Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第5話 咆哮

 

「ふむ――どうしたものか」

 

甘粕が戦いを愛でている間にも戦局は変わる。

 

 

 

まずはバーサーカー。彼は今アーチャーと激戦を演じている。

 

「この……知れ者が! 王を無視した上、我が宝具に汚い手で触れるか――殺してくれるぞ!」

 

アーチャーは激昂し、無数の宝具爆撃の密度をさらに上げる。

 

対するバーサーカーは狂している、これが常態だ。理性などない、戦略などあり得ない。ただただ猪のように突っ込み、そして吹き飛ばされる。

しかしバーサーカーには傷一つすらつかないのだ。常識の埒外のこの強度……つまりはこれこそが宝具である。バーサーカーの宝具がそれだと言うことはある一つの真実を表す。

 

――バーサーカーの宝具に使用時間などない。

 

体そのものが宝具だ。なぜなら、バーサーカーは声が出せない故に宝具を解放できないクラスなのだから。アーチャーの攻撃を防げるのは宝具でしかありえない。そして、宝具を解放できないバーサーカーが使えるのは常時展開型の宝具のみ。

 

理性のないバーサーカーが向かっては吹き飛ばされる間にそれだけのことを考えられるだけの余裕はあった。けれど、このままではじり貧である。言うまでもなく宝具を連発するアーチャーの方が魔力の消費量は高い。しかし、バーサーカーは魔力を馬鹿食いする性質を聖杯より加えられている。

 

両者で勝利者となるのは魔力が保ったマスターとなろうが、ここで忘れてはならないのがマスターの持つ魔力は当然等しくないと言うこと。遠坂の主であるがゆえに、アーチャー側の魔力量が低いなどあるはずもない。

 

だから重要なのはバーサーカー側の魔力量で、彼がどこまで保つかに勝負はかかっていた。――いや、それはこのまま膠着状態が続けばの話。

 

「ふん。貴様のその防御は厄介だな。ああ、目障りだぞ――雑種が。貴様は我にエアを抜けと言うのか? 忌々しい。貴様ごとき泥のへばりついたメッキには手の届かぬ至高である! ゆえ、さっさと自害しろ。この我が自ら命令してやっているのだ。感激のあまりに涙を流し、疾くその汚い塵屑を我の目の届かぬところで始末するがいい……!」

 

何十発と宝具が命中しているのに砕けない。むしろ宝具の方が壊れているため、何らかのトリックとは考えられない。その強度は異常だ。その鎧を前にいぶかしむよりも先に激昂する。それが彼の慢心王としての自然。

 

――偉大なる我に砕けないモノなどあろうはずがない。そんなものは狂った節理であり、正すべき間違った天の理である。貴様など認められぬ。我に従わない存在など、それだけで存在を許されないほどの罪であるのだから。

 

「■■■■■ ■■■■■」

 

けれどバーサーカーはその言葉を解さない。ただマスターの感情のままに拳を振るう。

 

ずどん、と街灯が根元から吹き飛ぶ。ついにアーチャーの足元までたどり着いたのだ。威力は高い。とても徒手空拳とは思えない。おそらくはセイバーが、己が宝剣をフルスイングしてようやく得られるほどの爆撃じみた威力。

 

即死までは無理であっても十分サーヴァントを殺し切れるほどの威力はあるのを感じ取って――

 

「痴れ者が! 天に仰ぎ見るべきこの我を、大地に立たせるか! 我を空から地に引きずり落とした罪――万死に値する。王たる我と同等の視線を有するなど不敬の極みであろうが! もういい……命令すら解さぬほどの下等生物に命令を賜ったのは我の誤りと認めよう。害虫の駆除は庭師の仕事であるが――貴様が存在するなどという穢れは臭すぎて耐えられぬわ! 我自ら駆除してくれる」

 

激昂した。慢心で目が曇っている。もし、この場でアサシンが襲ってきたのならば殺れてもおかしくはないほどに激昂し、バーサーカー以外は目に入らなくなっていた。もはや後先知らぬとばかりに自らが持つ最高の宝具を使う気である。

 

マズイ――とアーチャーを操る遠坂時臣は思う。これでは、無駄に宝具を晒すのみだ。六騎のサーヴァントが揃い、戦も佳境かと思われるがそうではない。これは初戦であり、様子見が正しい選択であることは間違いない。

 

こんなところで魔力を消耗しては後々に差し障る。勝つためには、ここで引くことが必須である。そう、弟子に説得されて納得した。だからこそ彼は――

 

『令呪を以て奉る。英雄王よ、怒りを鎮め撤退を』

 

令呪をもってアーチャーを撤退させた。

 

 

 

そして、ライダーVSセイバー&ランサー。こちらは――

 

「ぬぅぅ……!」

 

連携でライダーを追い詰める。不可視の剣を払ったと思ったら今度は槍が飛んで来る。苦労してかわしても――セイバーが追い付いてきて、また精神を削るような神業じみた防御をしなくてはならなくなる。

 

「……ひぃ――」

 

そして、その二騎は怯えるウェイバーを視界に入れすらしない。今はチャンスだと言うのに――マスター殺しをする気がない。

 

けれど、甘粕が興味深そうにウェイバーを見ている。

 

「逃げてばかりでは勝てぬぞ、征服王よ!」

「決闘ではないゆえ不本意だが――先ほどの言葉の落とし前をつけてくれる!」

 

言葉ばかりは勇猛。しかし、両者ともどこかで一線を引いていた。自分が殺してやるという殺気がない。手は貸すから、こいつを殺してくれていいぞ。――などと二人がお互いにそう思っているのだ。

ゆえ、決定的なチャンスが来ない。来たとしてもその好機を掴むかは怪しい。なぜなら、チャンスとは危機と紙一重。征服王を殺そうとするならば、殺されることも覚悟しなくてはならない。窮鼠などというが、征服王は鼠にしては凶悪すぎる。

 

「――そうは、言っても……な! 二対一に文句はないが――こりゃちょっときついわ。がははははは!」

 

力技でランサーの槍を撥ね飛ばし、セイバーに蹴りをくれようとする。……あっさりと避けられた。これは二騎が回避や様子見に力を入れているからこその均衡である。

 

「おのれ――このままでは千日手だ」

 

ライダーに大した反撃を許していないセイバーだが、その顔は苦渋に満ちている。――敵と協力するのがこれほどまでにやりにくいことだったとは。令呪の縛りがあるゆえ、多少は信用できるが基本的にランサーだって敵である。

 

さらに甘粕を警戒しながらでは精彩も欠こうと言うもの。これならば、一対一の方がまだライダーを与しやすいのではなかろうか、とそんなことまで考えてしまう。

 

「しかしセイバーよ。キャスターの動向も気にかかる。奴は今フリーだぞ」

 

ランサーのこの言葉は、自分の方こそ行動に制限がかかっているからである。この場ではランサーはライダーを狙わざるを得ないし、セイバーや甘粕を狙うのは令呪の縛りによりできない。

実際のところ、この場で一番の窮地に陥っているのは彼なのであった。しかもそれは己が主の令呪に端を発するのだ。やるせないことこの上ない。

 

「ふむ。確かに我々が現れる前にも何かしようとしていた」

 

そして、その“何か”が大規模破壊だった場合、ランサーは今までの比ではない窮地に立たされることとなる。――端的に言ってもピンチだというのに、それ以上というならそれは絶体絶命より他にあるはずがない。なぜなら、逃げられない。逃げられたとしても、それはライダーの次となる。そういう令呪を使われてしまったから。

 

ライダーが簡単にそれに対抗できるかというと、まあ怪しい。必要とされるのは直感スキルか幸運のパラメータである。

彼とそのマスターだけなら宝具もあることだし間に合うかもしれないが、彼が逃げたことを確認しない限りランサーは逃げ出せないから、生き残るのは難しい。これで、ランサーの宝具が防御に優れていたのなら話は別だったのだが。

 

「ああ。それに、なんというか奴は何をしでかすかわからない。ああいうどこか振り切れている奴が一番怖い」

「しかし我々はしょせんサーヴァント。マスターの指示を実践するのみだ」

 

「ああ、令呪で縛られては奴と戦おうとすることすらできん」

「残念だが、私も似たような状況だ」

 

「ならば――」

「さっさと倒すしかない……か!」

 

同時に踏み込む――先よりも踏み込みが一歩深い。何をされようが対応できる距離では、相手とてなんとかできてしまう。ゆえに、一歩。ただ一歩だけ深く踏み込むことで均衡は崩れる。

反撃を喰らうことを覚悟して、敵に一太刀あびせる。

 

「……っくぅ! こりゃヤバイのぉ――ならば、来い! 『遙かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』」

 

雄牛が雄たけびを上げる。そして、電を撒き散らしながら特攻してきて。

 

「――ッチィ」

 

セイバーは直前に気づき、避ける。魔力放出による瞬時加速が彼女の身を救った。

 

「うお――オオオ!」

 

しかし、ランサーにはそんなスキルはない。いざ轢かれる瞬間――自分の背丈の2倍もありそうな凶悪な獣の蹄が目の前で振り下ろされる。

 

「かわし――切れん!」

 

内臓まで砕いてしまいそうな蹄は神業的な身のこなしで避けた。しかし、突進の勢いはかわしきれない。……蹂躙される。

ライダーは己のマスターが最初から最後まで戦車に乗っていたのをいいことにそのまま空に浮かび上がる。

 

「ぐ――」

 

セイバーが立ち上がる。ダメージはない。ただ、びっくりしただけだ。回避行動も間に合っていた。

 

「逃がしたか」

 

一方、ランサーが負傷を抱えながら立ち上がる。こうなっては手が出せない。宝具を使えば別だろうが、こんなところで公開できるはずもなかった。

 

 

奇しくも、アーチャーが撤退したのはライダーが撤退したのと同じタイミングになった。バーサーカーもまた甘粕がしゃべっている間に撤退した。

よって、この場にいるのはキャスター、ランサー、セイバーの三騎のみとなる。

 

「――今宵の聖杯戦争は終わりだ。ああ、素晴らしいものを見せてもらった。もう残っていないものもいるが、礼を言わせてもらおう。ありがとう」

「ほう? 貴様を最初の脱落者にしてもよいのだぞ、キャスター」

 

セイバーが剣を構える。絆でも芽生えたのか、隣に剣を向けそうな様子はない。

 

「いいや。さすがに今宵は疲れた。俺は帰らせてもらうとしよう」

「ランサー。先ほどのライダーによるダメージが残っているのか?」

 

「馬鹿なことを言うものではないな、セイバーよ。我が主は最高の魔術師であらせられる。主より治療を賜り、負傷が治っていないと言うことがあろうはずもない。今日はただ――俺の集中力が切れただけだ」

「なるほど。では、さらばだランサー。次に会い見えるときは1対1の決闘で勝負を付けよう」

 

「了解した。その時を楽しみにしておくぞ。セイバー!」

 

後ろに飛び、その姿はあっという間に見えなくなる。さすがと賛辞を送りたくなるほどの身のこなしだ。……用途は逃げることだが。

 

「貴様の剣技、実に素晴らしいものであった。次は、その剣の正体を暴いてくれよう。黄金の剣の持ち主よ」

 

甘粕が敵を褒め称える。これが彼にとっての常態。彼みたいなのは世を探したところで見つけられるとも思えない。

この特異なキャラクターこそが彼の特徴であり、あらゆる全てを過大評価するからこそ、己とて強くあらねばならないと戒めるのだ。――素晴らしい人間の輝きと対峙するために。

 

「――っ貴様は!」

 

――甘粕が消えた。こちらは物理的ではなく、ただ単に消えた。ふぅっと――溶けるように。後味の悪い消え方は魔術師というよりも……魔王を連想させた。

ああ、この聖杯戦争はどうなっているのだと……参戦当初から抱く疑念と不安は密度を増しこそすれ、減ることはない。

 

どうしてこうなった――うつむき、歯ぎしりしながらとぼとぼとマスターの元へと帰る。

 




ウェイバー君は幸運でしたね。ケイネス先生が彼を殺せと令呪で命令していたら死んでました。セイバーでも同様です。
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