば隙間を縫ってアーチャーにたどり着くのも不可能ではない。……多少の傷くらいはくれてやる! と、進んでいく。

 

「おお!」

 

 目の前に飛んできた宝具を弾いてアーチャーの前まで踏み込んで、そのまま切りかかろうとして──

 

「まさか、我に傷を与えようなどと分不相応なことは考えておるまいな?」

 

 ……“セイバーの足に鎌が刺さっていた”。馬鹿な、空間転移だろうが何だろうが刺さる直前には気づけるはずと驚愕する。

 いくらなんでも攻撃を受けるまで気づかないほど油断していたなんて。信じられない事態が一瞬だけセイバーの思考を止める。

 

「──な。これは……」

 

 まさか、転移させて突き刺したのではなく──

 

「気を抜いてよいのか?」

「あ──!?」

 

 気付いた時には撃ちだされた宝具が目の前にあった。風の結界で防御しようとするが、散らされる。──風切りの刃! 

 そのまま剣に当たって、耐えきれずに盾にした聖剣ごと吹き飛ばされる。

 

「っが! ぬお──」

 

 足に痛みが走る。あまりこちらの足に負担をかけられないから、無事な方の足で着地して迫りくる追撃をかわす。

 ──先の鎌、不可知だが振った瞬間に傷を与える概念でも持っているのかもわからない。しかし、何をしてくるかわからないだけに考えている余裕などない。

 

「……アーチャー!」

 

 頭の片隅で計算する。あの宝具爆撃の前に足をやられたことは致命的だ。

 機動力を確保できなければあの威力をまともにいなすことなどできはしない。それはわかって仕掛けたか。言動から油断したが、担い手ではなくとも使い方には精通しているらしい。

 ならば、技術を競うよりも──

 

「うむ? 愛の告白か。我としてはもう少し待つものかと思っていたが」

「ふざけるな。貴様は今、ここで倒す」

 

 持久戦では負ける。幾多の宝具の能力の全てに対応することなどできはしない。現に鎌で機動力を削がれた。

 ならば、短期決戦にかけるしかない。もとより頭のイカれたサーヴァントの言葉など聞く気は寸毫たりともない。

 

「はっはっは。まだ可愛がり足りぬと思っていたところよ。特別に我が足元まで来るのを許す」

「直線で、まっすぐに……一刀のもとに終わらせる」

 

 両者の間に緊張が満ちる。

 西部劇の決闘じみた早撃ち勝負に移行した。セイバーが距離を詰めるか、アーチャーが宝具を放つの先か。

 セイバーの口元に笑みが浮かぶ。あまり勝算はないが、結局のところは勝ったとて。

 

「──来るがいい」

 

 アーチャーは幾多の宝具を宙に浮かべる。

 

「おお!」

 

 風王結界で自らを弾丸のように弾き飛ばした。

 

「そんなものが策か。我を興醒めさせるなよ──雑種!」

 

 宝具がセイバーの目の前に迫る。……“撃ち出された”。この早撃ち勝負はセイバーの敗北。

 直線でまっすぐに──ならば、自分の速度と宝具の挟み撃ちで頭部と体の何割かを完全につぶされて死ぬ以外にない。

 

「──は」

 

 “直線”で、“まっすぐ”ならば。魔力放出で軌道を捻じ曲げる。油断していたアーチャーはただセイバーの飛ぶ瞬間を見極めて撃っただけ。

 それも、足の怪我で鈍っていてからできたこと。ゆえ、ただ一本の宝具しか撃たなかった。

 

「──ギギギ。おおオおおおオオおお!」

 

 真横にそれたセイバーは両足で着弾する。傷口が焼き鏝を当てられたかのように痛むのを、己にこの程度で音を上げるか、ふざけるなよと喝を入れて黙らせさらに力を込める。

 位置はアーチャーの斜め下。負傷した足にあらん限りの力を込めてさらに一歩。

 

「──ぬ! セイバー、貴様ァ」

 

 すでに浮かべていた宝具は位置が近すぎる。今更射線の変更も間に合わない──撃ちだしたところで見当違いの方へ飛んでいくだけ。

 

「侮ったな、この騎士王を!」

 

 千載一遇のチャンス──これを逃がせば後はない。大体、魔力の貯蔵量的に足の治療ができるかさえ怪しい。

 

「我が、負けるだと!? ありえぬ──そのようなこと、許されると思うてか!」

 

 我が儘な子どものように絶叫した。

 

「そんなこと──私が知るか!」

 

 斜め下から切り上げようとして……足先がぶれた。

 踏ん張りが足りない──あの龍神の一撃……足を完全にお釈迦にされたところからよくここまで治ったものだと思っていたが、ここにきて──足を鎌で貫かれてさえいなければ、まだ持ったものを──

 

「──っがぁ」

 

 アーチャーの胸から血しぶきが舞う。セイバーは確かに黄金の鎧を切り裂いて、英雄王の体にまで剣を届かせた。だが……浅い。

 

「おのれセイバー。何物にも代えがたき我が至高の肉体を傷つけるとは!? いくら妃でも許されぬことがあると知るがいい」

 

 激昂する。セイバーの目の前が宝具で埋め尽くされる。

 なんて数の宝具……あれの一斉射を許せばたとえ万全であろうと生き残るすべはない。

 

「あぐ。……うう──」

 

 追撃を! ああ、何をやっている我が足よ──ここで奴を仕留めねば次のチャンスなどあったものか知れない。

 ゆえ、後一撃でいい。動け! ここでひき肉となってもいいから──

 

「動けぇぇ!」

 

 よろよろと後退したアーチャーに殺気を叩きつける。ここで降してやると決意を込めて咆哮する。

 そうだ、例え修羅羅刹の類になろうと、私は──ッ!

 

「痴れ者が! 我を何と心得るか──傷を負わせるという大罪どころか、みじんも告解するそぶりも見せずに切りかかるとは。貴様一体何様のつもりか!」

 

 我を失っている。こうなれば、後はもう爆発するだけ。手加減などなしの究極の暴力が赤子の癇癪のように振るわれる。

 

「私はアルトリア・ペンドラゴン! 貴様の臣下でもなければ──妃でもない」

 

 気合一閃。もはや棒としての用途も果たさぬ足を無理やり進めて──

 

「起きよエア。目の前の不埒者を討ち取るがいい」

 

 アーチャーは最強の宝具を取り出した。

 

「我が聖剣のさびとなれ英雄王」

 

 魔力が急激に高まる。宝具の打ち合い──それもEXレベルの高威力同士がぶつかり合えば周辺一帯は壊滅する。

 

「エヌマ──」

「エクス──」

 

 もはや本人たちにも止められない。ここで聖杯戦争は終わる。このエネルギーの奔流に遠坂邸もサーヴァント二騎も耐えられない。どころか、周辺ごと消滅して騒ぎが収められなくなる。

 

 ──だから

 

「令呪をもって奉る」

「言峰綺礼の名において命ずる」

 

 ここに二人──

 

「「双方、矛を収めよ」」

 

 止める者が存在する。

 

「時臣、貴様ァ! 自分が何をしたかわかっているのか」

 

 エアへの魔力供給が止まる。命令は簡単、要するに宝具を撃つのをやめろということだ。てきめんに発揮された令呪は効果を終え、今やアーチャーの殺意は時臣へと向いている。

 

「綺礼殿、横槍はやめていただきたいのですが」

 

 聖剣の溢れんばかりの輝きが消える。もはや聖剣を持っているだけでも消耗するレベルまで魔力が足らなくなったのだ。

 

「興が醒めたわ。その首、精々綺麗にしておけ。次こそは貴様を我が物とし、この世のありとあらゆる苦痛と快楽を味合わせてやろう」

「残念ながら、貴様の戯言などすでに忘れた。再戦するならその首は貰うが、別にどこかの誰かに狩られるならそれはそれで構わない。──しかし、次に会った時は、その首をもらう」

 

 二騎は姿を消す。中で渦巻く感情はともかくとして。

 




セイバーがボロボロになる回でした。なにげに時臣は戦闘止めろとしか命令してないのに残り令呪は一画。
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