Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
「──何を不機嫌な顔をしておる、英雄王よ。お前らしくないものよの」
夜の街を肩で風を切って歩くアーチャーに声をかけたのはライダー。ウェイバーから魔力を貰い完全に復調した絶好調のサーヴァントである。
「ふん。不遜な雑種もいたものでな。だが、まあ──貴様を見たら鬱屈した気持ちも晴れたわ」
対して、こちらも魔力的には万全であるが負傷が完全には癒えていない。そもそも魔力にしたところで時臣から搾り取ったモノ。レイラインが細まるのを感じていた。もっとも、小賢しい真似をしたところで無理やり絞り出すだけだが。
幾多の戦いで消耗していた。
「ふむ、役に立てたら何よりだ」
ライダーは豪放に笑う。そしてアーチャーはそんなライダーを試すように見て。
「──完全のようだな」
満足げにうなづいた。
「お主は、ちいと元気がないんではないか?」
「ほざけ。このくらいで我がこゆるぎもするものかよ。どのような状況であろうが我は我だ。我は何一つ損なうことない我である。この世の絶対法則を疑うか?」
「いんや。お前さんがそういうんならそうなんじゃろう。実際、負けたとしても万全であったら──とかは言わなそうじゃしな、おぬし」
「負けること自体があり得ぬのだから、そのような台詞自体吐きたくても吐けんだろうが。愚か者め。前々から思っていたが──お前は馬鹿だな」
「はっはっは。褒め言葉にしか聞こえんなぁ。そういう意味では、おぬしとて馬鹿者よ。もちろん良い意味ではあるがの」
「ふん。愉快な奴だ──決着をつけるのが惜しくなってくる」
「ここでどちらかが堕ちる。それ以外の結末はあり得ない──じゃろうが」
「王同士が会ったのだ。両雄並び立つことはない──決して」
アーチャーが酒と杯を投げてよこした。
「ああ──」
受け取り、ライダーがポリポリと頭をかいて。
「最後に一つ聞いていいか?」
「許す」
傲岸に首肯した。
「例えばな──余のアイオニオン・ヘタイロイをおぬしのゲートオブバビロンで武装させれば間違いなく最強の兵団が出来上がる。西国のプレジデントとかいう奴も屁じゃあるまい」
子どもみたいに目をキラキラさせている。
「──それで」
そんなライダーにアーチャーは呆れる。
「改めて盟友とならんか? 我々が手を結べば、きっと星々の果てまで征服できるぞ」
「はっはっは。つくづく愉快な奴よ。道化でもない奴の痴れ事でここまで嗤ったのは久方ぶりだ」
笑ってから、一転して真面目な顔で言い放った。
「悪いがな、我の盟友はただ一人きり。そして、王たる者は二人も必要ない」
「孤高の王道か。その王道に余は敬服を持って挑むとしよう」
頷いて、酒を飲みほした。
「よい、存分に己を示せよ征服王。お前は我が裁きを与えるに値する賊だ」
こちらも酒を飲みほして。
「おい、待てよ!」
ウェイバーが割り込んだ。
「ほう、王たる資格なきものが王の会話に割り込むか」
「ああ。僕は──そのバカのマスターだからな!」
恐怖はしている。当然だ、彼の力量はけして高くはない。そんな彼はただ一本の宝具を防ぐ術もない。けれど、恐怖を恐怖と認めたうえで毅然と対峙する。
「ほう? 雑種が主の会話に割り込むか。その言、くだらぬものであったら手討ちは免れぬと知れ」
「わかってるさ。ただまあ、こいつはバカだからこのくらいの方がいいんだよ」
「で、何用だウェイバー」
さすがのライダーもここで茶化したりしない。
「言わなきゃいけないことがある。耳をかっぽじってよく聞いとけ」
「うむ、これもこの生で最後になるかもしれんからの……心して聞かせてもらおう」
「ライダー。令呪をもって命ずる。必ずや、最後までお前が勝ちぬけ」
残り三画。ここまで一画も使わなかったそれを、自分でも効果が薄いと判っている命を下す。効果など問題ではない……ここで使うことが重要なのだ。
「重ねて令呪をもって命ず。ライダーよ、必ずお前が聖杯を掴め」
もう一つ。
「重ねて令呪をもって命ずる。世界を掴め、失敗なんて許さない」
これで最後。決して、自分がマスターとしてふさわしくないと思ったわけではない。
ただ、こいつは誰かに縛られるような器ではないとわかってしまっただけ。ウェイバーの聖杯戦争はここで終わりだ。関係も、かけた想いも総べて清算した。
「これで僕はお前のマスターじゃない。お前なんかもう知ったこっちゃない。どこへでも行って、勝手に決着なりなんなり付けてろよ」
後ろを向いて去ろうとして。そう、ここから先はマスターとサーヴァントの物語ではない。征服王イスカンダルの生き様なのだから。
「あれほどまでに好き勝手言ったのだから、当然ついてくるのだろう?」
首根っこを捕まえられて、いつものように戦車に乗せられた。──なんだ、それは!? せっかく開放してやったのに……
「ばか! 僕はもうお前のマスターじゃないって言っただろうが!?」
ガーッとがなり立てる。
「それでも、余の友であることに違いはない」
それでもライダーはまったく気にしていない。
泰然としている──いつものように。ああ、まったくいつも通りだよ。お前はいつだって僕の気持ちなんてお構いなしに連れ出してくれる。
「……!」
感極まってきた。そんなお前にぼくはいつもイラついて──でも、そんなお前だから感謝してるんだよ。
せっかく僕が気を利かせて好きなことできるようにしてやったのに──
「余の王道を見届けるのはお前を置いて他におるまい!」
最後まで僕の意見なんて気にもしていない。
「わかったよ。代わりに、負けたら許さないからな」
ああ、お前はそれでいい。見せてくれ、そしてお前との思い出を心に刻みつけることを許してほしい。
「応とも。そこで見物しておるがいい。余が世界最強の王となるところを」
征服王の背中は自身に満ち溢れていてとても頼りになりそうで。
「ああ──見せてくれ」
なんだか笑ってしまった。
ここまでは8割がた原作通り。次話は原作でできなかったことをします。