Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第48話 空中決戦

 

 主従のやり取りを見ていたアーチャーは愉快そうに目を細める。

 

「茶番は終わりか?」

 

 こいつなりに主従のやり取りに感じ入ったところがあるのだろう。でなければ、宝具の一つでもぶち込んでご破算にしていた。

 

「うむ、良く待ってくれたな。礼を言うぞ」

 

 その紙一重に気付かずに笑っている征服王。どこまでもあけすけなこの男。

 

「ならば良し」

「では──まずはお互い戦車でやるとしようか。当然、空飛ぶ手段の一つや二つは持っとるのだろうな英雄王?」

 

「侮るなよ、雑種。我が財宝は至高にして無限。我が輝舟(ヴィマーナ)を見せてやろう」

 

 二騎は飛び去る。片方は二頭の雄牛に轢かれた戦車──そして、もう片方は黄金の船。

 

「ぬおおおおお!」

 

 まず仕掛けたのはライダー。先に上方へと天駆けるアーチャーに追いつき、戦車でもって輝く船へ接触する。

 

「っぬお──」

 

 衝撃が走る。揺れたのはどちらも同じ。だが、戦車の操縦に慣れている分ライダーに軍配が上がる。

 アーチャーが揺れた船体に己が体を固定する一瞬を利用して、ライダーは雄牛を跳ね上げて黄金の船を雄牛でもって蹴り落と──

 

「舐めるな、雑種!」

 

 空中宙返り……ライダーの戦車ではここまでトリッキーな戦闘機動はできない。とんでもない機動性──戦闘機など目ではないほどに。

 

「そちらこそ、余の戦車をただの戦車だと思うてか!?」

 

 ひらりと雄牛の足をかわしたアーチャーは下方にいる。そこめがけて雷を落とした。

 

「貴様こそ、我が至高の財宝を──たかが雷ごと気で落とせると思ったのなら、それは死を賜うに値する愚行である!」

 

 ヴィマーナに搭載された迎撃宝具が雷を切り裂いて、更にはライダーにまで迫り──

 

「は!」

 

 ライダーが剣を抜き撃墜した。だが──

 

「ふはははははははは!」

 

 ヴィマーナが戦車を置き去り急上昇していく。

 

「あやつめ、何を──」

「馬鹿! なにしてんだよ──あいつはどんどん高度を稼いでるんだぞ」

 

「で、それが?」

「高度は速度だ──戦闘機にとっては。位置エネルギーの法則だよ。落ちれば落ちるほど早くなる。……追い付けなくなるぞ。さっさと上昇しろ!」

 

 基本的に戦闘機での戦いは高度が高い方が有利だ。攻撃にしろ回避にしろ頭を抑えられれば機動性が鈍る。

 もっとも、これより後の時代では敵に見つかることなく攻撃した方が有利などという当然の話が猛威を振るうわけだが。

 

「ふ。なるほど──それでは置いて行かれるわけにはいくまいな。加速するぞ! 掴まっておれ、ウェイバー」

 

 雄牛に喝を入れる。

 

「ああ。行け!」

 

 ウェイバーは頭を下げて全身で椅子にしがみつく。前が見えないがこれでいい。ライダーのことは信用しているから、わざわざ前を見る必要はない。

 むしろ、頭を出してりゃ抵抗になりかねない。……この物理法則を無視した宝具にそんなことして意味があるのか知らないけど。

 

「くく──ついてくるか。なるほど愉快だぞ征服王。中々の前座──悪くない。しかし、そろそろだれてきたな」

 

 顎に手を突いて優雅に後方を見やる。必死に追い付こうとしているライダーの姿はなんとも愚かしく可愛らしい。

 

「駆けよ! 我が二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル) 今こそ疾走し、英雄王の鼻を明かしてやれい──遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!」

 

 宝具開放。一気にアーチャーへと追い付き──

 

「さあ、散り様を見せろ」

 

 数十の迎撃宝具が放たれた。

 

「AAAAALALALAALALAI!」

 

 真っ向から向かい撃つ。雷を纏って愚直に一直線に。いくつもの宝具を砕きながらアーチャへと剣を向けようとして。

 

「ライダー、本命が来るぞ!」

 

 ウェイバーの声。

 

「っな!?」

 

 掛け声があったから飛んできた宝具を剣で弾くことができた。これは迎撃宝具とは別──アーチャー自身が放った本命の一撃。

 

「見えたのか? ウェイバー」

 

 頬に着いた血を拭った。危なかった──ウェイバーの声がなければ頭をぶち抜かれていた。

 

「何も見えてるわけないだろうが。飛んでくる宝具なんて見えるのはサーヴァントぐらいのもんだ。でも、本命の攻撃があることくらい考えればわかる」

「なるほど。余も空中戦の経験はあまりない。どうしたらよい?」

 

「上昇だ! 全力で行け」

「……心得た!」

 

 迷いがない。前方で浮かんでいるヴィマーナをしり目に急上昇していく。

 

「──待て、逃げるか雑種!」

 

 追いかける。基礎性能はアーチャーが上……だからどんどん追い付いてきた。

 

「まだだ──もっと上に!」

「馬鹿め! このヴィマーナならば星の世界にさえ行ける。だがな──貴様の戦車はすでに速度が落ちてきているぞ。それでは星の世界どころか、この星の領域すら脱せんぞ」

 

「は──ほざけ! 余は征服王ぞ。地の果てどころか──空まで制覇してくれよう」

「いや……これでいい。まだだライダー。もっと上へ──」

 

「さて、そろそろ追いつくか。お前を相手にするからには瑕疵の一つも許されん。このまま追い抜き、しかるのちに死をくれてやろう」

 

 アーチャーは傲慢である。ゆえに完全な勝利を得なければ我慢できない。高度争いで負けたなどと認めることはできないのだ。ゆえ、攻撃はしない。今はまだ。

 

「ぬぐ……!」

 

 ライダーは全速力で空を駆けている。だが、それでも足が鈍ってきた。空を駆ける雄牛は空の上には行けない。元々そういう理である。空を駆ける雄牛は、当然のことながら宇宙(ソラ)を駆ける星の船ではない。

 

「まだ──まだだ」

 

 しかし、ウェイバーはまるで後ろを追い上げてくるアーチャーを頓着しない。上を見続け──速度が0になる。

 天頂へと向かい、空を己のものにしようとでもしているように。それでも段々と速度を失っていって、横倒しになり──だしぬけに叫ぶ。

 

「……今だ! 急降下ァ──」

「応よ!」

 

 それでもついてくる征服王。ウェイバーのことを心から信頼しているからこその協力プレイ。

 

「な──ッ!?」

 

 鼻先での空中宙返りに、すかさずの急降下。反応できない──彼は担い手ではなく空中戦のエースでもない。ヴィマーナにそれができるだけの機動力があっても操作が遅れれば見逃すしかない。

 

「馬鹿な、そんな機動が──は!」

 

 そういうことか! タイミングを見計らい丁度止まるところで追い抜こうと思ったが──速度が0だからこそ急降下できた。あの雄牛では慣性の法則から逃れられないと思っていたが。それで我を出し抜いたか。だが──

 

「我はともかく、我の財宝を侮るなよ──天の鎖よ!」

 

 自分を鎖でヴィマーナに巻き付ける。そして──

 

「貴様にできたことが我にできんはずがあるか! 例え速度が乗っていようと」

 

 ヴィマーナが慣性を無視した動きをする。急停止どころか真逆への方向転換。馬鹿げているとしか言いようがない。

 

「あいつ馬鹿か! なんで自分をまきつけてまで急降下してくるんだよ!?」

 

 宝具爆撃があるならそっちやればいいだろ。と、驚いた。

 

「慌てるでない。絶好の位置ではないか──奴が向かってくれるんなら、むしろ好都合と言うものよ」

 

 バチバチと空気が弾ける。魔力を高めている。真正面から受けて立つ構えである。敵が向かって来るならば、むしろ望むところ。やはり戦は正面からやるものだ。

 

「さあ、決着をつけようか──征服王」

 

 その規格外な宝具は真逆への方向転換という無茶をこなしても速度が落ちない。超高速でライダーの戦車へと迫ってくる。その圧倒的なる力でもって、彼は全てを虐殺する。征服王が相手だとしても、なんら変わることはない。財宝の力で押しつぶすのみ。

 

「望むところよ──英雄王」

 

 急降下したライダーがさらに宙返りして向き直る。さらに魔力を使ってブースト。目と目がぶつかる。もはやお互い以外に何も見えていない。衝突する──

 

「「勝つのは我『余』だ!」」

 

 二騎がぶつかる。誰も見ていない天上にて。

 

「駆けよ神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)。そして──蹂躙せよ遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)

 

 宝具の二段起動。ライダーは全霊をこの一瞬に注ぎ込む。

 

「ヴィマーナよ。英雄王の道具たらんとするならば──勝利を我に捧げよ。王命である!」

 

 対するアーチャーは迎撃宝具を全てつぎ込む──出し惜しみなどしない。

 

 

 

 空中で膨大な魔力が弾けた。

 




ライダーはセイバーと騎乗対決をしていないので、神威の車輪が残っています。アーチャーとライダーの空中決戦がやりたかった。
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